No.187079

あなた。〈2〉

月橘さん

続きです。
まだ危ない場面は出てこないと思いますが…。

2010-11-29 18:41:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:306   閲覧ユーザー数:302

<注意!!>

えー、前作同様この作品は女性向けの要素を含みます。

なので、そういったものが苦手な方はすぐさま閲覧をやめてください。

不快な気分になったとしても作者は責任を負うことはできませんので、ご了承ください。

それでは本文は次ページから始まります。

 

Color2

 

「………。」

陽介は改札口の前で孝宏を待ち続けた。

そしてその間ずっと孝宏が言った言葉について考えていた。

「あの人は何なんだろう……。」

あまりにも孝宏には謎が多すぎた。

身なりからしては明らかに陽介よりは年上だ。だが、話し方やテンションの高さから言うと少々落ち着きの無い人だ、と陽介は思った。

そしてその外見と中身がアンバランスな孝宏は陽介の予想を次々に覆してきた。

陽介もよく大会に出場するので、大人とのやりとりには慣れているがこういったケースの人間と出会ったことが無かったので、困惑してしまった。

会う約束を決めた後も、昼休みいっぱいに陽介は孝宏に質問攻めにあった。

どの質問にも陽介の返事に詰まってしまい、長く沈黙が続いた。

「………音楽って、どう楽しいのか…だと……。」

そしてこの質問が一番彼を悩ませた。

陽介は物心ついたころからすぐ隣には『音』があり、『ピアノ』があり、その環境が自分にとっては『当たり前』だと思っていた。

だから、音楽は『楽しい』とか『つまらない』とかいう概念ではなかった。

『音』があるからそこには『音楽』というものが存在し、生き続けている。

自分はその『音楽』を存在させる一種のきっかけだと陽介は考えていた。

「……楽しいと感じたことは無いのか…か。」

全く無いとは言えないが、それは本当に『楽しい』と言えるのかどうかは陽介には分からなかった。

「………あ!!いたいた!!。」

「あ………。」

ハキハキとした元気な声の主の方に陽介は目を向けるとそこには今朝の笑顔があった。

ただひとつだけ違うのは彼の着ている洋服と髪型だけであった。

「バーテン……?」

「ごめんごめんっ!!お客さんに呼び止められちゃってさ……待った?」

「……いや…僕もさっき来たばかりです。」

相手に悪いと思わせないように咄嗟に陽介は嘘をついた。

「……嘘。20分くらい待ったでしょ?」

「え……どうして?」

だが、そんな嘘もすぐさま孝宏に見抜かれてしまった。

陽介は信じられないとでも言うかごとく、孝宏を見上げる。

「……君の手にしてるペットボトルはなにかな?…すぐ終わる用だし、今さっき来たのなら買う暇なんて無い筈だ。…それにその飲み物ホットだよね?なのに冷め切ってる。だから大体20分くらい……かなって。」

「すごい……。」

孝宏の見事なまでの推理に、陽介はその一言しかつぶやくことしかできなかった。

「まあ、客商売なんでね。それぐらいの事できないと会話できないよ。」

「……小鳥遊さんの仕事って何ですか?」

「ん……見りゃ分かるでしょ?バーテンだよ。」

孝宏はその答えが当たり前のように答えた。

「じゃあ、カクテルとか作るんですか?」

「お、興味津々?」

「………。」

図星をつかれたことが少々気に食わなかったのか、陽介は不機嫌になる。

「まあまあそう機嫌を悪くすんなって。君が二十歳になったら特製のカクテル作ってやるからさ。」

「………。」

孝宏は軽く陽介にウインクするとポンと陽介の肩に手を置く。

この時々見せる大人の部分が陽介の神経にひっかかる。

「(やりづらい人だな……。)」

「……ところで!!約束!!」

「あぁ……。」

このように話題がくるくる変わるのやりづらかった。

「ピアノは、どこに……?」

「俺の店にあるやつでいい?」

「えっ!?……だってお客さんいるじゃないですか。」

「うん。いるよ。」

陽介はてっきり孝宏の家かどこかのスタジオだと想定していたが予想外だった。

店ということは客が至近距離で自分の演奏を聴くということだ。

大観衆には慣れているが、ホールの舞台と客席との距離しか経験したことが無いので、このような近い距離で演奏するのは恥ずかしいことであった。

「それは……。」

自分の面子にもかかわるかもしれないし、申し訳ないが陽介はその誘いを断ろうとした。

「今日だけでいいから!!本当はいつも演奏してくれる人がいるんだけど、今日は体調が優れなくて急に来れなくなっちゃって……。」

さっきまで少年のようにニコニコしていた表情はもうどこにも無く、切迫した焦りが確実に見えた。

「………。」

「……無理……かな?」

「……分かりました。僕でよければやりますけど……。」

陽介は考えた結果、その仕事を引き受けることにした。

今日はレッスンもないし、明日も休日だということで暇があった。

それに困ってる人を見捨てるほど彼は残忍ではなかった。

だが、それ以上に彼には今孝宏よりも上の立場の状況だ、という優越感に浸っていた。それが仕事を引き受ける大きな理由だということも、陽介は気づいていた。

「(僕って……ひどいなぁ……。)」

そして我ながらにちっぽけな人間だと、呆れた。

「……って、考えたんですけど……。」

「ん……?」

「小鳥遊さんって、バーテンなんですよね?……バーで働いているんですよね?」

「あー……そうだけど?」

「バーってことは営業時間……。」

「あー!!大丈夫!!10時くらいに終わっていいから。で、送ってくし。」

「え!!いいです。最寄り駅さえ教えてくれれば一人で帰ります。」

「どうして?危ないよ?」

「………。」

駅で少し話した後、陽介は孝宏の愛車である赤いフェラーリに乗せられた。

そして、車は彼の働いているバーへ向かった。

陽介の頭の中ではフェラーリ=金持ちという変な公式が出来上がっているようだが、彼はそのバーのオーナーをやっているわけでもなく、この車もたまたま安かった時に買ったと言う。

ますます陽介は孝宏のことが分からなくなった。

「……女の子じゃないんだから、襲われることなんて……。」

「……誰が痴漢だなんて言った?」

「…それはっ。」

「まあ、最近では男の子でも痴漢に遭うっていうしね……ってそうじゃなくて……。」

「……?」

孝宏は陽介の言葉が全て分かるかのように余裕を見せて話を続けた。

「君って、有名人だろ?……ならファンとかいるだろうよ?」

「………。」

「で、もし会っちゃって色々ごたごたしたら大変だろ?」

「………。」

陽介はいまいち孝宏の言っている事を理解できなかった。

というよりも孝宏の言っていることは穴が開きすぎだ。陽介を絶対に一人で帰してはいけないという理由になっていない。

「……とりあえず、君は俺が送ってくから……勝手に帰らないでよね。」

「………。」

陽介の反論を待たずして孝宏はその話題を終わらせた。

「さ、ここが俺が働いてるバーだよ。」


 
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