No.180728

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART3~

戯言使いさん

PART3です。

一刀はとても主人公です。どんなにワイルドでも主人公です。

2010-10-27 17:38:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8885   閲覧ユーザー数:7240

 

 

 

盗賊がいきなりやって来て、そして家に火矢を打ちこんでいった。

 

 

 

 

 

そして口ぐちに「文醜と顔良を差し出せ!そうすれば助けてやる」と叫んでいた。

 

 

 

家が燃やされ、混乱に陥った村人たちは正常な判断を失い、とにかく自分が助かるために盗賊たちの要求を飲むしかなかった。

 

 

 

 

 

そして次第に、その要求は至極当然のように思え、そしていつの間にか、今まで自分たちを守って来てくれた二人は悪になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処だ!何処に居る!」

 

 

村人たちの声が聞こえる。

 

 

その声は当然、居酒屋の中に居る人たちにも聞こえているわけで、それぞれがどうするか顔を見合わせている。

 

 

 

「・・・・差し出そう。そうすれば、少なくとも俺たちの命は助かる」

 

 

 

そう、誰かが呟いた。

 

誰が呟いたか分からないほどの小さな呟きだったが、この空気に火をつけるには十分だった。

 

 

「そうだ、取りあえず差し出そう。そすれば、きっと国の軍も来てくれる。だから二人を差し出せば・・・・」「そうだそうだ・・・」

 

 

「あ、あの・・・・」

 

 

「お、おい・・・おっちゃんたち?」

 

 

いきなり呟き始めた客たちに、斗詩と猪々子は不安そうな表情をし、そして次第に自分たちに向けられる殺気に身を震わせた。

 

 

「おい!いたぞ!」

 

 

居酒屋のドアが乱暴に開けられ、そして次々に流れ込んでくるのは村の若者たちだ。手にはそれぞれ武器を握り、そして全員が二人に向けて殺意をむき出しにしていた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!まだ方法があります!」

 

 

「うるさい!そもそも、お前たちが盗賊たちを怒らせるようなことをしたからこうなったんだろ!責任とれよ!」

「そうだそうだ!」「さっさと縄にかけろ!」

 

 

と村人たちは斗詩たちの言葉には耳を傾けず、勝手に盛り上がりを見せていた。そして、じりじりと距離が詰められていく。そして、後・・・・つまり、さきほどまで楽しく飲んでいた居酒屋の客たちまでもが、斗詩たちににじり寄って来ていた。

 

 

 

―――勝てない。殺される。逃げれない。

 

 

 

そう絶対絶命に陥った時に、人はどうにかして自分だけでも助かろうとする。当たり前のことだ。自分は力なき弱者で、そんな弱者が生き残るためには、強い者に従い続けるしかないのだ。

 

 

 

 

そして村人たちは、この絶望的な状況に自分たちが生き残る選択をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってください・・・」

 

 

「何だよ。お前たち二人の犠牲で村人たちが助かるんだぞ!?それとも、自分たちだけ助かって、俺たちを見殺しにするのか!?」

 

 

「そんなことは・・・・」

 

 

「だからお前たちが犠牲になれば俺たちは助かるんだよ!」

 

 

もう村人たちの眼は血走り、何を言っても聞きそうになかった。無理もない。目の前で家が焼かれ、そして人が死んでいく姿を見ていたのだ。兵士たちならともかく、ただの村人たちでは、簡単に精神が壊れても仕方がなかった。

 

 

 

斗詩と猪々子は怯えながらも、抵抗するために、それぞれ武器を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

だが、この二人には天が味方をしていた。

 

 

 

いや、正確には天の使いが味方していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっせーんだよ!ガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発触発の空気に、ドスの聞いた声が響きわたる。皆がその声の主に振りかえると、そこにはいつもの制服を着た北郷一刀がいた。相変わらず髪の毛はオールバックで、見た目はとても怖く、纏う空気は氷のように冷たかった。そして、普段は身につけない刀を腰に巻いていた。

 

 

 

「黙れや」

 

 

「な、何だよ・・俺たちは・・・」

 

 

「おい・・・黙れっつってんだよ。殺すぞ?」

 

 

「っひ」

 

 

一刀は村人たちを舐めるように睨み、そして二人の元へと歩いて行った。

 

 

「おい、お前たちは部屋にいろ。何があっても出てくるな」

 

 

「な、何を言って・・・・」

 

 

「黙れ。何があっても出てくるな。おい、てめぇら、もしちょっとでもこの二人に手を出してみろ。盗賊の代わりに俺がてめぇらをぶっ殺してやるよ・・・・」

 

 

一刀は村人たちを睨み、そして居酒屋の出口へと向かって行った。一刀が「どけ」と呟いただけで、あれほど騒いでいた村人たちが、一瞬にして出口への道を開けた。

 

 

「ち、ちょっと待ってください!一刀さんは何を考えているんですか!?」

 

 

「あん?そんなの、盗賊たちをぶっ殺しに行くに決まってんだろ」

 

 

「な・・・・無茶です!一人でなんて無理です!」

 

 

「だろうな」

 

 

「それに一刀さんは」

 

 

「あぁ、知ってるよ。俺は弱いよ」

 

 

「それなら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、俺は弱いよ。人を殺したこともねーし、それに真剣だって振ったことがねーよ。力もないし策もねーし、ないないづくしだよ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惚れた女を守るために、刀を握るぐらいの強さはあるんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無謀?馬鹿?上等だよ。俺がお前らを守ってやるから。俺は自分が死ぬより、お前が二人が死ぬ方がよっぽど怖いんだよ」

 

 

 

シーン、と静かりかえった空間に、一刀の言葉が染みわたる。

 

 

「おい村人さんたちよ。言って置くが、俺はお前らを助けない。目の前で殺されようが黙って見てるよ」

 

 

「な、何を・・・・」

 

 

「言っただろ。俺は弱いんだよ、惚れた女を守るんで精一杯なんだよ。だから、てめぇらは勝手に死ねよ」

 

 

「・・・・」

 

 

「別に今まで助けてもらってきたのに、ピンチになったら掌をかえしたように裏切ったことに関しては何もいわねーよ。お前らはせいぜい家で震えて、目の前で家族が殺されるところを目に刻みつけてろ」

 

 

「・・・・うぅ・・・・」

 

 

「これからも弱い自分を言い訳にして、他人ばっかり頼ってろ」

 

 

 

 

 

一刀はそう言い残すと、居酒屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斗詩と猪々子はしばらくはボーっと一刀の言葉の余韻に浸っていたが、すぐさまお互いに顔を見合わせると、それぞれ武器を持って一刀の後を追いかけた。

 

 

「一刀さん!」「兄貴!」

 

 

「何だよ。さっさと部屋に戻れ・・・・」

 

 

「私にだって、惚れた男と親友を守る強さはあります!敵が千や万であろうとも!」

 

 

「おうよ!あたいも斗詩と兄貴を守ってやるよ!」

 

 

「・・・お前ら死ぬぞ?」

 

 

「死にません。一刀さんと文ちゃんが守ってくれますから!そして一刀さんも死にません!だって、私と文ちゃんが守りますから!」

 

 

「そうだぜ兄貴!三人で互いに守り合えば誰も死なないぜ!」

 

 

「・・・・・勝手にしろ」

 

 

そう呟いて、一刀は少しだけ歩く速度を速めた。

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

「あん!?」

 

 

「ひっ!」

 

 

一刀が振り向くと、そこにはさきほどまで斗詩たちを捕まえようとしていた村人たちが並んでいた。ただ先ほどと違うところは、目には狂気ではなく、別の違う力がこもっていた。

 

 

「先ほどはすみませんでした!どうか俺らを仲間に」

 

 

「しない。さっさと失せろ」

 

 

「はっ・・・?」

 

 

「消えろ殺すぞ」

 

 

「あ、あの・・・・」

 

 

「勘違いするな。俺らは自分のために戦うんだよ。だから仲間なんていらない」

 

 

「・・・・・でも、俺たちは村を救いたくて・・・・」

 

 

「あん!?てめぇらは一体何様のつもりだ!?」

 

 

「ひっ!」

 

 

「村を救う?何ほざいてやがる馬鹿どもが!てめぇらはてめぇらのために戦え!人一人すら守れない奴が村を救えるはずねーだろ!」

 

 

「・・・・」

 

 

「村を救う?勝手にやってろや!俺は俺の大切な人のために戦うだけだ」

 

 

「・・・・・だ、だったら、俺も家族のために戦います!村のためじゃなくて、家族のために・・・だから・・・・お願いします!一緒に行かせてください!」

 

 

「だからうぜぇんだよ!ついてきたかったら、勝手についてこい!俺はてめぇらが殺されようが無視するからな!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「てめぇらなんて、勝手に戦って勝手に死ねや!」

 

 

「「はい!」」

 

 

一刀の声に、多くの村人たちが声を高らかに返事をした。

 

 

一刀が歩くにつれ、後を歩く人の数はじょじょに増えていき、あっと言う間に村中の村人たちが集まり、そして盗賊たちにも匹敵するほどの人数が集まって来ていた。その集団の中には女子供、老人までもが手に武器を持って付いてきていた。

 

 

女、子供、老人、周りから力がない弱者とされてきた存在だったが、そんなことはない。自分にとって大切な物のために、立ち向かう強さを持っている。それを、一刀の叱咤のおかげで自覚することが出来たのだ。今の彼らは弱者ではなく、一人前の兵士だった。

 

 

 

 

 

その様子を一刀の隣で見ていた斗詩は、確かに彼が乱世を鎮める天の使いであることを確信した。そして斗詩は、この人に何処までも付いていこうと決心していた。

 

 

 

「一刀さん」

 

 

「あん?」

 

 

「もしかしたら、最後になるかもしれないので、言わせてください・・・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、貴方に出会えてよかったです。

 

 

 

 

貴方の傍に居ることが出来てよかったです。

 

 

 

そして・・・・貴方に恋をして、よかったです」

 

 

 

 

「・・・・そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから・・・・これからも、ずっと傍に置いてください」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・勝手にしろ」

 

 

 

 

 

素直じゃない一刀に笑いながらも、斗詩と猪々子はしっかりと一刀の傍を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その3人の後ろには村人たちが、導かれているかのように、後を付いてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

 

 

 

 

 

「あーあ、もうすっかり夜ね」

 

 

「そうね。でも、もうすぐで目的地の村よ」

 

 

「ほんと、どうしてこうなっちゃったのかしら。他国との戦争は確かになくなったけど、私が望んだ平和ってこんなのじゃないのに・・・・」

 

 

「天下三分の計・・・確かに、それぞれが牽制しあい、自国を納めれば確かに見かけは平和になるわ。でも、それぞれが本音を隠し持っている以上、それはいつ壊れてもおかしくない」

 

 

「はぁ・・・・そう言えば「乱世を鎮める天の使いが流星に乗ってやってくる」っていう噂があったわよね。それってどうたっだのかしら」

 

 

「噂は噂でしかないわ。所詮、そんなのは夢物語なのよ」

 

 

二人の女性は馬の上で、そのような会話をしながら、ゆっくりと道中を歩いていた。

 

そんな中、その一人の女性が何かを見つけた。

 

 

「ねぇ・・・・あれって何かしら」

 

 

「あれって?」

 

 

「ほら、アレよ」

 

 

そう言って指差した先には、何とも不思議な光景が広がっていた。

 

 

月光に照らされて、白く光る点が、多くの火を連れて荒野を走っていたのだ。

 

 

それはまるで、空をかける流星のように二人には見えた。

 

 

「あらあら、もしかして天の使いかしら?」

 

 

「そんなわけ・・・・でもまぁ、確かめてみる価値はあるな」

 

 

「えぇ。冥琳、速馬部隊を急いで準備しなさい。私が直々に率いるから」

 

 

「斥候はいらないの?雪蓮」

 

 

「私の勘ではもうすぐに戦が始まるわ。援護、よろしくね」

 

 

「ふふ、任されたよ」

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
77
9

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択