No.185776

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 序章・第二幕 『運命邂逅』

狭乃 狼さん

北朝伝、改訂版二作目をお送りします。

一刀、輝里、由。その三人の出会い。

そして、大陸動乱の最初の切欠となった、

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2010-11-21 15:46:15 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:38358   閲覧ユーザー数:26928

 「……で、ここはどこでしょうか」

 

 見渡す限りの平原。天高く澄み渡る、蒼い空。彼方には水の流れ。

 

 それが彼――北郷一刀が、目覚めて最初に目にした、光景であった。

 

 「……え~っと。たしか、夕べはじいちゃんと道場で話して、で、部屋に戻ってそのまま就寝した、と。……なのに、目が覚めたら知らない場所でした、って……。一体、何がどうなってんだよ?」

 

 目覚めてみれば、広い大地に一人きりな状況。困惑するなというのが、無理というものである。しかも、一刀の着ている服は、寝ていたときのパジャマではなく、自分が通う、『聖・フランチェスカ』の制服。その上、

 

 「……なんで、こんなものまで、ここにあるんだよ」

 

 ”それ”は、いわゆる腰の大小。つまり、太刀と脇差。しかも、

 

 「じいちゃんから、免許皆伝と誕生祝にってもらった、”朱雀”と”玄武”じゃないか」

 

 北郷家――。もとは、薩摩の島津家に連なる家柄である。だが、一刀の曽祖父の代に起こった明治維新により、主家から離れて独立せざるを余儀なくされた。その後、武家としては没落し、すっかり一般家庭になりこそはしたものの、その精神――。

 

 ―武家の誇り―、

 

 それだけは、絶えることなく、受け継がれてきた。その誇りとともに受け継がれてきた朱雀と玄武は、戦国の世から北郷家に伝わる家宝。代々その当主のみが、受け継いできた代物である。

 

 「……といっても、母さんは跡を継ぐ気なんかさらさら無いって、さっさと親父と結婚して、俺を生んだ。で、その俺にそのお鉢が回ってきたわけだけど」

 

 正直言って、一刀は当初、武の修行が大嫌いだった。それでも、修行を続けてきた理由は、彼の祖母にあった。一刀はいわゆる、おばあちゃん子で、祖母が大好きであった。しかし、その祖母は一刀が七歳のとき、天に召された。……通り魔に殺されかけた、一刀を庇って。

 

 「……あの時の事は、正直覚えてないけど。……それでも、ばあちゃんが俺のせいで死んだのは、紛れも無く事実だし。……それからだっけ。本気で修行を始めたのは……。よっと」

 

 すっく、と。

 

 そこまで一人ごちてから、一刀はゆっくりと立ち上がった。とりあえず、朱雀と玄武を腰のベルトに通して佩(は)く。

 

 「さてと。とりあえず、ここがどこか確かめないとな。……ケータイも財布も持っていない、か。服には乱れもないし、物取りにあったっていうわけでも無さそう、と。……ゆーかい?いや、それこそまさかだよな。うちにあるのは伝統だけ。お金なんか……一般家庭程度だし。……となると、まずは人に聞くのが一番、手っ取り早いな。……と、いうわけで」

 

 

 

 クルリ、と。

 

 体を百八十度回転させながら朱雀を抜き放ち、その切っ先を、”自分の背後に立って居た”黒髪の人物の鼻先に、突きつけた。

 

 「ヒエッ!!ちょ!ちょっと待ってください!私は別に怪しいものでは……!!」

 

 「怪しい人が自分で怪しいやつとは、言わないと思うよ?それに、気配を消して、人の背後に忍び寄ったりとか、ね?」

 

 「う」

 

 うめき声を出したのは、黒髪とは別の、一刀の背後で玄武の切っ先を向けられている、栗色の髪の少年――いや、少女である。

 

 「どっちも女の子か。……見たところ、まだ二十歳前って感じだけど。とりあえず、こっちの質問に答えてもらおうかな。……ここってどこだい?見たところ、日本じゃ無さそうだけど」

 

 右手の朱雀で黒髪の人物を、左手の玄武で栗色の髪の少女を、それぞれけん制しつつ、一刀が質問を投げかける。

 

 「……ここは、冀州・平原郡、です。……鄴郡との、郡境に近い場所、です」

 

 「…………は?」

 

 「日本って、どこや?……輝里、聞いたことあるか?」

 

 「……初耳、よ」

 

 「…………へ?」

 

 わが耳を疑い、一刀の思考が一瞬停止した、その瞬間。

 

 『ッッ!!』

 

 バッ!と。

 

 二人が一斉に飛びのき、一刀から一定の距離をとった。

 

 「へえ。……隙が出来たとはいえ、この一瞬で俺からそれだけの距離をとる、か。……只者じゃないね、君たち」

 

 「……そういうあんさんもな。……輝里、あんた、どう思う?」

 

 「そうね。見たことの無い服装に、武器。そして”あの”流星の落下点に居たこと。それだけでも、多分この人がそうだと、思うけど」

 

 一刀に対し、それぞれに武器を構え、警戒をしつつそんな会話をひそひそとする、二人の少女。

 

 「……なあ、こそこそ話してないで、俺にも説明してくんない?……えっと、輝里さん、だっけ?」

 

 「ひえっ?!」

 

 「んなっ?!……貴ッッッ様あああああっ!!」

 

 

 

 「うわわっ!?」

 

 一刀が、黒髪の少女の”名”と思しきものを呼んだ、その瞬間。当人は目を見開いて驚き、もう一人の少女は激昂して、一刀に対してすさまじい形相で飛び掛った。

 

 ガキイッ!!

 

 一刀の二刀と、少女の、脇差によく似たその短刀が、激しい火花と金属音を撒き散らして、ぶつかった。

 

 「い、いきなり何するんだよ?!」

 

 「なにもかにもあるかい!!輝里の真名を勝手に呼びよってからに!!その生っ白いそっ首、ウチが叩き落したるわ!!」

 

 凄まじいまでの”殺気”。少女の瞳からは、それがはっきりと、一刀には感じ取れた。

 

 「え?え?え?ちょ!ま、まなってなに?!俺、そんなに悪いことしたわけ?!」

 

 わけがわからず、必死に問いかける一刀。だが、少女はその力を込めることを、やめようとはしない。と、そこに。

 

 「由!ちょっと待って!!剣を引いて!その人、多分”真名”のことを”知らない”のよ!!貴方!訂正して!今言ったことを、早く!!」

 

 「え?え?なに?何が何やら」

 

 「いいから早く!訂正してください!」

 

 黒髪の少女が必死に叫ぶのを見て、一刀はともかく叫んだ。

 

 「わかった!!訂正する!訂正するよ!!」

 

 「……ちーと、納得いかんけど、ま、しゃーないか」

 

 その台詞を聞いた栗色の髪の少女が、武器とともにその殺気を引っ込めて、一刀から離れる。

 

 「……あんさん、ほんまに”真名”のこと、知らへんのか?……輝里。やっぱ間違い無さそうやな」

 

 「……どうやら、そのようね。……大変、失礼いたしました。ぶしつけではありますが、まずは、お名前を伺っても、宜しいでしょうか?」

 

 「……一刀。北郷一刀、だよ」

 

 「……姓が北で、名が郷、字が一刀、ですか?」

 

 「いや。姓が北郷で、名が一刀。字ってのは無いよ。……で、君らは?さっきのは名前じゃないのかい?真名、とか言ってたけど」

 

 「これは、重ね重ね失礼を。……私は、姓を”徐”、名を”庶”、字を”元直”と、申します」

 

 「…………はい?」

 

 わが耳を疑う、その弐。

 

 「ウチは姓を”姜”、名を”維”、字は”伯約”や」

 

 「…………マジデスカ」

 

 

 

 二人の自己紹介を聞き、一刀は唖然とした。その名前は、一刀もよ~く、知っている名前であった。

 

 「……あの、どうかしましたか?」

 

 ひょい、と。

 

 うなだれる一刀の顔を、徐庶と名乗った黒髪の少女が覗き込む。

 

 「え?あ、あ~、いや、その。なんと言っていいか……」

 

 そのコバルトブルーの瞳にどきりとしつつも、一刀はあることを質問することにした。そう、彼の中で、ほとんど確信に変わりつつある、その”事実”を、確認するために。

 

 「あの、さ。……とりあえず、聞きたいんだけど。今って、後漢朝の時代……だったりする?皇帝は、劉宏さま?それとも」

 

 「……はあ。確かに、今は漢王朝の御世です。今上帝も、劉宏様ですが。……それが?」

 

 「………………あ~~~~~」

 

 がっくりと。

 

 全身の力が抜けて、その場に座り込む一刀。

 

 「ちょっ!大丈夫か、あんさん!!」

 

 「しっかりしてください!”御遣いさま”!!」

 

 「…ハ、ハハ、ハ。……も、ほんとに、一体、何が、どうなってるんだあーーーーっっっ!!」

 

 んだあ、んだあ、んだあ……。

 

 広大な平原に拡がる一刀の声。

 

 そして、帰ってくるのは、こだまのみであった。

 

 

 

 ちょうどその頃。

 

 大陸南部は、荊州南郡の街、長沙にて。

 

 『~~♪』

 

 「……いい、歌だな」

 

 「ああ。……なんかこう、胸に染み渡るような」

 

 「歌い手たちも可愛いじゃないか。……おれ、惚れたかも」

 

 街中の街頭にて、大勢の群集がその一角に集い、三人の少女が歌うその歌声に、聞き入っていた。

 

 『~~~♪』

 

 少女たちが、一区切り歌い終わる。すると、群集から盛大な拍手と歓声が沸き起こる。

 

 「いいぞー!姉ちゃんたちー!」

 

 「とってもよかったよー!」

 

 「もう一回!もう一回!」

 

 さらに続くその声援。辺りは、一種異様な空気に、包まれる。

 

 「みなさーん!どーも、ありがとー!」

 

 「ちぃたちは、張三姉妹といいまーす!」

 

 「……よろしくお願い、します」

 

 ペコリ、と。

 

 深々と、群集に向かって頭を下げる三人の少女。そして、中央に立つ桃色の髪の少女が、まぶしいほどの笑顔で、人々に語り始める。

 

 「私たち、今はしがない旅芸人ですが、いずれは、”この歌”で、大陸一に、なるつもりです!」

 

 「だからもし、その一翼を皆さんが担ってくれたら、ちぃたち、これ以上嬉しい事はありません!!」

 

 「……なので、今後とも、よろしくお願い、します」

 

 その左右に立っていた二人も、その笑顔を人々に向ける。と、

 

 『わあーーーーっ!!』

 

 さらに大きな拍手と歓声が、街路に響きわたる。

 

 「それじゃあ、もう一曲行くよー!でも、そ・の・ま・え・に♪いつものやつ、いってみよーか!」

 

 中央の少女の声と同時に、彼女たちの周りを、黄色い布を体の各所に身につけた男たちが、一斉に取り囲む。何人かは、その手に大きな板を掲げて。

 

 「じゃあ、いっくよー!みんな大好きー?!」

 

 『天和ちゃーん!!』

 

 「みんなの妹ー?!」

 

 『地和ちゃーん!!』

 

 「……とっても可愛い」

 

 『人和ちゃーん!!』

 

 街の大路は、更なる盛り上がりを見せる人々で、埋め尽くされた。そしていつの間にか、ほとんどの若い男たちが、その体の一部に、黄色い布を巻きつけていた。

 

 

 

 

 この時、彼女たちは夢想だにしていなかった。

 

 

 まさか自分たちの活動が、大陸全土を巻きこむことになる、歴史上最大の農民反乱を勃発させる、その引き金になることなど。

 

 『それじゃあ、みんな!盛り上がっていこー!!』

 

 少女たちは歌い続ける。

 

 長女・張角。

 

 次女・張宝。

 

 三女・張梁。

 

 苦難にあえぐ人々が、希望の光を彼女たちに見出した。それが、四百年続いた漢王朝に、滅びの時を告げる、最初の動乱の、切欠となった。

 

 そう。

 

 その時は確実に近づいていた。

 

 彼女たち、張三姉妹の、その歌声とともに。

 

 

 『黄巾の乱』

 

 

 その勃発の、三ヶ月前のことである。

 

 

 『(歌で)天下を取るぞーーーーっ!!』

 

 『ほあーーーーーっ!!』

 

                            

                                  ~続く~

 

 

 

 「はいどうも~!恒例、あとがきコーナーで~す!進行は私、輝里と」

 

 「ども~!由やで~!よろしゅうな~!」

 

 

 「さて、北朝伝、改訂版の二話目ですが」

 

 「うちらとカズの出会いのシーンやね。ま、知らずに真名を呼んで怒られるんは、恋姫の定番っちゃあ、定番やね」

 

 「ですね。作者ももうちょっと、ひねればいいものを」

 

 「その作者は?」

 

 「次の話の執筆で忙しいって。あと、バイトもあるし、なかなか進まないって、ぼやいてた」

 

 「あっそ。ま。せいぜいがんばってもらいまひょか」

 

 

 「で、あとは例の三姉妹、登場ですね」

 

 「よう考えたら、旧作でも、前の刀香譚でも、出番無かったな。あの三人」

 

 「そーね。ま、単に作者のど忘れでしょ。それを言ったら、南蛮勢も出てないわけで」

 

 「・・・言い出したらきり無いな」

 

 「ですね。ちゃっちゃと次回予告、行きましょうか」

 

 

 「ついに出会った、私たちと一刀さん。これから鄴へと帰還します」

 

 「そして、そこに待ち受けるは、赤い髪の鬼!」

 

 「武に生きることしか出来ない、そんな不器用なあの人に、一刀さんはどう接するのか?」

 

 「そして、うちらが持ちかける、ある”計画”。カズは?そして、ウチらの運命は?」

 

 「次回、『真説・恋姫演義 ~北朝伝~』。序章・第三幕」

 

 「『運命胎動』に、」

 

 

 『ご期待ください!』

 

 「各種コメントやツッコミも、ぎょーさん頼むで?ほんなら」

 

 『再見~!!』

 

 


 
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