【ハブの主】
「お前…何者だ。何の妖怪だ!?」
「ハブの主、とでもいいましょうか。
私、元々は大きなハブでしたから」
「ハブの主…」
「さて、白雪様。これ以上手荒な真似はしたくありません。
大人しく、私に連行されてください。
ハブ2号! 白雪様を縛りなさい」
白雪の足元にからんでいたハブは、一瞬で
白雪の胴と両手をぐるぐる巻きにした。
南国紳士は、ハブのしっぽをぐいとひっぱり、
白雪を連行しようとした。
「お、おい! ひっぱるな。倒れるだろ!
もっと優しくしてくれ」
「申し訳ございません。気をつけます」
「当たり前だ!
もっと丁寧に扱ってくれないと困るぞ」
「申し訳ございません…
これぐらいがよろしいでしょうか」
紳士は、花をなでるような優しい手つきで、
ハブをくい、とひっぱった。
「もっと優しく」
「かしこまりました」
白雪様の扱いは難しい。
紳士はそう思った。
【風乃立ちはだかる】
「紳士さん、待って! 白雪をはなして!」
はぁはぁと息を切らせながら、走り、追いかける風乃。
風乃は、道の上に立ち止まる。
そして、南国紳士の前に立ちはだかる。
両手を広げ、「ここから先は通さぬ」と言わんばかりの
表情をしている。
「風乃様、そこをおどきください」
「いや!」
「おどきください、危険です!」
「危険? 何を言っているの?」
「風乃様が今立っているのは、車道です!」
車用の信号が、青に変わった。
風乃の目の前には、大きなトラックが迫っていた。
「あーそういうことか」
風乃は納得しながら、トラックの車輪へひきずりこまれた。
【ぺしゃんこ風乃】
風乃は、ぺしゃんこのひらひらに、なってしまった。
トラックは相当重かったのか、
風乃の身体はアイロンをかけたかのように
道路にしっかりと張り付いている。
「ふ、風乃!? おい、起きろ!」
白雪は風乃に大声で呼びかける。
「お……」
風乃がぴくりと反応する。
「よし、生きているぞ!」
「おじいちゃん…
私をどこに連れて行くの…?
え? 川の向こう?」
風乃は目をつむったまま、見えない存在と
おしゃべりしている。
三途の川、というフレーズが白雪の頭をよぎる。
「風乃、川の向こうに行くんじゃない!」
白雪は絶叫する。
「わたし、泳げないから、
川渡れないよ。
ごめんね、おじいちゃん」
「ほっ…良かった」
「え? 浮き輪があるから泳げなくても
大丈夫だって?
そう…それなら大丈夫かな」
「風乃! ダメだ! 戻ってこい!
その年齢で浮き輪は恥ずかしいぞ!」
「死に際のセリフにしてはずいぶん長いですね…」
紳士は、夜空の向こうを見上げながらつぶやいた。
次回に続く!
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【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。
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