「ねえ、いつまで惚ける気なの? ・・・・・一刀」
その言葉で一気に肝が冷えていく。
何故曹操は気付いた? いや気付くかどうかじゃない、何故こうも確信している?
だが簡単に認めてやるわけにはいかない。全力で回避しなければ。
「曹操、君はまだそんなこと言ってるのか。 言ったろう、俺は人違いだ」
ズキ・・・・・ズキ・・・・・・・。
急に頭痛が激しくなる。まるで頭が警告ブザーを鳴らしてるかのように。
曹操は確信することの出来る確かな何かを見つけたのか?
「・・・・・・最初にあなたの書いた「学校」についての書類を見たときからおかしいとは思ったわ」
「・・・・・・・何がだい?」
「あなたと一刀の筆跡がそっくりなこと。それと一刀はね、こちらの世界の文字に慣れてないせいで時々おかしな言い回しを書く癖があったの。あの時の一刀ほどじゃないけどあなたの書いた書類にも所々おかしな言い回しがあったわ」
「それだけで決め付けるのは早計だと思うよ」
「それに生活においての立ち振る舞いが一刀そのものじゃない。それに一刀が置いていった絡繰の扱いも妙に長けていたし私達が普段何気なく使っていた天界の言葉にもまったく反応を示さなかった。それと春蘭と戦った時に使った剣術。質は圧倒的に違っても型は一刀が使っていたのと同じだったわ」
どんどんと退路が塞がれれいく。背中は冷や汗が止まらない。
言葉を聞くたびに地に足の着けてる感覚がどんどん失われていく。
「それとまだあるわ、今日服屋で下着選びをしていた時気付かなかった?あなたが何気なく選んだ下着、あれは昔同じように一刀に下着を選ばせた時の物と趣味がまったく一緒だったわ。あと愛紗が言っていたわ。あなたのその剣、「一刀」って言うそうじゃない。これでもまだ恍けるの?」
「それは俺がただの偶然だ。という言葉で済ませればいいだけの話だ。顔が瓜二つなんだから癖や趣向が似ていても別に構わないんじゃないかな?」
「そう・・・・まだ恍ける気なのね?」
無表情だった曹操に次第に怒気が孕んでくる。
覇気とも言うべきか。精神が圧倒的な力で押し潰されていく感覚に襲われる。
「じゃあ・・・・・・これは一体何だって言うのよ!!」
怒声と共に俺は何かを叩きつけられた。
「これは・・・・・・!?」
月明かりに照らされて反射する布地。
これはこの世界に来るときに貂蝉から渡された聖フランチェスカの制服だ。
天の御使い、北郷一刀を象徴する服と貂蝉が言っていた。
だが何で曹操がこれを持っているんだ!?
「今日あなたを起こしに部屋に入った時、あなたの荷物入れが目に入ってね。勝手だけど中を見させて貰ったわ。そうすると入っているのは一刀の着ていた天界の衣。笑わずにはいられないわ」
そうは言うものの曹操の目はまったく笑っていない。
いつ飛びかかられてもおかしくないと思えるぐらい曹操は怒りに震えている。
「まああなたならこれだけでは旅先で偶然手に入れた、とでも言う気かもね。だけど、これの言い逃れはどうする気かしら?」
曹操が懐から一枚の紙切れを俺に突き付ける。
それは卒業式に撮った及川と俺が写っている写真だ。
「天界には景色を写しだす絡繰が存在するそうじゃない。「かめら」と言うのだったわね。真桜が一刀に言われてそれをを作っていたわ」
完全に逃げ場を失った。
追い詰められた犯人の心境とはこういうものなのか。
「答えなさい!! 何故偽名まで使って私達を騙すような真似をするの!! それに天和達の扱いといったら酷いものだったわ。 まるでまったく知らない赤の他人かのような扱いだもの!!」
「・・・・・・・俺は一刀じゃない」
今必要なのは事実を突きつけられて逃げることではない。重要なのは心を開かない。それがたとえ往生際の悪いただの戯言だとしてもだ。
「まだ・・・・・・・そんなことを言うの・・・・!?」
曹操は握り拳を震わせている。怒りが臨界点間際なのだろう。
だがそれでも俺は表情を無くしてこう吐き捨てた。
「何度でも言うさ。俺は織田信長であって北郷一刀じゃない。 そもそもさ・・・・・何でつい最近会ったばかりである赤の他人のお前にいちいち説明しなければいけないの?」
言葉と同時に曹操の動きが止まった。
「・・・・・・・・・ないでよ」
曹操が何か言った。
だが声が小さすぎてよく聞こえない。
「赤の・・・・他人ですって? ・・・・・・・ふざけるのも大概にしなさい!!」
今度は怒鳴るようにして叫んだ。
そして何処からか取り出した大鎌を俺に向かって振り下ろしてきた。
・・・・・・何だこれは・・。
俺は居合いで曹操が振り下ろしてくる大鎌をはじき飛ばした。
飛ばされた大鎌は宙で旋回した後、俺の背後の地面に突き刺さった。
「・・・・・舐められたものだな。そんな震えた手で武器を振るって勝てるとでも思ったのか?」
俺は全開の殺意を曹操に向けて放つ。
これ以上の言葉を許さない為、突き離す為に。
「・・・・・・あぁ・・・」
曹操が震えている。
もはや覇王と呼ばれる三国の統一者の面影は何処にも無い。
目の前にいるのはただの少女だ。
「・・・・・・・何でよ。何でなのよ」
「・・・・・・っ!?」
曹操の頬に涙が伝っていた。
その姿はちょっと押してしまえば簡単に折れてしまいそうなくらいとても脆く見える。
心がこれでもかと言うくらい締め付けられる。
「あなたが一刀じゃないなら・・・・・何で私達の前にその姿で現れたのよ・・・」
曹操の泣き声だけが俺達の場に響く。
曹操は何にも寄りかかることが出来ずただ立ち尽くして涙を流し続ける。
その姿はとても痛々しく見ていられない。
俺は曹操に向かって歩き出した。
「・・・・・・・来ないでよ。あなたは一刀じゃないのでしょう・・・・」
言葉を無視して歩き続ける。そして曹操の目の前までやって来た。
曹操の顔は完全に怯えきって、まるで獅子が小動物にでもなったかのようだ。
だが構うもんか。そんな顔をしている曹操が悪い。
ガバッ・・・・!!
「・・・・・・・・!?」
俺は曹操を力一杯抱きしめた。
「まったく、なんて様だ。 君は覇王だ、人前でそんな姿を見せちゃいけない」
拒絶されると思ったが曹操は素直に俺の胸の中に居てくれる。
いや、単に拒絶するだけの気力も残ってないだけかもしれない。
暖かい・・・・・・。
その温もりは覇王なんて呼ばれてる子とは思えないくらい暖かく心が安らぐ。
ずっとこうしていたい欲求に駆られる。
だがそれは今は許されないことだ。
「・・・・・・ぐっ!?」
曹操を抱きしめたら急激に頭痛が走り、全身にこれ以上ないくらいの得体の知れない感覚に襲われた。
「・・・・・・っ!? あなた、体が透けて・・・・!?」
こんな行為に及んだせいだろう。
世界が俺を一層強く拒絶し始めた。
俺の体は向こうの景色が見えそうなくらい透けている。
「俺は胡蝶の夢のような存在。近付いて触れようとすれば君の夢、もしくは俺の夢は覚めてしまう。覚めてしまえば俺はここに存在することは許されない。だから俺達は心を通わせてはいけないんだ」
どうして世界はこんなに残酷なんだろう。
どんなに強くなっても、どんなに賢くなっても、今の俺には涙を流す少女一人慰めてやれない。
俺は最後に曹操をより強く抱き締め温もりを精一杯感じた後身を引いた。
「じゃあ俺はもう行くよ。 これ以上君の傍にいたら俺はここには居られなくなる。それに、俺にはまだやることが残ってる」
俺は曹操に背を向けて歩き出した。
「・・・・・っ、待って行かないで!!」
曹操がこちらに走り寄って来る音が聞こえる。
だがそれを許すことは出来ない。
「来るな!!」
俺は曹操に背を向けたまま大声を上げて拒絶する。
大声に気圧されて曹操の足音が止まる。
まったく、自分から歩み寄ったり突き放したり、俺は本当に身勝手な男だな。
「行かないでよ・・・・・・私をもう一人にしないでよぉ・・・・・・」
・・・・・・・っ。
駄目だ、ここで振り返ったら俺はあの娘の元に行ってしまう。
俺は振り返ることなく夜の闇に消えるようにして曹操のもとから去った。
曹操から離れると再び俺の体は実体を取り戻した。
「つらい思いさせちゃったわねい」
貂蝉が木の影から出てきた。
「・・・貂蝉、聞いてたのか。 いるなら出てきてくれればよかったのに」
「あそこに割って入る程私は無粋じゃないわぁん。それとご主人様、顔に青筋が浮かんでるわよ?」
「俺は自分の不甲斐なさに腸が煮えくり返るよ。手を差し伸べられない自分の不甲斐なさにさ!」
俺は樹の幹に思い切り拳を叩きつける。
だが拳が傷んだだけで全然怒りは収まらない。
「行こう、貂蝉。 これ以上あの娘のあんな顔見たくない。 もうこんな思いになるのは二度とゴメンだ」
「ええ、そうね。 行きましょうか、起点であり終点である泰山へ」
貂蝉が手をかざすと突然空間に裂け目ができた。
「ここを通れば一気に泰山に行くことができるわ」
「便利な力だな」
「外史の管理者の特権って言ったところねぇん。ご主人様はよくやってくれたわ。三国を渡り歩き世界に自分の存在を馴染ませたおかげでさっきも消えることがなかった。さ、行きましょう。これは最後の戦い。とてもツラいものになるでしょうけど今のご主人様ならきっと負けないわ」
「ああ」
俺は曹操が持っていた聖フランチェスカの制服に袖を通した。
これは誓いだ。
必ず、北郷一刀に戻るという誓いだ。
俺は裂け目に向かって一気に駆け出した。
~続く~
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真・恋姫†無双 記憶の旅 12・・・・・だ、な。
さあ、一刀はどうなるやら。
次回の衝撃的な展開に期待をホドホドにしてね!