放課後───。
それは生徒が学校から解放され、各々自由に過ごせる特別(?)な時間。
部活をする生徒、塾へ通う生徒、はたまた遊びに出かける生徒と、放課後の使用用途は実に様々なものであり、またその用途は制限されるものではない(限度はあるが)。
かくいう俺───倉崎栄太は特に部活にも入っておらず、また今日は誰かと遊ぶ予定も無いので真っすぐ家に帰る次第だ。
足取りは軽く、何とも晴れやかな気分で昇降口へ向かう。
途中で「ああ、今日の小テストの出来は最悪だったな!」などと一日のことを思い返すが、それももう過ぎたこと。
今この放課後というその何ものにも束縛、強制されない時間においては、5時間目にあった数学の小テストなどすでにどうでもよいことである。
「ああ、これでやっと家に帰れ……」
あまりの清々しさに独り言など呟いてみようとすると、突如何者かに腕を掴まれて遮られる。
「……なにすんだよぉ」
そう言って俺は今この腕を掴んでいる女子───杉本眞利の方を向いた。
「なにするって……今日から私のバイト手伝いに来てくれるって言ってくれたよね?」
「あー、そういえばそうだったな」
「もう、しっかりしてよ~」
「悪い悪い」
この学校はバイトが自由で、眞利もやってるらしい。
……何のバイトかは知らないけど
それで今日の昼休みに、
「お願い、バイト手伝って!」
「……はい?」
いつも通り眞利と昼飯を食ってる最中、こんなことを言われた。
「実はこの前バイトしてた人が辞めちゃって、その人ウチで唯一の男手だったんだけど、それで今力仕事ができる子いないから」
「ああまあ、別にかまわないけど……」
「本当!?」
「それでいつから行けばいい?」
「えっとね、悪いんだけど今日から早速来てくれない?」
「いいよ」
「やったぁ!」
俺は今までバイトなどしたことがなかったのだが、それは機会が無かったからで別にバイトをするのが面倒だとか嫌だというわけでは無いのだ。
「じゃあお願いね!」
と、いうことがあった。
「あの時はスグ引き受けてくれたのに」
「ほら、やっぱいざとなると若干の面倒臭さが……」
「……嫌なの?」
ああ、またこいつは捨て犬のような目をするし。
「分った! 分ったから!」
「本当!?」
ちくしょう嬉しそうにしやがって!
「よし、じゃあ早く行こう!」
「うわ、ちょ、待てって!」
眞利は善は急げと言わんばかりに俺の腕を引っ張って走り出した。
「ほらほらちゃんと走る!」
「だから待てってば!」
何だかんだで目的地に到着。しかし……、
「……ここ、なのか?」
「そうだよ」
今俺たちがいるのは、とある貸しビルの前。
「ほら、早く入って」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ひとつ聞きたいことがある」
「ん?」
眞利の顔を見るとどうやら本当に俺が何を聞きたいか分っていないようだ。
ならば言葉にするしかない。
「あのさ、前々から聞こうと思ってたんだけど、そもそもお前がやってるバイトって何なんだ?」
「…………」
俺が聞くべきことを聞くと、眞利はその場で凍りついてしまった。
実際俺はこれまで眞利のバイトがいかなるものかを聞くことも無く、
また今日もまさかこんな場所に連れてこられるとは思わず二つ返事で了承してしまったために、
俺はこれからどんな手伝いをさせられるのか予想もつかないのだ。
なので聞くなら、そして引き返すなら今しかない。
そう思い俺はある意味聞きたくなく、また聞かなければ後悔するであろう事を意を決して聞いたのだ。
すると、
「とりあえずついて来てくれれば分るよ」
ニコッ!
満面の笑みである。
ああ、俺にはこの笑みを打ち砕くことなど例え己の命と引き換えになろうとも出来そうもない。
ちなみにそれは良心が痛むからであって、俺が眞利に特別な感情を抱いてるなんてことは一切ない。
そこのところ間違えないように。
「……分ったよ、ついて行けばいいんだろ」
「そうそう、素直でよろしい」
そして眞利は何事も無かったかのようにスタスタと貸しビルの中へ入っていく。
全く、このお人よしさ加減には我ながら呆れるな。
ついに眞利のバイト先である店の目の前たどり着いた。
恐らく今から全力で走って逃げればほぼ100%逃げ切れるだろう。
だが、そんな事をしようものなら確実に眞利に口をきいてもらえない可能性が高い。
……いや、別にそれはいいんだ、本当に別にいいんだよ。
ただやっぱり逃げたとなると俺としても後味が悪いわけで。
と、脳内で独り相撲をやっていると。
「ちわーっす! 男手連れてきたよー!」
眞利が颯爽と店に入って行ってしまった。
一瞬で覚悟を決め、俺も後を追うようにして店に入る。
そこにはすでに他のバイトの子が来ていたようで、俺の視界に入ってきた。
すると……。
「………………………………」
そこで俺に長い長い沈黙が訪れる。
うん、少し状況を整理しよう。
Q.今俺の目の前にいる女の子はどんな格好をしている?
A.ナース服
Q.ではここは病院か?
A.違う
Q.ではここはどこだ?
A.眞利のバイト先だ
Q.……では、そこから導き出される結論は?
「イッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!」
「きゃあ!」
俺は某和風RPGに出てきて事あるごとに壺を投げ割る陶芸家よろしく叫び声をあげた。
「イカン! 全くイカンなぁ! まさかバイト先が風俗店だったとは!」
「はい? 風俗店?」
「しかもコスプレしてお出迎えか? 随分趣向の凝った店じゃないか、本っ当にイカンなぁ!」
「えっと、それ勘違いだからね?」
「……え?」
俺は一瞬固まる。
「別にここ風俗店じゃないからね。まあ大阪に同じ名前の風俗店があるらしいけど」
「じゃあ、ここは……?」
俺がそう聞くと眞利はスッと胸を張り、そして声色高々にこう言った。
「ようこそ、コスプレ喫茶ナースカフェへ!!」
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気まぐれに書いているノベルゲームのOPが流れるまでをあげてみる。以降もあげる可能性あり。