【牛乳の悪夢】
「ごめん、白雪。機嫌直して~。
なんか急激に吐き気がきちゃって。
やっぱりあの牛乳腐ってたみたい」
後頭部に2~3のたんこぶを作った風乃は、
白雪をなだめていた。
「うるさい!
俺を腐った牛乳まみれにしおって!
あ~もう! 風呂にでも入らないと臭いが
落ちんではないか!」
白雪は、風乃にたんこぶを作ったあと、
顔を真っ赤にして、
全身についた牛乳をふきとっていた。
そのとき、ぐきゅるるる、という腹の音が鳴る。
風乃・白雪、両名の腹から聞こえた音だった。
「またお腹が鳴ったぞ…」
「白雪も腹の音が鳴ったの?
私も鳴ったよ」
「お腹が空いている音…とは思えない。
なあ、俺たち、腹をぶっこわしたんじゃないか。
なんかだんだん…おえ…気持ち悪く…
なってきたのだが」
白雪は、お腹をおさえて、その場でうずくまった。
「わたし、うんこ出そう!」
風乃は明るい声で言い放った。
「心の声をストレートに言える人って
うらやましいな…」
白雪はため息をついた。
【トイレは満員】
「誰かいますか~!」
女子トイレに入った風乃は、トイレ全体に響き渡る声で、
さけんだ。
トイレは電気がついてなく、真っ暗だ。
「おい、風乃。
今夜中の23時30分だぞ。
誰もいるわけないだろう。
さっさとトイレ入ろうぜ~
もう耐えられん」
「ううん、いるのよ。
この時間帯はなぜか混むのよね~」
「いるって…何が」
「女学生がいるのよ」
「女子トイレに女子学生がいるのは当たり前だろう!
男子学生が入っていたら怖いわ!」
「女子学生じゃなくて、女学生。
昔、戦争で死んだ女の子たちの霊が
集まっているのよ」
「おいおいおい!
嘘つけ!
いくらなんでもそれはないだろう!
もうトイレの電気つけるぞ!」
白雪はトイレの電気のスイッチを押した。
「はあ!?」
白雪は女子トイレの光景に驚愕する。
女子トイレのドアはすべて閉まっていた。
【トイレを探して】
「風乃…
校舎すべての女子トイレが埋まっていたではないか。
女学生多すぎだろ…
いったいどうするのだ…
俺はもう…もたんぞ」
がくがくと震えながら歩く白雪。
両腕は、お腹を守るように組まれている。
「うーん、どうしようかな…
私ももう…だめかも。
ここでしようかな」
風乃はスカートに手を伸ばす。
「おい! やめろ!
ここは校庭だぞ!
人が見ていたらどうするのだ!」
「誰もいないから、平気だよ…」
「俺がいるだろ!」
「白雪は女だから、見られても大丈夫だよ」
「女同士だから大丈夫って問題じゃないだろう!」
「ちぇ、白雪のケチ」
「とにかく、外で出すのは最終手段だ!
もっと手はあるだろう!
…男子トイレとか、あいているんじゃないのか?
気はすすまないが、それしかない」
「男子トイレに入るのはいや!
絶対いや!
男子トイレに入るくらいなら、全裸で校庭一周する!」
「…男子トイレは嫌で、校庭でするのはOKの
基準を教えてくれないか?」
【ひらめき】
「そうだ! いいこと思いついた!」
「なんだ?」
「私の家のトイレに行けばいいんだ!」
「おいおい、馬鹿を言うな。
お前の自宅まで我慢しろと言うのか?
絶対もたんぞ。
男子トイレに行くほうがまだマシだ」
「大丈夫だってば」
「何が大丈夫なのだ」
「だって、学校の隣が自宅なんだもの!」
校門から距離にして100m足らず。
風乃の家がそこにあった。
風乃宅の門の前で立ち尽くす白雪。
白雪はぽかーんと口を開くばかりだった。
「…家が近いなら、最初から言え」
【両親の許可】
「さあ、トイレにれっつゴーよ!」
陽気な声で、白雪の腕をひっぱる風乃。
「おい待て風乃!
俺は雪女だぞ!
そんな簡単に人の家に入って大丈夫なのか!」
「大丈夫よ」
「なぜそう言える」
「わたし、小さいころから
幽霊をよく連れて帰ってきたの。
だから、両親も幽霊には慣れてるの!
雪女程度なら大丈夫だよ!」
(こいつの部屋の中、幽霊だらけなのでは?)
白雪は、うーんと悩み、頭をかかえるのだった。
【ふたりでおトイレ】
「さあ、トイレにれっつゴーよ!」
陽気な声で、白雪の腕をひっぱる風乃。
「おい待て風乃!」
「もう、何なの。
両親なら大丈夫だって、さっき言ったよ?」
「トイレは1つしかないのだろう?」
「そうだよ」
「1人ずつ順番にしか入れないではないか!
くそっ…早く入りたいのだが」
「2人で入ろうよ、トイレ」
「何を考えている!
そんなことができるか!」
「え~、がっかりだなぁ」
「お前は何にがっかりしている!?
何を期待していた!?」
【先に入って】
「わたしなら大丈夫。
白雪、先にトイレ入って」
「しかし、風乃は…」
「白雪、さっきからすごく苦しそう。
わたし、そんな白雪を見てるの耐えられない」
「風乃…お前…」
「ほら、早くトイレ行ってきなよ」
「ごめん、風乃!
先に行く!」
「わたしは、庭で出すから」
「ごめん、風乃!
先に行け!」
【トイレでばったり】
「ふぅ…生き返るぜ」
トイレでひとまず用を足した白雪は
ほっとして胸をなでおろしていた。
「なっ!?」
トイレのドアが、突然開いた。
あわててトイレにかけこんだせいで、
白雪はカギをかけていなかった。
ドアから、中年女性の顔がのぞいている。
「こいつ誰だ? 母親か?」と雪女はしばし絶句した。
「こ…こんにちは」
中年女性は、トイレの中の白雪に笑顔を向けて
挨拶する。
「こんにちは」
「あのー、
夜だから『こんばんは』が正しいと思いますよ」
「ああ、親子って似るんだな」
【もう寝よう】
「さっきはお母さんがいきなり入ってきてごめんね~」
「やはり、さっきのは風乃の母親か…
びっくりしたぞ」
「さて、もう夜も遅いし、寝よっと。
白雪も、寝床用意しといたから
そこで寝ててね」
「おお! ありがたい。
まともに家の中で眠れるなんて久しぶりだ」
白雪は、沖縄に来てからの数日間を思い出した。
野宿。野宿。野宿。の連続。
まともに室内で眠れた日がなかった。
やっと布団のうえで眠れる。そう思うと、
感激で涙が出てきそうだった。
「ほら、ここが寝床」
風乃は冷蔵庫を指差した。
「…布団で寝たいのだが」
「ええ!? 冷蔵庫に布団をしくなんて難しいよ」
「いや、畳の上にしいてくれ…」
【金縛り】
風乃の寝るベッドの横に、
白雪は布団をしいて寝る体勢をとっていた。
「う…」
「どうした、風乃?」
「その、身体が動かないの」
「何? 金縛りか」
「ううん、違うの」
「は?」
「霊が、身体のうえに乗っかっているの」
「それこそ金縛りだろうが!」
「大丈夫、ダイエットしたって言ってるよ」
「なら止めない」
【就寝前】
「ねぇ、白雪」
「なんだ。俺はもう寝るぞ」
「くさい」
「そう言えば俺、風呂に入ってなかったな…
悪い。くさかったな」
「ううん、白雪じゃないの。
あそこのおじさんが、くさいの」
「さて風呂行くか」
【風呂】
風乃は、白雪を風呂場に案内した。
「私、シャワーしか使わないから、
お湯はためてないの。ごめんね」
「いや、それだけで十分さ。
シャワー、使わせてもらうぞ」
白雪は衣服を脱ぎ捨て、
きゅっきゅと、シャワーの蛇口をひねる。
「じーっ」
「おい、風乃。何を見ている。
俺の裸を見てもつまらんぞ」
「ううん。違うの。
この風呂場、たまに悪霊が出るから
白雪を見張っているの」
「おい誰か! 塩! 塩!」
【風呂2】
「なんだ、騒々しい。
もう夜の12時を過ぎてるぞ!」
「あ、お父さん」
「あ、お父さん、じゃないだろう。
今何時だと思っているんだ。
ん? 誰か風呂に入っているのか?」
「雪女が入っているんだよ、お父さん」
「はっはっは。なんだ、雪女か。
まあ仲良くするんだぞ」
「はーい!」
「理解がありすぎて困るぞ、お前ら!」
「ほら、お父さん、見てみて!
本物の雪女だから」
「お、おい! 風乃!
のぞかせるな!」
「遠慮するよ。
入浴中の女性を見る趣味はないんだ」
(父親は、常識人のようだな。娘とちがって。
安心した)
「お父さんは、入浴中の自分の身体を見て、
うっとりする主義なんだ」
「いいご趣味をお持ちのようで…お義父様」
白雪は、あきれたような声で言った。
【南の島の雪女】第1話 ミルクウナリ 完(次回に続く)
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※食事中の方は、いったん食事を止めて読んでください。
【前回までのあらすじ】
風乃は、夜の校舎をうろつくのが大好きな女の子。
ある夜、風乃は家庭科室冷蔵庫にて
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