「ねぇ、何か忘れてない?」
別れ際にそう澄まして聞いてくるクルルに、俺は首を捻った。
はて? なんだ?
コルネル村の秋祭りにクルルと一緒に出かけた俺は、日が落ちたのを見計らって彼女を家まで送っ
て来たところだった。最後まで祭りを見ると言ってきかないクルルをなんとか宥めすかしてようや
く引っ張ってきたワケだ。なんてったってクルルはまだ十二歳の女の子だ。いくら祭りとはいえ夜
中まで連れ回すのはやっぱりなーと思ったから。
白状しちまうと、クルルの親父さんはジグリム国内のみならず周辺諸国にも名が聞こえた騎士の鑑
のよーな人だから、へたなことしでかしたらぶった斬られかねねーな、なんて思ったし。
「忘れてる、って何をだ?」
どうにも思い当たらないので、正直に聞いてみた。
「おやすみのキスに決まってるでしょ」
クルルの声が尖った。
「キ、キス?」
なんちゅーマセたことを・・・。誰が教えるんだ、んなコトを!
思わず引きつった声を上げた俺をクリッと大きな瞳で見上げ、追い討ちをかけるように袖を引っ張
る。
「キスして」
たくもー・・・しょーがねーなー。
瞳を閉じてちょっぴり口を尖らせ俺のキスを待っているクルルに、心の中でそっとため息をつく。
華奢な肩に手を伸ばし引き寄せると、俺は前髪を軽くよけておでこにチュッとキスをした。
「おやすみ、クルル」
ところが、ところがである。クルルは次の瞬間プーッと頬を膨らませて、下からキッと俺を睨み上
げた。
「何それ」
「な、何って・・・キスしたじゃねーか」
「バカにしないでよ。トウヤってばアタシのこと子供だと思ってるでしょ」
イヤ、実際子供だろ? 十二歳だし・・・
「キスってゆーのはね」
クルルはそう言って自分の唇に人差し指を押し当てた。
「ここにするって決まってんよ!」
(げ。 マジかよ・・・)
俺が絶句していると、クルルはさらに険悪な表情になった。
「パパに言いつけちゃうもんっっ」
わー、待て待て待て待てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
「わかったよ、俺が悪かったよ」
十二歳の女の子に振り回される自分が無性に情けなかったが、こーなった以上仕方がなかった。
今一度クルルを抱きよせて、今度は小さなピンク色の唇にそっとキスをした。軽く唇を触れ合わせ
るだけのキスだったけれどクルルは満足したようだった。可愛らしく頬を上気させて俯いてしまっ
た。
「ホラ、早くウチ入れよ。風邪ひくぞ」
「うん」
おやすみ、と声をかけて踵を返した俺をクルルの声が止めた。
「トウヤ」
何事かと振り返ろうとした俺の背中にクルルがトンとぶつかった。そのまま小さな腕をいっぱいに
伸ばしてギュッとしがみついてくる。
「大好き・・・」
よく耳を澄ませないと聞き取れないくらいか細い声でそう呟いた。
(か、可愛いトコあるじゃねーか)
俺は回されたクルルの手にそっと自分の手を重ねた。普段のこまっしゃくれたクルルとは違った一
面を見せられて、なんだか妙にドギマギした。背中に心地よい熱を感じながら、俺はもうしばらく
このままでいたいな、なんて思っている自分にちょっぴり驚いたのだった。
END☆彡
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ウインキーソフトの『聖霊機ライブレード』の二次創作です。
逮捕覚悟(笑)のトウヤ×クルルでvv