第三話 西園校尉
深いまどろみの中から意識が浮上してゆく。
一刀の目に最初に映ったのは鮮やかな金だった。
我が主、曹孟徳こと華琳が自分の腕の中で安らかに眠っている。
普段の覇王、曹孟徳では無く、女の子としての華琳が見られるこの瞬間が一刀は好きだった。
今日は、春蘭、桂花、翡翠等、華琳様溺愛組みも居ないので、比較的静かだ。
最愛の女性を抱きしめ、肌と肌で相手のぬくもりを感じながら、また深いまどろみに落ちようとした時、廊下から足音が聞こえた。
足音は部屋の前で止まり、女性が声をかけながら部屋に入ってきた。
「華琳様。起きていらっしゃいますか?」
部屋に入ってきたのは秋蘭だった。
一刀は寝台から降りて扉の前にいる秋蘭の元に向かった。
「ほ、北郷、こんな所にいたのか。」
「おはよ。どうかしたのか?」
秋蘭の頬がほんのり朱に染まる。
いま、一刀は鍛え抜かれた上半身を惜しみもなくさらしている状態だ。
「服ぐらい着たらどうだ?」
「くすっ。俺の裸見るのは初めてじゃないだろ?この前だって・・・。」
「それ以上、言わなくて良い。」
珍しく慌てる秋蘭を見て思わず抱きしめようと手を伸ばすが、思いとどまり本題に入る。
「それよりどうしたんだ?華琳に用があって来たんだろう?」
「ああ。先ほど朝廷から使者が来ると先触れがあってな、昼過ぎに到着する予定らしい。」
「そうか。すぐに支度をするよ。」
「ああ。せっかくの休みなのにすまないな。」
「気にするな。秋蘭のせいじゃないよ。」
「華琳様の準備が出来しだい、玉座の間に着てくれ。」
「了解。さて、主殿を起こしますか。」
秋蘭は、直ぐに部屋を出て行った。
一刀はいまだ寝台で寝息を立てる華琳の元に向かった。
華琳を優しくゆすり声をかける。
「華琳。起きてくれ。」
「か..ずと?どうかしたの?今日の予定は何も無いはずよ?」
「残念ながら、朝廷から使者が来るそうだ。直ぐに準備をしてれ。」
華琳の顔があからさまに不機嫌になる。
一刀は華琳を優しく撫で、機嫌を直せと口付けをする。
華琳はしぶしぶ身なりを整え、一刀と共に王座の間に向かった。
玉座の間に入ると賊の討伐隊を除く、魏の面々がそろっていた。
それから間もなくして朝廷の使者が入ってきた。
入ってきたのは女性で、第一印象は猫だろうか。
「あなたが何進将軍の名代?」
「や、ウチやない。ウチは名代の副官の張遼や。」
「それで、その名代は?」
「それが、どっか行ってしまったんよ。」
張遼の答えと同時に玉座の間の扉が開いた
入り口からは、よく見知った女の子と軍師と思われる女の子が入ってきた。
恋は華琳の横に立っていた一刀を見つけると、トテトテと一刀の元に駆け寄り、思いっきり抱きついた。
「久しぶりだね、恋。」
「一刀。・・・会いたかった。」
恋のいきなりの行動に周りの者は唖然としている。
そして、沈黙を破ったのは恋の副官の張遼だった。
「あははは...。兄さんすごいなぁ。あの恋がこれほど懐くなんて、月以外見たこと無いで?」
「恋。離れてくれないか?」
「ヤダ・・・。」
「どうしても?
「こくッ。」
一刀は恋がこのような態度に苦笑を浮かべた。
しかし、それもつかの間、約2名が一刀に向かい殺気を放つ。
一人は我が主曹孟徳。そしてもう1人は恋の軍師からだった。
彼女は助走をつけ、壁を蹴り上げ、とび蹴りをくりだした。
「ちんきゅーきーーーーく!」
「・・・させない。」
しかし、彼女のとび蹴りは一刀に届くことは無かった。一刀直属である言葉が彼女の襟首をつかんでいた。
彼女の足は地面についておらず、手足をバタバタと動かすが、相手は武官、無駄だと悟りおとなしくなった。
一刀はこのままでは埒が明かないと思い、恋に優しく語りかけた。
「恋。いいかい?恋が早くお仕事を終わらせられたら、街に連れて行っておいしい物を食べさせてやれるんだが・・・。」
「すぐに・・・終わらせる。」
恋は一刀から離れ、華琳の元に歩み寄る。
「姫から・・・此度の戦の功績を評し、西園八校尉に任命する。・・・との御達し」
「は。謹んでお受けいたします。」
「おなかすいた・・・。」
「は?」
恋はそのまま華琳の腕を取り一刀の前に駆け寄る。
「・・・一刀。・・・みんなでご飯。」
「分かった。季衣、琉流、オススメの店はあるか?
「兄ちゃん、第二区に新しくできたお店があるんだけどとってもおいしかったよ。ねぇ、琉琉?」
「うん、兄様達のお口にも合うと思います。」
「ああ、あそこの店ね。張遼さんもどう?」
「ウチ?ウチは仕事中やし。」
「秘蔵の酒も置いてあるんだがどう・・・。」
「よっしゃ。はよ行くでぇ。」
「はぁ。仕方が無いわね。」
「では、参りますか。」
秘蔵の酒と聞きはしゃぐ張遼と案内役の季衣、琉流を先頭に、一刀と華琳の手を引く恋、その後ろに、秋蘭と陳宮を引きずる言葉が続く。
一行は、目的地の酒家に向かった。
曹孟徳に落ち度は無かったはずだ。そう、慢心していた訳でもない。
しかし、現に華琳の持つ箸はすべて恋に向かって行く。
「恋。どう、おいしいかしら?」
「こくッ。」
「まったく、この曹孟徳がこんな簡単に篭絡されるなんて。あら?一刀、新しい料理を注文して頂戴。これじゃ、ぜんぜん足りないわ。」
「りょーかい。」
「華琳様。今度は私の番です。」
「か、華琳様、私も食べさせてあげたいです。」
先ほどから華琳達は恋にご飯を食べさせている。
最初は一刀が恋に食べさせていたのだが、一刀を想う華琳達は面白いわけが無い。
一刀はもともと座っていた席に華琳を座らせ、箸を持たせた。
華琳の目線の先には、目を輝かせた恋がいる。
結果、華琳は陥落した。
秋蘭、琉流、以下同文
隣の席では季衣と陳宮がどちらが多く食べられるかを競い合い、言葉は張遼の相手をさせられ、顔を赤くし目を回していた。
一刀は遠くからその様子を肴に一人酒をしていた。
そこに言葉との飲み比べに勝った張遼が近づいてきた。
「北郷。今日はありがとな。」
「何がだ?」
「恋があんなにはしゃいでんの見るの初めてや。恋、いつも一人やからなぁ。」
「刺青のことか?」
「それもある。」
張遼は酒を煽りながら続ける。
「恋は飛将軍なんて呼ばれるくらい無敵の武をもっとる。でも、普段はボケーッとしとるやろう?だから名に考えてるか分からへん。だから身内からも嫌煙されとるんよ。」
「そうか。」
一刀は張遼から受けた杯を一気に煽った。
それからひとつため息を吐いてゆっくりと語りだす。
「おそらく、これから3月も経たないうちに反董卓連合が結成される。」
「何やそれ?天の予言か?」
「まぁ、それに近いかな?おそらく大陸のほとんどの諸侯が敵に回ると思う。それでだ、董卓に伝えて欲しいんだ。」
「なんや?」
「もしもの時は、俺を頼れ。全力で守ってやる。」
「////。」
いきなりの告白ともとれる言葉に張遼は顔が赤くなるのを感じた。
しかし、ここでひとつの疑問が浮かぶ、。我が軍の軍師賈駆が月の情報を
洩らすなどのへまをするとも思えない
「北郷って月の事知ってんの?」
「いや、知らない。」
「は?」
張遼は一刀の返答に困惑した
「董卓の人柄は知らないけど、優しい子なんじゃないかな?じゃなきゃ、恋は懐かないし、君だって仕官しようなんて思わないんじゃない?だから死なせたくない。」
「そうか。ウチになにかでけへんかな?」
「”今は”無いな。」
「そうか”今は”ないんやな?」
「できることがないのやったら、飲もう!」
「仕方ない、付き合ってやるよ。」
結局、二人は明け方まで飲み明かすこなった。
あとがき
どうもSekiToです。
まずは一ヶ月ほど放置してすいませんでした。
ぶっちゃけいろんな意味でリア充してました。
資格試験及び、学校のレポート、バイトとここ3週間ほどの睡眠時間が3時間前後の生活が続きまして、全くと言っていいほど小説を書く時間がありませんでした
先日久しぶりにサイトを見たところ、応援メッセージや掲示板への書き込みがたまっておりました。
サイト様、U_1様、きたさん様、nameneko様、KATANA様、なっとぅ様
書き込みありがとうございます。またまとめての返事になってしまい申し訳ないです。
今後とも~魏志恋姫伝~をよろしくお願いします。
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~魏志恋姫伝~完結成就の為に、TINAMIよ、私は帰ってきた。
約1ヶ月半?振りです。
魏志恋姫伝二章・第三話ですどうぞ。