No.186922

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART18~

戯言使いさん

さて、今回は宴の様子が物語となっています。

うーん・・・魏の武将たちをキャラ崩壊させるのは難しいですねぇ・・・・まぁ、他と比べてインパクトが弱いとは思いますが、よろしくお願いします。

2010-11-27 22:10:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7042   閲覧ユーザー数:5432

 

 

 

華琳の思いつきにより、玉座の間にて宴を開くこととなった。

 

 

若干、一名が渋っていたが、その他の武将たちは華琳の言うことを素直に聞き、玉座の間に椅子と机を運び出し、そして華琳や流琉、秋蘭などは厨房で腕を振るっている。

 

 

一刀と七乃は玉座の隅でその様子を眺めていた。

 

 

一度は絶対絶命と思われた局面でも、七乃の策、そして一刀の話術の二つによりどうにか切り抜けることが出来た。そればかりか、今は魏の武将たちと仲良く宴をすると言う、未だに信じられないことをしようとしているのだ。

 

 

しかし、一刀と七乃は特に不安も何もなかった。

もちろん、一刀が実は弱いと言うことがばれたら、また一悶着あるかもしれなかったが、それでも何故か不安はなかった。それは、絶対的な信頼。一刀が居れば、大丈夫と七乃は心の底から一刀を信頼していた。

 

 

 

 

 

そしてしばらく時がすぎ、待ちに待った宴がはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・・そんなことが・・・・」

 

 

「そうなんですよー。私も直接見たわけではないので、残念ですが、村人たちの間では神様のように扱われていましたよー」

 

 

「へぇ。今度はぜひ、顔良たちから直接聞いてみたいわね」

 

 

「あら、袁家ですけど、いいのですか?」

 

 

「いいわよ。一刀の仲間であれば、許すわ。だけど、張勲。あなたはいいのかしら?その話を聞いた限りによると、一刀は顔良たちの物らしいけど?」

 

 

「大丈夫ですよー。私と一刀さんの絆はそれぐらいでは揺るぎませんよー。曹操さんも恋をすれば分かりますよ。あ、でも一刀さんは駄目ですからねー」

 

 

「あら、釘を刺されてしまったわね」

 

 

七乃は華琳と仲良く酒を飲みながら、今までの旅の話をしていた。

 

お互いに酒を飲んでいることもあり、気分が高揚しているせいか、とても仲良く、つい先ほどまで殺し合いをしそうになっていたとは思えない。それも、華琳の器の大きさのお陰なのか、それとも一刀に惚れこんでいるのかは分からないが、とにかくとても仲良さそうに話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、一刀と言うと、やはり武将たちに人気だった。

 

蜀の五虎将と対峙し、勝ったと言う嘘を本気で信じているため、魏の武将たちはみなその強さに興味深々だった。

 

 

「北郷!やはりあの強さは天界の修行のお陰なのか!?」

 

 

「ん?・・・・まぁな」

 

 

「おぉ!だが、あの殺気は修行したからと言って出せるものじゃないぞ!一体、どんなことをしたんだ!」

 

 

「んとだな・・・・・あれだ。軍曹だ。軍曹にきつく教育されたんだ」

 

 

「軍曹とは何だ?しかし、とても強い存在のように思うぞ!」

 

 

がはは、と春蘭はお酒のお陰もあり、とても豪快に笑いながら、一刀と会話している。周りの武将たちも、その様子をにこやかに眺めている。

 

しかし、一刀は気が休まらない。実はまぐれで季衣の攻撃を受け止め、そして殺気もただの見かけ倒しであることがばれないか、不安で不安でしかたがなかった。取り合えず、元の世界の訓練の仕方を適当に組み合わせて誤魔化すしかない。

 

 

「なぁなぁ、北郷。軍曹の教育っての、うちにもしてくれんか?」

 

 

「お、私もしてもらいたいぞ!」

 

 

「えっとだな・・・・・まず、語尾は『サ―・イエス・サ―』をつけるんだ」

 

 

「サ―・イエス・サ―・・・・・おぉ!なぜだか知らんけど、気が引き締まるわ」

 

 

「それで北郷!次は何をするんだ!?」

 

 

「あっと・・・・・そうだ。体操だ。バリーズ・ブート・キャンプだ」

 

 

かの有名なバリーズ・ブート・キャンプは一刀は元の世界で部活動の一環として行っていた。しかし、本人は記憶を失っている。だが、一刀は記憶と言うよりも、知識と体がその動きを覚えていた。

 

 

「なんや、そのばりーず・ぶーと・きゃんぷってのは」

 

 

当然、何が何だか知らない武将たち。

 

ここまで来たら、やれるだけやってみよう。

 

 

一刀は強いお酒を一気に飲み干すと、席を立つ

 

 

「よっしゃぁ!お前ら!強くなりたいか!」

 

 

「お、おぅ・・・」

 

 

「返事はサ―・イエス・サ―だ!この体操は短期間で筋力、持久力、そして精神力を養う特別訓練だ!しかも、痩せるし、それに胸も大きくなるんだ!」

 

 

「「胸!?」」

 

 

今まで全くと言っていいほど話を聞いていなかった桂花と、その他数名が思わず声をあげる。その声に一刀は酒に酔って少しトロンとした眼で見る。

 

 

「あぁ、そうだ。これをすれば、あっと言う間に巨乳になれるぜ!」

 

 

「ほ、本当なの!?」

 

 

「あぁ。天界の知識だぜ。やってみる価値はあると思うが・・・・おい!お前はやるか!?」

 

 

「や、やるわ!」

 

 

「返事はサ―・イエス・サ―だ。そして俺のことは軍曹と呼べ!」

 

 

「さ、さ―・いえす・さ―!軍曹!」

 

 

あれほど一刀を毛嫌いしていた桂花が、胸と聞いただけで一瞬にして一刀に従順になってしまった。それもお酒の酔いのせいでもあるが、宴の席の余興としては面白い。

 

桂花は立ち上がり、一刀の前に立つ。それにならい、武将の数人が一刀の前に立つ。一刀は再び、酒をあおると、声を張り上げた。

 

 

「お前ら!強くなりたいか!」

 

 

「「サ―・イエス・サ―!」」

 

 

「お前ら!巨乳になりたいか!」

 

 

「「サ―・イエス・サ―!」」

 

 

「よし!なら、何か激しい音楽をかけてくれ!」

 

 

一刀の声に、その集まりを苦笑いで見ていた秋蘭が、笛を取り出し、同じくその集まりに参加しなかった稟が、取りあえずと、空いた皿を並べて、箸で叩いて簡易ドラムを作った。

 

 

 

チャカチャカチャカ

 

 

 

音楽にしては頼りないが、この体操の時にかける音楽はリズムをとりやすくするための音楽なので、特に関係はない。

 

 

「よし!それなら俺に続いて体を動かすぞ!分かったか!」

 

 

「「サー・イエス・サ―!」」

 

 

 

 

 

その後、一刀の短期集中講義は続いた。

 

リズムに合わせて体を鍛える、と言うのは今まで体験したことがなく、また動作が単純であるため、普段から体を動かさない軍師や、訓練が苦手な莎和たちには好評で、楽しく鍛える、と言う一刀の特訓は大成功だった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、昼間から続いた宴はいつもの間にか夜になっていた。

 

昼食だけ、と言っていた一刀は体操の疲れてと酒により、玉座の間で眠っていた。それは他の武将たちも同じで、春蘭や桂花たちまでもが、すやすやと眠っている。

 

この玉座の間で起きている者と言えば、その体操に混じらず、そして自分のペースでお酒を飲んでいた七乃と華琳ぐらいだった。

 

 

「久々に楽しかったわ」

 

 

「それはよかったです」

 

 

「悪くないわね。客人を招いて、宴を開くのも」

 

 

「はい。これが一刀さんが言っていた、友と言うものです」

 

 

「友・・・・ね。今まで、私に近づく者と言えば、権力や金目当ての輩のみ。友なんていなかったわ」

 

 

「でも、この戦争を通して、桃香さんや雪蓮さんのことを考えなおしてみてください。きっと、よい友になると思いますよ」

 

 

「・・・・信用するために、戦争する・・・・か。何か滑稽ね。人を信用するために、多くの兵の命を犠牲にするなんて」

 

 

「そう言うものなんです。本来、人を信用すると言うのは、それほど重大なことなんです。だから、私は滑稽だとは思いません。例え、多くの兵が犠牲になっても、大陸に真の意味で平和が来るんですから」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

華琳は七乃の言葉に少しだけ考えるように黙った。

 

 

 

 

『大陸の平和』

 

 

 

と言う言葉だ。それが気になっていた。

 

いきなり考え出した華琳に、七乃は首をかしげる。

 

 

「ねぇ、北郷は天の使いなのでしょ?」

 

 

「えぇ。本人は記憶喪失になっているので、分からないかもしれませんが、最初から旅をしていた私には分かります。間違いなく、一刀さんは天の使いです」

 

 

「・・・・とある占い師の予言、知っているわよね?『大陸を平和にするために、天の使いが流星とともに降り立つ』・・・・ねぇ、もしそれが本当なら、少し変じゃないかしら」

 

 

「変?でも、きっと一刀さんのおかげで、大陸は平和になりますよ?」

 

 

「えぇ。『今』はね。でも、考えてちょうだい。最初は、袁家と居たのよ?しかも私に負けて敗走した袁家と一緒に」

 

 

「??よく分かりませんよー」

 

 

 

 

「つまり、もし北郷が麗羽と共に旅を続けていたら、今のようになっていたのかしら?」

 

 

 

 

 

 

華琳の質問に、七乃は考える。

 

一刀が麗羽と別れたのは、記憶喪失によって、性格が変わったからだ。もし記憶喪失にならなければ、一刀はおそらく、麗羽の下で今でも働いていただろう。そしてその麗羽が大陸の平和のために行動を起こすことなんて・・・・・ありえない。

 

 

 

「もし北郷が、魏、呉、蜀のどれかの国に拾われていたら、おそらくもっと早く大陸に平和が訪れていたんじゃないかしら。でも、運悪く袁家に拾われた。袁家は大陸の平和を全く考えない、私欲を満たすだけの存在・・・・そして、それに拾われた北郷も、当然、大陸の平和なんて大それたことをするはずもない。そうすると・・・・」

 

 

「一刀さんの、この大陸に来た存在理由が消滅してしまいますね」

 

 

「えぇ。『大陸を平和にする』ために来た北郷が、全く無関係なことをしていたら、そもそも来た理由がなくなってしまう」

 

 

「・・・・・ですが、それが何ですか?現に、一刀さんのお陰で、大陸は平和に向かっていますし、それに一刀さんはこうしてここに居ますよ」

 

 

確かに、大陸を平和に出来ないとなると、天の使いの存在の価値はないだろう。しかし、今はこうして行動している。なら、何も問題はない。

 

 

しかし、華琳は少しだけお酒を飲むと、七乃に言った。

 

 

 

 

 

 

「『記憶喪失』・・・・のおかげでね」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

「『偶然』記憶喪失になり、『偶然』行動的な性格になり、『偶然』村に盗賊たちが襲ってきた時に呉と知り合い、『偶然』同盟の使者として蜀に行き、『偶然』宣戦布告をしに魏にやってきた・・・・・ねぇ、出来過ぎてるとは思わないかしら」

 

 

「た、確かにそうですけど・・・・でも、それは・・・・・・」

 

 

「偶然・・・・とでも言うつもり?ここまで偶然が重なることはないと思うわ。だからね、私は一つだけ推測したわ。大陸の平和を望まない袁家に拾われてしまった。しかし、このままでは北郷がこの大陸に来た存在理由がなくなってしまう。だから・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必然的に記憶喪失になり、必然的にあの性格になった・・・・ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀がこの大陸に来る理由を後天的ではあるが作るためのきっかけ。つまり、それこそ神様とも言うべき存在が、一刀を意図的に記憶喪失にした、と言うことだろうか。

 

七乃の質問に、華琳は黙って頷いた。

 

 

 

 

「えぇ。北郷のあの性格。あれは、作られた物であるかもしれないわ。偶然ではなく、大陸平和にするためだけに造られた、偽りの性格。初めから、すべての感情が決められていた・・・」

 

 

 

 

 

 

バン!

 

 

 

七乃が大きな音を立てて杯を置いた。

 

 

「・・・・あれは一刀さんです」

 

 

「えぇ。でも、こんなに記憶喪失になってから運よくここまで来られるなんて・・・・」

 

 

「そんなの信じません!じゃあ何ですか!?私を抱きしめてくれたことも、私に傍にいろと言ったのも、私にキスしてくれたことも、全部・・・・全部・・・・・作り物の感情だって言いたいんですか!?」

 

 

「・・・・」

 

 

「一刀さんは一刀さんの意志で私を好きになってくれたんです!!そんなの、誰かが作った作り物のはずがありません!確かに記憶喪失になって、性格が変わってしまいましたが、私はその前からもずっとずーっと一刀さんが好きなんです!ようやく報われたと思ったのに・・・・なのに・・・・その感情が作り物だなんて・・・・・」

 

 

一刀の性格。あれが作り物ならば、一刀が七乃を好きだと言ってくれたことも、斗詩や猪々子を好きだと言ってくれたことも、それも最初からそうなるべくして作られた感情と言うことになってしまう。

 

まるで、一本の脚本のように。

 

一刀の守り人となるために、斗詩と猪々子と七乃を手懐け、そして自分の役目、大陸平和を果たすための駒とするために。そのためだけに、斗詩たちや七乃に愛を囁いた。

 

そう考えてしまう自分に、七乃は自分自身を殴りたくなってくる。

 

 

 

 

 

―――七乃は、素直じゃない。

 

 

 

 

素直に好きとも言えず、斗詩のように甘えることも出来ない。でも、一刀が記憶喪失になり、そして初めて素直に、自分の感情の赴くまま行動した。そして、一刀はそれに答えてくれた。

 

それは、七乃の一生に一度の頑張りだったのかもしれない。

 

例え、忘れ去られてしまう記憶であっても、今、一刀が自分を好いてくれた事実があれば、もう一度頑張れる。そう、七乃は思っていた。

 

なのに、その一刀の好意が、実は造られた物で、まるで機械のように、決められたことをなすことしか出来ない・・・・それは、酷い裏切りだった。今までの努力を無に帰すような、酷い仕打ちだ。

 

 

「・・・・ごめんなさい。あくまで私の推測だから」

 

 

「はい・・・・私こそごめんなさい。少し、感情的になりました・・・・」

 

 

七乃は自分の杯を煽ると、席から立ち上がった。

 

 

「すみませんが、もう寝ます」

 

 

「えぇ。おやすみ」

 

 

「はい。おやすみなさい」

 

 

七乃は玉座の間の床でだらしなく寝ている一刀に近づくと、一刀の胸を枕代わりにして、そして横になった。

 

 

すぅすぅ、と規則正しい寝息を立てる一刀。

 

 

その寝顔を見ていると、思わず泣きそうになってしまう。前の晩に、自分を抱きしめてくれた一刀。キスしてくれた一刀。それがすべて、作り物。

 

 

七乃は耐えきれずに流れた涙を一刀の胸に押し付けて隠し、そして静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

次回に続く


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
76
8

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択