「どうしてこんなことになってしまったんでしょう……」
「……俺に聞くな」
今日は一年に一度の学園祭の日、学年問わずこの日のために準備し続けてきた成果を存分に発揮しそして楽しむために一日だ。
しかし……
「二年A組田熊椎蔵(たくま しいぞう)、大胸筋を動かします!」
俺こと宮城遼平(みやぎ りょうへい)と後輩の瀬尾銀河(せお ぎんが)の前ではふんどし姿の筋肉男がそのみなぎる筋肉でマッスルポーズを決めつつ大胸筋をピクピクと動かしている。
なぜ俺達がこのような災難に見舞われることになったかというと話は約一ヶ月ほど前までさかのぼる……
「此度の学園祭、我々は漢(おとこ)コンテストを執り行ないたいと思う」
学園祭企画委員会の会議において企画委員長である枡久野恭(ますくの きょう)が不意にそんな意見を言った。
「漢コンテスト……ですか?」
聞きなれない単語に困惑しつつも俺はかろうじて聞き返した。
「うむ、ミスコンや女装コンテストは学園祭の定番だから行うことはすでに決定しているがそれとは別に男らしさのNo1を決定する漢コンテストを開こうと思うのだ」
確かにミスコンおよび女装コンテストに関しては随分早い段階から企画が発案され着々と準備が進められていた。だが……
「いや、しかしこの時期になっていきなり新しい企画というのもプログラムの進行に支障が……」
「実行は第三会場で行う、第三会場は午前に演劇部の公演を行った後は午後の部が始まるまでは時間が空いていたはずだ」
さすがは委員長、発想は突飛だがやることにそつがない。
「でもそのようなコンテストに人が集まるのでしょうか? いくら目新しくても人が来ないような企画では意味がないかと」
「なにも私の独断でこのようなことを言っているわけじゃあないさ、ここに寄せられたアンケート用紙約100通、このすべてにこういったコンテストの開催を望む声が寄せられている」
委員長が取り出したアンケート用紙は学園祭実行委員への意見を学生から募集するためのアンケート用紙であった。イタズラ防止のために設けられた著名欄の名前もほぼバラバラ、同一人物の多重投票というわけでもなさそうだ。
「そういうことでしたら……やりましょうか!」
「せっかくやるんだから最高の漢コンテストにしてやろうぜ!」
「ああ、俺達実行委員の腕の見せ所だ!」
「「「おおーっ!」」」
こうして開催が決定したTINAMI学園祭漢コンテストは綿密に企画され当日決行の運びとなったのだが……
時間は戻ってここは学園祭当日の第三会場、漢コンテストが行われている真っ只中だが当然のごとく観客は0、舞台ではひたすらに自身の筋肉をアピールするふんどし姿の男とそれを死んだ魚のような目で見続ける審査員である俺と瀬尾の二人。
「せめてふんどし姿じゃなければネタとして笑えたかもしれないのに……」
「言うな、虚しくなってくる」
ちなみに彼らのふんどしは我々実行委員が決めたコンテストのユニホームである、『漢コンテストにふさわしいコスチュームは何か?』ということで満場一致で決定した。学園祭前のハイテンションが決めたこととはいえ今となってはあの時の自分のテンションを呪うばかりだ。
「あ、先輩、そろそろ30秒です」
「了解」
瀬尾に促されて手元のスイッチを押す。すると出場者の足元の床が開きまっさかさまに筋肉男は床下へと消えていった。これもまた『アピール時間は1人30秒、それ以上は審査員の裁定にまかせる』というルールに則ったものである、ちなみに今のところ30秒以上のアピールをできたものがいないのは言うまでもない。
「なあ瀬尾、今ので何人目だ?」
「今のでちょうど30人目ですね、あと70人です」
「まだ半分もいってないのかよ……」
ついでに言うのならコンテストの参加者は100人、アンケート用紙を送ってきた人数とほぼ同じである、バカばかりだよこんちきしょう!
「せめてこの枷がなければとっくに逃げ出しているんですけどね……これ何とか壊せませんか?」
「無駄だ、とっくに試したが傷一つつかねええよ」
さらには俺達審査員は逃亡防止のためにお互いの手を手錠でつながれ足枷で動きを封じられている。確かにこいつがなければとっくの昔に逃げ出しているとはいえあんまりといえばあんまりである。
俺達二人が審査員をする羽目になったのはじゃんけんで負けた結果だがこの企画を発案した当の委員長はというと……
「神よ、私は美しい……」
今現在舞台の上で自身の肉体を披露中だったりする。この人にいたってはふんどしすらつけておらず股間には葉っぱ一枚というギリギリ(アウト)な格好だ。
本人曰く「美しい私の体を服などという無粋なもので隠すような真似ができると思うかね?」とのことだ……つーかだれだよこいつを委員長に任命したやつは。
「私は生まれたその瞬間から外見上の美を極めてしまった……もしこの世に神というものが存在すると言うのならその存在は己が持つ美的センスのずべてをこの私という造形につぎ込んだに違いない。ああ、神よ、あなたはこの私にいったい何を求めていると……うわぁあ!?」
「先輩!? まだ30秒経ってませんよ?」
「すまん、これ以上耐えられなくてな……」
この世に神とやらがいるのならこれくらいのフライングは許してくれるはずだ。……もっともこんな事態に陥っている時点でこの世に神も仏もいないのは明白ではあるが……
「3年B組風炉手院助(ふろて いんすけ)ヒンズースクワットやります! フン! フン! フン! フン!」
こうして俺と瀬尾の二人は漢臭さが充満する第三会場でおよそ二時間弱、審査という名の拷問を受け続けることとなったのであった……がっでむ!
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お祭りは企画途中が一番楽しいといいますが……というお話です。皆様とは方向性が異なった作品を一つ作ってみました。お楽しみいただければ幸いです。