No.178505

猫恐怖症―夢落ち編―

猫音子猫さん

猫と私と白衣の天使

2010-10-16 01:38:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:758   閲覧ユーザー数:753

 

 私は猫が嫌いだ。

猫恐怖症とでも言おうか。

すぐそばを横切るだけでもひいひい言うほどだ。

みんなの嫌う虫や爬虫類はなんともないのだが、猫にだけは恐怖を覚えてしまう。

 

 そんな猫恐怖症が災いしてか、昔から猫を見るとつい手をあげてしまう。

もちろん、猫に悪い個所など一つもない。

何かあるとすれば、猫が猫であるということだ。

 

 ある晴れた日。

外を歩いていると、前から猫がやってきた。

私はとっさに落ちていた木の枝を拾い、猫に投げつける。

猫は当然のように物影へと身を潜めた。

私が覗きこむと、猫のほうもこちらを見ているようだった。

さっさと逃げればいいものを、と更に木の枝を投げつけた。

 

「にゃん!」

 

猫が声をあげ奥の方へと走っていく。

それを見ると、私は安堵したかのように溜息を吐いた。

いざ歩き出そうかという時だ。

十字路を曲がった車に激突し、倒れてしまった。

 

「大丈夫ですか!」

 

この声を最後に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 次に覚えているのは、病院の中。

看護婦さんが、横でかちゃかちゃと器具をまとめていた。

 

「おはようございます。体調はいかがですか?」

「大丈夫です……」

「突然のことで驚いたでしょう。まだ傷が治りきっていませんので、しばらく安静にしていてください」

 

……そういえば、頭が少し痛い気がする。

 

「体調がすぐれない場合は、このボタンを押していただければナースが来ますので」

 

そう言い残した看護婦と入れ替わって、一匹の猫が入ってきた。

 

「きゃあ!」

 

思わず声をあげた。

病室内には私と猫以外いないようだから、気がつく者もいなかった。

猫は段々と近づいてきて、ついには私の座るベッドに乗っかってきた。

……あの猫だ。

あの猫だ、と分かったのは、背中のぶち模様が特徴的だったからだ。

何ともかわいらしいハートマークが背中に浮き出ている。

しかし、猫だ。

猫なのだ。

可愛くとも何ともない。

 

 

 

「あっ」

 

体調がすぐれないわけではないが、これは猫恐怖症な私にとって緊急事態だ。

私は猫に目をやりながら、ボタンを押す。

これでじきに人がやってくるだろう。

 

「どうしましたか?」

「猫が……」

「あぁ!可愛い猫ちゃんですね」

「はい、足が痛むので下に退けてくれませんか?」

「はい、いいですよ。ほら、こっちおいで」

 

数秒でやってきた白衣の天使により、猫はすぐさま撤去された。

 

「おい人間」

 

……はずの猫がなぜここにいるのだろうか!

 

「あんた怪我してるの。」

「そう! だから出て行って!」

 

猫はにやりと笑った。

 

「……あん時、俺も足動かなくってね。不自由したよ」

 

 てな夢を見るほどに猫が嫌いだ。

 

 


 
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