※この作品は魏endで一刀が"完全"に消滅した事を前提としているため、
記憶が戻るとかは無いので御容赦下さい。
後、オリジナル設定もあり、登場人物の行動や言動が原作と一致しない場合も
多々ございますので、その点も御容赦下さい。
「じゃなくって!・・・コホン」
一瞬血迷いかけた一刀だったが、顔を赤らめながら改めてチビ凪を見る。
潤んだ瞳とへにょっと垂れた髪が耳のような様は、まさに捨てられた子犬状態。
さらには1メートルも無い体にはボロキレを纏い、自分の体と同じようなサイズの
一対の『黒い閻王』を一生懸命抱える姿は哀愁を漂わせているようだ。
「くぅっ・・・なんという攻撃力だっ・・・!」
抱っこして頬擦りしたいのを必死で堪え、一度目を閉じて頭を振る。
頭を冷やせ、あれは凪であって凪じゃない────
そう考え、もう一度目を開けて見ればもう捨てられた子犬にしか見えなかった。
キューンと鳴く幻聴が聞こえた気がして、保護欲と父性愛が猛烈に沸き起こるのを
何とか堪え、しゃがみ込んでチビ凪と視線を合わせる。
「君は・・・楽進・・・の、凪なんだよね・・・?」
おどおどしながらもチビ凪が頷くのを見て、一刀は内心溜息をつく。
「君も『剣』を狙っているのかい?」
半ば諦めの気持ちで尋ねれば、チビ凪が首を左右に振る。
(違う?)
想像と違う反応に驚いた瞬間────
「続きはわったしぃがお話しするわぁん!ごっしゅじん様ぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おおおおおおおっっっっとぉぉぉぉ!!!!!」
突然現れた貂蝉に向かって迷う事無く剣で斬り付けたが、寸での所でかわされた。
「突然現れるな!心臓が壊れるかと思ったわ!」
ハァー、ハァー、と肩で息をしながらチビ凪を体の後ろに隠し、貂蝉に剣を突きつける。
「あらぁん。もぅー・・・せぇっかく、その楽進ちゃんを連れてきたのに。ワ・タ・シ・が♪」
「────何?」
くねくねと腰を動かす貂蝉に、一刀はもう一度斬り付けたい衝動に駆られたが、貂蝉の不可解な
言葉にしばし思いとどまる。
「だから、剣をしまってくださいな♪」
訝しげに思うが、渋々と剣をしまう。
「・・・で?どういうことだ?凪に『剣』を渡さない方がいいんだろう?」
「んふふー♪そこにいる小さい楽進ちゃんは、本体から分離した『ご主人様の元に行きたい』と思う
楽進ちゃんと対を成す、『未来』の具現した姿なのねん。だから、その子は大丈夫なのよん♪」
「『未来』・・・?それにしても、なんで・・・こんなに小さいんだ?」
振り向けば、チビ凪が一刀の背中に隠れている姿があった。
ヤバイ。萌え死ぬ。と思うが今はそれ所では無いと巨漢のオカマとの話に戻る。
「小さいのは、楽進ちゃんのイメージする『未来=子供』から来ているようなのねん・・・。
楽進ちゃんはとても素直な子だから、そのままイメージしたみたいなのねん」
なるほど・・・。確かに凪ならそう考えるよな、とチビ凪を見つめながら思っていると、
見つめられたチビ凪が、恥ずかしげに顔がちょっと赤くなる。
「ぐ・・・これは・・・ヤバイ。色々とヤバイ」
と、そこでチビ凪が抱えた『黒い閻王』が目に付く。
「そう言えばこの『黒い閻王』は何なんだ?」
「それは・・・楽進ちゃんの・・・黒い感情そのままなのねん。ご主人様が消えるまで
気がつかなかった、気づけなかった事への後悔・・・・そして自分自身への憎しみ・・・。
それを小さい楽進ちゃんが持っているのは、切り捨ててしまった『未来』へその黒い感情を
押し付けられたからなのねん・・・でも、その事で楽進ちゃんの心が持っているとも言えるわん」
貂蝉の言葉に胸が痛む。
「ご主人様には、この小さな楽進ちゃんを預かって欲しいのよん」
「どういうことだ?」
「今、本体の楽進ちゃんは『未来』が見えていないのねん。だから、この子は行く所が無いのよん・・・」
チビ凪の俯いている姿が、一刀の心を抉る。
「よし、わかった。オレが預かる」
チビ凪の前に屈み込み、頭をポンポンと撫でるとチビ凪の頬を伝うものがあった。
「この『黒い閻王』はチビ凪が持っていなければならないものなのか?」
一刀の言葉に、貂蝉が静かに首を横に振る。
「ご主人様ならそう言うと思ったわん・・・でも・・・それを持つのは、正直賛成できないわ」
チビ凪が涙で潤む瞳で一刀を見るのを、一刀は優しい笑顔で頭を撫でた。
「苦しいと・・・思うわよん・・・心が黒い感情に支配される恐れもあるわ」
「かまわないさ」
一刀の答えは即答だった。
「どうして・・・ですか・・・わたしは隊長のしっているなぎではありません・・・」
涙ながら話すチビ凪のその問いに、一刀は────
「女の子が困っていたら、助けるさ。持ってて苦しいものなら、オレが取り上げてみせる」
そう、笑顔で告げた。
そして一刀が『黒い閻王』に手をかけた瞬間、"何か"が一刀の体に入り込む。
「ぐっ・・・!」
「た・・・隊長!」
思わず強烈な吐き気が一刀に襲い掛かるが、目の前のチビ凪に少しでも心配をかけまいと笑顔を作る。
「大丈夫・・・だよ」
ぎこちないウィンクをしながら『黒い閻王』をチビ凪から受け取ると、それはズシリとした重みがあった。
かつて凪の実家で持ってみた『閻王』よりずっと重い。
(これが・・・凪の想いの重さか・・・)
『黒い閻王』を両手にはめれば、すでに吐き気は無くなっていた。
「さすがご主人様・・・その想いを受け止めたのねん♪」
貂蝉が両手を合わせて頬に持ってきてくねくねとしている。
「何か・・・不思議な感覚があるな」
吐き気が完全に無くなった替わりに、体の中に何かがあるのを感じた。
だがそれは嫌な感覚ではなく、むしろ暖かさを持っているような気がする。
そしてあれだけズシリとした重みがあった筈だが、今は本当に着けているのかと疑うような軽さだ。
「じゃあ、私はまたそろそろ戻らなきゃならないのねん♪寂しいけど我慢してねぇん♪」
「さっさと行け」
しっしっと手を振る一刀に「イケズー!!!」と叫びながら貂蝉は光となって遥か遠くへ消えていった。
それを見送る事はしないでスッとチビ凪と向き合い、
「さて、まずはチビ凪の服を買いに行くか。いつまでもそのボロキレって訳にはいかないよな」
そう言ってチビ凪を抱き上げれば、チビ凪が顔を紅くして「ひゃあっ!」と小さく悲鳴を上げた。
「あ・・・そういえば凪が真名だから、楽進って呼んだ方がよかったか」
真名は大切なもの────
今更ながらにその事を思い出し、すでに何度も凪と呼んでいるのでどうしたらいいか困惑したが、
「なぎのほうがいいです」
と小さく微笑むチビ凪の笑顔に、一刀はオレは正常。オレは正常。オレは正常。と心の中で唱え続けた。
一刀とチビ凪から離れた貂蝉は一人荒野に降り立つ。
「ご主人様・・・楽進ちゃんはね、ご主人様の子供を産みたかったのよ・・・。
でも・・・それができなかった・・・あの姿はその、せめてもの想いから造られた
姿なの・・・同じ漢女だからよくわかるわん・・・」
寂しげな貂蝉の言葉は荒野の風の中に消えてゆく。
「『未来』にはかならず『希望』がある筈なのねん・・・
ご主人様がご主人様のままなら、あるいは・・・」
呟きは貂蝉の姿と共に光となって消えていった。
その『希望』が何を指し示しているのか、今はまだ分からない・・・。
お送りしました第13話。
いやいや・・・仕事の方のフォローは何とかできましたが、
リカバリーはまだ当分掛かりそうですが、更新していきたいと思います。
せめて土日だけでも頑張らねば。
アンケートにご協力ありがとうございました!
2で話を進めていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。
ではちょこっと予告。
旅の商人から『天の御遣い』に似た青年がいると聞いた呉の将達は
動揺を隠せずにいた。
中でも蓮華の怒りは凄まじく、直ちに捜索隊が編成される・・・。
では、また。
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