No.185441

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 22:腹くちて笑みこぼれし

makimuraさん

ある意味、一刀無双。(敵は恋姫の胃袋)

槇村です。御機嫌如何。


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2010-11-19 18:43:22 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6673   閲覧ユーザー数:4835

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

22:腹くちて笑みこぼれし

 

 

 

 

 

宴席が開かれたその翌日から、曹操一行は早速とばかりに遼西の視察を始める。

彼女らの視察に対して、鳳灯が極力同行して歩く。名目上は案内役であるが、実のところ監視である。

公孫瓉自身は、「自分たちの手法が他の地域でも役立つことで、民の生活が少しでも楽になればいい」という程度の考えを持っている。しかし、曹操の"覇王"という本質を理解している鳳灯にしてみれば、いたずらにすべてを見せるわけにもいかないと考えていた。

曹操にしても、行く先々ですべてを見ることが出来るとは思っていない。

同じ治世者として、その町に布かれている治安策や内政策を事細かに教えてもらえるなどとは考えていなかった。

もっとも、その点では大っぴらな公孫瓉の在り様に面くらいはしたが。

とにかく。監視や行動の制限がつくことも当たり前のことだ。引き出せる情報は出来うる限り引き出し、それ以上のものは実際に目にして想像して補うしかない、と、曹操は考えていた。

だからこそ、傍らに鳳灯が付き添っているのは十分に理解できた。

逆に説明役として鳳灯が随行していることは、曹操にとってはむしろありがたいこと。

投げかける質問に対して、適時適当な答えをその場で返してくれるのだから。やりやすいことこの上ない。

先日の宴席で交わした会話や議論によって、彼女の知の深さや思考の速さは分かっており、曹操をして感嘆させるほどのものをを持っている。筆頭軍師を自認する荀彧も、悔しいと感じつつも、その実力の程を認めることにやぶさかではなかった。

 

曹操ら一行が視察するのは陽楽の町ばかりではない。近辺の村やその道中などもその対象に入っている。

遼西という地域をつぶさに観察しようと、可能な限り遠くまで足を伸ばそうとする。

陽楽郊外に出向く際には、公孫範と公孫続が同行した。行く先々での仲介役としてである。

規模は小さいとはいえ、武装した一団が近づいて来るのを見れば要らぬ混乱を呼びかねない。それを避けるため、町や村に入るたびに公孫範らが間に入るのだ。

そのおかげで、曹操たちの郊外視察は円滑に進んだ。陽楽の外になにかがある際に出向く場合は、公孫範が請け負うことが多かった。そのため、遼西郊外に関しては、公孫瓉よりも彼女の方が顔を知られている。今回の郊外視察同伴に公孫範が選ばれた大きな理由でもあった。

 

ちなみにこの視察中、夏侯惇と公孫範、夏侯淵と公孫続、この組み合わせで妙に仲が良くなっていた。

前者ふたりは、おそらくは気質が近いという理由だろう。なにかと噛み付き合いながらも、剣呑な雰囲気にはならずにいる。喧嘩するほど仲がいい、というやつだろうか。

後者ふたりは、互いに姉貴分に当たる人物を抑え宥める位置にいることが共感を呼んだのかもしれない。なにかと穏やかに会話を交わしつつ、ほんわかとした雰囲気を醸し出している。

そんな二組を微笑ましく眺めながらも、曹操はやるべきことをこなしていき。荀彧は思いもよらぬ主独り占めな状況に嬉々としていた。

 

 

そんな具合に、色々と忙しい強行軍を進めながら、曹操らは遼西で数日を過ごす。

 

「そろそろ、陳留に戻る頃かしらね」

「そうですね。参考になりそうなところはあらかた得られたと思います」

「来て良かったわ。いろいろと刺激を得ることも出来たし」

 

相変わらずの視察を終え、一息吐いている曹操ら一行。現在治めている陳留、そしてこれから治めていく袞州全域に新たに敷く治世案の雛形。それを意識した上での、此度の遼西視察であったのだが。彼女らはこれまで得た情報を取りまとめながら、得られた結果に満足している。

そんな曹操に、湯気の立つ料理の皿を差し出しながら、一刀は世間話よろしく話しかけた。

 

「おや、もう陳留へお戻りですか?」

「個人的にはまだいてもいいのだけれど、太守に州牧の立場から考えればそうもいっていられないわ」

 

湯気の立ち上る料理に頬を緩めながら、曹操は彼の言葉に応える。

 

「大変ですね、お偉い地位にいる方っていうのは」

「公孫瓉も似たようなものよ? もっとも、彼女の場合は傍目にそうは見えなそうだけど」

 

キツい物言いではあるが、その表情は存外好意的なものだ。それを察した一刀は、思わず笑顔を浮かべてしまう。

自分の認めている人物が、他の人にも認められる。平民という立場であれば不遜な考えかもしれないが、彼は嬉しいという感情を抑えることが出来なかった。誇らしい、という言葉に代えても良いかもしれない

そもそも、そんな感情を持つほどに近い関係にある、ということ自体が普通ではないのかもしれない。

なにしろ、公孫瓉が州牧として薊に移る、それに付いて来ないかと直接誘われているくらいなのだ。

もっとも、一刀とて、その誘いが個人的な親しさからきているとは考えていない。

お気に入りの料理人を連れて行きたい、という気持ちも多少はあるだろう。

だが誘われた理由の多くは、自分と共にいる呂扶にあるんだろうな、と、彼は醒めた判断をしている。

一刀自身は、曹操や公孫瓉らと同じ舞台には立てるわけがないと思っている。立てたとしても、強いて立ちたいとは思わない。

あちらは英雄、こちらは庶民。立場が違う、生きている"世界"が違う。

半面、いろいろなものが余りに違うが故に、彼は公孫瓉や曹操らに対して、かえって力むことなく接することが出来ていた。相手を見ながら、無礼じゃない程度にざっくばらんな態度を。そして出来る範囲でやれることをこなしていく。それが彼が持つ心意気だった。

だからこそ、実際に夏侯惇という武将を前にしても、まるで急き立てる子供を宥めるかのような態度が自然と取れている。

 

「おい北郷、わたしの分はまだなのか」

「もう少し待ってくださいよ、用意しているところですから。それとも、曹操さんの分よりも前に持って来た方がよかったですか?」

「……むぅ」

 

幾度となく交わされているやり取り。そのたびに、一刀はなにかと彼女を押さえつけて見せている。

彼がなにを考えているかなど、曹操はもちろん分からない。だが夏侯惇をやり込める彼を見るたびに、少なからず感心している。

夏侯淵は拗ねる姉の表情を満喫しており、荀彧に関しては意地の悪い表情を浮かべてニヤついていた。

 

 

何度もこんなやり取りが交わされるほどに、曹操ら一行は、一刀が営むこの酒家に毎日通いつめている。

やるべきことをひと通りこなし、一息入れようとなると、一行は自然とここに足を運ぶようになっていた。

 

宴席のあった次の日のこと。曹操ら一行を引き連れ、公孫瓉と鳳灯は遼西の町を案内して回った。あれこれ突っ込んだ会話を交わしながら歩いているうちに、日は高くなり、やがて傾きだす。昼食もとらずに歩き回っていたため、気がつけば空腹も相当なものになっていた。

それじゃあ食事にしよう、と、公孫瓉が案内したのが、一刀のいる酒家である。

案内された先で、曹操らは驚かされる。

店先にある大木の下で、一騎当千の武将が昼寝をしている。

飯台のひとつには、同じく公孫軍の将が昼間から酒を飲んでいる。

店の中に入れば、なぜか武将のひとりが給仕に駆け回っていた。

順番に、呂扶、趙雲、関雨である。

町中の店に将軍格が集結し、あまつさえそのひとりが働いているなどとは想像していなかった。

ちなみに、関雨のウエイトレス姿を見た曹操が密かに胸ときめかせていたのは、彼女だけの秘密である。

 

重ねていうが、この世界で生きる北郷一刀は平民である。普通に考えるならば、将軍やら太守やらといった人たちは、偉すぎて接点さえないはずなのだ。

彼の人徳なのか、それとも多大な幸運が働いたのか、幽州において彼は"ただの平民"というには少々微妙な立ち位置にある。公孫瓉姉妹を始め、城勤めの人たちとも、平民の立場から考えれば破格の付き合いを許されている。

それゆえだろう。このとき、太守が別地方の太守を一平民に紹介する、というなんとも珍妙なことが起きた。

冷静にそこを突っ込んで見せたのは一刀である。

いやいや立場的におかしいでしょソレ、と。指摘されて始めてそのことに気がついたくらい、自然な流れだった。

わざわざ紹介されたのだからそれなりの人物なのか、と思いきや、ただの料理人でした。

そんな紹介をされて、曹操らもさぞ面食らったことだろう。良くも悪くも天然なところが抜けない公孫瓉である。

 

そんな経緯はあったものの。

仮にも太守や諸将が贔屓にしている店なのだ、それなりのものを出しているのだろう。

曹操ははじめその程度の期待しかしていなかったのだが。それはいい意味で裏切られた。

結果、彼女ら一行は毎日、一刀の酒家に通いつめていた。

言葉で評価をする以上に、足を運ぶ頻度が彼女らの気に入り具合を表している。なにしろ自他共に認める重度の男嫌いな荀彧でさえ、表向きは変わらず悪態を吐いているものの、明らかに一刀の料理を気に入っていた。

 

一刀の作る料理は、基本的にそう凝ったものでもない。この世界に現存する食材と料理に、いわゆる"現代人"の食事事情を掛け合わせているだけである。

だがその掛け合わせこそが、目新しくも斬新なものとして、この時代の人々の目は映り、深い味わいとして舌を楽しませていた。

例えば。曹操らが初めて店に訪れた際、一刀が彼女らに出したものは鳥料理である。

三国志の時代において、鳥肉というものはあまり重視されていない。まったくないというわけではないが、食材としてはあまり見かけない部類に入る。曹操も鳥料理を食すことはあるものの、その頻度は決して高くない。

知っている食材を使った、にも係わらず目にも舌にも新しいもの。それでいて、作ろうと思えば誰にでも作れるもの。

例えば。

 

チキンソテーのオニオンソースがけ。

鳥のもも肉に、塩、醤、おろしニンニクを揉み込む。

一刀謹製のフライパンで皮の部分を焼き、ほどよく焼き色がついたら蒸し焼きに移行。

擦りおろしたタマネギを酒と酢、蜂蜜と混ぜ合わせ煮詰めた特製オニオンソースをかけた、一品。

彩りとしてカブの葉を下に敷いてみせる。トマトがないのが非常に悔やまれる、とは一刀の談。

 

若鶏のから揚げ。

醤油、酒、擦り下ろしたニンニクと生姜を混ぜ合わせ、そこに切り分けた鳥肉を加え揉み込む。

しばし漬け込んだ後、溶き卵に浸して小麦粉をまぶす。それを、キツネ色になるまで揚げる。

カリッとした衣の歯ごたえ。でもその向こう側にある柔らかい鶏肉の感触。たまらない。

三国志の時代でも"揚げる"という調理方法は存在している。

だが油の熱と火の強弱を調整するのが難しいため、一日通して出せるメニューではないのが残念だ、と、彼は呟く。今後の課題らしい。

 

焼き鳥各種。

串に刺す、という仕込みは必要だが、手軽に食べられるのが大人気。

鳥のムネ肉、モモ肉、鳥皮、レバー、つみれ、軟骨などなど。種類も豊富。

おまけに特製タレまたは塩、という味の違いも楽しめる。

酒のつまみにもいい感じだ。実際、焼き鳥を店に出し始めてから、酒の出る量も増えている。

このあたりの感覚は、今も昔も変わらないのかと感心しきりの一刀である。

 

「料理は珍しすぎちゃダメ。誰でも手を伸ばせる範囲になければいけない」

 

そんな信条をもつ一刀。陳留太守というお偉い方を前にしても、彼が出す料理は決して華美なものではなかった。

ひとつひとつを見れば、誰でも知っている食材である。だがそれらを調理する方法の違いが、目に新鮮なものとして映し、口にすれば一風変わったおいしさを生み出していく。

更にその料理の種類は多岐に渡っている。仕込むことの出来た食材によって、出す料理が日替わりで変わる。ゆえに飽きることがない。

訪れる客にとっては、嬉しいやら迷惑やら。公孫瓉が「薊に付いて来て店を出せ」というのも、その点を踏まえた、かなり本気な言葉なのだ。

お膝元な公孫瓉でさえそうなのである。遼西を離れる曹操らにしてみれば、まだまだ種類があるという料理に未練が残って仕方がない。

 

「残念ね。遼西を離れたら、この料理も食べられなくなるわ」

「その言葉は、とても嬉しい褒め言葉ですよ」

 

本当に残念そうに、曹操は溜め息をつく。

ちなみに、そんな彼女の目の前にあるのは、牛肉の特製ハンバーグ・オニオンソースがけ。

箸で簡単に切れる肉の塊に、そしてその断面から溢れる匂いと肉汁に、目を輝かせていた。

普段では見られない主の姿に、荀彧と夏侯淵はこの上ないほどに愛しさの籠もった表情を浮かべ、夏侯惇はうらやましそうな顔をしながらソワソワ落ち着かずにいる。

そんな彼女らの元にも、一刀はすぐさま同じように料理を運ぶ。未知なる味に舌鼓を打つ曹操らに、満足感を得るのだった。

 

 

「遼西を離れる前に、もう一度誘っておくわ。北郷、あなた、私のところに来ない? もっと大きな店を陳留に用意してあげるわよ?」

 

以前にも振られた、引き抜きの勧誘。一刀はそのとき、なぜ自分のようなただの平民を気に入ったのかと思いもした。いわゆるパトロンというやつか、と、自分の料理が認められたのだと考えればやはり嬉しく思う。

ましてや、声をかけたのは歴史に名高い曹孟徳である。彼の知識にある歴史的人物と違って、年若い女の子であったりはするが、歴史的人物に目をかけられたということに違いはない。

引き抜きを受けること自体は嬉しい。だが公孫瓉の場合と同様、やはりどこか醒めた目でどうしても見てしまう。

現在の遼西を担う人材、関雨、鳳灯、呂扶、華祐、それぞれと誼のある男。それに目をつけないわけがない、と。

曹操にしてみれば、彼の考えた通りの思惑も確かにある。だがそれは後からつけられた理由でもある。純粋に、彼の作る料理が気に入ったというのがまずあった。

会話を通しても馬鹿ではないことは分かったし、武将知将という括りの外にある"有能さ"というものに新鮮なものを感じたことも大きい。

戦なり政務なりを終えた後に、この料理が毎日出てくる。そう考えると、毎日の雑務もさぞ捗ることだろう。

男を勧誘するということに難色を示していた荀彧でさえ、その点を指摘した途端に「なんとしても連れて行きましょう」とあっさり、むしろ自分から乗ってきたくらいである。

 

「そうだぞ北郷。我らと共に来い。そして華琳さまのためにその料理の腕を振るうといい」

「姉者、涎が」

「おっと」

 

彼女が彼になにを求めているのか、実に正直な反応をしてみせる夏侯惇。

「美味い」と「おかわり」は、料理人にとって最上の褒め言葉。それを夏侯惇は臆面もなく繰り返してくれるのだから、相当気に入ったのだろう。

そんな姉に負けぬくらいに、夏侯淵もまた彼のことを評価している。

料理もさることながら、曹操や夏侯惇に対し一目置きながらも物怖じしない態度、それに姉を巧みに弄ってみせる力加減。主に一番最後の点において、夏侯淵にとって彼は得がたい人材に思えて仕方がなかった。もちろん、そんなことはおくびにも見せないが。

 

「姉者もそうだが、なによりも華琳さまがお前の料理を気に入られている。もちろん私もな。男嫌いの桂花でさえ、姉者に負けぬほどの執心振りだ。なんとかして引き入れたいところだ」

「ちょっと、秋蘭!!」

 

夏侯淵の言葉に、慌ててみせる荀彧。取り乱しはして見せても、彼女のいう言葉を否定しようとはしない。

そんな褒めるばかりの曹操一行を目の前にして、ありがたいやら申し訳ないやら。一刀は苦笑するばかり。

 

「俺みたいな庶民に対して、曹孟徳を始め名高い方々に過大な評価をしていただき感謝していますよ」

 

だがそれでも、彼はその申し出を受けることが出来なかった。

 

「せっかくのお誘いなのですが、やはりお断りさせてください。今の自分に、結構満足しているので。

器が小さいと思われるかもしれませんが、それなりに充実した今を捨ててまで、新天地を求めようとは思わないんですよ」

 

今現在と、近い未来。それがよければそれでいい。大半の民草が考えることはそんなものだ。

英雄とは違い、庶民は遠大に過ぎるものを考えない。一刀自身も、自分のことをそのひとりだと思っている。

だから、英雄と共に歩むなど想像も出来ない。息切れした挙げ句、置いていかれて野垂れ死になど目も当てられない。

ゆえに、自分の力量に合わせた調子を心がけ、出来ることをする。

とはいえ、少し欲が出たのか、公孫瓉の誘いには乗るつもりではいるようだが。

 

「腹が減っては戦が出来ぬ、といいますから。私は食材の続く限り、後方の片隅で、皆の笑顔を生む一助ってやつをするのがせいぜいです」

 

知ってますか、人っておいしいものを食べると笑顔になるんですよ?

そういって、一刀は微笑む。

 

 

曹操は思う。

誰もが笑顔で暮らせること。それは確かに理想の姿ではあろう。

だが実際にはどうか。己の利益のみを求め、弱き民のことなど省みない領主のなんと多いことか。

彼女はそんな輩に辟易し、権力に寄生しそれを自分の力と勘違いする者たちを一掃すべく、自ら身を立てんとした。

それを実現させるだけの実力も気概もある、そう信じて疑わない。己の器を理解し把握しているということだ。

反面、一刀はどうか。彼もまた、自分なりに己の器を自覚しそれを活用せんとしている。

曹操がまず重要視するものは、誇り。

誇りとは、天に示す己の存在意義のことであり、己のやるべきなすべきことを自覚することである。

彼女の目には、一刀はその誇りを有しているように見えた。

曹操に比べれば、彼のそれは小さなものだろう。だからといって、彼女は一笑に付すことはしない。

誇りの大小は問題ではない。持つか持たざるこそが重要なのだから。

皆が笑顔で過ごして欲しい。言葉だけを聞いたならば、曹操は不快を露にしていたことだろう。

だが彼は、その考えを胸に、限られた狭い範囲ではあっても、料理という手段で実践し結果を出して見せている。

なによりも、曹操自身を始め、家臣たちまでもが笑みを浮かべてしまったのだから。認めざるを得ない。

ゆえに、この場では彼を立てる。

誇り高き未来の覇王が、ただの一料理人の意を酌んで見せた。

それは、例えそのときだけであったとしても、対等の位置にあったということ。

要するに、気に入ったのだ。

もちろん、当の本人はそんなことを知る由もないが。

 

 

その翌日。曹操ら一行は遼西を後にし、陳留へと戻っていった。

仮にも一地方の太守である。公孫瓉らは律儀に彼女たちを見送る。同じくお土産を渡すべくやって来た一刀を見ながら、曹操はいう。

 

「今回は諦めるけど、また別の機会に引き抜きをさせてもらうわ。それまでに、私たちが楽しめる料理を増やしておきなさい」

 

そんな言葉に、公孫瓉、関雨、鳳灯、公孫続は心底驚いてみせ。公孫範、公孫越は、させじとばかりに一刀の腕や身体に縋り付いてみせる。

冗談のように見せた本気の言葉、なのだろうか。最後の最後までなにかと騒がせる、曹操らだった。

 

 

 

先だっても触れた通り、新たな地位を得たことによって、公孫瓉は陽楽から薊へと居を移す。

遼西に関しては、すべて妹の公孫越に引き継がれる。とはいっても、実質、公孫範と公孫続にも公務は振り分けられる。

妹たち三人が遼西を取りまとめる、といういつかの想像が現実のものとなり、公孫瓉はニヤニヤ笑みが浮かぶのを止められない。

引越しやら引継ぎやらで忙しい中ではあるが、やるべきことはやっており特に害もないので、そんな太守の姿をどうこういう者はいなかった。趙雲ひとりだけは、なにかと公孫瓉をからかってはいたけれども。

 

そんな、州牧就任に際して生じるあれこれに慌しい中。公孫瓉の下に新たな客人が訪れる。

 

彼女の名は、賈文和。

黄巾討伐の働きにより、司州・河東の太守となった董仲穎の軍師である。

 

 

・あとがき

当時の文献にある"胡葱"はタマネギじゃないらしいんだけど、タマネギと解釈した資料は存在するので押し通すことにした。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

前回のお話の中で、華琳さんが一刀の料理に反応しないのはなんでよ? という御意見を多数いただきました。

話の優先順位を考えて後回しにしただけだったのですが。うぅ。

 

そんなわけで、今回は一刀を中心にして話を膨らませて見た。ある意味、一刀無双。(敵は恋姫たちの胃袋)

攻めてよし、退いてもよしですよ?

 

正直なところ、

「ミナゴロシDAZEヒャッハー!!」

みたいな頭の悪い、デビルメイクライな一刀無双を書いてみたくもあるのですが。

槇村は空気を読める奴なので自重しています。えぇ、必死に。

 

 

本当は、

いつの間にか真名を許していた雛里さんに絡む愛紗さんとか、

ウエイトレスな愛紗さんを見てお持ち帰りを強行しようとする華琳さんとか、

暴れた春蘭さんが料理をダメにしてそれを説教する一刀とか、

いろいろ幕間っぽい話を書こうと思っていたのですが。

ばっさり切った。

頭の中に詠さんが現れたので、本筋に進むことになりました。物騒な話はもう少し先ですけども。

 

 

そんな新たな人物、詠さん登場です。

そう遠くないうちに、董卓陣営も絡んできます。乞うご期待。

さぁここから本格的になるぜ? 原作からの乖離がよぅ。


 
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