「ねぇ。仙花。そろそろ機嫌治してくれよぉ」
「別に。機嫌悪くなってなんていません」
「じゃあ、なんで俺を避けるんだよ。会話すらも少なくなってるじゃん」
「別に避けてません。会話もする必要を感じないだけです!私は忙しいので失礼します!」
そういうと振り返りもせずにテントから出て行く仙花。紫苑がこの街に来てから、仙花は一刀を避けるようになっていたのである。一刀はこの原因が江夏の街で、役人に挨拶に行き、この街との交易を認めさせることをせず、逆に問題を起こして帰ってきたからだと考えていた。だが、それは帰ってきたときに最初に説明して許してもらったはずである。現にそれを聞いた蹴、符儒の反応は。
「まぁ、起きてしまったことは仕方ないだろう」
「そうですね。一刀さんらしいと思いますよ」
と苦笑されてしまったのだから。仙花も仙花でこのときは。
「一刀様ですから。仕方ないですね・・・」
と苦笑を浮かべていたのだ。しかし、現在の仙花は冒頭の通りである。どうしていいのかわからない一刀は途方に暮れるしかなかった。どうすればいいのか、考え始めようとしたとき。
「おにいちゃ~ん」
元気な声がテントに響いた。最近、江夏の街から越してきた母娘の娘の方である璃々だ。母親の紫苑は「何もしないのも心苦しいのでお手伝いさせて下さい」と街の復興に力を貸してもらっている。だが、そうなると璃々が一人寂しい思いをしてしまう。そう考えた一刀は自分の仕事に璃々を連れて歩き、出来るだけ寂しくさせないように気をつけていた。その為、より一層懐かれることになっていた。
これは、そんな拗ねてしまった女の子の機嫌を治そうと奮闘するおせっかいの物語である。
「一刀様、おかえりなさい」
「ただいま。仙花」
「一刀。戻ったか」
「ああ、今戻ってきたとこだよ」
「お疲れ様です。で、そちらの女性はどなたですか?」
「それはこれから話すよ。ここではなんだし。中に入ろうぜ」
帰ってきた一刀達はまず、街の復興の拠点としているテントに向かった。そこではすでに戻っていた仙花達が出迎えてくれる。そこで軽く挨拶を交わすと、予想通り後ろにいる紫苑達のことを聞かれた為、当事者である紫苑の補足も交えて江夏であったことを説明を始めるのだった。
「そんなことがあったのですか・・・」
「はい。此度は一刀様に助けて頂き誠に感謝しております」
「気になさらないで結構ですよ。あの人のおせっかいは今に始まったことではないですし」
「だな・・・。筋金入りだ」
説明が終わった後、紫苑は改めて助けてもらったことの感謝を述べたのだが、一刀以外の面々は「やれやれ、またですか」といいたそうな顔で溜息までつかれていらっしゃった。
「みんなひどいと思わない?璃々ちゃん」
「おにいちゃんはやさしいんだよ!!」
「(じ~ん)本当にいい子だな。璃々ちゃんは!!」
「わきゃぁああ♪」
そんなみんなの反応に膝に璃々を乗っけた状態の一刀は、彼女に同意を求めた。そして、返ってきた璃々の言葉に嬉しくなって頭をわしゃわしゃと撫で付ける。頭を撫でられている璃々も構ってもらえるのが嬉しいのか、嬉しそうであった。そんな微笑ましい光景に周りの面々も笑顔を浮かべずにはいられなかった。
「一刀さん」
そんな和やかな空気の後、仕事再開と出払った蹴達。一番最後に残っていた一刀に符儒が話しかける。
「紫苑のことか?」
「それもありますが、報告が一つ」
「報告?」
「はい」
符儒には、経済発展の為周りと外交の交渉へ行き始めた時期に、情報収集の役割も担っていた。その報告をしようとしているのだ。齎された情報は、最近になって黄色の布を巻いた賊が増えてきたというものだった。その話で思い浮かべるのはこの世界に来て日が浅いころに知り合った三姉妹のこと。
「(天和、地和、人和・・・どうしちゃったんだ?)」
張三姉妹、史実では黄巾党を率いて政府に反乱を起こした人物だったが、知り合った彼女達はとてもそんなことをするような人物ではなかった。それなのに、史実通り黄巾が現れている。彼女達が心配になる一刀であった。
「引き続き情報を収集してくれないか?」
「ええ、わかりました。それと黄忠さんについては手を打っときましょう」
「できるのか?」
「ええ、噂を操作したりといろいろ方法があります。まぁ、こういうのも軍師の仕事ですよ」
「よろしくお願いするよ」
劉磐とのいざこざでここに来た紫苑だったが、その後の劉磐はどうしたのか不安になっていた一刀。一刀達を見つければ戦を仕掛けられる可能性が高い。せっかく、賊を追い払ったばかりだというのに、攻め込まれれば今度こそ敗北は免れないだろう。だが、符儒は自信満々にお任せをという。その言葉を素直に信じることにした一刀だった。
「・・・て・・・さい」
「ん・・・」
「おき・・・く・・さい」
「んあ?」
「おはようございます。朝ですよ」
「ああ、おはよう紫苑。悪いね、今日も起こしてもらっちゃって」
「いえ、これくらい平気です。それより、朝餉の支度が出来てますので」
「わかった」
紫苑と璃々はそのまま一刀の家で世話になっていた。母である紫苑は劉表の元で将として働いていたこともあり、誰よりも早起きであり家事も万能であった。決して、一刀も仙花もネボスケというわけではない。これは紫苑が普段から母としての勤め、娘の朝餉の用意などを出来る限りしており、その習慣の為この家の誰よりも早起きになっているのだ。この家でお世話になるのだから、これくらいはしておきたいという気持ちから何かとしてくれるのである。
「ありがとう、紫苑さん」
「いえいえ。仙花ちゃんもゆっくりしててね」
今まで朝餉は仙花が作っていたが、紫苑がきてからはする機会がなかった。朝餉だけではない。夕餉や水汲みなど、細かい気配りが出来る紫苑に全てやられてしまうのだ。最近では、街の復興以外の仕事を仙花は行っていない。本来なら、街の復興だけでもよくやっているといってもいいのだが、仙花には思うところがあった。そして、その溜まった感情が爆発してしまうことが起こる。
「よし!今日も頑張ろう!」
「おお~!!」
本日も、璃々を連れて復興作業へとやってきた一刀。彼の役目は材料の調達、運搬である。近くの森から木を伐採し、加工して街へと運ぶのだ。
「璃々ちゃん。あそこにいるおじちゃん達に街に運んでいいよって伝えてくれる?」
「うん!」
「いい子だ。よろしくね」
「は~い」
子供は何か仕事をやりたいと思う。自分も仲間に入るために。という思考を知っている一刀は、璃々に伝令の仕事を頼むことにしている。これなら璃々にも出来るし、危険は少ないと考えて。璃々も璃々で自分に頼ってくれていると思って、喜んで引き受けていた。
「おじちゃ~ん」
「おう、どうした?お嬢ちゃん」
「おにいちゃんがね。これ、まちにはこんでって」
「おう。わかった。ありがとな。お嬢ちゃん」
「頑張ってね!」
「ははっ、そう言われたら頑張るしかねぇな。おい!」
「おお!」
調達、運搬作業には当然、体力自慢の男達しかいない。その中で、伝令をしている璃々の存在は男達の癒しと元気の源と化していた。まるでアイドルである。当然、その気力は作業効率に影響し、今までより1.5倍は働いていた。
「おにいちゃん。つたえてきたよ」
「お!偉いぞ~」
「えへへ~」
ちゃんと伝言をしてきたと報告にきた璃々の頭を撫でる一刀と、それを嬉しそうに甘受する璃々。そんな二人を見ていた男達は口々に言う。
「長とお嬢ちゃんは、まるで親子みたいですぜ」
「ああ。そうとしか見えねぇな。なんだか、俺も家のガキどもの顔が見たくなっちまった」
「俺もだ」
「俺は、早く子供が欲しいと思うよ」
まるで仲の良い親子。誰が見てもそう思う光景。ある者は自分の子供の顔が見たくなり、ある者は子供に優しく接しようと誓い、ある者は自分の子供が欲しくなるという優しさに満ちた雰囲気になるのであった。
「わたしたち、おやこだって~」
「ってことは、俺は璃々ちゃんのお父さんかな?」
「だね♪おとうさ~ん、だっこだっこ~♪」
男達の言葉に璃々もノリノリで乗ってくる。その何気ない『お父さん』という一言に、一刀の中で何かが目覚めた。
「ほら。たかいたか~い」
「わ~い」
笑顔で璃々を抱き上げる一刀の顔、あれはまさに父の顔であったと後に男達が語る。
その日の夕餉。話題はやはり親子に見られたことであった。
「おにいちゃんとわたしがおやこにみられたの!」
「あらあら。嬉しかった?」
「うん♪」
紫苑に満面の笑みで語る璃々。一刀も璃々が嬉しいと言ってくれたので嬉しく思っていた。そんな中、一人だけ驚愕の顔を見せているのは仙花だった。心なしか手が震えている。一体、彼女はどうしてしまったのだろうか?
「一刀様」
「ん?紫苑か?」
「はい。少し、よろしいですか?」
「ああ、いいよ」
夕餉も終え、お風呂の準備をしていた一刀に紫苑が話しかける。お風呂も大分温まっていたので薪を追加すればいいだけになっていたこともあり、二つ返事で承諾した。話題は夕餉の時の璃々の話かと思いきや、少し違った。
「ありがとうございます」
紫苑は一刀に感謝の言葉を口にした。感謝された本人は心当たりがないので困惑した、江夏での一件でのことはすでに言われていたからだ。そんな一刀に対して薄く笑う紫苑。
「なんでお礼を言われたかわからないって顔をしてますわね」
「あはは、その通りです」
考えを見透かされてテレ気味の一刀。
「私、夫を亡くしてから璃々と二人で生活してきました。ですが、今日のように璃々があんなにはしゃいで笑っているところを見たことがありません。それが、一刀様と生活するようになってから毎日のように見れるようになったんです。なので、さきほどのお礼をというわけです」
紫苑の説明に漸くお礼の理由が納得できた一刀。
「俺は一緒にいてあげただけだよ。璃々ちゃんは賢い女の子だ。きっと、紫苑に心配させないように頑張ってたんだと思う。本心では、戦に行く紫苑が心配だったり、一人でいるのが寂しかったり思ってたと思うんだ。」
「・・・」
「俺はなるべく一緒にいてあげただけ。みんな働いて家にいない中、一人でいるのはとても寂しいことだ。だから、その寂しさを感じさせない為に、仕事に連れてったんだけど。そこで、さっきの親子云々って話が出てきてね。嬉しそうに笑ってくれたんだ。こっちのほうが嬉しくなったよ」
「そうでしたか」
「でも、これだけは覚えておいて。璃々ちゃんにとって一番はやっぱり紫苑なんだよ。俺では絶対に埋めることが出来ないんだ。だから、紫苑。手伝ってくれるのは嬉しいけど、もう少し璃々ちゃんと一緒に居てあげてくれ」
「はい・・・」
その言葉を聞いた紫苑の顔は何故か曇っていた。やっぱり俺が父親って言われたことを怒っているのか?と心配になる一刀。璃々の父親ということは紫苑の夫と同じである。紫苑は愛する夫がこんなガキだと言われて不快な気分になったのでは?と思った為だ。実際は全く違うことだったが、そちらのほうも重い内容だったのでホッとすることはなかった。
「・・・ですが、私達は江夏での一件で劉表様から睨まれてしまったはずです。このまま、ここに留まっていたら、見つかった時に一刀様に迷惑がかかってしまいます。せっかく助けてもらえたのに恩を仇で返すような真似は出来ませんわ。なので、近い内にここを去ろうと思っています」
「璃々ちゃんを連れての旅か・・・当てはあるのかい?」
「ええ、益州に友人がおりますので、そこで働かせてもらおうかと思っています。友人はそこで有力な諸侯に仕えていますので、劉表もおいそれと攻め込めないはずですから」
「そこまで辿り着くまで大変だよ?璃々ちゃんに構ってあげられる時間も少なくなる。せっかく見れた笑顔を手放すっていうの?」
「仕方ありません。私は・・・厄介者ですから」
助けてもらったのに、自分の存在のせいで危険な目に合う可能性がある一刀にこれ以上迷惑をかけられないと良心が痛み、苦難の道を歩もうとする紫苑。だが、そんな彼女の言葉に応と頷く一刀ではない。何せ、彼は『おせっかい』なのだから。
「許さないよ。そんなんじゃ、紫苑も、璃々ちゃんも幸せになれないじゃないか」
「で、ですが!!」
「ですがも何もない。ここにいればいいじゃないか。今まで通りに過ごせばいいじゃないか。俺に遠慮することはないんだ」
「劉表様のことはどうするのですか?見つかったらここは攻め込まれて・・・」
「見つからなければいいんだよ。それにね。我が街には優秀な軍師殿がいてね、それについては任せてくれって自信満々に言ってたよ。だから、何も心配することはないんだ」
「えっ?」
「紫苑が心配してたことはすでに対策を打ってるから大丈夫。ここを出て行く必要はないってこと」
一刀の言葉を聞いて暫く呆然としていた紫苑だが、言葉の意味を理解すると自然と涙が毀れてきた。慌てて一刀に見られないように両手で顔を覆う紫苑。苦渋の決断だったのだろう。思えば今までの復興の手伝いも、家事も全て迷惑をかけてしまった償いの気持ちがあったのかもしれない。せっかく、見れた娘の心からの笑顔。それでも、自分の存在が恩人に降りかかる厄災になってしまう。そんなこと良心が許さない。そんな葛藤があったに違いない。それが、今開放されたのだ。今まで耐え忍んでいたことが安堵した為に毀れていた。
泣いている女性に対して行う行動は一つしかない。
「良く頑張ったね。今は思いっきり泣くといい」
「ありがとう・・・・ございます」
一刀は紫苑をそっと抱きしめる。泣き顔を見ないようにする配慮と、泣いている人にはこうすると良いという経験から。一刀はしばらくそのままでいるのであった。
「!?」
その現場を見てしまった仙花は思わずその場を走り去っていった。
「ねぇ、璃々」
「なぁに、おかあさん?」
「これからはもっと一緒にいるからね?」
「いっしょって?」
「遊んだり、話したりするってことよ」
「本当!?わーい!!」
「ふふふ(一刀様、ありがとうございます。あなたの言った通り、璃々は嬉しそうに笑っていますわ)」
その日、母子水入らずの時間。一刀特製、五右衛門風呂に浸かりながら紫苑は璃々との会話を楽しんでいた。一刀の言ったとおり、寂しかったのだろう。一緒にいるという言葉に笑顔を浮かべる娘に対して「もっと一緒にいる時間を増やそう」と決意する紫苑。ふと、思考の深みに嵌っていたその顔に湯がかかった。
「あったか~い♪」
「こ~ら。おとなしくしてなさい」
璃々が暖かいお湯に浸かっているという珍しい体験にご機嫌になり、バシャバシャと水面を叩いていたのだ。そんな娘を軽く制止するとほふっと息を一つ吐き、背を風呂桶に預けて力を抜く紫苑。紫苑にとっても風呂に入るとは贅沢なことであった。お湯の温かさでまったりとした気分に浸りながら考える。
「(璃々のことでお世話になって、お風呂に入れて・・・本当、良いことばかりだわ)」
さきほどの一刀との会話を思い出し、自分がこんな安らかな生活が出来ることへの感謝をする紫苑。そこでふと、気になることが一つ、脳裏に浮かんだ。
「ねぇ、璃々?」
「な~に?おかあさん」
「お兄ちゃんのことどう思ってるの?」
「やさしくて、いっしょにあそんでくれるからだいすき~♪」
「あらあら」
その一言で十分だった。娘の言葉から、子供の純粋な気持ちの中にしっかりと女としての心も、混じっていることを察した紫苑。
「(ふふ、案外璃々の中で一番は早く変わるかもしれないわね)」
そして、そんな自分も・・・。
「(璃々と二人になって、あんな風に抱きしめられたのは初めてだったわね)」
そんなことを考えながら紫苑は、楽しそうに笑う娘を見てお風呂を堪能するのであった。
一方、時を少し遡り紫苑と別れた一刀が家に戻ろうとしたとき。
くい
服をかすかに引っ張られた感覚を覚え振り返ると、そこには夜なのに珍しく活動している蜂の姿が。何かあったのかと思った一刀。蜂は自分に気付いた様子の一刀を見ると、、村の入り口にむかって飛んでいく。一刀は黙ってそれを追うのだった。
蜂はかなりの速さで飛んでいる為、ほぼ全力で走る。どれくらいたったかわからない上、どこに向かっているのかわからないまま走り続け、さすがに息切れが激しくこれ以上走るのは無理だと足をとめようとした時。前方に同じように走る仙花の姿が見えた。
「仙花!!」
「!?」
「あっ、待ってくれ」
一刀の声に気付いた仙花は、まるで逃げるように加速する。慌てて追いかける一刀。蜂はたぶんこれが理由で連れてきたのだろう。いつの間に消えていた。だが、一刀はそんなことに気付く余裕はなく、懸命に仙花を追いかけた。武官ではない仙花は普通の女性である、男の一刀とは身体能力が違う為、一刀と仙花の距離はどんどんと縮まり・・・。
「ハッ・・・ハッ・・・ようやく追いついた」
「ゼェ・・・ゼェ・・・はな・・・ゼェ・・・してく・・・・ださい・・・」
激しい息切れで途切れ途切れの会話になっているが、しっかりと仙花の腕を掴んでいる。ようやく、落ち着いて話すことが出来そうだ。深呼吸して息を整えると、仙花にどうして逃げたのか話を聞くことが出来たのであった。。
「・・・で?どうして逃げたのかな?」
「・・・」
ただし、一刀の質問にだんまりを決め込む仙花からは答えが帰ってはこなかったが。
「最近、機嫌も悪かったし。何か俺がしたのか?だったら、言ってくれ。謝るし、今後はそういうことをしないようにするから・・・でも、何も言ってくれないとわからないよ」
声を荒げないように、静かな口調で聞いてみるも返事はない。ただ、一刀もじっと仙花を見つめて答えを待った。
「・・・・」
「・・・・」
沈黙が続く中、俯き加減で一刀を見ようとしない仙花。そんな仙花から一時も視線を逸らさない一刀。いつまでも答えを聞くまで待つつもりであった一刀だったが、現在は夜も更けており冷たい風が吹き抜ける時間である。その冷たい風が吹き抜けた時、仙花が体を震わせた。このままでは体調を崩すことは目に見えている。
「仙花。このままじゃ、風邪引いちゃうよ。家に戻ろう?」
「嫌です!」
一刀は折れて家に戻ろうと提案するが、強い否定の言葉が返ってきた。しかし、今までとは違い、続きの言葉があった。
「わ、私はお邪魔なようなので・・・出て行きます」
「邪魔って・・・俺はそんなこと考えたこともなかったよ?」
「だって、一刀様には紫苑さんがいらっしゃるじゃないですか!!」
「なんで、紫苑がいるから俺が仙花のことを邪魔と思わないといけないの?」
「璃々ちゃんが一刀様をお父さんと・・・ということは、紫苑さんが一刀様の妻ということに」
ここまで言われてしまえば、いくら鈍い人でもわかるだろう。つまり、紫苑と一刀は夫婦ということになり、一刀と関係ない仙花はお邪魔虫になるという考えに至ったのだ。
「だから、私は出て行こうと・・・」
「え?ちょ、待ってくれ。なんで、そうなるんだ?親子って例えられただけで、実際に紫苑と夫婦ってわけじゃ・・・「でも、紫苑さんを抱きしめてました」!?・・・見てたのか」
「一刀様は紫苑さんに惹かれているのでしょう?なら、私がいては邪魔じゃないですか」
だから去ろうと、言う前に一刀は仙花を抱きしめた。
「か、一刀様!?」
「ほら。これで、仙花も同じだぞ。っていうか、話を聞いてくれ」
「わ、わかりました!話を聞きますから、離れて下さい!!」
「却下。仙花が逃げないようにこのまま話をする。我慢しなさい」
「そ、そんな~」
一刀に抱きしめられ慌てる仙花をよそに、紫苑とのやりとりを話し始める。
「え?じゃ、じゃぁ・・・」
「そ。仙花の勘違いだってこと」
「(カァアア////)」
仙花の顔が恥ずかしさで真っ赤に染まる。ようやく落ち着いて話を聞いてくれたことにホッと安堵した一刀だったが、自分の行動も勘違いさせた原因だった為に反省をする。だから、次は勘違いさせないように自分の気持ちを伝えようと思った。
「仙花。前にいったことだけど。君の生き方を見つけるまで、俺は君と一緒にいるよ。それが俺の生き方だからな」
「はい」
仙花は、久方ぶりに笑顔を見せてくれるのであった。
家への帰路でふと仙花は零す。
「私達は仲の良い兄妹、または姉弟と見られるんでしょうかね?」
答えを求めていない、ふと思ったことが言葉で出ただけのことだったのだが、思いがけない言葉となって返ってくる。
「兄妹っていうよりも、恋人に見られるかもね」
「な、なななな何を言っているんですか!こ、恋人だなんて!!」
「うわ、お、落ち着いて!!例えだから、例え!!俺みたいな奴が、仙花みたいな可愛い子となんてつりあわないって!!」
「か、かわ・・・可愛いだなんて!!もう、一刀様は私をからかっているんですね!!」
「そ、そんなからかってなんて・・・」
「もう、知りません!!」
「あっ、待ってくれって。仙花~」
顔では拗ねているような表情だが、内心はひどく落ち込んでいた。せっかく、一刀が、恋人に見えるといってくれたのに自分から否定してしまったことに。自分の素直じゃない性格に。彼女が自分の気持ちに素直になれるのはもう少し時間が必要そうである。
「華琳様~!!」
「どうしたの?桂花。そんなに慌てて」
「ついに、きましたよ。賊の討伐命令が」
「へぇ・・・やっと重い腰を上げたということね」
猫耳のような形のフードを被った少女の報告を聞き、不適な笑顔を浮かべる金髪の少女。その少女の後ろに控えていた大剣を持っている少女と弓を持っている少女も表情を変えた。
「ようやくか・・・遅すぎるくらいですが」
「関係ない!賊など全て私が叩ききってくれる!!」
「まぁ、あの無能共では当然のこと。気にしてはため息しかでないわよ。秋蘭。それと期待してるわよ。春蘭」
「「はつ!」」
金髪少女の言葉に片や嬉しそうに、片や納得したように返事を返す。そんな少女の言葉に猫耳フードの少女、桂花は不満気に頬を膨らませる。
「私の策で賊なんか殲滅させてみせます!」
どうやら、後ろの少女達だけ褒められるのが我慢ならなかったようである。すぐに自分のアピールをするのであった。そんな桂花にも余裕の笑みを浮かべて対応する華琳と呼ばれた金髪の少女。
「ええ、もちろん。あなたにも期待してるわよ。桂花」
「か、華琳様~」
桂花の顔はにやけ顔で崩れるのであった。
「それはそうと。先日の報告にあったことだけど。賊の残党が壊滅したことについて何かわかったかしら?」
「いえ、それが情報が少なすぎてほとんど謎のままです。わかったことと言えば残党を壊滅させたのは無名の者達であること、中心人物は白士となのる男だということです」
「確か・・・汝南群だったわね」
「はい。あの辺りには有力な諸侯はいなかったはずです」
「ということは、新しく台頭してきた人物ってことね。面白いわね。これからもその者達について情報を集めなさい」
「はっ!」
「ふふっ、なんだが、これから面白くなってきそうね」
少女は珍しく根拠のない確信を持つのであった。
「へっくしゅ!!」
「風邪か?」
「いや、体調は悪くないよ。誰か噂でもしてるのかな?」
「?」
「なんでもない。話を続けよう」
「はい。とりあえず、会議を始めましょう」
一つの机を囲って6人の人物が集まって会議を開く。一人は会議の進行役である符儒。机には街の見取り図が置いてある。それを見下ろしながら、会議を進める。
「では、まず。街の復興状況から・・・仙花さん」
「はい。予定通り順調に進んでいます。表通りはほぼ埋まってますし、住宅区も、工業区も開発が進んでいます。後は人がもっと集まらないと発展は難しいですね」
「建物のほうも大分建設したぞ。今の人口なら十分足りる」
仙花の言葉に補足情報を入れる蹴。街の復興は順調なようだが、これ以降は人口が増えないといけないようである。だが、そう簡単に解決できることではないので、今の状況では保留ということになった。
「治安も悪くないですわね。街も活気に満ち溢れております」
「みんなげんきだよ~」
建物の建設がある程度済んだので、大工の内何人かを治安維持の役割に変更し、その統括を紫苑が行っていた。もちろん、傍らには璃々の姿も見られる。今のところ、復興に忙しく目立った問題を起こす輩はいないようである。
「なるほど、わかりました。では、次に周囲の状況ですが、ついに賊の討伐に官軍が動き出したようです」
「ついに動いたのか・・・その賊についての情報はあるのか?」
「ええ、なんでも張三姉妹という旅芸人が中心となっているようで」
「なんだって!?」
符儒の言葉が途中だったが、思わず叫んでしまう一刀。彼女達がそんなことをするはずがないと思っていた。それが、史実の通りになっているのだ。大きな衝撃を受けて思わず叫んでしまっていた。
「官軍の情報ではそうなっています。無論、全てが正しいとは思っていませんが、張三姉妹が関っているのは事実でしょう。ところで、一刀さん。そんなに驚かれるということは張三姉妹を知っているのですか?」
「ああ、知ってる。彼女達は仙花がここに来る前に、一時期俺の家にいたからな」
「「「「!?」」」」
「な、なるほど。彼女らを知っているのはそういうことが」
「ああ、だから驚いているんだ。彼女達が首謀者だってことに」
「納得しました。ですが、何かきな臭いものを感じるんですよね」
「きな臭い?」
「つまり、張三姉妹の裏に別の誰かがいるかもしれないということか?」
「ええ、これはあくまで私の勘なんですがね」
「いや。俺も符儒の勘を信じてみようと思う。というか、信じたい。だって、彼女達がそんなことやるなんて考えられないから」
「わかりました。これからも、情報を集めてみようと思います」
「よろしく頼むよ」
その後、いくつか情報を報告しあって解散になった。一刀の頭では天和達三姉妹の心配でいっぱいになっているのであった。今、頼れるのは符儒が収集する情報だけなのだ。三姉妹の無実を証明してくれる情報が入ってくることを願う一刀だった。
本来なら今回で、黄巾の話を書く予定だったんだぜ。
だが、紫苑と璃々の話があれよあれよと長くなって・・・
気付いたら、一話分になってたって話だ。
全く、やれやれだぜ。
これを読んでくれた皆様から
『早く話し進めろや!ゴラァ!!』
『グダグダやってんじゃねぇよ!トンマ!!』
『ぶるぁああの出番キボンヌ』
という声が聞こえてきそうで・・・怖いですが。
次回は話が進みますのでご容赦をぉおおおお!!!(土下座)
あと、今回最後にちょっとだけ華琳様の出番を出して、なにやら奇妙なフラグをたててしまいましたが。実は何も考えてなかったりしないでもないような気がします。
勢いでやった後悔は多大にしている・・・という状況でも若干ありそうなこの状況。
はて、どうやって乗り切ったらよいものか・・・。
あ、今回はおまけはないですよ?
ええ、毎度毎度かけません。っていうか、おまけとして書くなら本編にして書けといい加減言われそうなので、書きません。
自分でもそう思いますしね。
後、それを書いていると、本気で書きたくなっておせっかいをおろそかにしてしまいそうなので。
自重します。
ちなみに、次回作で有力なのが流鏑馬の一刀、次点に水鏡学院の一刀です。
わからない人は以前の話のおまけを見てね♪
ダークホースはポケモン。
まぁ、先の話なんで忘れて下さい。
では。
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あれ?話進めようと思ったはずが、拠点になってしまった・・・。何故だ!?
とりあえず、悶えて下さい。お願いします。