・・・急な寝苦しさに、「ボク」は目を覚ました。
ひんやりと冷たく、白い指がボクの喉に食い込む・・苦しみに悶えながら、
ボクはうっすらと目を開いた。
白い指の主と目が合った。
黒い鬼の面に赤い鮮血の飛沫を纏った異形の者・・『鬼』だ。
―・・人は罪を残して死ぬと残された者との契約により・・鬼へと変貌する・・―
恐ろしさで悲鳴を上げそうになるも、鬼の指が喉を捕えて逃がさない・・
ひんやりとした汗が伝う・・左目の視界の隅に銀色に光る物が見えた。
「お前なんかっ・・生まれて来なければ!!」
鬼の指に力が篭り、今までとは比べ物にならない程の苦しさが襲った。
「ぅう・・は・・なせっ・・!」
呻きながら鬼の目元を思い切り睨む・・
・・布団の下から、ボクを跨ぐ形で首を絞める鬼の腹を蹴り上げる。
一瞬、鬼の指が放れて、ボクの気管に大量の空気が流れ込む・・
咳き込みながら、大急ぎで部屋の窓を開ける。
背後から鬼が迫ってくる様に感じて、身震いをする。
咳は治まらない。
怖い、恐い、コワイ・・っ!!!
・・気付くと、ボクの身体は闇へと投げ出されていた。
いや、迫り来る恐怖に自ら夜の闇へと飛び込んだのかも知れない・・
2階の窓から外へと逃げた。
・・浮遊感で急に頭が痛くなる・・
締め付けられるような・・そんな痛み・・
《ガッ》・・・
煉瓦の河原に左手足を強かに打ち付け、体内で鈍い音がした。
そのまま家のすぐ裏手に流れる河へと落ちる・・
・・水に埋もれる寸前で、ボクの居た子供部屋の窓から顔を覗かせた鬼と目が合う・・
逃げ出す途中、鬼の左薬指にボクのママがしてたのと同じ、
銀の指輪が光って見えたのは・・気のせいだよね?
・・窓から顔を出す鬼は答えない・・
鬼を睨み付けた時、面の中の目が泣いているように見えたのも・・錯覚だよね?
・・・「お前なんか生まれてこなければ」と、
強く言い放った鬼の声が、ママにとても似ていたのだって・・偶然だよね?
・・紺碧の水の中・・
ボクは沈んでいく・・水の中は静かで、
ゴボゴボとボクの口から漏れる気泡の昇る音しかしない・・
銀の気泡は、堕ちるボクとは裏腹に昇って行く・・
まるで世界の全てを。ボクから遠ざけてるみたいに・・
「茜(アカネ)、そんなに泣くなってきっと大丈夫だから・・」
同級生の友達数名がそんな言葉を投げ掛けるけど、
私の目からは涙が流れる・・止められない。
私より2つ年上の姉。
水瀬 藍(ミナセ ラン)が交通事故で病院に搬送されたと知ったのは、
彼女が家を出て、30分程後の事・・
「行って来ま~す!」元気にそう言って出て行った姉が、今生と死の狭間に居る。
・・未だに実感が得られない。
けれど、姉を失うと少し考えるだけで涙が零れ落ちるのだ。
私は薄目を開けて、涙で潤んだ「手術中」の赤いランプを見ていた。
姉を轢いた車はまだ捕まっていない。
轢き逃げだそうだ・・私を含む家族がその場に辿り着いた時には既に車の影は無かった。
《・・契約、する??》
不意に、唐突に声が聞こえた。
幼い少女のような声・・
辺りを見渡すが、それらしい子は居ない・・
《契約をするのなら・・貴女の大事な人、助けてあげる》
2度目の声と共に、赤いランプが消え、医者が重い面持ちで出て来た。
・・私は息を飲んだ。唾をゆっくりと嚥下する・・
結果は分かり切っている・・姉は・・水瀬 藍は・・・
今、死んだ。
《私なら・・貴女の大事な人を甦らせる事が出来るよ》
目前の甘い夢に目が眩んだのか、私は周りに聞こえない程小さな声で言った。
「お願い・・藍を・・甦らせて。」
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「鑑定を作ろう!」というサイトで地味に書いてる物語を少々アレンジして載せる事にします。
※流血注意!!