No.176961

学園祭をあなたと一緒に

戯言使いさん

どうも、戯言使いです。TINAMI学園祭ということで、普段は恋姫の2次制作を作っていますが、今回はオリジナルにチャレンジしました。

どうか、よろしくお願いします。

2010-10-07 21:39:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4118   閲覧ユーザー数:3511

 

 

 

「クレープはいかがですかー!」「射的やりませんかー!」「お化け屋敷面白いですよー」

 

 

 

 

 

賑やかな客寄せの声が微かに聞こえてきた。

生徒が何週間も前から準備をし続けた成果が今日、初めて人目に触れるのだ。精いっぱい頑張ってほしい。

 

 

「ねぇ、君はどうしてこんな所にいるの?」

 

「美月さん。その言葉をそのままそっくり返しますよ」

 

「私はあれだよ。賑やかなのが嫌いだから」

 

「僕も賑やかなのが嫌いなんですよ」

 

目の前で机に座っている美月さんに答えた。

 

美月さんは小さく笑って「嘘」と呟いた。

 

僕が居るのは本来立ち入り禁止になっている三階の教室。本来なら、鍵が閉まって入れないはずなのに、なぜか鍵を持っていた美月さんのおかげで、僕は美月さんと学園祭をサボって仲良くお話をしていた。

 

「・・・暇だね」

 

「なら、しりとりでもしましょうか?それともじゃんけん?」

 

「じゃんけんにしようか。負けたら窓から飛び降りるってのはどう?」

 

「いいですねー、学園祭初日に自殺者が出たとなったら、きっと生徒たちのトラウマになりますよ。学園祭と聞いただけで鬱になります」

 

「あはは、それじゃあしようか。私はグ―を出すから、君はチョキを出してね」

 

「いいですよ。じゃんけん」

 

 

 

 

ぽん

 

 

 

 

 

結果は美月さんはパーで、俺もパーだった。

 

 

「美月さんは嘘つきですね」

 

「君に言われたくないねー」

 

あはは、と美月さんは可愛らしく笑った。

それに対して僕は笑わない。

 

「折角の学園祭なのに、君は行かなくてもいいの?君のことだから、クラスメイトや追っかけとか、色々と女の子からアプローチを受けてたんじゃないの?」

 

「興味ありません。僕が一番アプローチかけて欲しい人がここにいますから」

 

「あらあら、私、誘われてるの?」

 

「勘違いしないでください。僕が美月さんを誘っては意味がありません。美月さんが僕を誘うことに意味があるんです」

 

「ずいぶん強気な草食系男子ね」

 

「ずいぶん弱気な肉食系男子です」

 

美月さんは「ふふっ」と笑って、髪をかきあげた。

 

 

何度見ても綺麗だ。何処か、どうして、と理由を求められたのなら、僕はきっと「美月さんだから」と答えるだろう。

 

入学式で出会って以来、初めて同じ教室で出会って以来、初めて会話をして以来、進級しても同じ教室で出会って以来、とにかく僕は美月さん惚れていた。

 

「君はクラスでも人気者じゃん。それに格好いいし、女子生徒の間で人気だったよ?」

 

「知ってます」

 

「私なんかと一緒に居たら、きっと変な噂が流れちゃうよ」

 

「実はそれが僕の狙いです」

 

「ほほぅ、なかなかの策士だね」

 

「そうです。だから、僕に好かれたのが運の尽きです。素直に降参して僕を学園祭デートに誘ってください」

 

「んー」

 

「それとも「さぁ、二人っきりの学園祭を始めよう」と言うことで、二人でこの教室で妄想の学園祭を楽しみますか?僕は一向に構いませんよ」

 

「この教室を出れば本物の学園祭してるのに、なんで妄想の学園祭なんてしないといけないのさー」

 

「美月さんと学園祭を回れるなら、妄想であろうと何でもいいです。僕にとっては、美月さんのいない学園祭なんて、ごはんのないお寿司みたいなものです」

 

「お刺身だけでも美味しいよねー」

 

「僕個人としては、午後から野外ステージでバンドのライブがあるので、早く美月さんと一緒にデートしたいのですが」

 

「ライブ見に行くよ。しかも最前列で声援送ってあげる。だからそれで許して?」

 

「駄目です。あ、そうだ。美月さん。美月さんがデートに誘ってくれないと、僕はライブに出ません。どうです?美月さんのせいで僕がライブに出れないんですよ?」

 

「ついに自分自身を人質にしたか」

 

「デートに誘ってくれないと、美月さんの盗撮生着替え写真をばら撒きますよ」

 

「それは困るけど、それ以前に君は警察に捕まるよ」

 

「僕が美月さんの心を盗んだからですか?」

 

「盗撮と痴漢だよ」

 

「いやだなー、もちろん盗撮なんてしていませんよー」

 

「目が泳いでいるよ」

 

「僕の両目はオリンピック目指して特訓中なんですよ」

 

「そっか。頑張りたまえ」

 

 

そう言って、美月さんは机から降りて、テクテクと教室のドアへと歩いて行った。そして、ドアの前で立ち止まると、僕に振り向いた。

 

「そうだ。言い忘れてたけど、別に私は君が嫌いだから断ってるんじゃないよ?」

 

「もちろん、知っていますよ」

 

「でも、君と私じゃ釣り合わないよ。それに周りが許さない。君、人気者だもん」

 

「周りが許してくれたらデートしてくれるんですか?」

 

「そうだねー、君が卒業したら考えておくよ。それまで君が私のことが好きだったら」

 

「なるほど、つまり卒業したら結婚ですね」

 

「ふふ、プロポーズは君からしてね。私は灰を被ってお掃除してまってるから」

 

「当然ですよ。ガラスの靴を持って会いに行きます」

 

 

最後に美月さんは「ライブ、楽しみにしてるよ」と言って、教室から出て行った。

 

 

 

 

 

出ていく彼女を後から眺めることしかできない僕に出来ることは、せめて彼女の期待にこたえることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、僕は野外ステージで歌っていた。

 

約束通り、美月さんは最前列で見ていてくれた。周りの生徒は僕と一緒になって飛び跳ねていたが、美月さんは静かに微笑みながら僕の歌を聞いていた。その大人な振舞いが彼女の魅力の一つだ。

 

 

 

 

「みんなありがとー!」

 

 

 

 

「「きゃーーーー」」

 

 

 

 

「お、いいねいいね!盛り上がってるね!今日は学園祭!男も女も後輩も先輩も先生も、みんなみーんな何もかも忘れて盛り上がろうぜ!!」

 

「「きゃーーーー」」

 

「それじゃあ、次の曲に行くよ!」

 

僕が目線で合図を送ると、伴奏がはじまる。

 

その音楽に合わせて、僕は盛大に体を揺らして歌い始める。

そんな僕に合わせるように、みんなが掛け声をあげてリズムを取る。美月さんも周りのムードに誘われてか、恥ずかしそうに手拍子を送ってくれる。

 

 

 

 

 

―――その手拍子だけで、僕はいつもの歌に力がこもった気がした。

 

 

 

 

 

手拍子が聞こえない。でも、確かに僕に向けて手拍子を送ってくれている。聞こえるか聞こえないかそれは問題じゃない。彼女が手拍子をしてくれている。その事実だけで、充分だ。

 

曲もラストのサビに入り、観客の生徒たちの盛り上がりも最高潮を見せていた。

 

その歓声を体に受けながら、僕は最後に

 

 

 

「ありがとー!」

 

 

 

 

と叫んだ。

 

 

「さて、みんな楽しんでくれたかな?寂しいけど、僕たちのライブは次が最後の曲」

 

「「やだーーーー!!」」

 

「あはは、やだーって子供みたいだね。でも駄目だよ。他にもイベントはあるんだから。まだまだ、学園祭はあるんだから。みんな!学園祭は楽しい!?」

 

「「たのしーーーー」」

 

「そっか!よれはよかった!でも、僕はいまいち楽しくないんだー!だって、ほら!そこに座ってる人が盛り上がってないんだもの!」

 

と、僕は美月さんを指刺した。

 

 

当然、生徒たちの視線が美月さんに集まり、そして美月さんも突然のことに驚き、戸惑っている。

生徒たちはそれぞれ目配りをすると、いたずらな笑みを浮かべて、美月さんを立ち上がらせて、僕のいるステージの前へと連れて来てくれる。

 

美月さんは笑いながら「やめてよー」と言いながらも、素直に僕の傍にへと来てくれた。

 

「ほら、捕まって」

 

手を差し伸べた。

 

「・・・・君は嫌な人だね」

 

美月さんは恥ずかしそうに笑いながら、少し唇を尖らせた。

 

「嫌な人でもいいです。ほら!」

 

僕は強引に手を掴むと、力いっぱい引っ張って、美月さんをステージに上がらせた。

周りからは温かい笑い声が聞こえた。

 

「みんなー!突然だけど、僕は重大な告白をしたいと思います!聞いてくれますか!?」

 

「「なーにー!?」」

 

観客のノリがいい。助かる。

 

となりの美月さんは、まさか、と言う表情で僕を見つめている。

 

僕は美月さんに向き直るを、僕は大きく息を吸って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美月香苗先生!大好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、叫んだ。

 

「入学式の教師紹介の時、一年生のクラスの担任になってくれた時、初めて会話した時、僕は貴方に恋をしました!大好きです!」

 

僕の声が、野外ステージを超えて、学園中に響き渡っているのが分かった。どうだ。これでもう僕の気持ちを知らない人はいない。今更先生と生徒と言う立場を気にしていても、もう遅い。逃げ道はもうない。

 

美月さんは顔を真っ赤に染めて、照れたように俯いていた。

 

「君は本当に嫌な生徒だよ。先生なのに、さん付けで呼ぶし、それに勉強の相談があるって呼び出して、ただ雑談したり、本当に嫌な生徒だ」

 

「それぐらい本気なんですよ」

 

美月さんは「はぁ」とため息をついた。

 

周りからは「せんせー、告白の返事はー?」と茶化すような声が聞こえてくる。それに美月さんは顔が真っ赤なまま「こら!」と叱っている。

 

「先生」

 

僕は持っていたマイクを先生に渡した。

 

「えっと・・・・」

 

「返事、ください。返事を言わないと、ライブが終わりませんよ」

 

「・・・まったく、人質を取るのがうまいね」

 

先生は呆れたように笑うと、マイクを持って、そして大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭二日目。

 

僕は初日と同じように教室でボーっとしていた。ただ初日と違うところは、美月先生が居ないことだ。

 

しばらくボーっとしてると、ドアが開き、美月先生が入ってきた。

 

「こら、不良生徒。学園祭に参加しなさい」

 

「ごめんなさい。美月先生。僕、一人じゃ怖くて出店を周れないんです」

 

「しょうがないわね、先生が一緒に周ってあげるから、一緒に来なさい」

 

「わーい。美月先生ありがとー」

 

「・・・」

 

「あれ?先生どうしたの?」

 

「・・・二人きりの時は

 

 

 

――香苗

 

 

 

 

って呼んで?」

 

 

「二人きりの時だけ?どうせ、全校生徒分かってるんだから、今度から授業の時も呼び捨てにするよ」

 

「馬鹿!恥ずかしいじゃない!ただでさえ、ライブであんな恥ずかしいこと言わされたのに・・・」

 

「あはは、香苗さん」

 

「何?」

 

「好きです」

 

「・・・・私もよ」

 

 

恥ずかしそうに手をつないでくる香苗さんの手を握り返して、僕たちは教室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――初日よりも、客寄せの声が大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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