風薫る秋、学園祭そっちのけの旧館5階音楽室。
「へっへー、どうかなどうかな?似合ってるかなはづ姉?」
そこでぴょんこぴょんこと真新しい制服を着た妹があたしの前で飛び跳ねていた。
あー、持ち込んだソファーベッドと視界がゆーれーるー。
あたしは学園祭の準備を徹夜で委細全て仕込み終え、疲れていたのでさぼって寝ていた、
はしゃぐ学生の喧騒も遠いこのあたしとっときの私物化したこの場所で。
寝ていた、そう確かにその筈なんだけど、そこを何故だか知らず人知れずそしてあるいは露知らず、こいつに掴まれ捕まった。
「はづ姉ー」
あー、また持ち込んだソファーベッドがゆーれーてーるー。
ついでに妹のプリーツスカートも揺れてる。
「あーもーうるさい、あたしは学園祭の準備で疲れてるの。そんなにはしゃぐな」
起き上がりとりあえず言ってやった。
「えー、はづ姉のいけずー」
言い返された。
「つか、学園ではづねぇ言うな。恥ずかしいだろ」
「えー、いいじゃん別に、はづ姉ははづ姉なんだからさ。姉と同じ学校に入学出来て嬉しい妹をもっと可愛がってよ」
あけすけにそう言うこいつは恋人みたいに腕を絡めてきてそのセリフとは裏腹にけらけらからからと笑う。
ほんと何がそんなに楽しいんだこいつは。
「はー、まいいや。大体9月が年度始めで学園祭と入学式を同時にやるこの学校が全て悪い、アメリカかっつーの。そのせいであたし徹夜だったんだかんなもぅ」
学園に鬱憤の責任転嫁をしてあくびをかみ殺しながらそう言った。
「生徒会長なんてやってると大変だねはづ姉」
今度はこいつはころころ笑う。
「好きでやってるんじゃないっつーの。つかどうやってあたしを見つけたんだよお前は」
「んー、菫副会長が教えてくれた。葉月はさぼる時に必ず旧館5階の旧音楽室を使うって」
「あいつ後でしめてやる」
大和撫子を地で行く容姿の後白河菫こと学園副会長。
そいつはあたしを生徒会に誘った、というか生徒会長に仕立てあげた張本人だ。
理由はあなたが好きだから傍に置いて困らせてみたい、という物らしい。
つか後白河って何だ後白河って雅な苗字しやがって、院政かっつーの。
「そんなことよりはづ姉ー、学園祭一緒に廻ろうよ廻ろうよー」
またぴょんこぴょんこと妹は跳ねる。
それと一緒にこいつのプリーツスカートがめくれてふとももは見え隠れ。
「姉は疲れた」
枕に突っ伏しそう言った。
「たこ焼きはづ姉と食べたい、焼きそば食べたい、はづ姉食べたいー」
「今日は姉の定休日ー」
ぴょんこぴょんこと跳ねてはひらひら、跳ねてはひらひら。
制服越しにあたしよりも育った胸が揺れるのも見て取れた。
「はづ姉食べたい、はづ姉愛してる、はづ姉食べたいー」
「お前……」
そしてあたしはこいつに疲れた。
「おー、たこ焼きおいしい」
「分かった、分かったから腕解きなさい」
「やだ」
根負けして一緒に周るのに付き合う事にしたのは良いものの、歩き出してからこっちずっとあたしは腕組みさせられていた。
まぁ予想はしてたけど見る人見る人まことしやかに耳をそばだてひそひそ話に花を咲かせている。
あたしから見ても妹であるこいつは可愛いと思えるのだからそれは分からないでも無い。
ヒソヒソ
ねぇねぇ、会長と腕組んでるあの子だれ?
ヒソヒソ
あれ浮気?会長浮気?副会長怒るんじゃないの?
ヒソヒソ
新聞部部長であるこのウチ一色やまなが学園祭の会長浮気スクープ現場激写ぁああああああああ!!
ヒソヒソ
何か一人やたらに行動的な奴がいたけど。
そんな周りの様子を暢気に構えて見ていたこいつがたこ焼きをぱくつきながら一言。
「はづ姉って人気だねぇ」
「お前のせいだろお前の」
「んー。はい、はづ姉あーん?」
たこ焼きを突き出された。
さっきのあたしの言葉など毛ほども痒くないと言った風。
「はい、食べてはづ姉?」
くそ、身長はこいつの方が低いから見上げるようにそんな事されると可愛くて仕方ない。
「んっ」
取り合えずこいつの手により差し出される目の前のたこ焼きにぱくっと口をつけた。
口をつけたまでは良かったんだけど、そこから今度は周りが秘めやかに色めきたつ。
ヒソヒソヒソ
何あの会長の行動ー!見たこと無いあんなの見たことないって!
ヒソヒソヒソ
くあっ、会長かっこいい。っていうかあれ誰?ほんと誰新入生?
ヒソヒソヒソ
え?なに妹?寝てない?それどこ情報?どこ情報よー?
ヒソヒソヒソ
そんな現場もこのウチ以下略が会長学園祭での情事part2としてまたも激写ぁああああああああああ!!
情事って何だ情事って。
うん、一色あとで新聞部寄るからな。
「ほれほれはづ姉」
と、そんな渦中にあってもう一個とたこ焼きを差し出してくる無邪気な笑顔のこいつを無下に出来なくて、そのたこ焼きへと吸い寄せられていったのだった。
「んじゃあたしプレゼンスピーチしてくるから」
そう言ってはづ姉と別れてから子一時間。
会場の学内競技場入りしてまず、はつ姉のスピーチより何より学園の持つその自由さに驚いた。
いや学校施設としてこんなオリンピックでも開けそうな馬鹿でかい施設を所有してるのもそうだけど、そもそもこのスピーチの参加自体が自由なのだ。
普通会長スピーチとかって出席必須じゃない?
だって言うのに、この学園は参加が自由であれば何処で聞くか立って見るか座ってみるかも全部自由。
だから入退場も自由、うーん入退場って言うより聞きたかったら立ち寄って聞く、十分だと感じたら立ち去るって言った方がしっくり来る。
生徒がその場に相応しい行動をとる事が当たり前のように信頼されてるみたいで気分良い。
吹き抜けにされた天井から抜けるような空も見えて開放感が凄かった。
はー、やっぱ良いなぁこの学園。
「あたしが生徒会長に就任してからはや2年、皆がこんな楽しめる学園祭にしてくれてあたしは嬉しい」
まぁなんかそんなこんなで、今まさに私の目の前ではづ姉がスピーチの真っ最中だった。
背筋もぴっと伸ばして身振り手振りを交えて壇上でスピーチするはづ姉はかっこいい。
スピーチっていうよりはづ姉が演じる舞台みたいだった。
というか音楽室のあれを見てるともうほんと詐欺みたいに見える。
「あら妹ちゃん、詐欺だ何てはづが聞いたら怒り心頭よ?」
「私の心をさらりと読まないで下さい菫さん」
いつの間に現れたのか隣に菫さんがこれまた綺麗な姿勢で立っていた。
「他の学園とは制度も規模も何もかもが違うこのTINAMI学園祭で、皆にはもしかして色んな出会いや経験があったかもしれない」
「菫さん、私ははづ姉を見てるんだから邪魔しないで下さい」
「あら?疲れ切っている私の可愛いはづの居場所を教えてあげたっていうのにそんな言い方は関心しないわ」
「む、菫さんのはづじゃありません。私のはづ姉です」
目線があって火花が飛んだ。
「あたしにはあった、頼れるメンバーと準備を進め、心許せる人と一緒に学園祭を楽しんだ。
お節介かもしれない馬鹿だと思われるかもしれない、だけど出来れば皆にもそんな学園祭であって欲しいとあたしは思う」
壇上のはづ姉がこっちに軽くウィンクして私の鼓動は逸やなった。
いがみあい寸前だった私と菫さんは反射的に壇上のはづ姉のそれにはっとして顔を合わせる。
「っ……」
「……っ」
「これであたしの話は終り。じゃあみんな後残りの時間全部使ってTINAMI学園祭を楽しんで、聞いてくれてありがとう」
周りでは数人が、心許せる人って誰ー?とか
あたし見たよー会長がすんごい可愛い子と腕組んでたの、とか
会長マル秘浮気写真情事は学園祭で!一枚2000円だよー激写激写ー
何て声が聞こえていたけど。
「はづ姉私のこと心許せる人だって……、はぁかっこいい」
「あぁはづ、心許せる人だなんてそんな」
「む、菫さんはどう考えても頼れるメンバーの方じゃないですか。勝手に私の立場を盗らないで下さい」
「あら妹ちゃん、生徒会メンバーは他にもいるわ。その中で心許せるのが私という事よ」
この人はまた口の減らない……。
きっと口から先に生まれて来たに違いない。
「うー、負けない。はづ姉は渡さない」
「渡すも何も始めから私のはづですわ」
私にとっては今まで学園でのはづ姉を独占していた菫さんが一筋縄でいかない人だという事を強く認識した一日になりそうだった。
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間に合ったー
女の子はみんないちゃいちゃすれば良いと思うよ