この小説は、北郷一刀、呉の主要キャラほぼ全てと華陀に
いろいろな設定を作っていますので、キャラ崩壊必死です。
更に、オリキャラが出ます。
その点を踏まえて、お読みください。
~side華琳~
「……」
「ハァ……ハァ……」
私の隣で荒い息を吐いている愛しい忠臣がいる。
もし、あの夜彼があそこに居なかったら、この喜びは無かったかもしれない。
窓から射す月明かりが、あの時と同じ様な気がしてならない。
「……華琳様、いかがなさいました?」
私の様子に何か違和感でも感じたのか、秋蘭が疑問の視線を向けてくる。
「いえ、一刀と……孫江と会った時の事を思い出していたのよ」
そう私が言うと、秋蘭は驚いたのだろう眼をこれでもかと見開いていた。
「か、華琳様、孫江に真名を、許しているのですか?」
「ええ。 私だけでなく、母様も許しているのよ?」
「華南様もですか!?」
たぶん、彼女は私に仕えてきた人生の中で、一番驚いているのではないだろうか。
まさか私とお母様が、"男"に真名を許しているという事実に。
そして私は、たぶん悪戯が成功したような表情をしているのだろう。
「ふふ、驚いている様ね」
「……はい。 まさか、華琳様が男に真名を許されるとは……」
今だ信じられないと言った表情をしている。
ならば話そうかしら、私が彼と会った時の事を――。
彼に会ったのは、約10年位前。
江東に住んでいる母様の知り合いに会いに行っていた帰りの道だったわ。
その日は、夕日が綺麗で道も真昼ほどでは無いまでも、よく見えていたわ。
ただ、私がその時に尿意を催してね、近くの森に少し寄ってしまったのよ。
時間も時期も悪かったのね、近くに来ていた山賊に私が攫われてしまってね、
母様は私を必死に助けてくれたわ、そのせいで片腕に傷を負ってしまって、
『絶』を振り回すのも一苦労らしかったわ。
私が、彼以外の男を嫌いになったのはこの時だったわ。
「母さまっ!」
「っく、逃げなさい、華琳!」
そして、血を流しすぎたのか段々と動きが鈍くなってゆく母様。
しかも全く土地勘が無いため、山賊達に囲まれるのは必然と言えたわ。
母様は、絶を片手に山賊達と対峙しているが、如何せん私を守りながらで、多勢に無勢すぎたわ。
「まてっ!!」
その時だったわ。
私より少し上ぐらいの少年が、私達と山賊の間に割り込んで来たのは――。
母様は、その少年を見た瞬間驚いた表情をして、すぐに真剣な顔で見つめてこう呟いたわ。
「あの子……強い」
「え?」
母様の呟きは、私は聞き逃せなかった。
まさか、自分とそう年の変わりない、しかも少年が強いだなんて。
「あっはっはっはっ! おい野郎ども、今日は大猟だぞ!」
だが、彼の強さを測れない愚かな野党どもは、カモが増えた程度にしか思わなかった。
私もその時は一刀の登場に驚き、母様の足手まといが増えてしまった程度にしか思わなかったわ。
「お前等、この人たちを如何する心算だ!」
「は! そんなの慰み物にした後、売っぱらうに決まってんじゃねえか!」
下衆な笑みを張り付け、そう言った。
それを聴いた瞬間、彼の中雰囲気がガラリと変わったのを感じたわ。
ゴウッ!!
『!?』
『!?』
「……」
静かに立ち尽くす彼から、突如として途轍もない殺気がもれた。
たぶん、初めて純粋な殺気を感じたのはこの時。
そして、ゆっくりと前かがみの体制を取り、両手を交差させて指を地面につける奇妙な構えをとった。
周りの山賊達は、何をしているんだと失笑している者もいたが、
私や母様には、白い肌もあいまって恰(あたか)も白い虎が獲物に襲い掛かる寸前の様に見えた。
「グルルルルル……」
そして、虎のように唸り、
「ガァァァァァァァォォォォォォォンッ!!!!!」
咆哮をあげて、襲い掛かった。
四肢には氣が使えない私が、白銀に輝く氣を目視できるほどの密度で纏わせ、
その両手足で山賊どもに逃げる隙も与えず、次々とその手で、
引き裂き、撲殺し、肉を引きちぎり、握りつぶす。
その余りの状態に、私は恐怖が襲って来て震えるが、同時に何故か目は逸らせなかった。
母様は、やはり目を逸らさなかったみたいで、私がその光景を見て眼をそらさなかった事に驚いていたわ。
そして暴れまわる彼を見て、偶然彼の目が見えた時に思った、なんて悲しそうな目そしているんだろうって。
程無くして、野党どもは全て血祭りに挙げられたのだけれど、
ハッと気がついたように血で染まった己の手を見たの。
「お……おれ……はっ!」
そして血溜の中心で何か呟いた後、彼は膝を付いて震える己の手を見てぱたりと倒れたわ。
その時に恐らく、初めてその手で人を殺めて心に負荷がかかって、
それに耐え切れなくなって、意識を落としたのだろうと母様が言っていたわ。
私は、この時は全く彼の気持ちがわからなかったのだけれど、
この職に就いて、初めて人を殺めた時に分かったわ。
話がそれたわね。
私達は、彼の恐ろしいまでの天賦の武を目の当たりにしたけれど、何故かそこまでの恐怖は感じなかったわ。
倒れた彼の元に行ったのだけど、彼の顔をみてポツリと私は呟いたの。
「……母様、この人最初に私達を見た時、優しい目をしていたわ」
「華琳?」
私の呟きに、母様は耳を傾けてくれた。
「でも、山賊を相手にしているときは、何故かすごく悲しそうな目をしてた」
「……そう、貴女にも分かったのね」
彼より年下の私にもわかる事だから母様にも分かったみたい。
その少年が、優しい心を持っている事がね。
「このままに居るのも気持ち悪いから、直ぐ其処に川があることだし、其処に行きましょう」
そう言って、母様は自分の手が血で濡れるのも構わず、一刀を拾って、川の方まで行ったわ。
後で聞いたんだけど偶然にも其処は、一刀が寝床を構えている場所だったらしいわ。
川について彼の血を洗い流して暫く、一刀が目を覚ましたわ。
「うぅ……?」
「気がついた?」
「……大丈夫なの?」
目を覚ますと、其処には先ほどの私達がいた事に安心した表情を見せたわ。
でもすぐに、自分が犯した命を奪う行為が脳裏に蘇ったのね、顔を青ざめさせたわ。
しかも彼は素手で戦っていた。
己の手で人肉を引き裂き、握り潰し、骨を砕く感触と共にね。
「!? お、俺は、人を……人を!!」
「落ち着きなさい」
先程の事を思い出して震えだす一刀を母様は優しく抱きしめるた。
「……え?」
「落ち着きなさい、そして聞きなさい。 貴方は、私達を助けてくれた、良い事をしたのよ」
「……でも、俺は人を……」
一刀が尚もそう言おうとすると、母様は少しはなれて一刀の目を見ながら言った。
「ええ、そうね。 貴方は人を殺したわ」
「っ!」
その言葉に、一刀は顔を伏せる。
そんな一刀に構わず、母様は言葉を続ける。
「だったら其れを受け止めなさい。 今すぐにとは言わない、けど忘れてはだめ。
"自分が殺した者達"と、その者達に"殺された者達"がいるという事も。
彼らを殺して、助ける事が出来た命が此処にあるという事も」
「助けた……いの、ち?」
母様の言葉と瞳に一刀は、先ほどの恐怖心がないわけではないまでも、
先ほどの様に、恐慌状態の陥る事は無かったわ。
本当は自分が人を殺した事に、押しつぶされてしまいそうだったでしょう。
でも、結果として救った命があった事を教えたかった。
だから、私は彼の肩を優しく叩いて、こう言ったわ。
「……ありがとう、助けてくれて」
そう言って私はできる限りの笑みを彼に見せた、たぶんその事が当時の一刀には救いだったのね。
「……あり、がとう」
そう言って、力無く眼をつむって眠ったわ。
彼が眠ると、この夜道を歩くのは危険と判断した母様が、彼の寝床にお邪魔する事にしたわ。
でもその翌日、一刀が自分が山賊を殺した場所に行った事にはさすがに驚いたわ。
其処は昨日と同じ真っ赤になっていた。
時折、彼が口元を押さえているのが見えた。
恐らく押し出されそうな胃の中の物を、気力で押さえ込んでいる、そして自分の手で穴を掘る。
野党たちの人数は覚えていないみたいで、大きな穴を一つ掘って其処に全部埋めていたわ。
そばで見ていた私は、苦しそうな少年の姿に、何度も止めようと思った。
だが、其れを母様がさせなかった。
そんな事をしてしまえば、この少年はこれ以上成長しないと言ったからだ。
そうしている内に時が経ち、其処にあるのは、全て埋め終わり手を合わせて祈る一刀の姿だった。
「なぜ、祈って居るの?」
「只の誓いです。 ……死してしまえば、善人も悪人もただの骸と魂だけ。
ならば俺は、"俺の奪った魂"と、そいつ等に"奪われた魂"もこの背に背負う事にしました」
埋め終わった後、一刀は私達の方に向き合った。
その表情は、まだ青いけど昨夜より随分とましだったわ。
「ありがとうございました。 貴女方の御蔭で俺は、少し成長できたかもしれません」
「ええ、貴方の姿を見て私も、この娘も成長できたと思うわ。
じゃ、私達はそろそろ帰るわ。 心配する者も居るしね」
そう言って、踵を返す母様に私は付いていく。
と、不意に一刀が待ってと声を掛けてきた。
「俺の名は孫江、字は王虎。 そして、俺に道をくれた貴女に俺の真名、一刀を……どうかお受け取りください」
そう言って、握拳の礼をとっていた。
「ふふ、そう。 私の名は曹嵩、字は巨高。 真名を名乗られて返さないわけには行かないわね、真名は華南よ」
「母様が許すのなら、私も良いわ。 私は曹操、字は孟徳。 真名は華琳よ」
私達二人の名前に、驚いたような表情を見せていたけど私たちはそのまま歩いた。
そして少し歩いた後、私達は振り返り、こう言ったの。
「私達は許昌に居るわ。 また会いましょう。 一刀君」
「ばいばい、一刀」
「……はい!」
「……っていう出会い方だったわけよ」
「……なんとも、不思議な縁があるものですね」
私の話を最後まで聞いて、秋蘭は真剣な表情でそう言った。
「さて、話し過ぎたわね、もう寝ましょう」
「はい、華琳様」
月も真上にあったのが大分傾きはじめている。
寝不足のまま、明日の仕事に就くわけにもいくまいと、私は秋蘭を抱き枕にしてそのまま眠りに就いた。
「(ふふふ、どんな大物になったのかこの目で見てあげるわ、一刀……)」
来るべき再開の日を待ち遠しながら。
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ちわっす!
タンデムです!
前回の続き、中編でございます!
華琳様はいかにして一刀と会っていたのか?
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