No.184301

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 24

北山秋三さん

公開レベルを制限なしにしました。

2010-11-13 18:53:35 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:5936   閲覧ユーザー数:4466

流琉の瞳が一刀の姿を捉える。

 

随分逞しくなったがその心配そうな顔は変わらなかった。

 

(兄様が帰ってきてくれた!帰ってきてくれたんだ!!)

 

駆け寄る一刀の顔はやはりいくつか年を取ったのを感じさせた。

 

流琉の瞳に涙が浮かび、胸が締め付けられるほどの愛しさと喜びで満たされる。

 

だが────

 

「君!どうしたんだ!」

 

その瞳は・・・

 

 

 

"知らない人を見る瞳"

 

 

 

さっきまでの喜びが嘘のように霧散する。

 

「に・・・にい・・・さま・・・」

 

その声はかろうじて出せたもの。

 

愕然とした体に力が入らなくなり、ペタリと座り込んだ。

 

それを怪我から来るものだと思った一刀が流琉の側に屈みこむ。

 

「怪我をしているじゃないか。どうしてこんな所にまで来たんだ?」

 

一刀の気遣いが逆に流琉を傷つける。

 

「なん・・・で・・・」

 

絶望と恐怖が流琉に押し寄せた。

 

(兄様が・・・私を・・・覚えていない・・・?)

 

ふいに一刀の消えた日の華琳の言葉が思い出される。

 

『一刀は大局に逆らってまで私達を助けた為に消えた』

 

定軍山には自分もいた。

 

そこが大きな転換点だとも聞いた。

 

(兄様はやっぱり私の事を怒っているんだ・・・)

 

自分が弱かったから秋蘭を守りきれず、結果として一刀の力を使わせる事になったと流琉は自分を責める。

 

頬を伝う涙が止まらない。

 

その様子に一刀が驚き、どこかが痛むんだろうかと心配げな表情で流琉に手を貸そうとした瞬間────

 

ドオオオオオオオオオオオンン!!!

 

二人の後方でまるで爆発音の様な音が響き、そちらを向いた一刀の表情が険しくなる。

 

後ろから爆音が聞こえるのは有り得ない。

 

ならば、敵がどこからか侵入したのかと判断する。

 

「君はここに隠れているんだ!」

 

流琉に向かって叫び、そちらに向かって走り出す。

 

「い、いやです!待ってください!兄様!」

 

流琉が必死の形相で一刀の腕を掴もうと手を伸ばすが、その手が一刀に触れる事は無かった。

 

一刀も気にはなったが、敵ならば後ろには戦えない人達がいるとその場を後にする。

 

伸ばした手の向こうに一刀の背が見える。

 

もう、叫んでもその背に届かない。

 

「────何でも、しますから・・・置いて・・・いか、ない、で・・・」

 

残された流琉は・・・泣き崩れた。

 

 

蓮華が数人の部下と駆けつけたのは、愛紗が白蓮に突き刺した槍を引き抜いた所だった。

 

ぐらり、と白蓮の体が傾き、倒れるその姿がゆっくりと感じられる。

 

「ぱいれんおかあさん!!!」

 

倒れた白蓮に駆け寄るなぎの悲痛な叫びで我に帰り、愛紗を見れば薄笑いすら浮かべていた。

 

「愛紗・・・?何を・・・しているの・・・?」

 

目の前の出来事が何なのか理解できない。

 

その問いに答える事無く、白蓮に駆け寄ったなぎに向けて槍を振るおうとする愛紗が目に入り、

 

蓮華は即座に『南海覇王』を鞘から引き抜き、背後にいた兵達も戸惑いながらも剣や弓を構える。

 

「やめないか愛紗!」

 

だが、愛紗が動きを止める様子は無い。

 

槍がなぎを貫こうとした時、蓮華が愛紗に向かって駆け出す。

 

「はっあああああっ!!」

 

ギィィン!

 

剣を振るう蓮華に愛紗は鬱陶しそうに舌打ちをしながらその剣を槍で受ける。

 

打ち合った剣と槍を挟んでにらみ合いになるが、蓮華が両手で渾身の力を込めているのに対して

 

愛紗は片手で涼しい顔をしていた。

 

力の差は歴然。

 

「どういう・・・事だ・・・ッ!、何故お前がここにいて、こんな事をする!」

 

ギリ・・・という音は鍔迫り合いの音か、蓮華の歯軋りの音だったか・・・。

 

「邪魔、なのだよ。蓮華」

 

ゴオッ!!

 

槍の一振りで蓮華が吹き飛ばされる。

 

「きゃあ!!?」

 

「孫権様!!」

 

蓮華が後ろに飛ばされるのを見て兵達が愛紗に向かって一斉に飛び掛るが、

 

愛紗の槍の一振りで全員が弾かれた。

 

「────くっ!」

 

すぐに体勢を立て直すが、そこに愛紗の突きが迫る。

 

「はああああああああああああ!!!」

 

小手先の技など必要としない、純粋な力による畳み掛けるような攻撃に蓮華が耐え切れずに

 

後退し、足がもつれて尻餅をついてしまった。

 

「・・・っ!おのれ!」

 

立ち上がろうとした蓮華に愛紗が再び迫った時、その場を強烈な殺気が襲う。

 

全員が思わずそちらを見れば、そこに居たのは一刀だった。

 

だが俯き、その表情は髪に隠れてよく見えない。

 

「一刀兄さまっ!」「ご主人様!」

 

二人の声が重なる。

 

驚いた蓮華が愛紗を見れば、愛紗は恍惚の表情を浮かべて一刀を見ていた。

 

さっきまでとはまるで別人の表情。

 

愛しい愛しい、何よりも愛しい人を見るような・・・。

 

「ああっ!ご主人様!"予定"よりずっと早くに降りていらしたんですね!」

 

「な・・・!?」

 

蜀の愛紗が桃香以外を主と呼ぶ事に驚き、立ち上がる事も忘れて愛紗を見る。

 

「こんなに早くにお目にかかれるなんて・・・!」

 

愛紗が満面の笑顔で一刀に駆け寄ろうとした時、一刀は愛紗をスッとよけて白蓮となぎの元に行く。

 

「・・・ご主人様・・・?」

 

"ありえない"そういった表情で愛紗が一刀の背に声を掛けるが、一刀は反応しない。

 

倒れた白蓮の側に一刀が膝を着く。

 

「ぱい・・・れん・・・?」

 

その訪い掛けに白蓮は答えれず、荒い息をつくだけだった。

 

白蓮の表情は苦痛に歪み、腹を押さえているが出血が続いている。

 

なぎがその上に手を当てて気を送っているのが分かった。

 

「ちが・・・とまりま・・・せん・・・」

 

なぎの嗚咽が聞こえる。

 

耳の奥がジンジンと痛み、胸が途轍もなく締め付けられ、吐き気がしてくる。

 

怒りでどうにかなりそうだった。

 

なぎの手の上からさらに手を重ね、一刀も気を送ってみるがあまり変化は無い。

 

真っ青だった顔にわずかに赤みがさした程度。

 

「蓮華・・・医者を、頼む・・・」

 

一刀の声にハッとした蓮華が急いで立ち上がり、兵に医者を連れてくるように命令する。

 

その時、愛紗が『やれやれ、またか』と言わんばかりの口調で一刀に優しく声を掛けた。

 

「ご主人様、"そんな者"に構ってなどおらず、私と行きましょう────」

 

 

「────桃香様がお待ちですよ」

 

 

その頃、ある城の玉座の間では────

 

「ああー♪もうじきご主人様に会えるよ♪楽しみ!楽しみだねぇ!ねぇ、ねぇ朱里ちゃん♪

 

ご主人様、どんな姿になってるだろー♪」

 

ウキウキとした顔の桃香がパタパタと走り回っていた。

 

「"あの時"から"六年"は経ってますから、想像できませんねー」

 

朱里は冷静を装ってはいたが、艶本とダミーの戦術本を逆に挟んでいたので艶本が丸見えだった。

 

「恋ちゃんも楽しみだよねー♪」

 

桃香の言葉に恋も少し顔を赤らめながらコクンと頷く。

 

「そうだ!于吉ちゃんなら知ってるかな?どうかな?于吉ちゃん!」

 

笑顔で両手を合わせ、見たのは恋の足元。

 

「────ぐ・・・カハッ・・・!」

 

その時、恋の足元から呻く様な声が聞こえる。

 

桃香がニコニコと笑顔で近づいたのは倒れ、血の中に沈む于吉だった。

 

とても話せるような状態ではなく、桃香は溜息をつく。

 

「もうー。ワザと手加減したり、逃がしちゃったりするからだよ?」

 

まるで友達の些細なイタズラを咎める様な口調で話す桃香に朱里がうんうんと頷いた。

 

「でも、これで春蘭さんも戦線離脱しましたし、もうすぐ秋蘭さんも戦線離脱すると思いますので

 

于吉さんはまぁまぁ頑張った方じゃないですか?」

 

「うっふふー♪面白かったよねー。春蘭ちゃん、必死で愛紗ちゃんからご主人様の首を取り戻そうとしてた

 

もんねー。複製のおもちゃとも知らずに♪」

 

あはははっ♪と笑う。

 

「あんまりにも必死に泣きながら追いかけてくるから、愛紗ちゃんも可哀相になっちゃって渡しちゃった

 

くらいだもん。秋蘭ちゃんもこれから疑われて大変になるねー。全部朱里ちゃんの策略だとも気が付

 

かないで♪」

 

クスクス・・・という笑い。

 

「"沙和さん"はよくやってくれましたよ」

 

朱里が、笑う。

 

「ああ。そうそう。于吉ちゃーん。早く起きて次の仕事に行かないとー。左慈ちゃん干からびちゃうよー♪」

 

桃香の指差す玉座の後ろには青い水に満たされた巨大な水槽が置かれ、その中に沈む左慈の姿があった。

 

ゴボ・・・と左慈から気泡が漏れる。

 

すでに顔には深い皺が見えるが、動く様子は無い。

 

「たっだいまーなのだー!!」

 

その時扉が勢い良く開かれ、玉座の間に元気な声が響いた。

 

「おっかえりなさーい♪」「おかえりなさい鈴々ちゃん」「・・・おかえり」

 

入ってきたのは鈴々。

 

そしてその手に持つ『丈八蛇矛』の先に吊るされたいくつもの袋は────

 

「桃香おねえちゃんのいう通り、逆らう五胡の部族長の首を取ってきたのだー!」

 

「えらい!さっすが鈴々ちゃんだねー♪」

 

「そうですね。さすがです、鈴々ちゃん。これで五胡は完全に私達のモノですねー」

 

「・・・えらい」

 

口々に褒められ、鈴々がへへへっと照れる。

 

「あ。そういえば桃香さま、詠ちゃんからの報告でまた新しく討伐隊が組まれるそうですよ」

 

「無駄なのにねー」

 

「じゃあ、適当に対応しておきます」

 

「よぉろしくぅ、朱里ちゃん!」

 

「はいー」

 

軽い、会話。

 

「さぁ、いよいよご主人様をお迎えする準備をするよぉー♪」

 

桃香がニコニコと笑いながら「おー!」と右腕を上げるのに、他の者達も「おー!」と手を上げる。

 

「あ。その前に部屋を片付けないといけませんねー」

 

朱里がにこやかに笑う。

 

その部屋の片隅にあるのは、死体の山。

 

逆らった王我の妻と子供達の亡骸だった。

 

 

ビキ・・・という音がした。

 

一刀はゆっくりと立ち上がり、なぎに「後は頼む・・・」と静かに告げる。

 

振り返った一刀を見て愛紗がニコニコと笑っていた。

 

スラリ、と『南海覇王』を抜いて構える。

 

強烈な殺気が愛紗に向けられた。

 

それはなぎや蓮華ですら硬直する程の殺気。

 

だが、愛紗は相変わらず相好を崩さない。

 

「ご主人様、手合わせですか?でもその薄汚い剣はご主人様に似合いません。そちらの────」

 

「黙れ」

 

ゴッ!という音を残して黒い塊が愛紗に向かって突き進む。

 

それは黒い獣。

 

下から繰り出される超高速の剣戟に愛紗も思わず慌てる。

 

「くぅっ!?」

 

ギィン!ガッ!ガギィッ!

 

三撃。

 

蓮華やなぎは音しか聞こえなかった。

 

「はあ!!!!」

 

裂帛の気合で槍が振るわれる。

 

ビュウン!!

 

と横薙ぎに振るわれた槍が空を斬るのに合わせて一刀の下段の蹴りが愛紗を襲う。

 

ガッ!

 

「うっ!?」

 

一刀のローキックが愛紗の足をしたたかに撃ち、愛紗の顔が苦痛に歪む。

 

鞭のようにしならせた一撃はダメージよりも動きの制限に重きを置かれていた。

 

バッと愛紗が下がるのに合わせて一刀の構えが剣を顔の横で構える突きの体制に変わる。

 

それを見て、愛紗の唇が吊り上った。

 

(それはさっき見ましたよ)

 

北郷流の突き手。

 

それを迎え撃つべく槍を回転させ、石突を前に出す。

 

ふいに、愛紗はただ本能で顔を横にずらした。

 

 

 

だが次の瞬間

 

 

 

愛紗が目にしたのは

 

 

 

自分の顔の真横を通り過ぎる

 

 

 

『南海覇王』

 

 

 

そして正面からは視界いっぱいに広がる一刀の顔。

 

 

 

その瞳には、かすかに涙がにじんでいた。

 

 

 

(ああ、やはりご主人様は素晴らしい)

 

ドガアアアアアアア!!!

 

一刀の強烈な右の拳が愛紗の頬に決まり、愛紗が吹っ飛ぶ。

 

ゴロゴロと転がる中で何が起こったのか考える。

 

何とか止まり、立ち上がろうとした時に口の中が切れているのに気が付く。

 

さらには随分頭がクラクラする。

 

ダメージを減らすために自分から跳んでいたが、それでもこのダメージだ。

 

しばらくしてようやく何があったのか理解する。

 

一刀が『南海覇王』を投げたのだ。

 

そして右手の『黒い閻王』による拳の一撃。

 

白蓮と同じ技で来ると思っていた愛紗の油断だった。

 

手加減など一切無く振るわれた拳。

 

だが、愛紗はその事にこれ以上無い程の至福を感じていた。

 

素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい。

 

「・・・ははっ」

 

思わず毀れる笑みに、蓮華となぎの背筋が凍る。

 

そこにいるのは、狂人。

 

見ていた兵達も思わず後ずさりをする程の狂気の気配。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

はははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

ははははははははははははははははははははははははははははははははははっ

 

素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!

 

ご主人様!ああ、ご主人様!愛しています!愛しています!もっと!もっとください!

 

あっはははははははははははははははははははははははははははははははは

 

ははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

はははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」

猛烈に強まる気配に一刀でさえ思わず下がった。

 

口から血を滴らせながらも、愛紗が妖艶に微笑む。

 

「本気で・・・行きます」

 

一刀の手には『南海覇王』は無い。

 

両手の『黒い閻王』で構えた瞬間、愛紗が消えた。

 

気配だけを頼りに一刀が右に大きく跳ぶ。

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

いままで一刀が立っていた場所で巨大な土煙が上がる。

 

目を凝らしてみれば、愛紗の力によって地面が大きく抉られていた。

 

「────ちぃっ!」

 

あまりの力に焦るが、再び愛紗の姿が消える。

 

次に現れたのは、一刀の目の前。

 

愛紗の顔が一刀の視界いっぱいにまで広がり、

 

そして────

────血の味のする口付け────

バッ!と一刀が距離を取る。

 

頭の中が混乱していた。

 

急いで袖口で唇を拭けば、愛紗が少し怒った様な口調で

 

「もぅ。駄目ですよ。拭いてしまうなんて」

 

と言って再び槍を構える。

 

何がしたいのか分からなかった。

 

と、そこで一刀のすぐ横に突き立てられた剣を見つける。

 

それは愛紗の突き立てた『靖王伝家』だった。

 

このまま拳だけで戦うのは不利と判断してそれを手に取る。

 

一刀がそれを左手で掴んで引き抜いた瞬間、

 

愛紗がニタリと笑った。

 

「やはりそれを持っていて正解でした・・・」

 

突然

 

一刀の全身を電撃のようなものが襲う。

 

「ああああああああああああ!!!!」

 

あまりの痛みに左手を離そうとしたが、その左手は麻痺したように動かなかった。

 

「な・・・なん・・・ッだ!?」

 

激痛に耐え切れずに膝から崩れ落ちるが、『靖王伝家』は離れない。

 

手にした『靖王伝家』の鍔にある玉が光る。

 

世界が、歪む。

<<メインプレイヤーとの接続を確認>>

 

<<太平妖術の書・真書、起動>>

 

<<データをDownloadします>>

 

<<ルートを選択してください>>

 

<<北郷軍ルート>>

 

<<蜀軍ルート>>

 

<<魏軍ルート>>

 

<<呉軍ルート>>

 

<<UNKNOWNルート>>

 

「北郷軍ルートだ!!!」

 

玉から聞こえたまるで合成音のような音に愛紗が嬉々として叫ぶ。

<<北郷軍ルート選択、メインプレイヤーにDownload後、overwrite installします>>

次話・第一部最終回

「インストール」


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
36
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択