【とある紳士】
入浴を終えた白雪は、テーブルの椅子に座り、
髪をかわかしながらくつろいでいた。
向かいには、風乃も座っている。
「ふぅ…やっと落ち着いた。
風呂に入るとさっぱりするな」
「そうだね。
あ…玄関からチャイムの音が」
「こんな時間に誰だ?
もう夜遅いのに」
白雪は、壁についている時計をちらと見る。
夜の12時30分近い。
「はい、今出ますよ~」
風乃は玄関のドアを開けた。
そこには、スーツ姿の青年が笑顔で立っている。
顔立ちは整っていて、優しげで美しい。
全体的な雰囲気を形容するとしたら、紳士。
「夜分遅く申し訳ありません…私は」
「お断りします」
風乃は、玄関のドアを強い勢いで閉めた。
「風乃様、ドアを閉めるタイミングが早すぎでございます」
紳士はこんこんとドアをたたいた。
【とある紳士2】
「で、何の用なの? 紳士さん。
早く寝たいんだけど」
「夜分遅く申し訳ありません。
お話したいことがありまして」
風乃は、紳士と目を合わさず、そっぽを向いている。
「なんだ、この男は?」
白雪が、風乃のうしろから、顔をのぞかせる。
紳士と目が合う。
「南国紳士さんだよ。
妖怪と人間の間のトラブルを取り締まっている人。
いわゆるおまわりさん。
私、よくお世話になってて苦手なの」
「おまわりさんに
よくお世話になっているのは
問題のような気がするのだが…。
何の問題を起こしたのだ、お前は」
「えっと、幽霊と殴り合いになったり、
妖怪と仲良くなろうとして、あとをつけてたら、
ストーカー呼ばわりされたし。
他にも、男性の妖怪のお風呂を興味本位でのぞいてみたり」
「…お前、懲役何年だ?」
【南国紳士あらわる】
「お初にお目にかかります。
私、鎌田と申します。
人間・妖怪間のいざこざを取り締まっております。
あと、南国紳士というのは、風乃様独自の呼称でございますので
私のことは『鎌田』とお呼び願…」
紳士は、頭をさげ、挨拶をする。
「紳士よ。
風乃が何か悪いことをしたかもしれんが、
俺は共犯じゃないぞ」
「…うっ。あなたもそうお呼びになりますか。
紳士とお呼びになるのでしたら、
それでもかまいません。
ところで。白雪様…ですよね?」
「は!?
なぜ俺の名を知っている!?
自己紹介もしていないのに!」
白雪は驚いた様子でさけんだ。
「ご存知ないのですか。
あなたのお名前はいまや、
沖縄中の妖怪に知られ…」
「白雪は、紳士さんにストーカーされてるんだよ!
住所も職業も性別も、すべて知られてるんだよ!」
風乃は、白雪に必死に訴えかける。
「俺に住所や職業はない!
あと性別なんてわかりきってるだろうが!」
「現在の白雪様は住所不定無職にございます」
「どうせ住所不定無職ですよーだ、ぶつぶつ…」
「あ、いじけた」
【南国紳士あらわる2】
「単刀直入に言いましょう。
白雪様。あなたを捕まえに参りました。
あなたは、雪女たちから指名手配されてます。
じきに沖縄中の妖怪が、あなたを狙いにやってくるでしょう」
「何だと! くっ…あいつら、
沖縄の妖怪に協力を要請したっていうのか!」
「私は、手荒な真似はしたくありません。
ここは大人しく捕まっていただきたいのです。
よろしいですね、白雪様?」
「俺がそう簡単に捕まるとでも?」
白雪は身構え、一歩、後ずさる。
「白雪様。私は、あなたを傷つけたくありません。
大人しくしてください」
「はぁ!?
誰が大人しく捕まるかってーの!」
「じーっ」
風乃は、南国紳士の右手に
ぶらさがっている袋を、じーっと見続けている。
「風乃様…?」
「紳士さん、何これ?
ちょうだい!」
「あ、これは菓子折りです。
夜分遅くの訪問なので、お詫びのしるしにと」
「やったぁ、お菓子だ、お菓子だ!」
風乃は飛び跳ねて喜んだ。
「空気を呼んでくれないか…風乃」
【お菓子を食べながら】
風乃と白雪と紳士は、3人でテーブルを囲みながら
お菓子を食べていた。
「おいしいね、このお菓子」
「美味だな」
「私が持ってきたお菓子なのに、
私が食べてよろしいのでしょうか」
「いいって、いいって。
あんまり食べ過ぎると太るし、
みんなで食べようよ」
「夜の12時過ぎに食べている時点で、
太るような気がするんだが…」
「ははは、そうですね。
まあ、たまにはいいでしょう」
「っておい!
なんだこれ! この和やかな雰囲気は何だ!
さっきまでのバトルになりそうな雰囲気は
どこに飛んでいった!!」
「東シナ海のはるか向こうにでも
飛んでいったのでしょう」
「東シナ海の向こうってどこだよ!」
「白雪、うるさい。おだやかに食べて」
「はいはい、すいませんでしたーっと」
白雪は、あきれ顔でお菓子をほおばるのだった。
次回に続く!
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【前回までのあらすじ】
風乃は、夜の校舎をうろつくのが大好きな女の子。
ある夜、風乃は家庭科室冷蔵庫にて
「白雪」という雪女に出会った。
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