この小説は、北郷一刀、呉の主要キャラほぼ全てに
いろいろな設定を作っていますので、キャラ崩壊必死です。
その点を踏まえて、お読みください。
『何よつまんないわねぇ……』
「本当につまらんのぉ……」
『あ、貴女達は……』
ある三人は暢気に話しているが、一応戦場。
しかも、現在もその真っ最中。
山間部での戦となり、しかも直ぐ横には激流の流れる谷がある。
普通は足場が悪く、体力の消耗や士気の低下を及ぼすような場所にも拘らず、孫呉の兵達はすいすい進んで行く。
当然といえば当然、一刀の地獄の様な訓練で散々山の中を走らされた、
彼らの足は少し足場が悪い程度ではどうと言う事は無い。
そして、終に敵の軍隊が撤退を始めた。
「堅殿! 終に敵が撤退を始めましたぞ!」
「そのようね。 良し! 私と祭と一刀で追撃をかけるわ!!(気のせいだと思うけど、何なの? これは?)」
敵の撤退に気逃すまいと美蓮は祭と一刀を引き連れて、追撃に向かう。
ただ、美蓮は言い知れぬもやが胸の内を渦巻いていた。
「(嫌な感じがする……。 どうして?)」
「(特に不審な点は見られない……なのに、何なの? この胸騒ぎは?)」
その中で、結羽と冥琳は先見の才とでも言おうか、軍師としての勘のような物が二人に胸騒ぎを起こさせる。
「……(どうして嫌な予感がするのかしら?)」
そして、雪蓮も美蓮から受け継ぐ獣の勘のような物で何かを感じ取っていた。
凱は未だ着かない。
そして、もう直ぐ敵軍の殿に食いつくと言う所で森の方からなにやらガサガサと物音がして
「うをぉぉぉっ!!!!」
敵軍が森の中から出てきた。
旗は、黄色い黄の旗。
「(終にお出ましか、黄祖……。)」
そしてそれをみた今まで逃げていた敵が反転。
挟撃をせんと突っ込んで来た。
「っく! なるほど、違和感の正体は是だったのね!」
それを見て、流石に数の利は有るものの兵の錬度では上を行っている為、情勢は五分と言えた。
だが、その状態は放たれた一矢によって崩れる事となる。
「死ね!! 孫堅!!」
「!?」
死角より放たれた黄祖の矢が美蓮の心臓目掛けて飛んでくる。
目の前に集中しすぎていた美蓮は、一瞬だけその対応に遅れた。
そしてそれは祭も同じ。
そして、美蓮は飛来する矢に最早是までと覚悟を決め来るべき痛みに備えた。
ドスッ!!
「……え?」
「がはっ……」
だがそれが、彼女に届く事は無かった。
一刀が我が身を盾として受けたからだ。
「っぐ! 虎哮戰(ここうせん)っ!!」
一刀は黄祖の方に、渾身の氣の奔流『虎哮戰』を打ち込む。
「……!?」
黄祖は、言葉を発する事も叶わず、一刀の気の奔流に飲み込まれ跡形も無く消し飛んだ。
「……………」
そして、支えを失ったかのように一刀は、谷の方へと崩れる。
「一刀!!」
固まっていた美蓮が手を伸ばし、一刀を捕まえようとするが、その手は僅かに及ばず空を掴む。
一刀は、谷の方に消えて行く。
「一刀っ!!!!!!!」
赤い影がそれを追いかけるかのように谷に飛び降り、一刀の左手を掴む。
「ぐっ!!」
反射的に、美蓮は谷に呑まれ行く凱を掴んだ。
だが悲しいかな、片腕だけでは二人の体重を支える力は今の美蓮には残っておらず、
ジリジリと谷の方に引き込まれていく。
「が、い……」
「一刀! 心配するな! 俺が引き上げてやるから!」
「すま、んな……凱、孫呉を……頼んだ……」
一刀は凱が掴んでいる左手の力を抜く。
ズルッ!!
勿論そんな事をすれば、凱が掴んでいるのは一刀のつけている左の籠手だけ。
その籠手から一刀の手が抜ける。
そして、凱の手の中に籠手を残し、一刀は自然の力に逆らう事無く落ちてゆき、谷底の激流の中に姿を消した。
「一刀ーーーーーっ!!!!」
「そん、な……」
「一刀様? ……嘘じゃろ? 一刀様!? 嘘じゃと言ってくれ!!!」
誰もが信じられず、美蓮と祭に関しては、心が折れかけており、兵たちにも動揺が走った。
「くっ……――静まれっ!!!!!」
だが、いつの間にか這い上がって来た凱が、その場に居る者達に渇を入れるように声を張り上げる。
その目の光は、今は居ない人物に似ていた。
「孫江の言葉を忘れたか!! お前等は『孫呉を護る兵(つわもの)』だろう!!」
「!!」
凱のその言葉に、兵たちの動揺が消えた。
「それを今こそ見せてやれ!!!」
「―――っ!!!!」
そして、持ち直した。
「……」
「……」
そして、凱はその様子を呆けてみている二人に近づき。
パンッ!
パンッ!
二人の頬を平手で打つ。
「確りしろ! ……これは、あんた等がやるべき事だろう」
顔を上げた二人が見た物は、彼の頬に伝う一筋の雫。
「凱……」
「お主……」
「美蓮殿、アイツは貴女の義理とは言え、息子だろう?」
二人は凱の発した言葉に、驚きを浮かべざるを得ない。
「貴方、それを何処で!」
「直接あいつの口から聞いた。 その時、貴女みたいに『誇らしい女(ひと)』は居ないと言っていた」
「……」
その凱の言葉に美蓮は口を閉ざし、考える。
果たして今の自分は、一刀にとって『誇らしい女(ひと)』なのかと。
次に凱は、祭の方を向いて言う。
「祭さん、一刀は祭さんみたいな『イイ女』は他には居ないと言っていたぞ」
「……」
祭も考える。
今の自分は、彼にとって『イイ女』なのかと。
折れた心が戻りつつあるのを感じると、二人に向かって言う。
「俺達はアイツに、恥ずかしくないような姿を示そう。 そして信じようアイツは……一刀は、未だ生きてるって」
悲しみはあっても諦めはしていない凱の瞳と言葉に、二人の目に闘志が再び舞い戻る。
「礼を言うぞ、凱」
「凱、還ったら潰れるまで、酌をしてやる」
そう言って、二人は戦場に戻った。
二人が戻ったのを見ると、凱は兵に後軍に一刀の捜索をの命令を出し、その場に膝を折った。
「黄祖は死した! 時は今ぞ! 虎の顎(あぎと)にて噛み砕け!」
「叩き潰すのじゃ! 此処にある全てを!」
持ち直した二人は正に羅刹の様な活躍ぶりを見せ、次々と敵を屠る。
それは、一刀の部隊も同様でまるで、一人一人が将であるかのような獅子奮迅の活躍を見せた。
そして――――。
「皆の者! 鬨の声を上げよ!」
「一刀様に聞こえるように、声を高らかに上げい!」
「――――っ!!!!!!!」
そして、暫くすると、鬨の声が聞こえてきた。
「くそぉっ……くそぉぉぉっ……くそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」
その凱のその魂の叫びは、孫呉の鬨の声に埋もれ、聞いた者は誰も居ない。
鬨の声をあげた後、凱は美蓮達と共に本陣に戻った。
「うそ……」
「……え?」
「っ……」
「……一刀様、が?」
「うしょでしゅ……うしょでしゅよねぇ?」
一刀の事を知らせる為に。
「……本当だ。 是が、そぐっ!」
「あぁ――――っ!!!!」
「雪蓮っ!!」
凱が懐から、一刀の着けていた籠手『白虎覇爪』の左手を出すと、
雪蓮は叫びながら凱を殴り飛ばし馬乗りになって何発か殴った後、凱の首に剣を突きつけた。
「アンタ……何のためにあそこに行ったのよっ!? 私達の制止も無理やり振り切って行ったのに、
何でこんな結果なのよっ!! アンタは……アンタは……っ!!!」
「……」
「雪蓮……」
零れ落ちる物を拭いもせず、震える手で凱に剣を突きつける雪蓮。
そして、言葉を連ねれば連ねるほど、手の震えは……零れる物は多くなる。
後ろから、そっと美蓮が雪蓮の肩を抱き剣を地に置く。
「あ゛ぁぁぁっ!!! ああぁぁあっ! かずとぉ――――っ!」
雪蓮は、まるで赤子のように泣きじゃくりその嗚咽は其処にいた皆の心を表していた。
「その……ごめん。 辛いのは、目の前で助けられなかった凱の方が、悲しみが大きいのに殴ったりしてさ……。」
暫く経つと雪蓮は落ち着きを取り戻し、殴った事を凱に謝った。
「いや、俺だって、同じことしたかも知れんからな。 美蓮殿にされなかっただけでも、儲けもんだよ。」
凱は、そんな雪蓮の言葉を乾いた笑顔で受け止めた。
周りには、その笑顔は痛々しく無理やり作っているのが丸分かりだった。
「話は変わるが、如何してお前は此処に来たんだ? 城を任されていた筈だろう?」
そんな顔をさせたくないとと思い、冥琳は疑問に思っていた事を凱に聞いてみる。
「ああ、一刀から"部屋の掃除"を頼まれていたのを思い出してな。 其処である書物に、詩が載っていたんだ。」
「詩?」
「ああ……」
そして、凱は詩を紡ぐ。
天の定め 白き虎を貫き 虎の郷(くに)は地に伏せる
白き虎 頭を垂れて 力尽きん
されど 瞳に誇りを宿し ひとひら咲かす
親しき友よ 愛しき者達よ
後に続く者達よ 白き虎 遺せる物はただ朧のみ
この身 朽ちとも 我が望み 散らぬ
白き虎 黄泉の畔(ほとり)歩き
皆 未来行きて 喜び謳え
我望みの為 散らぬ
皆嘆く事無く 前を向け
我が行くは 浅き夢見し 永き眠りの旅
最早眠る 我が命 永久に呉の浅き夢見し
去らば 愛しき皆よ 我が鋼友よ
又会わん 我が鋼友よ 愛しき皆よ
「衝撃的だったから、全部覚えてるよ。 しかもよく見た一刀の癖と、筆圧でな。」
「っ!?」
この詩を聞いて皆は、驚きを隠せないでいた。
「そ、それって!?」
「ああ。 アイツは、……一刀は己の死期を予期していたのだと思う」
そして、軍議に参加していた全員があの時の一刀の異変の正体が分かった。
「私が……私が、あの時追及していれば……」
「美蓮殿。 それは、儂等とて同じ。 自分だけを責めなさるな」
そして、その事に自分を責めだす美蓮を祭は優しく宥める。
「そうよ、貴女だけじゃないわ。 それに、還ってその書物のことについてもっと詳しく調べないと。
冥琳、蒼里ちゃん、手伝ってくれるわね?
(何のために、君が此処までする必要があったのか、
如何して己の死を予期できたのか。 絶対見つけるわよ一刀君)」
「分かっているわ (何を我々に、遺したのだ一刀……)」
「はい (一刀様の遺した物には、きっと色々深い意味が有る筈でしゅ)」
其々が、一刀を失った事を悔やみ、兵達全員が悲しみに沈んでいた。
そして、孫呉の軍は勝利と共に『一刀の死』を伝える為、呉の国に帰った。
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