【おじいちゃんと先祖の霊】
おじいちゃんは、風乃が非力だと知り、
重たい岩や鉄パイプを持たせないよう
工夫を凝らした。
その工夫とは、霊的な力を風乃に宿し、
戦わせることだった。
「先祖の霊を、己の身に宿して
敵と戦うのじゃ。
先祖が拳法の達人であれば、拳法が強くなる、
先祖が弓術の達人であれば、弓が強くなる」
「おお、それは強そうだね、おじいちゃん」
「先祖の霊はわしがつれてくる。
安心して戦ってくれ」
「OKだよ、おじいちゃん!」
(…はて、拳法の達人とか弓術の達人が
うちの先祖にいたかのう。
口から出任せを言ってしまったが)
おじいちゃんは、テキトーな男だった。
【おじいちゃんと先祖の霊2】
「じゃあ、わたし、行ってくるよ。
おじいちゃんも元気でね」
「風乃や。先祖の霊とて、無限の力ではない。
決して無理をするでないぞ」
「はい」
「何か悪いことがあれば、おじいちゃんを
呼ぶんじゃぞ。
先祖の霊にお願いして、風乃を守ってやるからのう」
「はい」
「あと、親の言うことには素直に従うのじゃ」
「はい」
「白と黒をまぜると?」
「グレイ」
「空気が読めないのは相変わらずじゃな」
【おじいちゃんと先祖の霊3】
「おじいちゃんは、寂しいのじゃ。
おばあちゃんも、子も孫も、まだここにはいない。
ずっとひとりぼっちじゃ」
「はい…」
「風乃にやっと出会えたというのに、
もうお別れじゃ…
おじいちゃんはさびしい」
「はい…」
(いかん、しめっぽい話で孫がうなだれていく。
ここは元気づけないと!)
「『Yes』を日本語に直すと?」
「はい!」
「Yes!
YesYesYes♪
FoooNoや、おじいちゃんは!
お・じ・い・ちゃ・んは!」
おじいちゃんはいきなり歌いだした。
痴呆になったわけではない。ボケたのだ。
「はい♪ はい♪」
空気を読んで、合いの手を入れる風乃。
「OH! Gちゃんは!
ひとりぼっちなのさ~♪」
「はいはいはい♪」
「川のはしに一人で立ってて~
ぼうっと川向こうを見ていると~
なぜか孫娘がそこにいて~」
「はい♪ はい♪」
「OH! Gちゃんは感激してYO、驚いてYO、
川の向こうへ連れて逝く! と手をひっぱれば!」
「Hey♪ Hey♪」
「なかなか川を渡らん渡らん…♪
浮き輪があっても水着があっても渡らん渡らん…♪
友達救うと言っては聞かぬ♪」
「はーい、はーい♪」
「中略」
「はい♪」
「水着もあと10種類くらい用意すっから、
今度川を渡るときも大丈夫ZYAaaaaa~♪」
「おじいちゃん、学校の水着を着てくるから
大丈夫だよ…。
じゃあね、バイバイ」
風乃は、おじいちゃんにさよならした。
「OH… Gちゃんは…
ひとりぼっちなのさ…」
おじいちゃんのソロが、川のまわりで、むなしく響く。
【意識を取り戻すはず】
「風乃様! 風乃様!
おきてください!
まだあの世に行ってはいけません!」
南国紳士は、風乃の身体をゆさぶり、起こそうとする。
「う…」
それまで閉じていた風乃の目がゆっくりと開く。
「風乃様! 良かった、意識が戻られた」
風乃は、自分の視界の中に、南国紳士の姿をとらえる。
南国紳士と目が合う。
「風乃様、おはようございます!」
(げっ、いきなりこいつかよ!)
風乃は心の中で毒づいた。
「おやすみなさい」
風乃は、ふたたび目を閉じ、意識のないふりをした。
「風乃様! 風乃様!
二度寝は三文の毒です!
おきてください!」
【あーはっはっは】
風乃は意識を取り戻し、ゆらりと立ち上がる。
そして、南国紳士を見て、不気味な笑みを浮かべた。
目つきがおかしい風乃。
「ふっふっふっ…
はーはっはっは!」
いきなり高笑いをしだす風乃。
「ふ…風乃様? いかがなされました?」
「もう紳士さんは怖くないよ!
だって私には力があるから!
はーはっはっは!」
「うるさい! 静かにしろ!
何時だと思ってるんだ!」
おじさんの怒声。
直後、隣の民家の窓から灰皿が飛んできて、
風乃の側頭部に直撃した。
「はーはっはっは、はぁぁぁぁ!?」
風乃はその場にばたりと倒れ、
またしても意識を失った。
次回に続く!
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【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。
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