男が一人で空を見上げていた。
雲一つない快晴な空に我が物顔で浮かんでいる太陽が眩しい。
手を額につけ、太陽の光を遮って空を見つめる男は笑っていた。
高笑いをしているのではなく、意味深に唇をほんの少しだけ歪めている。
男がほくそ笑む少し前に流れ星が視界に飛び込んでいた。
こんなにも明るい空を一直線に通過した星を男は見て、そして笑っていた。
「辰(たつ)、天(てん)、今日は面白い拾い物が出来るかもしれませんよ」
男の後ろに控えていた黒い籠手と臑当(すねあて)を両手両足につけた黒い頭巾を深く被った、辰と呼ばれた男と、身の丈ほどある長い剣を腰に差した緑色の長髪を持つ、天と呼ばれた女が顔を見合わせた。
「旦那、俺らにもわかるように説明してくださいよ」
「ご自分だけ先を見据えて動く事はお控えください。我ら臣下がどれほど苦労……ごほんっ! 心配しているか」
「おやおや、天はまるでわたしが自分勝手に動いて迷惑をかけているような物言いですね。感心しません。わたしはちゃんと今後の事を考えて……」
「今後のことを考えて、水鏡先生の生徒さんの全てを仕官させようと企てた事、恨みを買うと知っていながら他勢力から人材を引き抜く行為、反感を買うと知りながら行なった軍備の強化、どれも褒められたものではありません」
「いいえ、あれは必要なのです。今後の事を考えれば、ね」
男は遠いはるか未来を見るような、そんな目で遠くをじっと見つめた。
「おかげで水鏡先生との交流が深まり、袁紹のところから一人だけ引き抜けましたし、最近増えてきた賊への対応が簡単になりました」
「それを何の相談もなくお決めになるのをお止めくださいと言っているのです。少しは相談してください」
「個人的なものも含まれているので、相談する程度の事ではありません」
「軍備などは……いえ、もういいです。勝里さまに弁舌で勝てるなどとは思っておりません」
はぁ、と大きなため息を漏らして肩を落とした天に辰が肩をぽんと叩いて励ました。
勝里、と呼ばれた男はふふ、と楽しそうに笑っている。
「話も一段落しましたし、賊討伐に行きましょうか」
「部隊の準備、整ってるぜ」
「兵糧は何の問題もありませんでした。守将にはわたしと辰で選別した者を配置しております」
「よろしいです。では、参りましょうか」
辰、天を引き連れて、勝里は歩き出した。
見渡す限りの広大な大地。
人の気配が全くしない世界に誰もいないのではないかと錯覚してしまいそうな寂れた場所に白く輝く服を着た少年が呆然と立ち尽くしていた。
「目が覚めたら見知らぬ場所に……って、どういうこと?」
少年は腕を組んで首を傾けた。確かに昨日は自分の家で毛布に包まって眠ったはずなのに、気が付けばこんな見知らぬ場所で、しかも制服姿で立っている。これはつまり……。
「夢か。そうだ、これは夢だ」
うんうん、と少年は頷いた。これは夢。そう考えれば今この状況も納得できる。
「そうだよな。アニメやゲームじゃないんだし、気が付いたら見知らぬ場所にいるなんてありえないよな」
「おい兄ちゃん、さっきから何一人で喋ってんだ?」
「……ん?」
少年が振り返ると、そこには長身の男と小柄な男と太った男が立っていた。
「それってコスプレ?」
「こす……訳わかんねえこと言ってんじゃねえ! それより、身ぐるみ置いていきな!」
「身ぐるみって服とか持ち物を置いていけって事?」
「それ以外に何があるってんだ?」
「役柄なら仕方ないけど、本当に恐喝なんてしたら警察に捕まっちゃいますよ?」
「けいさつ? また訳のわからねえことを」
三人の男たちは先ほどから少年が何を言っているのか全く理解できなかった。
コスプレや警察なんて男たちには全く聞き覚えのない言葉だからだ。
「もうどうでもいい! とにかく置いていけ!」
長身の男が剣を抜いた。太陽の光に反射して刀身がきらりと光った。
「あはは、まさか本物じゃないよね?」
「……頭おかしいんじゃねえか? 普通、俺たちみたいなのが剣抜いたら腰抜かすだろ」
「本物じゃないから怖くないよ」
「なら試してみるか?」
長身の男が剣を横弄りに振るった。少年はとっさに後ろに避け、たのではなく迫力に負けて尻餅をついた。
刃が前髪をかすめ、ひらひらと落下していく。少年にはとてもゆっくり落ちていくように見えていた。
「もしかして……本物?」
「さっきからそう言ってるだろ? わかったらさっさと出すもん出せ」
剣を向けられ、急に冷や汗が全身を濡らす感触を少年は味わっていた。
殺される、ただそれだけが頭の中を駆け巡っている。
「アニキっ! あいつらが追いかけてきてる!」
「新野太守なんか相手にしてられるか、ちくしょう! 逃げるぞお前ら!」
小柄な男が指差した方角に砂煙を巻き上げながら近づいてきている『司馬』と『鄧』と『姜』の旗をなびかせた騎馬隊がいた。
三人組の男たちは少年に目もくれず、凄い速さで逃げ出した。
「アンタ、大丈夫かい? 見たところ怪我とかしてないみたいだけど……」
「え、あ、はい。大丈夫です」
「綺麗な服だな。真っ白で。そりゃ金になると思って襲われても不思議じゃない」
少年の前に現れたのは黒い頭巾を深く被った男だった。
馬から下りた男はおかしそうに笑って少年の肩をぽんぽんと叩いた。
「どっかのお偉いさんのご子息か何かだろうな。世間知らずって顔してるし、俺がどういう奴なのか全く理解できてない顔だ」
男の言うとおりで、少年は先ほどから開いた口が塞がらない状態で、ぽかんと男を見ていた。
「自己紹介しておこう。姓は鄧、名は艾、字は士載(しさい)だ」
「鄧艾……さん? えっと、どっかで聞いた事あるような……」
「俺を知ってるのかい? いつの間にやら俺も有名になったもんだ」
はっはっは、と鄧艾が高笑いをしていると、その背後にゆっくりと近づいてきている影があった。鄧艾と同じく、騎馬隊を率いており、先頭にいる他とは雰囲気が違う二人が率いているのだろう、と少年は思った。
「辰、ご苦労様です。その少年が賊に襲われていた御仁ですか?」
「はい。名前は……まだ聞いてません。どこかの豪族のご子息ですよ、たぶん」
「確かに。見るからに高価そうな服を着ていますね。お名前を窺ってもよろしいですか?」
「ほ、北郷一刀です」
少年、北郷一刀は鄧艾と話していた背の高い男に促されて名前を言った。
「北郷くんですか。お初にお目にかかります。わたしは司馬懿仲達です。以後お見知りおきを」
「し、司馬懿仲達!?」
一刀は思わず声を荒げて聞き返してしまった。
目の前にいる人物がいきなり自分が知っている三国志の有名人物、司馬懿仲達などと名乗ったのだからその反応もおかしくはない。
その反応に司馬懿と名乗った男は首をかしげて、鄧艾も疑問符を頭に浮かべて一刀を見つめていた。
「し、司馬懿仲達って“アノ”司馬懿仲達ですか!? コスプレとかじゃなくて!」
「“こすぷれ”などというものはわかりませんが、わたしは司馬懿仲達です。それ以上でも以下でもありません。面白い反応をしますね、君」
「さっきの変の三人組と言い、本物の剣っぽかったし、もしかして、いやでも……」
「さっきから何ぶつぶつ独り言を言ってるんだ? 気味悪いぜ」
「でも司馬懿仲達って高齢の人だったような……あ、でも実際はそうじゃなかったって可能性も否定できないし、俺がその時代にいたわけじゃないし」
「本当に面白い子ですね、北郷くん。わたしたちの存在が全く視野に入っていません」
「間違いない。俺は……俺は……」
一刀は大きく息を吸い込んだ。
「俺は、タイムスリップしたんだ!」
「「「…………」」」
時間が止まったような、そんな体験を司馬懿たちは経験する事ができた。
「“たいむすりっぷ”とは何ですか?」
「えっと、簡単に言ってしまうと過去に飛ばされちゃうってことです。えっと……俺のいた時代から中国の凄い昔に飛ばされて、俺の中では漫画とかになっている有名人と対面してるって状況です」
「……旦那、わかりましたか?」
「概ねは。なるほど、過去に飛ばされる、ですか」
ふむふむ、と顎に手を添えて何度も頷く司馬懿は意味深に唇を歪ませた。それを横目で見ていた鄧艾がうわぁ、という顔で若干引き気味で顔を引きつらせている。
「北郷くん、いえ、天の御遣い殿。君を城へ招待しようと思います。来てくれますか?」
司馬懿の言葉に一刀はじめ、顔を引きつらせていた鄧艾と一言も喋らなかった女は唖然とした顔をしていた。
どうも傀儡人形です
いかがだったでしょうか? 楽しめたのなら幸いです
いろんな設定を考えて、ようやくこれに落ち着いて書き始めました
今後も更新は遅いと思いますが、読んでいただければ幸いです
では
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はじめまして傀儡人形と申します
今回、真・恋姫†無双の二次創作を投稿させていただきます
かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください
オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください