No.175759

『舞い踊る季節の中で』 第87話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 孫策の告白と悲しい決断。 だけどそれを嘲笑うかのように毒矢が孫策を襲った。
その事に、一刀は。蓮華は。そして孫呉の民は怒りを露わにする。

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2010-10-01 13:05:06 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:14557   閲覧ユーザー数:9983

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第87話 ~ 不穏な影に気が付かず、華は聖戦を求め舞い踊る ~

 

 

 

お願い:BGMに『 あさきゆめみし 』を流して御鑑賞下さるよう、お願いいたします。

 

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

        

一刀視点:

 

 

「孫策っ!」

 

 俺は孫策の名を叫ぶも、俺のとった行動はその叫び声とは逆だった。

 周りに潜む気配に向かい、地を蹴り走しりだす。

 

「ひぃっ」

 

 自分達に向かって真っすぐ向かう疾走する俺に、四人の影が小さな悲鳴を上げて逃げ出すが、あいにく逃がす訳には行かない。 そして時間も掛けられない。

 手元には二本の糸と同じく二本鉄扇のみ。 だけどそれで十分。

 俺は両手で鉄扇と糸を同時に操り、その凶刃を相手に向けて解き放つ。

 糸が近くの男二人の足の腱を切り裂き、同じく二本の鉄扇が、くるくると円盤のように回転しながら、残りの二人の男の足の腱を切り裂く。

 

トッ

 

 腱を斬られ地面い転げる男達に追いつくなり、俺はその首筋を糸で点穴し、四肢の自由を奪って行く。

 手で無く糸で乱暴に貫通させたから、もしかしたら戻らないかもしれないけど、そんな事はどうでも良い。

 遠くで、少数の一団が逃げ去っていくが、それを追いかける訳には行かない。

 俺は手近に、力の入らない身体で必死にもがきながら転がっている男……魏の兵士? 何故? そう思うも今はそんな事より、聞きださなければいけない事がある。 乱暴に男の顔を持ち上げ。 冷たく。暗い感情のまま男に問いただす。

 

「矢に毒が塗ってあるな。 毒の種類と解毒剤の場所を言え」

「…へへ…ざまぁみろぉ…」

 

 だけど、男は下衆な目で、嫌な笑みを浮かべながら、力の入らない口と舌で、そう言ってくる。

 その男の言葉に、そうかと呟き、もうこの男達から問う事を止める。 尋問される事すら、悦に入るような連中では時間の無駄でしかない。 それに、何も話す気が無いのならば、そうしてやるだけだと、立ち上がり様に男達の頸筋に手を当てて行く。 これでもがく事も喋る事も出来なくなる。

 俺は落ちている鉄扇を回収して孫策の所に戻ると、孫策は苦痛に顔を歪めながら、何とか体を支えている。

 明らかに毒に犯されていると分かる孫策に駆け寄り、気を抜けばすぐにでも膝が崩れそうになる身体を支えてやる。 俺が油断さえしてなければこんな目に合わなかったと言うにも関わらず、その事にすら孫策は目でありがとうと訴えながら、

 

「私とした事が、ドジったわ。 何のために一刀に鍛えて貰ってたのよって、自分が情けなくなるわ」

 

 と、そんな事を言ってくる。 だけど、今はそんな事を聞いている場合じゃない。

 

「喋るな! とにかく歯を食い縛れ」

 

 孫策の返事も待たずに、俺は鉄扇の扇沿の刃の部分で、孫策の左腕の傷ごと、周辺の肉を斬り飛ばす。

 肉を斬り飛ばされる痛みに呻き声を上げる孫策だが、これで傷口の残った毒が更に体に巡る事は無いはず。 問題は体内に入り込んだ毒だ。

 さっきの男の様子だと、殺傷力の高く解毒が困難なものに違いない。 解毒剤は王の暗殺と言う特殊性からしても、もっていないだろう。 となると毒の種類を特定するしかない訳だけど、この時代に良く使われた毒……いや、時代に捉われるのは間違いだ。 とにかく技術的に自然界にある毒を使っている筈。 その中で手に入れやすく、解毒が困難なもので、暗殺向きなものとなると……。

 孫策を助ける手立てを考えながら、とにかく城に戻ろうとしていると。 蓮華が数人の兵を連れて馬で駆けてくる。

 

「姉様っ、城で緊急事態です。 曹操が攻めてきました。 すぐに城へ、って姉様っ!? 」

 

 孫策の様子に気が付き、蓮華は慌てて馬から跳び降りて駆け寄ってくる。

 何があったかと喚く蓮華に、刺客の矢にやられた事を言うと。

 

「何だとぉ……っ!? すぐに犯人を捜して八つ裂きにしてくれる!」

「落ち着きなさい、蓮華」

「しかしっ!」

「孫呉の次期王がそんな簡単に取り乱してはダメ。 見ての通り掠り傷よ。

 それよりも状況を話しなさい」

 

 頭に血が上った蓮華を自分の状態を隠す事で、無理やり落ち着かせる。

 立っているのも辛いくせに俺の肩から体を離し、真っ直ぐと立ち、蓮華に話を促す。

 

 

 

 

 蓮華の話では、曹操軍が国境を越えて我が国に侵入。 すでに本城近くまで迫っているとの事。

 そして、伝令は悉く捕殺され、一人の伝令が命を賭して情報をもたらしてくれた事を簡潔に話してくれた。

 

「状況は理解したわ。 ……私もすぐに城に戻る。 先に戻って出陣準備をしておきなさい」

「で、でも! 姉様はすぐに治療を!」

「こんな傷くらい、大した事は無いわ。 ……ほら、早く行きなさい」

「しかし……!」

 

 孫策の言葉に、姉を心配する蓮華は、動こうとしない……いや動けないでいる。

 そんな蓮華に、孫策は大きく息を吸い。

 

「孫仲謀!

 他国の侵略を受け、出陣しない王などに王たる資格はあるのか! 否! 断じてない!

 忘れるな! 孫家の人間は常に戦陣に立ち、兵達の先頭を走るのだ!

 その勇敢さがあるからこそ、民衆は孫家を支持し力を貸してくれる! その家訓、忘れるな!」

「……っ! は、はい……でも!」

「すぐに陣ぶれを出せ!」

 

 孫策の叱責に。 覇気に。 蓮華は姉を心配する目を残しながら、兵を残して単騎で城へと向かう。

 

「全く……いくつになっても世話を焼かせるんだから……」

「でも、孫策の気持ちは分かるけど、蓮華の言う事の方が正しいよ! すぐにでも治療を受けるべきだ!」

「ダメだって、」

「何がダメなものかっ! 今この国は孫策の力を必要としているんだ!

 家訓だなんだって色々あるかもしれないけど孫策の命の方が大切じゃないか!」

 

 だけど、孫策は首を縦に振らない。

 毒が回っているから。……もう助からないから。 王として最後の仕事をしないといけないと。

 その言葉で、俺はぶち切れた。

 

 ふざけるなっ!

 

 そう声高に怒鳴りつけたかった。 だけど、そんな無駄な体力は使えない。

 俺は残った兵に馬を借り、其処に孫策を無理やり乗せながら、 兵達に倒れている魏の兵士を無傷で連れてくるように命じると、俺は馬を走らせる。

 この馬なら後は放って置いても城まで走ってくれるはず。

 なら、俺は今出来る事をするだけだと、馬上で孫策を後ろから抱きしめながら意識を集中させる。

 孫策の身体は、毒に犯されているためか、湯のように熱く熱し、汗だくになっているのが感触で分かる。

 孫策のお腹に手を当てる俺に、孫策はそんな余裕が無いのか、黙ったされるままに俺に体を預けてくる。

 

「絶対死なせるわけには行かない」

 

 そう呟事で自分を奮起させ、更に意識を集中させる。 とにかく、今は少しでも体力の消耗を減らす事だ。

 やり方の基本は思春達の呼吸をコントロールするのと変わらないはず。 ただ精度も質も違うだけ。

 そして、周囲に繋げるのではなく。 孫策にのみに己を深く繋げる。 互いの呼吸と"氣"を通して、彼女の身体を俺の意識下に置く。

 

「……くっ」

 

 それだけで、歯を食い縛りたくなる喪失感。 だけど、そんなものなんて糞くらえだっ!

 俺は受ける感覚を無視して、彼女の呼吸を。心臓の鼓動を。血流を。気脈を。 点穴を交えて正常な流れに持って行く。 それで少しだけでも楽になったのか、孫策の顔色が良くなるが、それ以上はよく分からない。 今は、孫策の身体に自分を同調させるために、自分を書き換えて行く事の方が大切だ。

 やった事のない力の使い方に。自分が薄れゆく感覚に。目減りして行く己が体力に。視界が霞んでいく。

 だけどそれでも続ける。 孫策の受けている苦しみはこんなものじゃない!

 死を受け入れ、それでも王として孫家の長女として、残される者達のために、少しでも自分のやれる事をしておかねばと、崩れ落ちそうになる身体に鞭を打って、立とうとする孫策の苦しみに比べたら可愛いものだ!

 

 

 

 

 やがて馬上でフラフラになりながらも城に着くと、其処には蓮華が連絡してくれたらしく、冥琳と華佗が待ち受けていてくれた。

 俺は華佗に状況を手早く話し、華佗に治療を任せようとすると、孫策はそんな無駄な事はしてられないと動こうとするが、動けるはずもない。 俺が点穴して動けなくした事に孫策気付いて、本気で睨みつけてくるが、俺は一向に構う事なく。

 

「文句は後で幾らでも聞くよ。 孫策のやろうとしている事。……今回だけは俺がやる。

 だから、安心して治療を受けるんだ」

「勝手な事言わないでっ。 だいたいそんなフラフラの身体で何が出来るって言うのよ。 まだ私の方がマシよ。 それに一刀は……」

「黙ってろ」

 

 まだ強がりを言う彼女の唇に、そっと人差し指を当て黙らせる。

 俺の決意と覚悟を彼女の瞳に、叩き込む様に見つめてやる。

 彼女は毒の影響が再び体に強く出始めたのか、顔を赤くして黙り込んでしまう。

 そんな彼女に少しだけ安堵し、華佗に視線をやると。 任せろと力強く言うなり、孫策を治療のために抱えてて行く。

 そんな孫策を冥琳は黙って見送ってくれた。 きっと彼女の方が、俺なんかよりよほど心配しているに違いないと言うのに……。

 でも、こうしてここに残ったと言う事は、今は彼女の心配をするより、国を守る事を。民を守る事を優先すべきだと。 孫策を想うならば、そうする事が一番なのだと、歯を食い縛りながら判断したんだ。 なら、俺も孫策に約束した通りの事をするだけだ。

 

「冥琳、詳しい状況を教えてくれ」

 

 

 

華琳視点:

 

 

 遥か前方の見えるは寿春城。 此処までは思い通り事が運び、分かれて作戦行動をしていた部隊も、本体に集結しつつあるわ。 そこへ桂花が、見れば分かるような事を敢えて報告して来る。

 

「華琳様、右翼より秋蘭と流琉の率いる隊が合流します。……これで状況はすべて整いました」

「ありがとう。……いよいよ英雄孫策との決戦。……胸が高鳴るわね」

 

 そう、分かっている事でも敢えて言葉に、耳にする事で、その事実をより現実のものとして深く受け止める事が出来るわ。 惰性に動きがちになってしまう事を、報告と言う手段を取る事で規律が生まれる。 小さな事だけど、こういう積み重ねが全体の規律を生み、更には士気を上げる一助になるわ。

 それに……、

 

「敵は英雄孫策に率いられ、勇猛を謳う歌う呉の兵士。

 ……新兵の多い先鋒部隊がどれほど持つか。 多少気になる所ではありますね」

 

 こうして問題を端的に口にする事で、その問題を全体で共有する事が出来るわ。 むろん些細な事に気を取られる事にもなりかねないけど、うちの娘達に限ってそんな迂闊な事を言いだすような娘はいない。

 そして厳選された風の言葉に桂花が。

 

「意気地のない新兵を奮い立たせるには、褒美をちらつかせるのが一番。

 戦場で名ある将を討ち取った者には、千金の褒美を取らすと言う触れを出しております。

 これで少しは意気地も出ましょう」

 

 そうね。 人は夢や理想だけで食べては行けない。 野心や欲望があるからこそ、命を賭して進む事が出来る人種もいる。 ……いえ、むしろそう言う人種の方が大多数でしょうね。 ただ身の程を弁えているか、いないかと言うだけでね。

 

「しかし一部の部隊が抜け駆けの気配を見せていますからねぇ~。 気を付けなければ」

 

 風の言葉に私の意識が引っ掛かる。 質の悪い兵士の事は聞いていたけど、作戦行動を乱す程とは思っていなかった。

 

「ふむ……春蘭にさえ手におえない部隊か。 ……どの部隊かしら?」

「呉群より許昌に流れ着いた一団ですね。 何でも許貢と言う人間に仕えていたらしいのですが……」

 

 大方、袁家の甘い汁を吸っていた人間で、呉の支配下にはいるのを嫌がった人間しょうね。 でも理由はどうあれ、我が支配下に入った以上軍規は絶対。 その事がまだ分かっていないようなら危険ね。

 

「その部隊に数人付け、挙動を監視しておきなさい。 英雄との戦いを無粋な愚人に穢されたくはない」

「御意」

 

 私の命に桂花は頷くと、素早く近くの伝令兵に何かを指示を出している。

 此処はもう戦場よ。迅速さが勝敗を握る事になるわ。

 ……それにしても変ね。 私がそう感じていた時、同じように風も感じていたらしく。

 

 

 

 

「しかし……孫策さんの動きが読めませんね。……どうしてこんなに動きが遅いのでしょう?」

「そうね。 それは私も気になっていたの。……がっかりさせて欲しくは無いわ。 巨大な敵を正々堂々と倒してこそ、この曹孟徳の覇道が華やかに彩られる。 ……孫策。 良い戦をしたいものね」

「「「 御意 」」」

 

 私の言葉に、周りの将兵が力強く頷いてくれる。

 そう、それで良いわ。 こうして見せる事で、曹孟徳の戦い方と言う物を兵に、新兵に見せる事が出来る。 まだ未熟な兵達も、自分達が行っている事が唯の戦で、殺し合いではないと言う事が分かれば、その身に気合が入ると言う物。

 先程の桂花の意見と反対になるけど、人は欲望や野望だけでは生きて行けない。 もしそうしている者がいるとしたら、それは獣と何の変わりはないわ。 人は夢や理想があるからこそ前へ進み、人であり続ける事が出来るのよ。 戦と言う狂気の中、欲望や野望だけでは人は壊れてしまう。 そこに夢と理想があるから、自分がやっている事が平穏な世を作ると信じられるからこそ、人として前へ進む事が出来る。 そういった確たる想いや信念があるからこそ、苦しい戦況でも耐える事が出来るのよ。

 

「華琳様! 前線にて動きあり! 呉の部隊が前方に展開し始めました!」

 

 凪の報告に、ようやくお出ましか……、と小さく溜息を吐く。

 周りも英雄と噂の孫策らしかぬ展開の遅さに落胆の声より、何かあったのではと懸念し始め。

 

「何か? 何かとは何よ?」

「いや、其処までは分かりませんが。……何か気になります」

 

 その中で桂花と稟が最期まで現状を把握しようとしていたけど、結局は憶測の域を出ない故に考えるのを諦め現状を見据える事したようだ。 まったく、何かあったのはおそらく確かでしょうけど……。

 

「……英雄同士の戦いに、天も無粋な真似をしてくれるものね。 けれど、それが自然の結果であるならば、それもまた天命と言うもの……」

「あらゆる事象、その全てに天意あり。

 ……そう考えれば、相手に合わせて私達が手加減をする必要はまったくありませんね~」

「風の言う通りね。

 ……春蘭、秋蘭。 部隊を展開させなさい。 誇り高く、堂々と。 孫策と雌雄を決するために……」

「「御意」」

 

 

 

 

「敵軍より単騎で前に出てくる影あり。 ……あれは誰でしょう?」

 

 二人に指示を出した所に、相手が動きを見せ始める。 その事を凪が疑問混じりに報告して来るけど、そう聞いてくるのも無理はないわね。 正直、私も驚いているもの。

 視線の遥か先にあるのは、桃色の長い髪の女性の孫策ではなく。 白く輝くような服を纏った黒髪の男。

 

「あれは北郷一刀、天の御遣いと名乗る男よ。

 ……どうやら本当に孫策に何かあったようね。 でも彼ならば役に不足は無いわ。

 侵略してきた我等の非を鳴らし、兵を鼓舞するために舌戦を仕掛ける、か。……定石ね。

 その舌鋒はどこまで私の心に響いてくるのか。 ……大人しく聞いてあげましょう」

 

 ふふっ、袁術との決戦では孫策の横で舌戦もしたとは聞いていたけど、孫策になり変わって舌戦をするまで信頼を得ているとは思いもしなかったわ。

 私が認めた唯一の男、北郷一刀。 貴方が隠し続けていた本当の実力。 この目で確かめさせてもらう絶好の機会だわ。

 

 

 

一刀視点:

 

 

 ピリピリと体中の産毛が逆立つような戦場の空気の中、俺は単騎で前に出る。

 こんな場面では、孫策が何時も横に居てくれた。 まるで俺を守る様に、勇気づけるように、そして俺に教えてくれるために傍に居てくれた。 ……でも、いま彼女は横にはいない。

 こうして戦を仕掛けておきながら、毒矢による暗殺。 そんな下劣な行為の前に今生死を彷徨っている。

 

 正直言って、華佗でも孫策の治療は難しいと言う事は分かっている。 例の五斗米道の技も、毒にはあまり効果が無いと以前に言っていたからだ。 あれはあくまで病気を"氣"と言う概念で捉え、殺しているに過ぎないらしい。 だから毒のような病気で無いものには効果が殆どなく無く。 毒によって蝕まれて行く身体を治療するしか手立てがないと言っていた。

 でも、それに賭けるしかない。 例え僅かでも効果があるのならば。 望みがあるのならば。 俺はそれに賭けたい。

 

 そして俺に出来る事。 それは侵略してきた敵から国を、民を守る事だ。

 本来ならば此処は、孫策が立つ場所。 孫策が立てない今、孫策が次期王として推している蓮華が立つべきだろうな。 でも……。

 

 

 

少し前:

 

 

「姉様は毒矢に倒れようとも生きている。 そしてこれからもな。

 なら私があそこに立つ訳には行かない。 王が健在である以上、戦場において私は一介の将過ぎない」

「だがっ・」

「貴様が立てっ! 王と対等の盟友であり、天の御遣いである貴様が立つべきだ。

 それに姉様と約束したのだろう。 ならその責務を姉様の代わりに果たせっ!」

 

 俺では役者不足だと言おうとする俺を、蓮華は叱責せんばかりの勢いで言ってきた。

 自分の姉があんな目にあったのだ。 さぞ自分が曹操に非難の言葉を浴びせたいだろうに、それを耐え、その役目を俺に託してくる。 いや、蓮華だけじゃない。 孫策を知る皆の想いが俺に託されているんだ。

 明命、翡翠、冥琳、祭、蓮華、思春、霞、穏、亞莎、シャオ……そして孫策、皆の想いが俺の手の中にあるんだ。 その重すぎる想いに覚悟を決めた時、思春が。

 

「……こいつ等をどうするつもりだ? と言うか本当にこれで生きているのか?」

 

 縄に縛られ馬に乗せられた魏の兵士四人を連れて来たが、その身体は馬の背に寝転がりピクリともしない。

 思春が生きているのかと疑問に思うのも分かる。 きっと彼等に意識らしきものがあったら、八つ裂きにされていただろうな。 何の反応もない今の彼等では、その怒りをぶつける事も出来ないのだろう。 もっとも俺も彼等をそんな目に合わせないためだけに、彼等をそうしたわけじゃない。 あれから1時間以上経つので頃合いだと思い。 彼等に施した気脈を戻してやる。

 

「こいつ等には五感全てを断ってやってたんだ。 四肢の自由どころか、目も、耳も、嗅覚も、味覚も、触感も、自分の呼吸どころか、心臓の音すら感じない暗闇に、放り込んでやったんだよ」

「……っ!」

 

 俺の手によって、一度四肢を奪われた思春だけが、その恐怖を想いだし。 そしてあれ以上の恐怖があると言う事実に驚愕するが、他の皆はあまり理解できていないようだ。 ……まぁそうだろうね。

 人間と言うのは、外からの刺激が一切無ければ、真の暗闇の中では人は半日も保たない。 自ら心臓の鼓動を止めてしまうほどの恐怖が其処にある。

 俺もあの暗闇から自力で戻れと言われた時は、本気でじっちゃんの正気を疑ったものだ。 北郷流裏舞踊を学んでいなければ、まず確実に命を落としていた自信はある。

 まぁそんな事は今はどうでも良い。 俺は先程の男にもう一度訪ねる。

 

「誰の指示だ、答えろ」

 

 何もない真の暗闇に、なんの対策も予備知識もなく放り込まれた男は、自我が保つのが精一杯で既に逆らう気力処か、体を起こす事も出来ず。 顔を涙と涎まみれにしながら、

 

「……き、きょ…こう……さ…ま…の…か…た…き…」

 

 そう呟き、後は訳の分からない事を呟き始める。 もっとも、この程度ならば数日も経てば回復するだろうが、それを許されるかどうかは別の問題だ。

 思春達は許貢と言う名前に聞き覚えがあるのか、驚きの表情を見せた後悔しげに歯噛みする。 きっと何か因縁がある相手なのだろう。 でも、とりあえず孫策の暗殺が、曹操の意から外れた兵の暴走だと言う事は分かったが、そんな事はもうあまり関係ない。 関係するのはこいつ等を使って、相手の士気を挫き、此方の士気を上げる事だ。

 相手は此方の数倍の兵数。 おまけに此方が後手に回った上、何もない障害物のない野戦では、大がかりな策は立てれない。 時間があれば何かを準備する事も出来たが、今となっては、戦況に応じて策を組み立てていくしかない。 なら少しでも此方に流れを持ってくるための策を、頭の中で冷徹に組み立てて行く。

 

「……くっ」

 

 そんな非道な事を冷静に考える自分に対して眩暈がする。

 だけどそれを表に出す訳には行かない。 民を守るため、兵を少しでも生き残らせるため、そんな弱気を見せる訳には行かないんだ。 ……孫策は、いつもこんな重圧に耐えていたのか……。

 

 

 

現在:

 

 

 俺の合図と共に、孫策を襲った四人とその凶器を載せた馬が、敵軍に向かって解き放たれる。

 その事に相手も、そして味方の兵にも動揺が走るのが分かる。

 曹操、たとえ君の意はどうあれ、それが君の軍の兵士が犯した事だ。

 誇り高い彼女と、真の曹操軍の将兵であれば。 事実を知れば、さぞ動揺するだろうな。

 悪いがその誇り高さを利用させてもらう。 俺には、俺達には、そんなものを気に掛ける余裕はないんだ。

 

 そして知るが良いっ。

 

 自分が犯した過ちをっ!

 

 そして俺達の怒りをっ!

 

 

 

 

 

「 呉の将兵よ! 我が朋友達よ聞けっ!

 

  我等は父祖の代より受けづいてきたこの土地を、袁家の愚劣な老人達の手より取り返した!

 

  だが! 今、愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍をもって押し寄せてきた敵が居る!

 

  敵は卑劣にも、我が盟友を、我等が王の身を消し去らんと刺客を放ち、その身を毒に侵さしたのだ!

 

  卑劣な毒に侵され、王の身は今も生死を彷徨っている!

 

  王はおそらく助かるまい! 愚劣な毒矢の前にその身を散らせる事になるだろう!

 

  だが、この愚劣な行為に、我等が王を、ただで死なせて良いのかっ!?

 

  いいや、良いわけが無いっ!

 

  民全ての平穏を望み、民の笑顔を守らんと必死に戦って来た我等が王を。

 

  その為に散って逝った多くの将兵の魂を穢すこの仕打ち、決して許されるべきでは無いっ!

 

  彼等の魂魄と想いは、永久に皆と共に在らん!

 

  連綿と連なる魂は盾となりて皆を守ろう!

 

  無念に散った魂は矛となり、呉を犯す全ての敵を討ちこらそう!

 

  勇敢なる呉の将兵よ! その猛き心を! その誇り高き振る舞いを! その勇敢なる姿を王に示せ!

 

 

 

 

  呉の将兵よ! 我が友よ!

 

  愛すべき仲間よ! 愛しき民よ!

 

  天の御遣い北郷一刀が。 我が盟友、孫伯符代わり、ここに大号令を発す!

 

  天に向かって叫べ! 心の奥底より叫べ! 己の誇りを胸に叫べ!

 

  その雄叫びと共に、我等が平穏を、魂を踏みにじった罪が、どれだけの罪かを思い知らせるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……孫策。 この一戦、何としても勝ってみせるよ。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第87話 ~ 不穏な影に気が付かず、華は聖戦を求め舞い踊る ~ を此処にお送りしました。

 

 今回も台詞の殆どは、多少弄っているものの原作をパクってしまっています(汗 一応背景が違うので、其処に原作にはない想いを描いてみましたが上手く伝わったかどうか……まぁ、それはさておき、今話の内容としては、それなりに想いと目論見はあるものの聖戦に酔う華琳。 そして一刀の静かなされど熱い怒りを描くのが目的でしたが、如何でしたでしょうか? この熱い想いが読者に少しでも届いてくれたらと思っています。

 さてネタバレですが、今回は『コブラ』と『龍狼●』から、幾つかネタをパクらせていただきました。 その上五斗米道の説明の下りは、某茸氏の概念から持ってきました。 まぁあちらの概念だと毒そのものを、その目で捉え殺しますが(汗

 まあ何にしろ、今回話しの展開で苦労した所は、一刀に如何に大号令をかけさせるかでした。 作中にある様に、本来であれば蓮華が欠けるのが筋なのですが、其処は力技で持ってきてしまいました(冷汗

 さて、次回は華琳視点から始まる展開となります。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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