「黄巾党だと?」
男は椅子に座ったまま怪訝そうな顔をする。
「はっ、数は三万ほど。如何致しますか?」
「ここに向かってきておるのは間違いないのだな?」
「はっ、このまま行けば二刻後にはこちらに着きます」
「ふむ」
男は椅子に深く腰掛けると何かを思案し始めた。
ここは益州の刺史がいる城。
その中の最高権力者がいるのは玉座の間だった。
「討ちに行く」
男は邪な笑みを浮べ兵に命令を下す。
“向かってくる黄巾党を殲滅せよ”と。
「はっ、ですが、よろしいのですか?数は我が軍よりも多いのですが」
命を受けた兵は少し戸惑っている。
この刺史の軍の数はどうがんばっても二万。
対する黄巾党は三万。
数が全てではないが兵数の時点で勝負が決することもある。
「黄巾党は所詮、賊の集まりでしかないのだ。そんな烏合の衆はこちらから少しでも反撃をすれば逃げるのは必至だろう」
男はまたもや邪な笑みを浮べる。
「なるほど。御意に」
兵はそれだけ言うと玉座の間から出て行こうとする。
「待て。貴様は初めて見るな、新兵か?」
兵は振り返り姿勢を正す。
「はっ、この度、配属になりましたっ!」
新兵らしく大きな声を出して緊張した様子だ。
「そうか。うむ、民ためにがんばってくれ」
「御意に」
それだけを言うと兵は玉座の間を後にする。
兵が去ったのを確認した男は笑みを浮べる。
「正義感に強いバカは扱いやすくてよいな」
刺史は玉座で1人、笑っていた。
玉座の間を後にした兵は命の内容を変えて軍に伝えていた。
“籠城を行う。刺史様は万が一のことを考え裏門から街を離れる。食料は裏門付近に準備をしておくように”
だが、兵達はこのことを全く疑問に思わなかった。
逆に“やっぱりな”という空気が漂っていた。
「使えそうな兵は沢山いるのに、これじゃあ、宝の持ち腐れだ」
命を伝え終わった兵は裏門のところに向かっていた。
兵が裏門に着くと百人くらいの人が集まっていた。
全員、兵と同じ格好をしている。
そこに食料を乗せた荷車がやってくる。
兵は他の者に目で合図する。
すると、荷車を押していた兵達に何か言って押すのを交代した。
押してきた兵が城に戻るのを確認すると後から裏門に来た兵が命令を出した。
「これより、黄巾党の本隊へと戻る」
兵達は裏門から出て行くのであった。
「どういうことだ?」
刺史は苛立ちながら報告を聞いていた。
「はっ、状況を確認してはいますが未だに分かっておりません」
刺史が苛立っている理由。
それは3つ。
1つ目は黄巾党の行動。
黄巾党が刺史の予想に反して街に近づいたら反転しどこかに去ってしまったのだ。
2つ目は食料が無くなったこと。
正確に言うならば何者か達が奪っていったようなのだが。
3つ目に竹簡がいくつか紛失していること。
竹簡というのは主に賄賂や汚職について書かれてあるものが無くなっていたのだ。
「すぐに探し出せっ!!食料や黄巾党は後でよいっ!!」
「はっ」
兵はそのまま、玉座の間を出て行く。
1人になった玉座で刺史は考え始める。
誰が何の目的で行ったのかと。
今の刺史には報告しに来た兵が先ほどとは違う人物だったことに気づく余裕すら無い。
「予想よりかなり多く貰えたぞ」
一刀は龍盟と共に天和達が集まっているところへ近づいていく。
「あ、おかえり」
天和がいち早く声を掛ける。
「それでどれくらいだったの?」
人和は何より成果を訊いていた。
「あれだけで10日は確実に保てる」
「そんなに!?」
声を上げたのは地和だけだが全員が驚いていた。
黄巾党の本隊は三万人。
それが10日間は保つ、というのだからその量は凄いものだった。
「逆に言えばそれだけあの屑が民に暴政を行っていたということになる」
「・・・・・・」
この一言に場の空気は重くなる。
「ま、それももう少しだけどな」
「どういうこと?」
一刀が楽しそうな声をしていたので人和は理由を尋ねる。
「ついでにこんなのも手に入れてきた」
一刀は懐から刺史が持っていた竹簡を取り出した。
最初はそれが何か分からずに首を傾げていた人和達も内容を読んで驚く。
内容は刺史が行っていた賄賂や汚職に関するものだった。
「確かにこれがあればあの刺史は潰れるわね」
人和は未だに驚きながらも一刀の言葉を理解する。
だが、世の中にはそれだけでは理解できない者もいる。
「そっか、それで王朝に刺史を変えろって言うんだね!」
天和がなるほどと満足した様子で見当違いな答えを言う。
一刀は苦笑い。
人和はため息をつく。
「姉さん、もう少し考えてみてよ。もしこの竹簡が王朝に渡ったとしても王朝の役人はその竹簡で脅してあの刺史からしぼれるだけ財産をしぼるだけ。民の暮らしは全然、良くならないわ」
天和は人和の指摘に納得したのか左手の平を右手の拳でポンと叩く。
「じゃあ、どうするの?」
「簡単よ、この竹簡を善政を行っている近くの勢力に渡せばいい。あとはその勢力が竹簡を使ってここも領地にしてしまうわ」
「そうなの?」
完全には理解できなかったようだ。
一刀は頭を抱えながら尚も理解しようとしている天和を見ながら笑っていた。
「でも、良くこんなのが手に入ったわね」
「ああ、刺史の部屋に置いてあった」
一刀の言葉に人和は固まった。
「・・・・・・それって、一番警備が厳しいところじゃないの?」
「あんなんで警備が厳しいとか言ったら他の人の下で警備している人に悪い」
一刀は至極まじめな顔で返しましたとさ。
今回の一刀達の作戦は至って単純。
敵軍に潜入。
後は好きなように命を軍に出すだけで良かった。
通常は軍に入ってすぐには地位などは無い。
だが、あの刺史の軍は簡単だった。
軍の編成を管理している文官に金品を渡して地位を上げてもらったのだ。
命を伝える役に抜擢されれば後は簡単。
命だと言って適当なことを伝えた。
しかも、刺史の人柄を十分に兵達が知っていたこともあり一刀の無茶苦茶な命も信じていたのだ。
その為、一刀達は全く苦労することなく食料を確保したのだ。
ただ、あれだけの量になるとは一刀も予想していなかった。
『懺悔室』
えっと、まずはすみません。
前回からかなり間がありました。
理由はどんな話にするのか非常に悩んでおりました。
べ、別に他の作者様の作品を読みふけったり、モンハン3rdの体験版に没頭していたわけでは御座いません。
さて、今回はぶっちゃけ読まなくても大丈夫かなぁって話です。
一応、一刀達が入ってからやってたことを知って欲しかったので書きました。
これから本格的に物語に入ります。
少しでも興味を持って頂けたなら幸いです。
それではここまで見て下さった皆様に多大なる感謝を!!
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この前の更新からだいぶ間がありましたね・・・
それなのにこれだけの量・・・
自分の文才のなさに絶望します・・・
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