この小説は、北郷一刀(と思春と華陀)にいろいろな設定を作っていますので、キャラ崩壊必死です。
その点を踏まえて、お読みください。
一刀が任務から帰ってきて1月、
護衛をしてやっていた、太守には人売りの動かぬ証拠を突きつけて美蓮が持っている、
粛清権を施行して、太守を追い出した後街を呉の勢力に加えた。
街も平和となり、新しく入った思春やその部下達も孫呉になじんできたころの事だった。
そんなある日----。
「…………」
「…………」
雪蓮と一刀は静かに中庭で対峙していた。
雪蓮は得意の剣を持ち、対する一刀は籠手をしているだけだが、彼はいつも是なので心配は無いだろう。
「はぁぁっ!!」
先に仕掛けたのは雪蓮だ。
殺気とともに、迷いの無い兜割りを繰り出す雪蓮。
一刀は切りかかってくる雪蓮の攻撃を左前に進んでかわし、去り際に足を引っ掛けてやる。
「きゃっ!」
「足元がお留守だぞ、雪蓮」
そして振り向き、余裕の笑みを浮かべて前からこけかけた雪蓮の後姿を見る。
「っく! なめないでっ!」
今度は、振り向く力も利用した横凪の攻撃を繰り出すが、
視界に捕らえていた相手は突如として消え去り、斬撃は空を斬る。
そして、雪蓮の後頭部に一刀の人差し指が当たる感触が伝わるのも遅い話しではなかった。
「参ったか? 雪蓮」
後ろを取られて、寸止めされていれば、言う事は一つしかない。
「はぁ、参りましたぁ。 もぉ、今度こそ、参りましたって言わせてやろうと思ったのにぃ!」
そう言って、両手を挙げる雪蓮に一刀は手を下ろし、雪蓮はその場にへたり込んで悔しがる。
「先ずは、一勝と言う所かしら。 次は私の相手をしてもらうぞ?」
へたり込んでしまった雪蓮を回収した後、先ほどから見ていた観客の一人だった冥琳。
今は、愛用の鞭を持ち、一刀と対峙した。
ことの始まりは、一刀が新顔達(思春、凪、真桜、沙和)に訓練をつけてやっている時、雪蓮たちが乱入して来て、
彼女達だけでは、不公平だから自分達も手合わせをさせろと言って結局みんなが集まって来たのだ。
まぁ、一刀にしてみれば力の差が歴然としている為、余り大した違いは無いので、快く了承し
雪蓮相手に圧勝して現在に至るという訳である。
「行くぞっ!」
手にした鞭で、一刀を狙って振るう。
対する一刀は、避けるそぶりも見せず、その場に立ったまま、鞭を手で掴んだ。
鞭は、軽いため剣より速度が速いのにそれを掴んだとなると、恐るべき動体視力と言えよう。
「おりゃっ!」
「なっ!?」
そしてその鞭を、力任せに引っ張り冥琳の手から奪い取る。
「いくぞ? 冥琳っ!」
「くっ!」
冥琳に向かって走って行き、ぐるぐると冥琳の周りを旋回し、その鞭でもって縛り上げた。
「一刀、何でこんな縛り方なんだっ!」
何故か、縛り上げたとき亀甲縛りになっていたのだが……。
「ん? 俺の趣味。 俺も男の子な訳だよ、冥琳くん」
「だからって是は無いだろう……んっ! ま、まいったからこれを解いてくれ!」
その姿はとても扇情的で、色々な部分が強調され、鞭が喰い込んで冥琳も顔を紅くしていた。
「解いてくださいだろ? 冥琳?」
「く! 後で覚えておけよ一刀……と、解いてください……」
そしてその状態で、態々鞭だけもって冥琳を持ち上げるものだから、
冥琳は艶の混じった声をかみ殺しながら、一刀の言う事を聞くのだった。
ちなみにその様子を見ていた、周りの観客達は……
「鬼じゃのぅ。 (閨の中でも、正しく鬼神じゃが。)」
「さっすが、私の息子!」
「……(何だか私もして欲しくなって来ちゃった……。)」
「ねぇお姉ちゃん、冥琳おかしくなっちゃったよ?」
「見たらいけません!!」
『……』
「はぁ……お互い苦労するな、冥琳」
まぁ、多くは語らないで置こう。
「所で、何故二人とも人差し指を突きつけられて止まるのでしょう?」
「ああ、そのことか。 おい一刀っ!」
何気なく呟いた思春の言葉に凱は応えるために、掌サイズの石を一刀に向かって投げる。
一刀はそれを受け取り、
「何だ凱?」
「お前の人差し指の威力を見せてやってくれ」
そう言われて、何かを悟ったのか一刀は石を胸の前に持って行き、石の後ろを通すようにスッと人差し指を刺し込み抜く。
そしてそれを凱の方に投げ返す。
凱は帰ってきたその石をみんなに見せる。
『!?』
その石にはくっきりと人の人差し指が入るぐらいの穴が開いていた。
それなのに、石には罅一つ入ってない。
「……凱様、師匠の指って、何で出来ているんですか?」
「心配しなくても普通の指だ。 アレは、氣で指を覆って途轍もない貫通力を生み出してるのさ。
本人は少ししか使ってないつもりで居るが、凪君が使っている氣弾位の氣を圧縮したものを指にまとわせているみたいだ。
俺からしたらどうやったら、それだけの氣を圧縮できるのかが疑問だよ。」
凱の言っている事は理解できる、そして是ができるのは大陸中探しても一刀一人だけだろうと、其処に居た誰もが思った。
閑話休題。
そして、冥琳を皮切りに蓮華、凪、真桜、沙和、思春、結羽と当たるが全て余裕の勝利をし次は祭の番になった。
「あの時以来じゃのう、一刀様」
「だな。 前は師と仰いだ祭姉ちゃんと、今じゃ互角に並べるんだから」
祭は、弓を構え、一刀も拳を握る。
少しばかり静寂の時が流れる。
そして――――、
「行くぜっ! 祭姉ちゃん!」
「来なされっ! 一刀様!」
互いが同時に仕掛ける。
祭は、熟練された弓捌きで一刀に矢を三本連続で打ち込む。
「おっとっ!」
一刀はそれを、サイドステップでかわし、祭に向かって進む。
「まだまだじゃっ!」
祭も、それを見越していたのか、かわした先にさらに矢を1本打ち込む。
だがそれを見て一刀はニヤリと笑い、矢を掴み取り、投げ返した。
「そらっ!」
「くっ! やるのうっ! じゃがまだまだ負けん!」
祭は腰に挿していた二本の鉄鞭のうち1本の柄を握ると、矢を叩き落し弓を背に背負う。
そして、そのまま一刀に突っ込みながらもう1本の鉄鞭も引き抜き、振るう。
ガンッ!!
「くっ!? 流石、孫呉の宿将、虎の右腕は伊達じゃないだぜっ!」
「はっ! 軽々と受け止めておいてよく言うわい!」
氣で身体強化をしているもの同士の戦いは流石に迫力が違った。
祭が鉄鞭を振るえば風が起こり、一刀がそれを受け止めれば彼の足元が沈む。
逆に、一刀が拳を振るえば風を切り、祭がそれを鉄鞭で受け止めれば、体が浮くという苛烈な戦いが起こっていた。
二人は、十数合撃ち合っていたが行き成り祭が距離を取った。
左手の手元を見ると、小さく痙攣していた。
「くっ! なんちゅう拳撃じゃ?! (あと数合も撃ち合っておったら、鞭を手放してしまうわい!)」
そして腕を一度振り、痙攣する腕に渇を入れまた一刀に肉薄する。
「残念、祭姉ちゃん! 俺の氣は身体強化だけじゃないんだ、ぜっ!」
だが、その一瞬空いたせいで一刀に氣弾を作る時間を与えてしまった。
ギュオォンッ!!
「何じゃとっ!?」
ドゴォンッ!!
流石に予想外だったのか、祭は驚愕の表情を浮かべて右に跳んで避ける。
だが、その一瞬で勝負は決していた。
気がつくと、一刀の指先が紙一重で眉間の前にとまっていた。
そのことに、祭は溜息を付いた。
「参った。 儂の負けじゃ」
「ふう。 祭姉ちゃんはヤッパリ強え(つええ)」
「儂を負かしておいて、言う言葉か」
負けたのに、祭は余り悔しそうではなかったのは、惚れた弱みとでも言う奴だろうか?
そして、祭が端のほうに行くの見送っていると、後ろから途轍もない覇氣を感じ、ゆっくりと振り返った。
「さて、今度は私の相手をしてもらうわよ」
其処には、南海覇王を抜刀した美蓮が居た。
「本気なんだな」
そう言うと、一刀も前傾姿勢で両手を交差して指を地につける不思議な構えを取る。
瞬間、美蓮に引けをとらぬ途轍もない覇氣と殺気が一刀から溢れ出す。
この構えは美蓮と祭と結羽以外は見たことのないものだった。
ちなみにこの構えを一刀は『虎伏の構え』と名づけていた。
「……な、何と言う覇氣だ」
「か、体の震えが止まらない」
「せ、センセってこない強かってんか」
「さ、沙和、ちょっと怖いのぉ」
思春、凪、真桜、沙和の新入り4人組は、一刀の殺気に足が竦み、膝が震える。
「はぁ、私達の相手がお遊びだったのが是で一目で分かるわね」
「言うな。 それだけ実力に開きがあるのだから。
まぁ、私は元々武で戦う訳では無いから余り気にならんがな」
雪蓮と冥琳はたまに一刀を相手に訓練をしているため、大きな反応は示さなかったが、
雪蓮は美蓮に向けられた一刀の覇気と殺気に、
〈自分はまだあの本気の一刀と相対する事ができない〉と、
少し悔しそうな視線を向けていた。
『あわわわわ……』
「相変わらず凄まじい覇氣よ……」
「あの二人だけは次元が違うわね」
年上二人は、二人の覇氣に慣れているのか涼しい顔をしているが、
二人の武に夫々が畏敬の念に似たような視線を向けている。
シャオと蓮華に至っては、二人の殺気に充てられ抱き合って震えていた。
そして、一瞬の静寂の後――――。
『はぁっ!!』
両者ともが、同時に相手の間合いに踏み込む。
見た目は武器を持っているぶん、美蓮の方が有利に見えるが、
遠当てができるうえに、氣弾を放てる一刀には厳密には殆ど間合いが存在しない。
故に、美蓮は氣弾を放つ隙を与えぬように一気に間合いを詰める。
「はぁっ!!」
先ずは、美蓮が一刀に向かって南海覇王を振り下ろす。
雪蓮の剣撃などと比ではない速度、威力で繰り出される。
「せいっ!!」
それを一刀は、左に避けて美蓮の手を蹴りつけることで回避する。
普通なら、是で手が折れて剣を手放すはずなのだが、流石は江東の虎。
当たる瞬間に、攻撃方向に手を持って行き衝撃を和らげる。
「くっ……。 何て蹴りを放つのよ」
それでもやはり、強烈な蹴りであるため、剣を逆の手に持ちかえ、バックステップの要領で距離をとる。
「逃がすかよっ!」
だが、一刀はその隙を逃がさず、右手に溜めた氣弾を美蓮に向かって放つ。
「っ!? ちっ!」
祭に投げたモノとは比にならないと速度で向かってくるそれを、美蓮は間一髪左に転がって避ける。
そして、略同時に地面に氣弾が着弾する。
ドゴォンッ!!!
氣弾の爆風で粉塵が舞い、避けたにも拘らず、美蓮は爆風で吹き飛ばされてしまった。
勿論その爆風と粉塵は、離れて見ている他の者達にまで届き、威力の凄まじさは先ほどの比ではないことが伺える。
「アンタ、母親を殺す気っ!?」
着弾した場所が、クレーターのように穴が開いているのを見て、
美蓮が先ほどまで一刀の居た場所を見て悪態をつく。
だが、既に其処には居ない。
「この程度で、死ぬようなら今頃、墓ん中だろがっ!」
「っ!?」
と、突然聞こえて来た一刀の声は、美蓮の丁度真後ろ。
顔だけ振り向くと、一刀の拳が其処まで迫ってきていた。
美蓮は振り向きざまに、横凪に南海覇王を振るう。
ガギィンッ!!
一刀はその剣を逆の手だけでは防ぎきれないと悟り、拳を軌道修正し両手の籠手で南海覇王を防ぐ。
ギギギギィンッ!!
金属同士が擦れ合う音が暫く響き、埒が明かないと思ったのか、両者がどちらとも無く間合いを開ける。
このやり取りがはっきりと見れたのは、祭位のもので、ぼやけながら何とか見えるのが雪蓮や思春
だろう。
祭でも一瞬一刀も見失ったりもしたのだから、他の者達にしてみれば殆ど見えていないだろう。
「(完全に気配が読めなかった……。) やるじゃない、ここまでしてくれた相手は中々居なかったわね。
でも後ろからの攻撃のときに声を上げたのは頂けないわ。」
そう言って、一刀の行動に採点をつける。
「へへっ、それって俺の気配がまったく読めなかったからだろ? だからわざと声を上げたのさ。
今度は声なんて上げないから、意識して俺を見ろよ? じゃないと俺は見つけられないぜ?」
だが対する一刀は余裕の表情で、そう言うとゆっくりと美蓮の方向に向かって歩き出す。
「なっ!?」
すると、どんどん一刀の体が透け始めたではないか。
「言っ……ろ。 い…き…………見ろ……。」
声までぼやけて聞こえてしまい、ついには完全に聞こえなくなってしまい、姿も見えなくなってしまった。
「……(気配も感じれないし、目でも追えない。)」
一瞬の静寂の後、
「♪~。 見えたかな?」
「!?」
ばっと声のした方を振り向き見ると、口笛を吹きながら余裕の表情で笑っている一刀が居た。
唯まっすぐ歩いて来ただけの位置に、しかも足跡が美蓮の横を通るようについているので、
一刀は堂々と、美蓮の死線を横切ったとしか有り得なかった。
何故か祭、雪蓮、冥琳、蓮華、小蓮、結羽、沙和の前にも足跡があったが。
「今のは何? 一刀、妖術にでも手を染めたの?」
美蓮は一刀が本気で妖術にでも手を染めていたら、たとえ愛しい息子でも此処で斬って捨てようと思った。
「ちげぇよ。 種明かしをするとな、俺の氣を周りの空気、地面、草木なんかに同調させたのさ」
そんな雰囲気を悟ったのか、一刀は種明かしをする。
「……嘘でしょ?」
「確かに、草木なんかも氣はありますが……」
「とんでもないのう……(正しく奇才じゃな。)」
「む、如何言ういうこと? 三人で納得してないで私達にも分かるように教えてよ」
三人だけが一刀の言っている意味を捉えているのに、雪蓮は少し納得いかなかった様で二人に問いただした。
「氣というのは、全ての生きとし生けるものが、
常に外に垂れ流しているものだと言うのは知っていると思いますが、
地面、草木や空気にも有るのです。
ですが、それは物凄く微弱な上、扱いが非常に難しいんです」
「人の氣と違い直ぐに霧散する上に、場所によって氣の質や量が変わる。
じゃから針に糸を通すような集中力と、途方も無い鍛錬と、
氣の才能が無ければ同調させる事などできん。 儂でもあんなの無理じゃからな」
二人の説明に小蓮以外一同は、一刀の行った事が如何に凄いかが分かった。
「さて、ここで皆さんに問題です。 結羽さんと冥琳は黒、雪蓮と母さんは薄桃色、祭姉ちゃんと思春は白」
と、二人の説明が終わると突然一刀が何か問題のようなものを言い出した。
その内容に、全員首を傾げる。
「蓮華とシャオは水色と白の縞々で、沙和が水色で凱と凪と真桜は分かん無い。 さぁ、これなんだ?」
さらに続く問題に一同は首を傾げるが、突然結羽と冥琳がまさかと言う顔をして、後ろの物陰まで走って行った。
そして、結羽は苦笑し、冥琳は真っ赤になって震えながら戻って来た。
「一刀っ! あなた何てことに才能を使っているのよ!」
「あっはっは! 言っただろう? 是でも男の子なんだよん♪」
そして、雰囲気と一刀と冥琳の会話で察したのか美蓮と凱以外全員が物陰に隠れた後、
祭と雪蓮はニコニコして、凪、真桜はジト目で一刀を見て、それ以外は顔を真っ赤にして戻って来た。
「お兄様っ!!」
「……師匠のスケベ(素華跡(すかーと)じゃ無くてよかった。)」
「……流石にそれは無いと思うで?(下穿きこれでよかったわぁ。)」
「先生っ!! そんな事しちゃだめなのっ!」
「うぅ……(何故だろう、恥ずかしい……。)」(彼女の場合は、動くだけで見えてしまいます。)
「お兄様のエッチッ!」
真っ赤になって言う5人とは対象に、
「かっかっか! この年になってそんな事をされるとは、夢にも思わなんだ」
「もぉ、そんなことしなくても、言えば見せてあげるのにぃ♪」
「そうそう。 何なら部屋に来ても良いのにぃ♪」
実際に確認して来た祭、雪蓮、そして雰囲気で答えが何か悟った美蓮は、何故か逆に嬉しそうだった。
「雪蓮っ!! 美蓮様っ!!」
二人の言葉に、冥琳は声を上げる。
「そうだぞ、何言ってんだ。 自分で見るのがいいんじゃないか。
ちなみに、俺は冥琳には白も似合うと思うんだがどうだ?」
「お前はもう黙れっ!」
まぁ、もう分かると思うので答えは割愛させていただく。
閑話休題
「さて、じゃ真面目に行きますか。」
先ほどのようなお茶らけた雰囲気が、いきなり掻き消え、ゆっくりと前進する。
そうすると、また姿がゆっくりと透けていく様に見え、消えた様に見えた。
「……其処っ!」
美蓮以外には――――。
「くっ!?」
一刀が消えた方向とはまったく違う場所に剣を振るうと、慌てて避ける一刀が見れた。
「……おいおい、種が分かっただけで見破るなんて、どんだけよ?」
「貴方の母親なんだから、その位は当然でしょ? これでも、貴方より長く生きてるんだから」
そう言ってにやりと笑う。
「へっ、言うねぇ」
美蓮の言葉に、一刀はワクワクした様に、言いながら今度は『虎伏の構え』をとる。
対する美蓮は、剣を自然体の状態で構え、一刀を見る。
そして、
「はっ!!」
「はっ!!」
両者ともが同じタイミングで踏み込み、肉薄する。
美蓮は自然体的な構えからの切り上げで、
攻撃を仕掛けようとした瞬間、一刀と自分の動きが遅くなったのが分かった。
「! (久しぶりね、この感覚になるのは。)」
「!? (是って、超人時間!?……まさか自分が体験することになるとは。)」
簡単に言うと、自分の中の体感時間を圧縮してスローモーションのように見える現象である。
ただし、対峙している二人が超人の域に達していないと発生しない現象である。
そしてその中で、美蓮は驚いていた。
自分の剣が何時もの1割程度の速さでしか動かないのに対し、
一刀の自分を狙う掌低は普段より少し遅い程度の滑らかな速度で動くのである。
「(まさか、是が一刀の本気の疾さだって言うの!?)」
そう、事実は一刀の手の方が何倍も早く動いているだけ。
「(当たる!?)」
咄嗟に、後ろに向かって体を移動させようとするが、もう間に合わない。
一刀の掌低が美蓮の腹部に当たり、
…パァンッ!!
「がはっ! っ……」
遥か後方に有る木まで吹き飛ばれ、肺の中の空気が強制的に吐き出される。
美蓮はあまりの痛みに指一本動かす事が出来ず、意識を失った。
「はぁはぁ、っしゃあ! 勝ったぜ! うっく!」
一方勝者の筈の一刀は、両腕が痙攣を起こし、凄い汗を垂れ流していた。
観客の方に居た、凱はハッとして美蓮の方に駆け寄ったあと、
針を打ち込み美蓮の意識を取り戻し、一刀の方に駆け寄って行った。
「ねぇ祭、思春。 今『一刀の腕』……見えた?」
「いや、……全く見えんかったわい」
「私も……です」
「と言うより、私には一瞬一刀君の両腕が、『消えた』ように見えたんだけど」
「私も、そう見えたわ」
そう、余りにも早すぎて、一刀の両腕が一瞬なくなった様に見えていたのだ。
「それだけではありません。 音も半瞬遅く聞こえました」
その音を聞き分けられる思春も凄いが、音を半瞬ながら置き去りにする一刀はもっと凄い。
だがそれも、一刀自身が彼女達を護ろうと日々努力している証だと言えた。
そのことを祭が口にすると、全員が嬉しそうな顔になった。
「センセって外だけやのうて、内側もめっちゃカッコええやん!」
「先生、すごいの~! カッコイイの~!」
「……師匠に会えて良かったです」
「一刀様、何処までも貴方様と供にっ!」
新顔達は目の前に起こった事象と一刀の心に、敬意と嬉しさを表し、
思春に至っては、何処までも着いていくと言い出してしまった。
「全く、とんでもないわね。」
「へへっ。 とうとう、俺が勝ったな」
腹部を押さえて、一刀の所まで来た美蓮は、ボロボロの状態でお腹を押さえ
一刀も両腕を痙攣させ、フラフラの状態だった。
「大丈夫だ。 今は氣を両腕に集中させて、殆ど残ってないからふらつくんだろう。
両腕は、負荷に耐え切れなくなって痙攣を起こしているんだと思う。
幸い氣で強化していたお陰で筋肉が切れたりはして無いが、
今日は痺れて動かないし、明日は物凄い筋肉痛で動かないだろうな」
キュピーンッ!!
その凱の診断を聞いていた周りの女性陣は、目を光らせた。
その瞬間、一刀は得体の知れない寒気に襲われ、
今までかいた汗とは違う汗が流れ出し、物凄く嫌な予感がした。
「そう、腕が動かないのなら、お母さんが久しぶりに面倒を見てあげるわね」
「堅殿、儂等も入れてくれ。 久しぶりに一刀様の世話をしたくなったのでな」
「当然私も混ぜてよね? それと美蓮、祭、涎が出てるわよ。 あら私も出てるわね、ジュルリ」
『アラヤダ、ジュルリ』
「あんた等、ナニする気だ!!(ヤヴァイ、この人等に世話されたら絶対枯れる!!!)」
そして、その寒気は的中し、美蓮達が涎を垂らしながら面倒を見ると言い出した。
確実に面倒をみる程度で済むはずがない事が予測できた。
「それは頂けないな、母上」
「そうよ。 子供の頃から、散々お世話になった私達妹組が世話をするから良いのよ」
「お、お兄様のお世話……」
「お姉ちゃん今真っ赤になっちゃだめだよ」
「色々な意味でチョット待って!?
って言うかシャオ! 何処でそんな知識を身に付けたんだい!?
(お願いだからお兄ちゃんを綺麗なままで(犯罪的な意味で)お婿に行かして!?)」
そしてそのことに勿論、黙っていないのがお兄ちゃん至上主義連合である。
親達の言ったことを、真っ向から対立し、主張し始めた。
「凪、真桜、沙和我々も参加すべきだろうか? その……一刀様の……お、お世話に……」
「し、師匠のお世話……」
「もぉ~二人して何考えてるのぉ?」
「そう言う沙和も赤いで。 でも、期待してもええかもな……にししっ」
「こら其処! ナニに期待しているんだ!? ナニに!!
(ここで手を出したら兵達に特に思春の部下に、どんな目で見られると思っていやがる!?)」
そして、その影で新参者達がコソコソと話している。
たった一月で良く此処まで手を出せるものである。
まぁ、″まだ″妹組み達も含めて手は出てないが″まだ″。(大事な事なので、二回言いました。)
何とか解決策を導き出そうとしたとき、丁度廿楽と夕陽の姿が目に映った。
この時一刀には、二人が真の天使に見えた。
「お、俺の世話なら、俺の専属侍女の廿楽と夕陽にさせるから! じゃ!」
そう言って、立ち上がって廿楽と夕陽の所まで走って行き、
廿楽と夕陽を自分の腕に掴まらせて、拉致ってその場から逃げおおせた。
後に残ったのは、悔しそうにするお兄ちゃん至上主義連合と、明らかに落胆する新参チーム。
そして、彼女等を一刀の侍女にしたことを激しく後悔した保護者グループだった。
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ちわっす!
タンデムです!
今回は、一刀君V.S.女性軍になります。
(純粋に武ですのであしあらずww)
かなりちーとです、超強いです。
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