とある競馬学校
今日は学園祭の日。いつものピリっとした
雰囲気はどこへやら、とてもにぎやかな校内。
中でもこの日のメインは日々の授業で培った
騎乗技術の腕試し、模擬レースがある。
歓声があがるのは、二世ジョッキー。
事前にメディアなどにも取り上げられるほど。
そんな華やかさの裏側で……。
「で、レース始まる前から白旗か」
最近、騎手を引退したばかりの若い調教師。
「ボク才能ないですから」
どことなく自信なさげな、生徒。
「ふーん、俺からみたら君さ、才能ある
よ。あとは君がずっと見てきた馬がどんな
競馬が得意か、それを引き出してあげるだけ
なんだよ」
自信なさげな生徒は、憧れていた元騎手
からの思いもしなかった言葉を投げかけられて
震えた。
レースの始まりを告げるファンファーレ。
黄色い声援や、学園祭のクライマックスによる
大歓声。模擬レースを見る側はとても楽しそう。
馬が次々にゲートに入っていく。
緊張な面持ちの生徒たち……二世ジョッキーは
他の生徒たちよりも重圧を感じている。
そんな中、自信なさげな生徒は、どこか
天然なのか、あの元騎手の一言が頭の中をぐる
ぐる回ってぽけーっとしている。
さぁ、ゲートが開く。
と同時にスタートを切ったのが、あの自信なさげ
な生徒。今までこの馬は後ろからの競馬をしてい
た。でも、「この馬の得意な競馬を」と何度も
つぶやいて馬を信じて乗っている。
そして……。
「お前も思い切った騎乗したし、馬にも感謝だな」
笑顔の元騎手がレース終わりの自信なさげな生徒
の元に寄ってくる。
「無我夢中で乗ってました。今までボクには
思い切りが少し足りなかったのかもしれません」
息を切らしながら、こちらも笑顔で応える。
秋の夕焼け、ひとつ殻を破った若者が凛々しく
映る。
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TINAMI学園祭の企画用に書いてみました。
競馬のお話です。若者が一つ吹っ切れる場面
を書いてみたかったのですが……。