No.179587

PSU-L・O・V・E 【L・O・V・E -死戦-】

萌神さん

EP12【L・O・V・E -死戦-】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-21 20:29:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:727   閲覧ユーザー数:723

全身が痛む……耳鳴りがする……。

 

鈍痛の残る頭を上げ、周囲を確認する。

 

爆発によって舞い上がった砂煙は、未だ落ち着いてはいない。

 

と、すれば意識が途絶していたのは……数瞬か……。

 

全身を走る激痛を堪え身を起こす。

 

四肢は健在、生きている……この身体が動く限り、戦いは終わらない。

 

戦士は再び立ち上がった。

黒いユエルは銃口からフォトン粒子を燻らせるGRM社製榴弾銃『アスールファイア』をナノトランサーに収めた。

ヘイゼルの着地地点から予測した地点への爆撃は一通り終了した。計算が正しければ効果は認められる筈である。

彼女は崖渕に近寄ると、身を屈めそっと下の様子を伺った。3メートル程の高低差がある下の階層には榴弾の炸裂で出来た爆発痕が有り、周囲は舞い上がった砂煙で覆われ視界を遮っている。黒いユエルは瞳を忙しなく動かし、ヘイゼルの行方を追っていた。

ふと、砂煙の中に蠢く影を見止めた彼女は、転送したライフルを素早く構え影を狙撃した。

撃ち込んだ合計三発のフォトン光弾は全て影を貫き、黒いユエルはその感触に確かな手応えを感じていた。

薄れて行く砂煙の中から影が正体を現す。地面に突き立てられた槍の柄に括りつけられた、黒いドリズラージャケット。それには三つの弾痕が穿たれていた。

「フェイク……?」

騙された事に気付いた黒いユエルの耳に突然爆発音が轟く。反射的に地面に身を伏せ、警戒しつつ爆発の元に銃口を向けると、別の場所で再び爆発が起こった。銃口を彷徨わせながら事態を把握しようとするが、更なる爆発が彼女を惑わせる。

「時限式爆弾……?」

 

トラップ系アイテム 『ダメージトラップ』

 

文字通り爆発により目標にダメージを与える事が出来る、設置型時限式の小型爆弾である。

黒いユエルの分析通り、爆発はそれを利用した物と思われるが、爆発が起こった位置に規則性が窺えなかった。ヘイゼルが仕掛けた物の可能性は高いが、その目的が何なのか解らない。

彼の出方が解らない以上油断は出来ない。黒いユエルは地面に腹這いになりながら注意深く崖渕から下を見渡す。彼はまだ階下に潜んでいるのだろうか……?

爆発音の余韻に混って、低いフォトン・タービンの音がする事に気付いたのはその時だ。肩越しに振り返った黒いユエルの視界に小型のスクーターが猛スピードでこちらに近付いてくるのが映った。スクーターに跨っているのは……あの男(ヘイゼル・ディーン)!?

黒いユエルは自らの判断ミスに気付いた。あの爆発もフェイク……ジャケットの影と爆発に彼女が気を取られている間にヘイゼルは階層を移動し廻り込んでいたのだ。そして彼女が警戒をしている裏を掻き、乗ってきたスクーターの機動力を活かし彼女を強襲……爆発はスクーターのエンジン音を隠す目的もあったのだろう。

「おおおおおおおぉぉぉぉ―――ッ!」

ヘイゼルは雄叫びを上げながら、更にスピードを上げ黒いユエルに肉薄する。彼女は腹這いのまま、ライフルの銃口をヘイゼルに向け引き金を引いた。だが発射された光弾はスクーター本体が持つ、衝突時衝撃緩和用のシールドにより阻まれる。ヘイゼル自身もカウル部分に上体を隠し射線から逃れている。自爆覚悟の特攻……それを停めるにはこちらの火力が足りていない。

オーバードライブ射撃なら車体を守るシールド事貫けるかもしれないが、チャージに若干の時間が必要だ……間に合わない、防ぎきれない!

そう判断した黒いユエルは、その場を逃れるべく跳躍し起き上がった。緊急の為、限界値を超える稼動をした関節(アクチュエーション・モーター)と鋼線状人工筋肉(ワイヤード・マッスル)が悲鳴のように軋みを上げる。

「遅えッ!」

ヘイゼルが跨るスクーターが猛烈な加速度で黒いユエルに迫っていた。

白い少女の姿は浮かばない。

起き上がりかけた黒いユエル目掛けて車体を特攻させる寸前、ヘイゼルはスクーターから飛び降りた。しかし運動エネルギーに抗うことは出来ず、ヘイゼルは激しく地面を転げ回る。回避の間に合わなかった黒いユエルはまともにスクーターの激突を受け弾け飛び、車体ごと崖下に転落していった。

「……クッ……ソ……イテ……ェ……」

暫く動かなかったヘイゼルだったが、毒づきながらゆっくりと上半身を起こした。

シールド・ラインの反発力が地面に叩きつけられた衝撃を緩和したとは言え、受けたダメージは相当だ。痛みを堪えて立ち上がると、黒いユエルが落ちていった崖の段差まで左脚を引き釣り歩み寄った。自分もこの様子なら彼女も只では済むまい。崖下を覗くと、半壊したスクーターのエンジンが白い煙とフォトン粒子を噴き上げていた。

「やっちまった……な……モリガンに何て言い訳するか……」

痛みに顔を顰めながらヘイゼルは苦笑いをする。型は旧式とは言え、ビンテージ物で可也の値が付く彼女のお宝をジャンクにしてしまったのだ。バレれば只では済まないだろう。だが、今は黒いユエルの動向だ。彼女は一体どうなった?

見回すとスクーターの残骸から大分離れた所で彼女はうつ伏せに倒れていた。衝突の衝撃はかなりの物だったのだろう。その彼女の上体が僅かに動いた。

生きている……あれ程のダメージを受けて、まだ、あいつは活動可能だと言うのか!?

 

『身体が動く限り、戦いは終わらない』

 

それは、つい先程ヘイゼル自身が噛み締めた言葉。

……アイツも……未だ終わっていない!

「クソがぁぁぁぁあ―――ッ!」

ヘイゼルは怒声を上げ、崖を飛び降り黒いユエルの下に向かった。彼女は背後を振り返り、こちらを確認したがヘイゼルの存在に構わず這い進み続けている。

(逃げる? 戦う為に造られたマシナリーが逃げると言うのか!?)

ヘイゼルは知る良しも無かったが、彼女達に内蔵されたAフォトンリアクターは、遺跡(レリクス)で回収されたAフォトンリアクターと、現代の科学技術で製造可能なAフォトンリアクターを融合し完成した『ハイブリッド・Aフォトンリアクター』である。主要部分にロストテクノロジーの遺物を利用したジェネレーターは、その出自ゆえ絶対数が少なく、それを内蔵した彼女達の戦略目標はSEED殲滅の次に、H・AFリアクターを破壊する事無く帰還、自身が破損した場合は可能な限り敵勢力圏を逃れ、味方部隊が回収可能な場所まで離脱する事が優先されるのだ。

黒いユエルはスクーターとの衝突で人体で言う背骨部分(脊柱フレーム)に損傷を受けていた。加えて神経伝達にも支障を来たし、立ち上がる事はおろか脚部を動かす事もままならない。黒いユエルは優先事項に従い逃走の道を選択した。

ヘイゼルはドリズラージャケットを括り付けたフォトン・スピア『ムグングリ』を地面から引き抜き、黒いユエルに駆け寄った。彼女は最早、ヘイゼルの事等、気に留めず逃走し続けている。ヘイゼルは槍の柄を両手で握ると彼女に止めを刺すべく勢い良く振りかぶった。その瞬間、黒いユエルがクルリと身を翻し仰向けになった。その手には何時の間に転送したのか、ドラムライン(マシンガン)が握られていた。

「無駄だッ!」

ヘイゼルはマシンガンを握る黒いユエルの腕を蹴りつけた。彼女の手からすっぽ抜けた銃があらぬ方向へ飛んでいく。最後の奇襲も通じず、万策尽きた黒いユエルは無感情な瞳でヘイゼルを見上げる。彼はもう一度両手で握った槍を振りかぶり、その鋭い切っ先を彼女の胸元へ振り下ろした。

生まれながらにして人は平等ではない。

だが一つだけ例外に与えられた平等がある。

それは、死……。

生きる事が権利ならば、死は総ての生物に対し、平等に約束された最後に果たすべき義務だ。

「……」

その死が、黒いユエルに訪れる事は無かった。

彼女は無機質な瞳で胸元ギリギリで止められた槍の切っ先と、ヘイゼルの顔を見比べている。

フォトンの切っ先は彼の苦悩を表す様に小刻みに震えていた。

結局、ヘイゼルは黒いユエルに止めを差す事が出来なかった。

ユエルを救う為に、今しなければならない事……それは解っている。

「解って……いるのに……!」

ヘイゼルは顔を顰めた。

その救いたい者の面影が、どうしても目の前の少女とだぶってしまう。

「クッ……! 行けよ……」

槍を引いたヘイゼルは視線を逸らし吐き捨てた。

「勝負は付いた。俺の勝ちだ……だから消えろ……俺達の前に二度と顔を見せるな」

身を翻したヘイゼルが見せた背中を、黒いユエルは一瞬見詰め、また直ぐに這いつくばって進み始めた。

この選択が何を齎すか、ヘイゼルには解らない。

(俺は……甘いのだろうか……)

ヘイゼルは自問する。

少し前の自分になら、こんな迷いは無かった筈である。

自分が変わったとするならば、それはあの雨の日……白い少女と出会ってからだ。

アイツの存在が俺を弱くしたとしても、それでも俺はアイツの為に今、戦わなければならない。

何故かは未だ解らなかったが……。


 
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