私は猫が嫌いだ。
猫恐怖症とでも言おうか。
すぐそばを横切るだけでもひいひい言うほどだ。
みんなの嫌う虫や爬虫類はなんともないのだが、猫にだけは恐怖を覚えてしまう。
そんな猫恐怖症が災いしてか、昔から猫を見るとつい手をあげてしまう。
もちろん、猫に悪い個所など一つもない。
何かあるとすれば、猫が猫であるということだ。
ある晴れた日。
外を歩いていると、前から猫がやってきた。
私はとっさに落ちていた木の枝を拾い、猫に投げつける。
猫は当然のように物影へと身を潜めた。
私が覗きこむと、猫のほうもこちらを見ているようだった。
さっさと逃げればいいものを、と更に木の枝を投げつけた。
「にゃん!」
猫が声をあげ奥の方へと走っていく。
それを見ると、私は安堵したかのように溜息を吐いた。
いざ歩き出そうかという時だ。
十字路を曲がった車に激突し、倒れてしまった。
「大丈夫ですか!」
この声を最後に私の意識は途絶えた。
次に覚えているのは、病院の中。
看護婦さんが、横でかちゃかちゃと器具をまとめていた。
「おはようございます。体調はいかがですか?」
「大丈夫です……」
「突然のことで驚いたでしょう。まだ傷が治りきっていませんので、しばらく安静にしていてください」
……そういえば、頭が少し痛い気がする。
「体調がすぐれない場合は、このボタンを押していただければナースが来ますので」
そう言い残した看護婦と入れ替わって、一匹の猫が入ってきた。
「きゃあ!」
思わず声をあげた。
病室内には私と猫以外いないようだから、気がつく者もいなかった。
猫は段々と近づいてきて、ついには私の座るベッドに乗っかってきた。
……あの猫だ。
あの猫だ、と分かったのは、背中のぶち模様が特徴的だったからだ。
何ともかわいらしいハートマークが背中に浮き出ている。
しかし、猫だ。
猫なのだ。
可愛くとも何ともない。
「あっ」
体調がすぐれないわけではないが、これは猫恐怖症な私にとって緊急事態だ。
私は猫に目をやりながら、ボタンを押す。
これでじきに人がやってくるだろう。
「どうしましたか?」
「猫が……」
「あぁ!可愛い猫ちゃんですね」
「はい、足が痛むので下に退けてくれませんか?」
「はい、いいですよ。ほら、こっちおいで」
数秒でやってきた白衣の天使により、猫はすぐさま撤去された。
「おい人間」
……はずの猫がなぜここにいるのだろうか!
「あんた怪我してるの。」
「そう! だから出て行って!」
猫はにやりと笑った。
「……あん時、俺も足動かなくってね。不自由したよ」
てな夢を見るほどに猫が嫌いだ。
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猫と私と白衣の天使