No.186168

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART16~

戯言使いさん

お久しぶりです。ようやくレポートを提出したので、続きを載せます。ゼミの結果は、受かっていたらこの話の続きを書きます。落ちたら来世に行ってきます(´∀`*)

この物語の一刀の武器は『話術』と『殺気』です。以前、物語で登場した鎧刀はこの魏編でしか使わないです。と言うか、本当は鎧刀はいらなかったんですが、そうしないと、どうしても魏では一刀の活躍が書けなくて・・・・

2010-11-23 17:07:13 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8282   閲覧ユーザー数:6123

 

 

 

 

馬のお陰で、思いのほか早い旅をしていた二人は、ようやく魏の都、洛陽に着いた。

 

今回は蜀の場合のように、事前に自分たちが訪れることを知らせていないため、一泊だけ洛陽の宿に泊まり、そして次の日に改めて城へと訪問した。

 

洛陽の様子は、平和とも乱れているとも言えなかった。どちらかと言えば、普通だった。呉は富と貧が別れていた。蜀は平和だった。そして魏は平和ではないが、治安もそれほど乱れていない、ただ唯一言えることは、三国の中で一番、民の顔が暗かった。

 

 

 

門番の兵士は「呉と蜀の使者です」と言った瞬間、血相を変えて華琳に報告しに行った。その間、蜀のようにどこかの控室に迎えられることもなく、しばらくの間、門の前で立たされることとなった。

 

 

そして、しばらくして兵士がやってきて。

 

 

「曹操さまがお会いになるようです。また、その際に武器の持ち込みは禁止しておりますので、腰の物を渡してください」

 

 

腰の物、と言うと七乃の持っている刀だ。七乃はそれを素直に差し出す。

 

 

「あの・・・・あなたの背中の物を見てもよろしいですか?」

 

 

「ん?あぁ、いいけど、ただの飾りだぞ」

 

 

一刀が鎧刀を渡す。

 

そして兵士が色々と触り、確かめて、確かに刃のない、刀の形をしたただの飾りであると分かり、素直に返した。仮にこれを持って暴れたとしても、魏の武将たちに敵う筈がない。兵士はそう思った

 

 

「それでは、どうぞこちらに」

 

 

兵士が前と後ろについて、一刀と七乃を玉座の間へと連れて行く。一刀と七乃は言い知れぬ不安を抱えながらも、素直について行った。

 

 

そして、玉座の間の中に入れられ、そして扉が閉められた。

 

 

 

 

 

玉座の間には椅子もなければ茶菓子もなく、魏の武将たちが並び、その後ろには鎧をつけた兵士が規則正しく並んでいた。

 

 

 

そして、玉座の椅子には、一人の少女、覇王曹操が座っていた。

 

 

 

「俺は北郷一刀。こっちは付き人の張勲。呉と蜀の王から手紙を預かってきた」

 

 

 

「へぇ、噂の天の使いってあなたのことなのねぇ・・・・ふーん・・・・」

 

 

じろじろ、と含み笑いを浮かべたまま舐めるように見る華琳、その視線はかなり不快だ。

 

 

「じろじろみんじゃねーよ。さっさと手紙を受け取れよ」

 

 

「貴様!華琳さまになんて口遣いをするの!」

 

 

乱暴な口遣いに、傍に控えていた桂花が当然、非難をあげる。しかし一刀は「っち」と舌打ちしただけで、何も言わない。

 

 

「七乃、頼む」

 

 

「はいはーい」

 

 

七乃は懐から手紙を取り出すと、華琳の傍で控えていた風がその手紙を受け取りに来た。そして風に渡して、風はそれを華琳の元へと持って行く。

 

華琳は手紙を受け取ると、すぐさまそれを読み、次に軍師たちにそれを読ませた。それぞれの反応は様々で、桂花と稟は驚き、風はあらかじめ予想していたように無表情だった。

 

 

「つまり、呉と蜀は同盟を組み、魏に戦争を仕掛ける。だから、天下三分の計を反故にします。って言うことね?」

 

 

「なんと・・・・!」

 

 

周りの手紙を読んでいない武将たちが驚きの声をあげた。だが、その驚きはけして約束を反故にし、戦争することへの驚きではなく、

 

 

「あの劉備が、自ら戦争を起こすなんてねぇ・・・・」

 

 

あの桃香が、同盟を組んで宣戦布告することへの驚きだった。

 

 

 

 

 

 

「原因は、あんたらが最初に軍事力を拡大したからだぜ?」

 

 

「えぇ。それについて隠すつもりもなかったわ。むしろ、大々的に公表したかった気分よ。

まぁ、呉は予想出来たわ。どうせ、斥候でも出して、私たちの内部情報でも盗んだのでしょうね。でも、蜀は分からないわ。いくら私たちが戦争をする気でも、あの子は何があっても、天下三分の計にすがりつくと思っていたから」

 

 

「まぁ、あんたの言う通りだったよ」

 

 

「だった?」

 

 

「あぁ。俺は最初、呉の同盟の使者として蜀に行ったんだけどよ。その時に「平和が一番」「人が死ぬのが嫌だ」とかほざくから、説教してやったんだよ。そうしたら、劉備は素直に分かってくれたよ」

 

 

「へぇ・・・天の使いの名も伊達じゃないってことかしら」

 

 

「でも、本質はかわってねーよ。この戦、あんたの人柄を見極めるためにする。出来ることなら、天下三分の計を再び結びたいと思ってるよ。あいつらは。あんたが納得いくまであいつらはあんたに付き合うってさ」

 

 

「ふふ、それはどうも。でも、私は残念ながら、本気であの二人を殺すつもりで戦をするわ。まぁ、もし向こうが膝をついて忠誠を誓うと言うならば、命ぐらいは助けてあげるかしら」

ふふん、と華琳が高慢な態度でそう言った。

 

 

「あぁん?んじゃ、部下とならあいつらを生かすってことか?」

 

 

「えぇ。当然よ。劉備のように仲良く手を握り合うことはしないわ。国を治めるのに必要なものは、有能な部下よ。仲間ではないわ」

 

 

「ふーん・・・・なるほどな。けどよ、それじゃあ、あんたはいつまでたっても一人じゃねーかよ。俺は有能な部下が100人居るよりも、仲間が一人でもいるほうがいいけどな」

 

 

そう言って一刀は七乃の方に視線を向けた。七乃は一刀の視線に気が付き、ふん、とそっぽを向いたが、頬が微かに赤く染まっていた。

 

その様子を見ていた華琳は、まるで一刀を見下すように眼を細める。

 

 

「あら、天の使いの男も、見た目よりも気弱ね。いい?北郷一刀。人はね、一人で生きるものなのよ。生まれる時も一人、死ぬ時も一人。だから私は仲間、友人なんていらないわ。邪魔なだけよ。私は今までに何度も裏切られてきた。だから思うのよ。自分自身が世の中でもっとも信じられるものだってね」

 

 

七乃は華琳の言葉を聞いて、さすが覇王だと見なおした。

 

一番信じられる物。それは、自分自身。そして、自分に服従する部下。それを分かっているからこそ、華琳はここまで大きな魏国を作り上げることが出来たのだ。しかも華琳は勉学、武芸、なんでも出来る超人だ。他人に頼らなくても、自分で何でも出来てしまう。だからこそ、大陸平定も、他人の力を借りずに自分自身の力でこなそうとしているのだ。その方が、安全だし、そして何より確実なのだ。

 

 

しかし、一刀は「ふーん」と感心したのか、よく分からないような声をあげる。

 

 

「一刀さん?どうかしましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?いやさ、覇王曹操ってかなり凄い人だって聞いてたんだけどよ、大したことねーなって思ってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀の言葉に、玉座の間がシーンと静まり返った。

 

ビク、と華琳の肩が揺れた。

 

七乃は魏の面々の反応に気が付き止めようとするが、一刀は気にせず言葉を続ける。

 

 

「王としては優れているっぽいけど、人間としては桃香の方がまだまだ上だわ。なんだか、拍子抜けしちまった」

 

 

「か、一刀さん・・・・それぐらいに・・・・」

 

 

場の空気が冷たくなっていく。華琳はもちろん、隣に控えていた桂花や春蘭たちまでもが物凄い殺気のこもった視線で一刀を睨んでいる。

 

一刀もようやくその視線に気が付き、

 

 

「ん?あぁ、そうだな。これ以上、ここに居る必要もねーし、それに俺の興味もなくなったしな。んじゃ、曹操。せいぜい頑張れよ」

 

 

「待ちなさい」

 

 

立ち去ろうとする一刀に、当然、華琳が声をかける。

 

七乃はギクっとするが、一刀は特に何も感じず、華琳に振り向いた。

 

 

「あなたの言葉・・・・・この私を侮辱しているのかしら」

 

 

「ん?あぁ、俺が勝手にあんたに期待してて、そんで期待外れだったってだけだから、別に気にすんなよ。まぁ、それでも何か言うとしたら・・・・そうだな」

 

と一刀少しだけ悩み、そして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は王として優秀でも、人間としては未熟だ。俺はあんたみたいに妥協しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀がそう言いきった瞬間、春蘭が叫んだ。

 

 

「貴様!華琳さまを侮辱した罪を命で償え!魏武の精兵たちよ!」

 

 

傍に居た春蘭は刀を抜くと、号令を放つ。

 

 

「こやつらを捕えよ!私が首を切り落としてやる!」

 

 

その号令にならい、すぐさま一刀と七乃の周りを兵士たちが囲んだ。

 

 

 

 

・・・・速い。七乃はそう思った。

 

 

 

一刀の言葉の真意を確かめる前に、こうして兵を動かされたのは痛い。華琳を見ると、少しだけ一刀の言葉が気になるような表情をしていたが、春蘭の号令のせいで、言い出せずに、結局は玉座に座ったままであった。

 

ぞくぞくと兵士が集まる。数は特定出来ないが、5,60人と言った所だろうか。

一刀は興味なさそうにその光景を眺め、七乃は冷や汗をかいていた。相手は正規の兵士。盗賊のように馬鹿の集まりではない。話し合いでも逃げることは無理そうだ。もちろん、武力でも勝てそうにない。

 

一歩、また一歩と二人に近づく兵士たち。

 

七乃は思わず一刀に抱きついた。しかし、一刀は欠伸をして、大して気にしていない。

 

ガシ、と一人の兵士が七乃の腕を掴んだ。

 

 

「一刀さん!」

 

 

七乃が手を伸ばす。

 

一刀は面倒くさそうに七乃の手を掴み、そして勢いよく自分のほうに引きよせた。しかし、そのまま七乃を抱きしめるのではなく、逆に七乃の腕を掴んだ兵士のに近づき、そして真正面に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・お前、死ぬか?」

 

 

 

 

 

ドガ

 

 

 

七乃の腕を掴んだ兵士の顔面に一刀は思いっきり、鎧刀をぶち当てる。そして、兵士はまるで暴れ牛にでも突進されたかのように飛んでいき、そして地面に落ちた時には、すでに顔面血まみれで、ぴくぴくと痙攣しているだけとなった。

 

その光景に、兵士たちが思わず一歩下がる。

 

その大きな鎧刀を一回転させて、自分の肩に担ぐと、はぁ、とため息をついて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、侮辱とかしらねーけどよ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の女に手ぇ出して、生きていられると思ってんの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がくん、とその場にいた面々の体が重くなった。体が痺れているかのように、上手く体を動かせない。そして、その重圧と同時に、一刀から溢れる殺気。

 

その感じは蜀で見せた、一刀のマジギレの様子と似ているが、その時よりも鋭く、そして冷たい空気を纏っていた。

 

 

蜀では私情半分、義務半分と言っていた。

 

 

だが、今回は「自分の女に手を出すな」と言う、すべてが私情によって構成された一刀の怒りだった。

 

つまり、今回の一刀には足枷がない。

 

 

 

 

 

 

「そういやぁ、侮辱の償いって言ってたな。んじゃ、俺も言わせてもらうよ

 

 

 

 

 

 

 

 

七乃に触れた。七乃を怖がらせた罪

 

 

 

 

 

 

 

 

償いは、お前らだ」

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く


 
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