「……」
その日の一刀は珍しく酒を楽しんでいた。樊城付近に遷都する準備も整いあとはその日を待つだけであった。
つい先日は三国同盟締結記念の式典。今はその帰りで、白帝城に腰を下ろしている。
楽しかった。あんなに楽しんだのはいつ以来だろうか。あんなに大声で笑ったのは幾つくらいだろうか。あんなにはしゃいだのは何年ぶりだろうか。
あの輝かしい時間は……いつまで続くのだろうか。
――そう、その夜は月が綺麗だった。
第十一話・外 山猫 ~Lynx~
「静かだね……」
「ああ」
体に入っているナノマシンがアルコールを分解してしまうため、こういった酒宴では一刀はいつも飲み過ぎないように見張る役目だった。
しかし今日は酒乱連中は息を潜め、特に騒動が起きそうな気配は無かった。
三国同盟締結は心の中に達成感を植え付け、皆その華に酔いしれているのかもしれない。
「今日はご主人様もお飲みになるのですね」
「何だ?私が酒も窘めない奴だと思ったのか?」
「ははっ。いつも素面では楽しくありませんかな、主?」
無くなった杯に星が酒を注ぐ。生憎一切酔うことはないのでそれを一気に飲み干してみせる。
「酒を飲むよりつまみを用意するほうが楽しいかもしれんな。星、メンマを使って一品作ってやる」
「あら、女性と呑むのはお嫌ですか?」
「いや紫苑よ。ここはお館様の三国二の料理の腕前特と拝見させてもらいましょう」
「嫌味なら桔梗の分は無しだぞ」
周りから笑い声があがった。
皆あまり呑んでいないらしく酒よりも会話を……特に昔話が進んでいるようだった。
その光景に静かな笑みを浮かべながら一刀は台所に足を向けるのであった。
――そう、その夜は星が綺麗だった。
『Lieutenant!!』
「なんだ?」
台所でキムチメンマを創り上げた一刀の頭の中に、ナノマシンを利用した通信が鳴り響く。
戦術バイクWolfや強化外骨格Hydraに使用されているAIからのものだった。
『WARNING!!』
「何!?」
そう、静寂も平和も一瞬にして破られる。
敵襲だ。AIが反応したことを考えると正史から転送された連中……一刀の宿敵達だ。
「Hydra、Wolf起動!Wolfは建物を出て上空に信号弾を打ち上げろ!」
『Yes Sir!』
「成都や樊城じゃないだけマシか!?」
すぐさま自室に戻り鎮座しているHydraの装着を始める。Hydra自体重量は重く装着には一苦労となる。蜀勢も今頃信号弾に気づき臨戦態勢となっているだろう。
「ご主人様!」
桃香が入ってきたのは丁度Hydraの装着を終えた時であった。
「桃香、恋に護衛を頼んで控えていろ。連中の意図がわからん」
あとは頭部保護と情報表示の役割を持つヘルメットを装着するだけだ。
「私も出る」
――そう、その夜は静かなはずだった。
火の海を想像していた。しかし現実は思った以上に静かで、城壁から入ってくる情報からみて相手は八。全てが次世代型無人兵器群だ。皆にかかれば時間はかかるものの殲滅は可能だろう。
しかし油断は禁物。自分が出ていって早々に騒ぎを収めるのに越したことはない。そう思った矢先だ。
『Attention and Contribution』
AIの進言が一刀の頭を冷静に、そして戦場の顔にした。
「……陽動だといいたいのか、Wolf」
『Yes. Cool down』
AIに窘められるとは。
しかしWolfの言うことはもっともで、ここは彼女たちに任せ自分は有事に備えて遊撃できるようにするべきだろう。なにせこの世界の機動力と、自分の機動力は比べものにならない。そういった意味でも自分は適任だ。
「しかし……なぜこのタイミングで……」
外史を攻めるのであれば成都防衛戦後にすぐさま投入すべきだろう。しかしこのタイミングでの利点と云えば相手が油断しているかもしれない、ということだけに思えた。
「それは正史側が拮抗状態となったからだ」
暗闇に向かって振り向く。
そこには大層な強化外骨格を纏った大男が佇んでいた。
「私はリンクス。PMCUを率いている」
干吉/Lynx
CV:子安武人
「リンクス(山猫)……まさか」
「如何にも、私はリボルバー・オセロット(※)の息子。貴様ならわかるだろ、これが何を意味するか」
「あんたは正当な血統者って事か」
彼の強化外骨格には、リボルバーのパーソナルマークが見て取れる。
父親のリボルバー・オセロットにパーソナルマークは無かったことを考えると彼自身のものだろう。
「しかし私も運がいい。個人的な用事のある貴様に当たったのだからな……」
「当たった?」
「今このとき他の軍勢が二つの都市を襲撃している。私の担当は貴様らしい」
リンクスの脳裏には空を駆ける強化外骨格を纏ったエンド・スネークと、オクトパス、レイヴン、ウルフの姿が映る。
「さて……話を戻そう。パトリオット……それを渡してもらおうか」
「パトリオット……?」
「そうだ!私の誇り高き血統!その証……真の英雄たる証、パトリオット!あの男に託され、その後は蛇の血統である貴様に託されている……違うか!?」
「済まんが……そのパトリオットとかに関しては私は分からん。ソリッド・スネークは私物を持たない人だったからな」
あまりにも突然な要求。愛国者と云われるもの。真の英雄たる証。
その全てにスネークには思い当たる節がなかったのだ。
「……嘘をついているようには見えんな。ではもう一つの用件を済ませるとしよう」
リンクスはそう呟くと腰にぶら下げていたかなり大きい槍を手に戦闘態勢を取る。
同時にスネークも二振りの高周波ブレードを抜き放つ。
「行くぞ!!」
「来い!山猫!!」
――そう、その夜は平和なはずだった。
白帝城城壁を降りたところでは激戦が始まっていた。
二つのアームを自在に操り運動性で勝るスネークがやや有利……に見えていた。
対するリンクスは……否、リンクスの強化外骨格はスネークのものよりも遙かに出力で上回っていた。
背中にブースターを背負い足下はどうやらフロートで浮いているらしく、無骨な外見とは裏腹に高速かつパワーのある行動を可能にしている。
「どうした!その程度の射撃では外骨格に傷すら与えられないぞ!」
圧倒的にパワーで劣るスネークは高台から射撃兵器で応戦するのみになっていた。
うかつに接近戦を試みて痛手を負うのは面白くない。しかし射撃兵器のみではリンクスの言うとおり外骨格を破壊できないだろう。
しかしスネークは状況を打破するために一つの手段に出た。
突如路地から戦術支援バイクWolfが飛び出した。Wolfからすぐさまスモークグレネードが放たれあたりに白い煙が立ちこめる。
そして次の瞬間には白い煙からWolfに乗ったスネークとリンクスが剣戟を交えながら飛び出してきた。
「はっ!スピードは同等だがパワーでは勝っているぞ!」
「御託は雷を克服してから言うんだな!」
スネークが差し出した拳から電撃がほとばしる。
その電撃に一瞬ひるみはしたものの、体勢を変えリンクスは槍を頭に突進を開始した。
その矛先を大型ブレードで受け止めるが、勢いを殺しきれず大きくを体勢を崩してしまう。リンクスはその隙を見逃さず、さらに突撃を重ねスネークをWolfもろとも吹き飛ばした。
スネークは咄嗟にスネークアームで地面を掴まえるが、運動エネルギーを殺すことができずWolfから投げ出された。
だが次の瞬間にはスネークは今度は地面を蹴り空中に飛び上がっていた。
「甘いぞ!蛇!」
背中から白い光を放ちながらリンクスが飛び出つ。
ブースターの出力を考えると腰が砕けてもおかしくないが、この大男はそれを物ともしないらしい。
空中で踏ん張ることもできずに、スネークはなすがままに地面にたたきつけられた。
「くっ……」
「その強化外骨格では私には勝てんよ」
隙があったと言わんばかりにスネークがアームを伸ばすが、それをたやすく掻い潜りリンクスは一気にスネークに迫った。
そして鍔迫り合いが始まる。
「そのアームは行動を並列処理できない」
「だが一点集中では……!」
「そうかな?」
リンクスの右腕が変形を初め銃身が構成される。
(グレネード!)
スネークが思うより早いか。あたりに黒煙が溢れスネークは弾き飛ばされる。
いくら強化外骨格をまとっていてもダメージは防げても衝撃は軽減できない。
「アームを体に巻きつけてダメージを軽減したか。だが……」
リンクスは彼に迫る。スネークは動かない。動けない。おそらく意識が飛んでいるのであろう。
次の瞬間、リンクスの槍がスネークの腹に突き刺さった。
注釈:
※:リボルバー・オセロット
MGSシリーズのほぼ全てに登場し、半世紀に渡るメタルギアサーガの証人とも言える人物。リボルバーをこよなく愛する渋いおじいちゃん。70過ぎてもムキムキボディーでした。
二重スパイ、時には三重スパイをこなし最期はMGSシリーズのラスボスを務めた。そんな彼を突き動かしていたのはたった一人の人間に対する忠のみであった。
いいセンスだ。は彼の名言だが実はとある人物に言われた受け売りである。
彼の出生にはとある謎が隠されているが、大きなネタバレになるためここでは伏せる。気になる人はゲーム屋さんへGO!!
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。http://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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