冷たいレモンティーにはちみつを少し。
それがオレの一番好きな飲み方。さんさんと照りつけてくる憎らしいほどの陽光に敢然と立ち向かうには丁度いい甘みと酸味、そして清涼感ある香り。
同年代の少年たちに比べて小ぶりな手がコンプレックスだけど、愛用のグラスは大きめのを使っている。
茜色――というか琥珀色の紅茶に浮かぶ氷がきれいで、それをくるくるとストローで回して遊ぶ。
カランッ カランッ
涼しい音。
「はぁ~・・・・・・。音だけでいきかえるぜ~」
人気の少ないカフェの店内は空調がほどよく効いていて、これが本日の気温30℃越えだなんてとても思えない。
グラスの水滴が、暑く見えるような涼しく感じられるような・・・・・・
「夏なんかなくなればいいのに」
「ええ~! 夏なくなったら海いけないじゃん!」
「海いくときだけ夏に」
「それは無理じゃないかな・・・・・・」
オレと玄衛のあいだで交わされる不毛な会話に、無駄に美形な紗英の顔が苦笑する。
だけど冗談抜きでこの暑さにはぜひ退場してほしい。んで海いくときだけ帰ってきてほしい。
「ボクはキャンプとかしてみたいな」
アイスコーヒーの紗英が呟く。
「キャンプ?」
「うん。あんまりやったことないからね」
子供の頃から歌舞伎役者の御曹司として育てられてきたから、とにかく幼少期はスパルタの嵐。幼い間に基礎という基礎を叩き込まれて、気がついたら高校生になっていた。
だから友だちだけのキャンプは未体験で・・・・・・ぶっちゃけ出雲と二人っきりで楽しみたい紗英。
「森の中とかいいよね。川辺の近くとかで、釣りをしながらさ・・・・・・」
「お、そーゆーのもいいな!」
ぱっと笑顔で反応した出雲に得意げになる紗英だけど、海派の玄衛はぶーっと頬を膨らませる。
「えー、やっぱり海だよー。海ならほら、出雲のビキニ見られるよ?」
「ビッ!?」
「ちょっ、玄衛、わけわかんねーこといってんじゃねー! 男がビキニなんて着るかー!!」
「ビッ、ビッ、ビッ!」
「お前ももどってこいっつーの!」
しかし紗英の脳裏には、明るい色のビキニを着て、水遊びに興じる出雲の姿が鮮明に――
だけどその一方では、森林の中で二人仲良くテントを張る光景も広がっていて――
――ああ~!? ボクは・・・・・・ボクはーーーーーッッ!!!
どうする!? ビキニでパレオな國崎くんか、それともラフなアウトドアジャケットで静かなひと時か!?
『ほら、紗英、見ろよ! きれいな魚がいっぱいだぞ!』
――か
『あはは、こうやって二人でテント張るのも楽しいな!』
――か!
「・・・・・・おーい、紗英ー?」
「だめだよ出雲? いい夢みさせてあげなよ」
「・・・・・・いや、なんかメチャクチャ不埒な妄想をしてそうな気がして」
「うわ、ニヤニヤしだしたよ」
「やっぱたたき起こす!!」
その日、店内では紗英の悲鳴が響いたとか、そうでもないとか。
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夏となり、喫茶店で涼をとる出雲、紗英、玄衛の3人。
来るサマーライフに思いを馳せる彼らの脳裏に浮かぶのは・・・