No.180110

An Anecdote of Seven Winters Ago~Another Meeting~(前編)(2004/01/04初出)

7年ほど前に書いたSSです。
一部文章が拙いところがありますが、目をつぶっていただければ幸いです(笑)。
祐一が転校してくる7年前の北川君と舞のエピソード。
ちなみに舞の言葉が普通なのは祐一と再会する前だから。

2010-10-24 14:13:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:695   閲覧ユーザー数:690

 

 

 

 

 

 

  “魔女”。

 

 

  それが10年以上前に地元の小学校に転入して来た

 少女に付けられたあだ名だった…。

 

 

  その少女の名は“川澄 舞”。

 

 

  かつて病床に就いていた幼き頃の彼女の母親を助けたいが故に身に付けた力。

 この力のおかげで舞の母親は奇跡とも言える快復を見せた。

 

 

  しかしテレビ出演を依頼され、この力を披露したが故に、

 世間から迫害されるという皮肉な結果をもたらした。

 

 

  これをきっかけに舞と母親は遠い雪国に移ったのだが、

 テレビ出演もあって、そこでも彼女を避ける人間は多かった。

 

 

  中には“魔女狩り”と称して、石や雪玉を投げてくる者もいた。

 

 

 

 

 

  そんな日々の中、唯一彼女の力に魅力を感じた者がいた。

 

 

  10年前の夏休み、親戚の元に遊びに来ていた相沢祐一である。

 彼は一目見た舞の力を恐れることはなく、逆に魅了されたのだ。

 これをきっかけに2人は麦畑で鬼ごっこなどをして遊ぶ様になった。

 

 

  そんな楽しき日々の中、いつしか祐一が実家に帰る日が来た。

 まだ祐一と別れたくなかった舞は彼をを引き止める為に、

 自らの力を利用し、魔物を作り上げた。

 

 

 “祐一。魔物が出たんだよ”

 

 “何言ってるんだよ、舞。魔物なんていやしないよ”

 

 “本当だよ。本当に魔物が出たんだってば”

 

 

  しかし、祐一は魔物を見ることなく、実家に帰ってしまった。

 

 

  舞はその力を受け入れることが出来ず、その日から

 10年という長きにわたる舞の魔物狩りが始まったのだった。

 

 

  それから3年ほどの月日が経った冬の日、当時この街の外れにある

 森の大木から一人の少女が転落して意識不明の重体を負い、

 その大木も切り倒されたというニュースが流れてから

 わずか1週間経った日のことだった。

 

 

 

「おい!見ろよ。あんなところにまた“魔女”がいるぜ!」

 

 「「「あ、本当だ」」」

 

  一人の小学生が一人下校していた舞を見つけ、残りの3人もそれに反応する。

 

 

 「どうするよ?」

 

 「どうするって…。そりゃあ魔女は退治するに限るだろ?」

 

 「だよなあ…。へへっ」

 

 

 

 

 

  一方、舞は自分が生み出した魔物を退治すべく、いつもの麦畑に向かっていた。

 後ろから小学生達がついてきていたが、別に気にはしていなかった。

 

 

  その途中、道端に捨てられている子犬を見つけた。

 生まれて少ししか経っておらず、氷点下の気温の中で毛布すらかけられていなかった。

 

 

  心無い飼い主に捨てられたのだろう…。ダンボール箱の中で子犬は寂しそうにしきりに鳴いていた。

 

 「子犬さん。かわいそう…」

 

  舞はそれを放っておけるはずもなく、子犬の元に歩み寄る。

 舞の優しそうな雰囲気に安心したのか、子犬の鳴き声がはしゃいだものになった。

 

 「待ってて…。確か給食で残したパンがあるから…」

 

  しゃがみこんでランドセルを開けたその時だった。

 

 

 「今だ!」

 

  先ほどの小学生達が一斉に舞に目がけて雪玉を投げてきた。

 舞にとってはこの様なことなど日常茶飯事なので

 大して気にしていなかったのだが、今はまずい。

 下手すれば子犬も巻き添えにしてしまう。

 

 

  子犬を守るべく、抵抗を試みたが、完全に不意を突かれていた為、何も出来なかった。

 

 “このままでは子犬さんが危ない…”

 

 そう思ったそのときだった。

 

 

 「やめろよ!!」

 

 

  突如、誰かが小学生達に雪玉をぶつけてきた。

 

 「いってぇな…。誰だよ!?」

 

  小学生達が振り向いたその先には、普段見かけることのない少年が立っていた。

 その少年は触覚の様な癖毛があり、面立ちもまだ幼く、舞よりも年少にも見えた。

 

 「女の子と子犬がかわいそうだろ!何もしてないのに

  4人で雪ぶつけるなんてひどいじゃないか!」

 

 

  小学生達の後ろから少年は舞の元へと駆け寄った。

 

 「大丈夫か?君」

 

 「うん。私は大丈夫…。それより子犬さんを…」

 

 

 「おい。お前誰だよ!?俺らの邪魔すんなよ」

 

  小学生達がその少年をにらみ付ける。

 

 「お前らこそ酷いことしてんじゃねえよ!

  この子は何もしてなかったじゃねえかよ!

  それで4人一斉に雪ぶつけるなんて卑怯だろ!」

 

  その少年も負けじとにらみ返す。

 

 「卑怯なのはお前の方だろ!?

  後ろからいきなり雪投げてきてよ!

 

  こいつはよ、“魔女”なんだよ!“ま・じょ”。

  それも飛切り恐ろしいな…。

  こいつがやばくなる前に俺らで退治してやろうってわけ。

  分かる?要するに俺らで“魔女狩り”してやってんだよ。

  分かったらどけよ!邪魔なんだよ!」

 

 「何が魔女狩りだよ!?お前らがやってることは

  ただの弱い者いじめじゃねえか!大体この子がそんなはずないだろ!」

 

 「ううん。もういい…。子犬さんを連れて早く逃げて…」

 

  舞が必死に少年に懇願する。

 

 「ダメだよ。君が困ってるのに逃げるなんて…」

 

  しかし少年はそれを聞き入れなかった。

 

 

 「お前知らえのか?知らねえなら教えてやるよ。

  こいつはよ、恐ろしい力持ってるんだぜ!?

  この女、昔テレビでやってたんだよ!これで分かったか!?

  分かったらどけよ!まだ退治が終わってないしな」

 

 「だからどうしたんだよ!?たとえそうでも

  この子は子犬にパンやろうとしてただろ?

  そんなの関係ないだろ!!?」

 

 「だったら力ずくでどかせてやるよ…」

 

  小学生達が拳を鳴らしながら少年に歩み寄る。

 

 「やれるもんならやってみろよ」

 

  少年も臆することなく構える。

 

 「ダメ…!逃げて…」

 

 

  舞が何とか制止しようとするも、その前に小学生達が

 舞の前にいる少年に一斉に殴りかかり、少年も小学生達に殴りかかる。

 

 

  しかし、4人対1人では敵(かな)うはずもなく、

 あっという間にやられてしまう。それでも少年は立ち上がって

 舞を守る様に立ちふさがる。なかなか降参しようとしない少年に

 イライラしたのか、一人が持っていた石を少年に思い切りぶつけてきた。

 

 

  それが額に当たり、少年はうずくまった。それをを見た舞は

 そこまですることはないと言わんばかりに小学生達をキッとにらみ付ける。

 

 

  普段彼女が見せることのない形相で…。

 

 

 「う…、うわ…。ま…、魔女が怒った…」

 

 「助けてー!殺されるー!」

 

 「ひい!逃げろー!」

 

  舞の形相に驚いた小学生達は一目散に逃げていった。

 

 

 

「いてて…」

 

 「大丈夫?」

 

  額を押さえる少年に舞が心配そうに顔を覗き込む。

 当たった箇所からは血が流れている。

 

 「ああ…。何とかね…」

 

 「これ…」

 

  ポケットからハンカチを取り出し、少年の傷口にあてがう。

 

 「いてっ!」

 

 

 「ごめん…。しみた?」

 

 「ああ…。大丈夫だよ。

  それより君は…?それと子犬は…?」

 

 「私は大丈夫。それに子犬さんは…」

 

  舞が視線をやった先、少年の足元には小学生達がいなくなって安心したのか、

 子犬はダンボール箱から抜け出して、嬉しそうにはしゃいでいた。

 

 

  少年は子犬を顔近くまで持ち上げてやる。見たところ怪我はない様だった。

 

 「良かったな、チビ助。ケガしなくて」

 

  ホッとした様子で子犬に話しかけた。

 子犬も少年が気に入ったのか、少年の頬をペロペロ舐め回す。

 

 「うわっ!やめろって。くすぐったいよ…!」

 

 「キャンキャン♪」

 

 「こら…!やめろって!チビ助!」

 

 

  ジー…

 

 

  少年と子犬が戯れている横では、指をくわえてその様子を眺めている舞がいた。

 

 「どうしたの?」

 

 「私も…、子犬さんと一緒に遊びたい…」

 

 「ああ、君もチビ助と遊びたいのか…!」

 

  コク、とうなずく舞。

 

 「ほら。チビ助も君と一緒に遊びたがってるから…」

 

  子犬を舞に手渡してやる。どうやら舞のことも気に入った様子で嬉しそうにはしゃいでいた。

 

 「子犬さん。かわいい…」

 

  目をキラキラと輝かせながら、少年と同じ様に顔のすぐそばまで子犬を抱え込む。

 子犬もそれが嬉しかったのか、舞の顔も舐め回した。

 

 「くすぐったい…」

 

 「キャンキャン♪」

 

 「くすぐったい…。でも…、いいかも…」

 

 

 「ねえ。ひょっとして君のところでチビ助を飼ってくれるの…?」

 

  舞と子犬が戯れている姿を見て、もしかしたらという思いで少年が聞いた。

 

 「ううん…。私が住んでいるところはアパートだから

  動物さんは飼っちゃいけないって言われた…」

 

 「そうか…。俺のところはダメって言われてるし…」

 

 「でも子犬さんは放ってはおけない…」

 

 「う~ん…。どうしよう…?」

 

 

 

 

 

  困った表情で腕組みをする少年だったが、

 やがて何かを思いついたかの様に手をポンッと叩いた。

 

 「そうだ!」

 

 「どうしたの?」

 

 「俺が住んでる近くに老人ホームがあるんだけど、

  かわいい動物が欲しいって聞いたことがあるんだ。

  そこでなら子犬を引き取ってくれるかもしれない」

 

 「本当に…!?」

 

 「ああ…。そうと分かれば今から…」

 

 

  ダンボールごと子犬を老人ホームへと少年は持っていこうとした。が、

 

 「待って…!」

 

  何かあるかの様に少年の腕をつかむ舞。

 

 「どうしたの?」

 

 「あなた、頭けがしてるから…。

  手当てしてからじゃないとダメ…」

 

 「え…?ケガって…。

 

 ぐは…!!いてえ…!」

 

 

  舞の一言に忘れていた額の痛みが突然ぶり返した様だ。

 

 「大丈夫?」

 

 「いてて…、そう言えば頭に石が当たってたんだっけ…?

  子犬のことですっかり忘れてたよ…」

 

  顔をしかめながら、額をさする少年。

 

 「今すぐ家に来て…。手当てしてあげるから…」

 

 「ありがとう…。でも子犬を放っておくわけにもいかないだろ…?」

 

 「ダメ。放っておいたら、ばい菌が入るし、傷が残る…。

  お母さんからもらった体だから大事にしないといけない…」

 

 

 「そうか…。だったら…、お邪魔しようかな…」

 

 「うん。子犬さんも一緒に…」

 

 

 「あ…、そう言えば自己紹介がまだだったっけ…?」

 

  傷の痛みこそまだ残ってはいたものの、

 少しは慣れてきたのか、改まった表情で舞の方に向き直る。

 

 

 「俺は“北川 潤”。小学4年生。君は?」

 

 「舞…。“川澄 舞”。5年生」

 

 「5年生か…。よろしく。川澄さん」

 

 「こちらこそ。北川君」

 

 

 

 

 

 「ねえ、北川君」

 

  北川の傷の手当てをする為、子犬と共に舞の家に向かう途中、

 思いついたように北川に話を持ちかける舞。

 

 「何だい?川澄さん」

 

 「子犬さんはともかく、何で私のことを助けてくれたの?」

 

 「何でって…。そりゃあ女の子1人が4人に囲まれて

  いじめられてたら放ってはおけないだろ?」

 

 「でも私は恐ろしい力を持っていたことがあった…。

  だから今、魔女って呼ばれてる…」

 

 「何言ってんだよ。川澄さんは優しいんだから

  魔女なんかじゃないって。チビ助もなついてたし…。

  なー、チビ助?」

 

 「ワン!」

 

 「ほら、チビ助もこう言ってるし…」

 

 「でも…、私は昔テレビに出てその力を見せたことがあるの。

  だから魔女って呼ばれてる…」

 

 「そんなの関係ないよ。現に川澄さんには

  チビ助もなついてたんだから…」

 

 「そう…、かな…?」

 

 「そうだよ!」

 

 「ワンワン!!」

 

 「ほら、チビ助だって関係ないって…」

 

 「でも…、私は…」

 

 「大丈夫だよ。もしいじめられてたら俺が守るから」

 

  とび切りの笑顔を舞に向ける北川。

 その笑顔が舞には眩しく映ったのか、顔を赤くして俯いた。

 

 「そう…。その時はよろしくね…。北川君…」

 

 「ああ。任せてよ!」

 

 

 

 

 

 「いっ…!」

 

 

  舞の家に上がって手当てをされていた北川だったが、

 消毒液が傷口にしみたのか、顔を再びしかめる。

 

 「大丈夫?しみた…?」

 

 「クゥ~ン…」

 

 「ああ…。大丈夫…。チビ助も気にすんなよ…。大丈夫だからさ…」

 

 

 「はい。これで終わり…」

 

 「ありがとう…」

 

  絆創膏を貼ってもらい、程なく手当ては終わった。

 

 

 「さて…。手当てをしてもらったし、チビ助を…」

 

 

 

 

 

 「ただいまー…、あら、お友達なの?舞」

 

 「おかえり、お母さん。この子は北川君」

 

 「は…、初めまして。北川 潤といいます。

  どうも…、お邪魔してます…」

 

 「あら、初めまして。そんなにかしこまらなくてもいいのに…」

 

  舞の母親が思っていたよりきれいだったのか、

 一目見るなり顔を赤くして俯く北川にクスクスと微笑む舞の母親。

 

 「いえ…、そんな…。おかまいなく…」

 

 「ゆっくりしてってね…」

 

 

 「ワン」

 

 「あら?そう言えばこの子犬は…?」

 

 「道端に捨てられてたの…」

 

 「ダメでしょ、舞。家じゃ動物は飼えないって言ったでしょ?」

 

 「そうじゃないの…」

 

 「違うんです、おばさん。

  川澄さんが子犬にかまってたときに、いきなり

  雪玉を投げてきた奴らがいて、助けたときに俺、ケガしたんです。

  それで、川澄さんは子犬の新しい飼い主を探す前に

  手当てをした方がいいって…」

 

 「そうなの?舞」

 

 「うん」

 

 「ごめんね。でも、家の中に子犬なんか入れてたら大家さんに怒られるわ」

 

 「それは分かってるけど…」

 

 

 「おばさん。俺、近くの老人ホームでかわいい動物を

  欲しがってるって聞いたことがあるんです。

  今からそこまで子犬を連れて行きますから…」

 

 「そう…。でも、もう日が暮れかけてるわ…。

  今からそこまで行ってたんじゃすぐ夜になるし、

  この辺りは人通りが少ないから子供達だけじゃ危ないわ。

  私が子犬をそこまで持って行くから、あなた達はそこでゆっくりしてて」

 

 「でも、俺そろそろ帰らないと…」

 

 「あら、北川君は舞のこと助けてくれたし、

  お友達になってくれたんだから、お礼に夕飯をごちそうしてあげるわ」

 

 「でも…」

 

 「私達のことは気にしなくていいのよ」

 

 「うん。北川君はゆっくりしてて…」

 

 「ほら、舞もこう言ってくれてるし…。

 

  あ、ひょっとしたら北川君の今日の晩御飯は

  お母さんのおいしいハンバーグとかカレーライスとか

  北川君の大好物なんだ?」

 

 「そうじゃないんだ。ただ…」

 

 

 「だったらゆっくりしてって…。

  北川君のお家には連絡しておくから…。

  良かったら連絡先教えてくれる?」

 

 「………」

 

  しかし、北川はそこで俯いたまま口を開こうとしなかった。

 

 

 「北川君…?」

 

 「クゥ~ン…?」

 

  舞と子犬も心配そうに北川を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「しせ…、つ…」

 

 

 「え…?今…、何て…?」

 

 「施設…、だよ…」

 

  俯き、声を震わせながら北川の口から出た言葉に周りは凍りつく。

 

 「この前のクリスマスの日にお母さんが…、お母さんが…、

 死んじゃったんだ…!」

 

  俯いた北川の目からは涙が頬を伝って、大粒の雫となって床に落ちていった。


 
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