はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です
原作重視、歴史改変反対な方
ご注意ください
空を覆っていた雲が晴れ
東から顔を出した日の光が街の通りに差し込んだ
霧に包まれる街を光は反射し合い虹色に街並みを染める
寝静まっていた…正確には寝静まったフリをしていた人々は家の中から外の様子を窺いながらこの状況に終結が来るのをずっと待っていた
ある者は恐怖に震えながら
ある者は好奇心に心躍らせながら
誰もかもが思う
外で起こっていることは只事ではない
ただの騒ぎではない
幾人もの兵達が怒号をあげ
絶叫し
呻いている
まるで街中で戦が起きたかのように
そしてそれは
朝焼けの光が差し込むと共に
何の前触れもなく止んだ
時折外を覗いていた老人が不意に外の喧噪が止んだことを不思議に思い扉へと手を掛ける
「よしなって親父!」
部屋の奥で布団を被ったままの息子の制止を無視して扉を開けた老人の目に入ってきたのは言葉を失い立ち尽くす兵達の姿
その場にいる誰もが同じ方向を向いたまま
ただ立ち尽くしている
「…なんじゃい?」
首を傾げる老人
その時
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
通り全体に響く地鳴りと揺れ
「こっこれは!?」
先ほどまで響いていた兵達の怒号とも叫びとも違う
足下が崩れ落ちたのではないかという錯覚すら感じるほどに
そして
彼らが見つめる先に
「なんじゃあ!?」
通りの向こうから迫りくる『それ』腰を抜かして尻もちをついた
その目の前を
ドガガガガガガガガガガ!!!!!
黒い巨大な影が地鳴りを上げながら通り過ぎていく
半開きにしていた扉が巻き込まれるように吹き飛び
老人の足先の一寸先が地面ごとえぐり掘られた
「わわわわわ…」
『何』起こったのかまるで理解できない
今まで生きてきた中で見たこともない
獣でもない
人でもない
『形容することができない何か』が目の前を通り過ぎた
かの物が通り過ぎた後は地面が抉られ
深い轍がすうっとどこまでも伸びていた
そして
その『何か』を追うように
ヒヒィィィン!!!!
「今度は…何なんじゃぁ!?」
何騎もの騎馬隊が通り過ぎていく
瞬きも忘れて見入っていた老人の視界に
駆ける騎馬と共に風に翻る
旗が映った
「『董』…じゃと?」
「で…でかい!」
「なんだあれは!?」
「こっちに来るぞ!」
通りを蹂躙正に蹂躙しながら駆けてくるそれに兵達は浮足立っていた
無理もない
幾多の戦場を駆け抜けた彼らですら
『それ』を見たことがなければ
『それ』何なのか知る由もない
唯一つ理解出来ることは
『あれ』自分達にとって危険なものであるということ
慌てふためく兵達の間に聖の怒声が響く
「何をしている!?弓隊構え!」
その声に弓を携えていた兵達は我に返り弓を引き絞った
「馬だ!『あれ』を引く馬を狙え!」
兵達の怒号が飛び交う中を比呂は駆けていた
迫りくる『それ』見た瞬間に全身を駆け巡った緊張
(無謀な…あれが何なのか解らないのか!)
通りの民家の屋根へと登りその向う進路へ走り出す
(あれの性質上、曲がることはない…ただ一直線に『蹂躙』するだけだ)
屋根から屋根へと飛び移り、ひたすらに走る、走る!
「董卓様!進路そのまま!突っ込みます!!」
胡蝶蘭内に巡らされたパイプ伝いに聞こえる許攸の声に月は頷き「やあ!」と鞭を入れた
「両翼、連弩!発射用意!」
「「はっ!」」
「ひっ、比呂さんは!?」
前方へ攻撃を仕掛けんとする許攸の指示に月は思わず叫んでいた
「大丈夫です!民家の屋根に退避しています!」
胡蝶蘭の上部に開けられた物見用の穴から半身を乗り出し
比呂の姿を確認していた許攸が月の震える声に応える
「右翼!装填完了!」
「左翼!行けます!」
馬車の両側から迫り出した連弩の中の砲座手が同時に声をあげ
「てえええいっ!!」
許攸の声に引き金を引いた
バアン!という炸裂音と共に無数の大弓が弾かれ、飛んで行く
その威力は通常の弓のそれを遥かに凌駕し
鎧を砕き
肉を裂き
前列の兵の体を貫き
その後ろの兵の体を食い破り
さらにその後ろの兵へ到達しても尚、留まることをせず
「……っ!?」
遥か後方へと身体ごと吹き飛ばした
「何よあれ!?」
もはや現状が理解できなくなり目を見開き全身を恐怖に震わせる聖
目の前で構えていた筈の兵はその上半身を後方へと吹き飛ばされ
残った下半身だけがその場で血飛沫を上げて倒れこんでいた
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…)
止め処なく吹き出る汗と共に彼女の本能がそう告げる
だが震える脚は進むことも下がることもせず唯その場にへたり込むことしかできなかった
へたり込んだその場に溜まっていた雨水に自身の身体から漏れたものが混じり生温い水が太股を湿らせていく
その間も迫りくる『それ』は一向に速度を落とすことなく
もはや逃げ場もない彼女の眼の前へと到達する
「何なのよ…何なのよこれ…聞いてないわよおおお!」
彼女の甲高い叫びは
馬の蹄と地鳴りに掻き消されていった
(速い!?)
自身が放った連弩で積み重なる幾多の死体を踏み越えて尚も速度の落ちない胡蝶蘭
屋根伝いに走っていた比呂に追いつき並走するその姿に彼は驚愕していた…と
「張郃殿!」
胡蝶蘭の上部に許攸を視界に捉える
「胡蝶蘭を寄せます!飛び移りください!」
此方へと手を振る許攸の姿に比呂は舌打ちをした
(無茶を言う!)
一歩間違えばその身は忽ちにひき肉と化す
だが胡蝶蘭の進路上には尚も兵達がおり、その進行を止めんと矢を放っていた
さらにその先を見れば街の入り口への一本道である通りを封鎖せんと木材やらなんやらを積み上げバリケードを組む姿も見てとれる
既に止まることすら許されない状況だ
(くそ!覚悟を決めるか!)
民家の間を飛び移りながら髪を縛っている布を裂くと両の掌へとグルグルと巻き許攸へ手を振り上げて応える
「董卓様!」
月の座へと繋がっているパイプを掴み指示を出す
「車体を右へ寄せて下さい!」
実は胡蝶蘭は操縦者を矢等の攻撃から身を守るため従者の席は鉄が網目状に囲われており、その視界は前方に至っては殆ど見えていない
故に車体上部に物見が立ち、操縦者並びに砲手へと鉄のパイプを通じて指示が通るように設計されている
指示に従い月は手綱を握る右手をギュウっと引いた
その間も引切り無しに許攸の声がパイプを通じて彼女へと届き
「もっとです!」
「くぅっ!」
前方が見えない上に全速力で駆ける胡蝶蘭の車体は通りの幅と殆ど差がない
しかしながら幼き頃から馬と携わり馬の扱いには慣れている彼女である
その神経をすり減らしながらも絶妙に胡蝶蘭を操作する
「五…四…三…二…一!左を引いて!!」
「はいっ!」
通りを立ち並ぶ民家と人一人が入れぬほどに接近したまま駆け抜ける巨大馬車
そして
(ええいっ!儘よ!)
歯を食いしばり
意を決し
比呂は飛びついた
ガツンと上方からの衝撃に月が短く叫び声をあげたが
「…大丈夫です!無事です!」
耳に届いた声に胸を撫で下ろした
そして安堵したのも束の間に
「さあて…いよいよ最終関門ですよ!」
ようやく見えてきた街の門に舌舐めずりする許攸
その声に月は頷き手綱を強く握り締めた
「豪天砲…発射準備!」
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございます
ねこじゃらしです
どんだけ長いんだこの通りの道はw
書いててキャプ翼のアニメ思い出してましたwww
ともあれ次回で脱出!…の予定
いい加減官渡につかねば
それでは次回の講釈で
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第49話です
月さんまじパネぇっす!って回の予定だったんだが