本作品は、思春の部下であった一人の男を中心に語っている物語です。
実際にこんな話があったかもしれない。という感じで作ってみました。
尚、本作品はBAD ENDを目指していることを先にお告げします。
ですので、拒む方々はここでお戻りください。
それは、ハーレムという名前の一刀の生活にあるしかなかった、
悲しい裏話。
それから何年かが過ぎた。
鈴の音と毒蛾の組合。
それはこの辺りの江賊たちにとっては絶望的な話だっただろう。
大体俺たちの江賊団は、他の江賊たちのことをそれほど排他してはいなかったものの、我が区域に入るやつらには容赦がなかった。
ま、問題はその区域というのが長江全部だったということかね。ははっ
で、会った奴らは追いかけてぶっ潰す形で、ある奴らは俺たちのことを毒蛾じゃなくて狂蛾だと呼ぶやつらもあった。
そして、戻ってきた長江の制覇者思春こと甘寧はと俺の組合は長江の全ての江賊たちに営業終了のお告げにも等しいものだっただろう。
「おい、思春!白鮫の奴らの処理は終わったぞ」
しーん
何だ?こいつまたどこに行ったんだ?
こいつは大人しく報告を待っている時がねぇってぇの。
「しゃあねぇ。探してみるか」
一応外にいた奴らに聞いてみたが、
「おい、てめぇら、お頭どこにあるかしらねぇか?」
「お頭?いや、見ていませんが」
「大体お頭が急に居なくなったら解るはずねぇだろ」
「それを当たり前のように言うてめぇらも間違ってるんだよ!」
ったく、一体どこに行って探せってぇの。
・・・
奴を探すに一番適切なところは先ずは近くにある森とかだ。
あ奴、江賊のくせにこういうところ結構好きだからな。
「思春!居るか!」
と、言ったところで奴がいるとは限らんだがな。
ささっ
!!
ガチン!!
「ちっ!」
またこれかよ!
「おい、思春!お前いきなり仕掛けてくるんじゃねぇ!」
サッ!
ガチン!!
「くっそ!」
いつもこうなるんだな。
「……すーはー……」
………
サッ!
「そこだっ!」
ガチン!
「くっ!」
思春、出てきたか!
奇襲が塞がれて姿を見せてしまった思春は、
「遊びは終わりだ!」
ガチン!!
俺の敵じゃなかった。
ガキン!
「……ちっ!」
剣を飛ばされて、思春は舌を打つ。
「舌打ちしたいのはこっちのほうだ。いつもいつもこんなことして、何がしたい?」
「……貴様が知る必要はない」
「知る必要ないっておい、俺一応お前の右腕だろうが。ったくもう…俺は本気じゃないお前と戦うのは楽しくもなんともねぇんだよ」
「……」
あの命を賭けた戦いの後、俺は、一度も思春と本気で剣を交わってみたことがない。
そりゃそうだろ。こいつは部下に険しくはあっても自分なりに手加減というものがある。それは俺にも同じなのだろ。
しかし、惜しい気はする。
あのような戦いをもう一度してみたい。
命で燃え上がる戦い、一度味わったその感覚は未だに俺の中に残ってうずうずしている。
こいつとまた戦いたいと、心の中から叫んでいる。
でも、その一方にはまた、こいつとこうして居る事を望む俺もいることに気づく。
こいつと一緒なら何でもできる。そんな気分がする。
しかし、
「帰ろうぜ、行ってお前に話すことがある」
「待て」
「あん?」
「…もう一度」
「はぁ?!」
勘弁しろよ…
「おい、おい。だからお前は何がしてぇんだよ。俺はもうやらんぞ。他の奴にでも頼め」
「貴様でないと参考にならん」
「参考?なんじゃそりゃ。江賊やめて山賊でもやる気か?」
「……」
スッ
「って、無視かよ」
ったく、人のことも考えろってぇの……
日がくれるまで、思春が俺に勝つことはなかった。
「……はぁ……はぁ…」
力が尽きたか、思春は大の字になって上を見ていた。
俺も疲れたから座っている。
今なら誰でもこいつを殺せるだろうな。
ま、俺がさせないけど。
「おい、もう帰ろうぜ。日が暮れたらマジで皆心配するぞ」
「……もう一度だけ」
「いい加減にしろよ、お前。気絶させて運んでいくぞ」
「………」
「そこまで勝ちたけりゃあ、一度でもいいから本気で来いってぇの。全力で、隙を見たら殺すつもりでよ。そしたら俺もちょっとはお前と戦うことが楽しめるしな」
「……」
……こいつ、今日は何かおかしいな。
「おい、思春」
「何だ?」
「お前に右腕をやれと言われてもう何年だ。その何年間、お前と一緒に長江のでっかい江賊団は大体つぶしたが、あれとした賊の仕事はやったことはねぇ。略奪と言っても他の江賊の船を乗っ取るぐらいだったしな」
「……」
「結局、お前は何がしたかったんだ?俺は未だに解らん。最初から、江賊として戻ってきたわけではなかったのか?」
「……」
「…はぁ……」
結局、返事を聞くことを諦めて俺は倒れている思春を抱き上げた。
「!!貴様!」
「どうせ動く力もねぇんだろ。安心しろ。部下たちに見える寸前でおろしてやるから」
「や、やめろ!こ、殺すぞ!」
「ほぉ、やってみればどうだ。貴様に死ねば本望だ」
「ちっ!」
まぁ、どうこういってもこいつはうちのお頭だ。
心配にならないと言えば嘘だろ。
それに、右腕の俺に言えないことだと誰に言うというのだ。
夜やつの部屋に尋ねた。
「よぉ…」
サッ
タッ
いきなり手裏剣か!
やべぇよ、おい。急いで門閉めなかったら額に刺さってるぞ。
「そう冷たくやるなよ」
「…貴様の頭を蜂の巣にしてやりたい気分だ」
「まぁ、そういうなって。お詫びにこう酒も持ってきたんだから。こいつはすげえぞ」
「……」
ゆるされてはいないが部屋に足を入れる。
もう手裏剣は飛んでこないみたいだな。
「ほら、一献呑め」
「……」
俺と違って酒が好きなやつじゃないが、まぁ、ここまでするのに呑まないわけにも行かないだろ。
少し酒が入ったら何か吐き出すはずだ。
・・・
・・
・
そうやって何瓶か酒が回った。
ああ、杯じゃねぇ、瓶だ。
そして、こいつだが、割りと酒が強い。
酒が弱いから好きじゃない組じゃなくて、強すぎて酔う酒代が惜しいから呑まない組だ。
だが、こっちも準備はしている。
悪いがこいつはすっげぇ毒酒だ。
朝起きたら頭はすっげぇ痛むだろうが、こいつなら酔わずには居られないだろう。
そして、俺は先に酔いが良く回らないように手当てをしている。
「……(ふらっ)」
ようやく酔って来たか。
「大丈夫か?」
「……ああ」
「何も酔うまで呑めと言ったつもりはないがな」
嘘だけど。
「思春。お前、本当に何があった」
「………」
「おい、お前が悩んでいると外の連中にもよくねぇんだよ。最も…」
俺が心配でどうしようもねぇ……
「…お前が緩んだ姿を見せると隙を突いてくる奴らはいくらでもいる。だから、一度言って楽になればどうなんだ?」
「……この辺りに、孫堅さまの娘さんが来ているみたいだ」
「は?孫堅の娘?」
確か、孫堅というと江東の虎と呼ばれた奴。
だけどそいつはもう死んだ。
ちょうどこいつが荊州の爺のところにいる時に……
おい、待てよ。
「お前、まさか」
「…あの頃私は劉表の武将、黄祖の部隊にいた。そして、黄祖は罠をしかけて、当時孤立していた孫堅さまを殺した」
「だからって何だ。それがお前がおかしいのと何の関係がある」
「…あの時、孫堅さまが生きておられたなら、今江東と長江がこんなに乱れることもなかっただろう。私はその罪を少しでも払うつもりで、江賊として戻ってきて、長江の江賊たちをつぶしてきた」
「……」
で、何だ?
今その孫堅の娘が目の前にいる。
だから何だ。
「行って裁きでももらうつもりか?」
「……そうだ」
「!!おい、ふざけんなよ、おい!今お前が何を言っているのか解っているのかよ!」
殺されるぞ?
あの江東の虎の娘だ。
どんな奴かはしらねぇが、あの虎の娘なら容赦ねぇぞ。
「死ぬ気か?そんなこと、他のやつらも納得しねぇし、俺も認めん!」
「…ここのことは、これからお前に任せる」
「!!」
本気か…
こいつ、本気で死にに行く気か?
「いや、認めん。認めんぞ。お前酔って正気じゃねぇんだよ」
きっとそうだ。酔いが回って戯言を言っているんだ。そうとしか思えん。
こいつが、
鈴の音がただで命を落とそうとするだと?
そんなこと、誰もが許しても俺が許さん!
ガタン!!
「おい、てめぇら!お頭はどうした!!」
「お、お頭は、ちょっと厠に行くってついてくるなと…」
「さすがにそりゃまずいかなぁと思って」
「こんの阿呆どもが!!火の中でも水の奥でも監視していろって言っただろうが!!」
あいつ絶対あの孫家の奴のところに行った。
殺されるに行ったんだぞ!
「どうしたんだよ、副頭」
「何でもねぇ!てめぇら、お頭に何かあったら命はないからな!」
「へっ!」
早くおいつかないと思春が……
・・・
・・
・
昨日思春と一緒にいた森。
きっとこの辺りだ。
でないと奴が昨日ここにいたわけが見つからん。
「どこだ…一体どこに……」
!!
ガチン!
「くっ!何だ?」
森の中に誰かいる。
思春か?いや、いつもとは違う。
これは…本当に人を殺そうとする気配。
本物だ。
「……これほどの奴なら」
きっと、護衛者だ。
こいつを捕まえれば思春の居場所が解る。
いつも通りにしろ。
集中して、相手の居場所を……。
スッ
ガチン
手裏剣が飛んできた、
「そこだっ!」
飛んできた手裏剣を投げ返す。
「にゃはっ!」
ドスン
「やったか!」
木から落ちてきた奴に近づいてみたら、
これはまた思春と随分にたような格好を……
「おい、お前、何者だ。何故俺を攻撃した」
「いたたっ……あ、あなたこそ、孫権(そんけん)さまに何をしようとしたんですか?」
「はぁ?そんな死んだ人に何もできねぇよ!」
「へっ!?まさか!いつの間にもう孫権さまを…!!」
ガチン!
っておい!
「待て!お前、この辺りの孫家の姫の護衛武将じゃねぇのかよ!」
「そうです!だから、昨日あなたが書いた手紙通り、こうして参りました!」
「は?手紙?」
何だそりゃ…
「へっ?あ、あの……甘寧さんでは、ないのですか?」
「甘……おい、そいつが手紙に何と書いた」
「え、えっと…近日にお目にかかりますので、首を洗って待っていろと……」
…あいつ、字うまくかけねぇんだがな。
きっと何か間違ってたんだろ。
って、待てよ。ということは、今その孫家の姫のところには誰も……
「おい、お前!孫家の姫はどこにいる!」
「あなたに教える筋はありません!」
「お前と言い争ってる暇はねぇんだよ!早く行かないと、あいつがお前の主に何をするかわからんぞ!」
「へっ?じゃ、じゃあ、あの手紙は…」
「そんな罠に決まってんだろうが!」
「はうあぁ!?」
なんとまぁ騙し易いやつだな。
「早く案内しろ!」
「は、はいっ!」
しかも場面に乗りやすい。
こんなのを護衛でいいのかよ、孫家の姫
「こっちです!」
はええよ!!
ってか、何でこんな森の中を平然と行けるんだよ、あいつも、思春も!
「もうちょっとゆっくり…」
「ダメです!早く行かないと蓮華さまが…!」
そりゃこっちも心配だってんの!
「っていうか、お前らなんでこんなところにいるんだよ!」
「そ、それは……」
うん?
・・・
・・
・
護衛役の(名前は周泰だそうだ)奴のおかげで、近くのところまで到着。
「って、やべぇぜ、おい」
そこに着いてみたら、思春は自分の武器を孫家の姫に預けて膝折って、マジで「首洗って待っている」状態だった。
「あれ?何か、様子が違いますね」
「ちがわねぇよ…」
「はい?」
まさに俺が考えていた最悪の光景だ。
「その剣、ちょっと待った!!」
「あ、待ってください!」
「!?何者!!」
「…!!貴様、ここは何故わかって…」
思春が驚いているようだが、
「そんなことどうでもいい!貴様、今何をしている!」
「…見て解らないのか?私が犯した罪を払おうとしている!」
冗談じゃねぇ。
こんなところで、こんな風に死んでたまるかよ!
お前は、お前はな!!
俺は!!
「おい、孫家の姫ちょっと待ってくれ!」
いつの間にか、俺は思春の側で同じく膝を折っていた。
「こいつが何と言ったかは知らん!でもよ、こいつも今まで辛い思いしながら生きてきた!だからその罪の少しでも払おうを長江で江賊狩りもして来たし、その後一度たりとも無辜な人を襲ったりもしていない!」
「…貴様何を…!」
「俺が知ってる限りこいつは!!俺は心底まで悪者で生きてきたけどよ!こいつは絶対こっち側のやつじゃねぇ。だから…どうかこいつを許してくれ」
「貴様!やめないか!何故貴様がそんなことを口にする!」
「うるっせぇ、たこ!お前がこんなところでただで死ぬようにさせてたまるかってぇの!」
「これは私と孫家との問題だ。貴様は何の関係もない!私に構うな!」
「俺はお前の右腕だ!お前の罪払いに付き合ってくれた分は関係がある!」
「……!!」
「それに、貴様さえいなければ、俺はあそこでずっと江賊やってるってぇの!それともお前と戦った後死んでも、それはそれで良かった。なのに貴様が勝手に俺を生かした。人の人生に勝手に関わってきたのはどっちだ!」
そしておいて、今更死ぬだ?
そんなことを……
「人の人生をめちゃくちゃにしておいて、今更勝手に死ぬだと?そんなこと俺が許すとでも思ったのか!」
「あのぉ、二人ともやめないか?」
「「……へ??」」
そう言ったのは、孫家の姫であった。
「別に、私は甘寧を殺すつもりはない。それに、貴様が言った通りだ。甘寧がしてきたことは、私のこの辺りの人たちの噂を聞いている」
「…!じゃあ……」
「ええ、……お姉さまと妹が何と言うかは解らないけれど、私はあなたのことを恨んでなんていない。だから…」
「待ってください、孫権さま!いくらそうだとしても、私には……」
「最後まで聞いて。…どうしてもあなたが罪払いをすると言うのなら、私の部下になってもらえないかしら」
「……!」
「お母様が亡くなった後、昔の孫家の武将たちもばらばらになって、私もお姉さまと離れてこんなところにまで来た。だけど、このまま何もせずにいるわけにはいかない。だから、あなたさえよければ孫家の再興のためにその力を使ってくれないかしら」
そう言いながら姫さまは、思春に手を差し出した。
「……御意に」
そして、思春は何の迷いも無くその手を掴んだ。
・・・
・・
・
俺たちの江賊団は解散した。
もう、こうした強い江賊団もいないからな。残ってる連中の居場所も、荊州の爺に売ってしまった。
それに、まだ長江を完全に離れるというものでもない。また暴れる奴らがいたら、俺たちがまたぶっ潰してやるだけだ。
ただ、鈴の音の江賊団としてではなく、孫呉の名の下で、というのが違うだけだ。
思春は、最初は自分だけお頭から降りてきて、俺に後を任せるつもりだったらしい。
だが、しかし、
「よっし、てめぇら!今日から鈴の音江賊団は解散だ!これから俺は、甘寧さまと孫家の姫様の親衛武将を名乗る!入りたい奴らは並べ!!」
「ちょっ!貴様!!」
ああ、その時の奴の顔は見物だったなぁ。
「おい、おい。言っただろ?ここまで俺の人生に関わっておいて、逃げるのは無しだぜ」
そう。俺はお前から離れるつもりはない。
どんなことがあっても、俺はお前の側にいる。
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恋姫二次創作小説。
一刀のハーレムいちゃいちゃの後ろにこんなことがあったかもしれない、という気持ちで書いてみました。
今回の内容は、この前出たむこうじまてんろさまの「真・恋姫無双~孫呉愛史~から思いついたところがあります。
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