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真・恋姫†無双~御遣いのバーゲンセールだぜ~第五話 弓音編

おまめさん

この作品は

オリキャラなんてみたくない

一刀さん強すぎ自重

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2010-09-29 00:23:37 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:2738   閲覧ユーザー数:2106

 

真・恋姫†無双~御遣いのバーゲンセールだぜ~ 第五話 弓音編

 

 

賊の襲撃から村を守った弓音達だが、度重なる襲撃により被害は甚大。人が住めないまでに荒廃した村を断腸の思いで捨て、生き残った民達と遼西郡にある公孫賛の居城目指して進んでいた。出発当初は五、六十にもみたない人数ではあったが、道中同じように賊の襲撃にあい難民化した民とも合流しその数は五百までにもなった

 

「結構な大所帯になったね~」

 

「はい。とはいえ、路頭に迷った民を見捨てる事など出来ません」

 

「でもこれだけの人数、公孫賛って奴は受け入れてくれるか心配なのだ」

 

「白蓮ちゃんは絶対受け入れてくれるよ!」

 

桃香、愛紗、鈴々は引き連れている民を見ながら話していた。桃香は大丈夫というが弓音は公孫賛の事は史実や演義での記述上でしかしらない。この世界で劉備や関羽、張飛がそれらと違うように公孫賛も知っている人物とかけ離れている可能性もあるのだが

 

弓音は最悪の事態も考慮して考えをめぐらせる。そんな弓音の様子を不思議に思った愛紗は声をかけた

 

「弓音様?いかがなさいました?」

 

「えぇ。公孫賛が受け入れてくれなかった場合、どう対応すべきか考えていました」

 

弓音の発言に桃香が反論する

 

「もー。弓音ちゃんは心配性だなぁ。大丈夫大丈夫。白蓮ちゃんなら心配いらないよ」

 

弓音は桃香の言葉にあいまいに頷くだけだった

 

(桃香さんは少し楽天的だと思うのは失礼かな。でも人命が関わってくる事だから実際会うまで代わりに気をひきしめないと・・・)

 

そんな風に考えをめぐらせている弓音の様子を愛紗はじっと見つめていた

 

突然、鈴々が声をあげた

 

「前方で砂塵がみえたのだ!!!」

 

周囲に緊張が走る。弓音が愛紗に指示を出した方が良いのでは、と提案しようとするが、愛紗は頷いただけですぐ行動をおこした

 

「皆、戦える者は武器をもて!戦えないものは後方にさがれ!心配はいらない!我らには天の御遣い様がついているのだから!!」

 

関羽の言葉に民は恐れを飲み込み武器を握り締める。砂塵が近づくと桃香が声をあげた

 

「みんな!あれは敵じゃないよ!賊っぽくないしきっと白蓮ちゃんだよ!」

 

桃香の発言で民達が安堵する。そして緊張が解け始めていた

 

「皆。まだ緊張を解かないで!」

 

弓音が声を張り上げる。民達に動揺が走りそうになるのを感じた弓音は続けざまに言う

 

「敵じゃないかもしれない。でも安堵するのはまだ早い!!自分の、友の、家族の命が関わってくるのだから!!適度な緊張感は持っておくべき!」

 

弓音の喝に民達は気を引き締めなおした。しかし弓音の心配は杞憂に終わる。近づくにつれ旗が目視できるようになり、公孫旗だとわかる。自分達の目と鼻の先で進軍を止めた公孫の軍の中から、数騎近づいてきた

 

明らかに敵意がない事がわかりここで改めて民達は安堵した。近づいてきた人物の中で赤い髪を後ろで結わえている、いわゆるポニーテールの女性が話しかけてきた

 

「やっぱり、桃香たちだったか!斥候から報告を受けていたが、幽州の民を救っていたそうだな!」

 

桃香に親しげに話しかける人物を注意深く観察していたのは弓音であった

 

「いやーしかし、近づくにつれて桃香達の集団から放たれる殺気には驚いたぞ」

 

笑いながら話しかける公孫賛だったが表情を曇らせている桃香

 

「白蓮ちゃん、ごめんなさい。戦うつもりはなかったんだけど・・・」

 

桃香が白蓮に謝罪の言葉を言おうとした時、遮るように弓音が公孫賛の前にたった。そして頭をたれながら言う

 

「公孫賛殿。私の名は北郷 弓音と申します。此度の件はわたしの指示が招いた事。気分を害されたならいかような処罰でもうけるつもりです」

 

弓音を興味深げに見る白蓮。そして疑問をなげかけた

 

「ほぅ。お前の指示か。その意図はなんだ?おそらく桃香が敵ではないとしらせたのだろう?」

 

「はい。桃香さんを疑ったわけではありません。ただ民の命が関わってくる事なので、常に最悪の事態を想定して動いておりました」

 

弓音の回答に満足そうに頷く白蓮

 

「おまえが噂の天の御遣いだろ?」

 

「そのように周りの人々からは言われております」

 

頭を垂れた状態のままで返答する弓音。白蓮は困ったような表情を浮かべて言葉を続ける

 

「頭をあげてくれ。別にその事に怒っているわけじゃないんだ。民の命を守る者としては最良の対応をしたと褒めているつもりなんだよ」

 

そういわれた弓音は頭をあげた。表情にはいくばくかの安堵が伺える

 

「いやはや、桃香よ。北郷はなかなかの人物だな!この進路だとわたしの居城に寄るつもりだったんだろ?話を聞かせてくれるか?」

 

そう言いながら白蓮と桃香は今後の事を話し始めた

 

鈴々は騎兵を興味深々の眼差しで見つめていて、愛紗は弓音に尊敬の眼差しを送っていた。白蓮の後ろでは女性が一人、弓音たちの様子を伺っていた

 

(これはこれは・・・伯珪殿の下で仕官している間にこのような人物に遭遇するとは・・・彼女らが合流するならば是非話をしてみたいものだな)

 

そんな事を考えながら弓音を見つめていた

 

 

一通り話を終えた白蓮は桃香の嘆願を快諾。引き連れていた難民を白蓮の居城で保護する形となった

 

聞けば白蓮はここ最近となって増えてきた賊に頭を悩ませた結果、義勇軍を募っているという。桃香は愛紗、鈴々に相談し弓音の判断を仰いだ

 

その結果、根無し草同様である自分達の今後を考え白蓮の下で学びながら機をみる、ということとなった

白蓮の居城がある幽州遼西郡に到着した一行は、白蓮に招かれ城を訪れていた

 

侍女に案内されたその場所には、公孫賛こと白蓮と、青い髪と白い浴衣のような衣装が印象的な女性が待っていた

 

「わざわざ来てもらってすまないな。桃香」

 

居候させてもらっている桃香達にそのような気遣いは無用なはずだが、この挨拶には白蓮の人柄が良く出ているということであろう。弓音は初めて対面した時ほどの緊張感はもっておらず白蓮の人柄を理解していった

 

「今日来てもらったのはな。正式にわたしの義勇軍に加わって蔓延る賊を殲滅する為に協力してもらうためなんだ。当家ではどうしても人材が不足していてな。わたしとしては桃香は文句なしで採用するつもりだが、他の三人は一度自分の目で見て確かめたいんだ。わたしの隣に控えているのはわたしの客将の趙雲だ。彼女にも意見を聞くつもりでここに連れて来ている」

 

「お初にお目にかかります。趙雲と申します」

 

白蓮に紹介された趙雲が桃香達に挨拶をする。が、彼女の視線は弓音に向かっていた。弓音は多少居心地が悪く感じてしまうが、趙雲という名に驚いていた

 

「彼女が趙子龍・・・」

 

弓音の漏らした言葉に白蓮と趙雲が反応する

 

「ほぉ、我が字をいつお知りになられた?」

 

「わたしも驚いた。まだ星は字は言っていないよな?」

 

「いかにも」

 

白蓮と趙雲のやりとりを聞いていた桃香が嬉しそうに言う

 

「それはね、弓音ちゃんが天の御遣い様だからだよ♪」

 

えっへんと胸をはり普段から自己主張が激しい部位がさらに際立つ。そんな桃香にすかさず趙雲が言う

 

「いやその理屈はおかしい」

 

「えー」と頬を膨らませる桃香を無視し趙雲は弓音に視線を送り答えを促す

 

弓音はどう説明したものかと考えるが、他に伝えようがないので、ありのままを話す事にした

 

                     †††

 

「はー・・・なんと言っていいのか対応に困る話だな・・・男の私達が活躍する話かー・・・私はどのような活躍するのかなぁ~」

 

白蓮は弓音から聞いた三国志の話に興味をもつ。もとい、三国志で活躍する自分に。そしてそのまま意識はどこか他の世界に旅立ったようだ

 

「確かに興味深い内容ですな。しかし・・・それを証明する事はできますかな?」

 

しかし趙雲はどこかに意識を飛ばしてしまった白蓮を放置し弓音の話を疑うような態度をとった

 

「疑うというのか!趙雲殿!!」

 

趙雲の発言に食って掛かる愛紗。弓音はそれをやんわりと制す

 

「わたしが身につけているもの、所持しているもの以外では証明できません。私自身、天の御遣いと大層な名でよばれるのに僅かながら抵抗はあります。本物かどうかわたしもわかっていませんから」

 

「ふむ」

 

「ですが・・・ここにいる桃香さん、愛紗さん、鈴々が世を憂い平和を望み、それにむかう姿勢は本物です。私を本物だと信じてくれているそんな彼女たちのためにも、本物でありたいと思っています」

 

「ほぉ・・・伯珪殿が劉備殿たちを迎えにいった時の対応といい、今の発言といいなかなかの器量の持ち主のようだ。試すような態度をとってしまい申し訳ない」

 

趙雲は満足したように言い、とった態度について謝罪した

 

「いえ。天の御遣いだなんて眉唾な話、いきなり信じろというのも無理な事です。この時代の人たちは天とかそういう言葉に敏感です。それを騙る輩もいるでしょう」

 

「天の御遣い殿からそのような事をいわれるとは。いやはやまったくもって面白いお方だ」

 

趙雲がクックッと喉を鳴らした。二人がそんなやりとりをしていると

 

「なぁ、北郷。そのさんごくしとやらで私はどのような活躍をしたのか?どのような英傑だったのだ?」

 

こちらの世界に戻ってきた白蓮が食いついてきた

 

弓音は狼狽する。公孫賛、それは三国志の史実では人望厚い劉虞を殺して幽州を奪った後、驕慢になり暴政を敷いた結構ひどい人だったなどとは言えない。演技では曲筆されてかなりましになるが早々と脱落したなどとも言えない

 

(だから最初警戒してたけどこの人柄をみるにこの人は 普通の いい人・・・!どうするの、弓音!!)

 

などと思いながら動揺していた。そして苦し紛れに言う

 

「その時代では珍しい騎射のできる兵士を率いて白馬長史と呼ばれるくらいには活躍しました・・・」

 

「なんだよぉ~それじゃあ今とあまりかわらないじゃないか~へへへ~そうか~活躍するのか~」

 

弓音の唇をかみ締めながら言う表情とは対照的に、表情を綻ばせながら言う白蓮は満更でもなさそうだった。趙雲は弓音の様子から察したのかにやにやしている

 

「なぁなぁ!わたしはもっとその話を聞きたいぞ!北郷、おしえてくれないか?」

 

「き、禁則事項です」

 

「えー!なんだよ~少しくらい教えてくれてもいいじゃないか~」

 

「き、禁則事項です・・・」

 

白蓮のしつこい追求に進退窮まった弓音はついに目を堅く閉じ、ぶるぶると震えだした

 

「ど、どうしたんだ?北郷?」

 

弓音の様子に驚いた白蓮は声をかける。それまで終始にやにやしていた趙雲が助け舟をだした

 

「む!もしかするとこれは、天の国の掟かなにかで三国志の内容をこれ以上話すと体に異変をきたすとかきたさないとか、そんな状況なのでは?このままでは北郷殿が危ない!」

 

趙雲の芝居がかった発言に愛紗、鈴々が慌てる。そんな二人を桃香が苦笑いしながら「大丈夫だよ」とそっと耳打ちした

 

白蓮もまさかそのような事情があるとは思ってもみなかったらしく慌てながらいう

 

「北郷!すまない!そんな事情があったなんて。北郷を苦しめるつもりはなかったんだ。本当に知りたかっただけなんだ・・・」

 

「さぁ、北郷殿はもう大丈夫のようです。伯珪殿、いささか話が脱線していますな。戻されてはどうでしょう」

 

弓音の震えが止まったのを確認した白蓮は星の提案を受け入れ、話を元に戻す

 

「すまなかったな北郷。それでだな、私は改めて桃香たちに協力してもらおうと思う。星も文句はないだろ?」

 

「はい。人柄も問題ありません。さらに・・・関羽殿、張飛殿そして北郷殿はかなりの武をもっておられると推察します」

 

目を細めながら三人を見て趙雲は言った

 

「ほぅ。星がそういうならかなりの物なんだろうな。では皆これからよろしく頼む」

 

「うん!もっちろん♪私、たっくさん頑張るよ!」

 

「ああ。我が力、とくとごろうじろ」

 

「鈴々に任せるのだ!」

 

「よろしくお願いします」

 

白蓮の言葉を皮切りに各々が挨拶を交わした

 

 

公孫賛たちと共に戦う事になった弓音たちは、陣割が決まるまで、しばし休息のときを過ごした

公孫賛の下に身を置くようになってから弓音たちは白蓮や趙雲こと星と交流しながら仕事を手伝い互いを真名で呼び合う盟友となっていた。そして二週目、ついに近隣に跋扈する匪賊を殲滅する為に出陣することとなった

 

「・・・これだけの大部隊になると壮観ですね」

 

弓音は目の前に広がる光景に息をのんだ。こちらの世界にきてから賊との交戦はあったが、これだけの人数での戦はまだ経験していない。これから起こる戦を想像し体が震える。弓音にはそれが恐れからくるのか武者震いなのか判断がつかなかった。その様子を見ていた愛紗が話しかける

 

「弓音さま。あなたさまは我らの指導者。前線は我らに任せ桃香さまと後方で構えていてください」

 

愛紗の提案を弓音はすぐさま否定する

 

「愛紗さん。姉妹であるあなたたちが命を懸けて戦うのです。わたしだけ安全な所で高みの見物などできるはずもありません」

 

弓音は愛紗にそういうが、愛紗は弓音がわずかに震えているのを心配そうな面持ちでみている

 

「ふふ。愛紗さん、情けないところをみせてしまってごめんなさい。これから人の命を奪うことを考えると震えてしまいます。これは武者震いということにしてくれませんか」

 

己の情けなさからかやや自嘲気味に愛紗に言う弓音

 

「情けないなどと思ってはおりません!・・・弓音さま、お優しいのも結構ですが、己の価値というものを考えてくださいね」

 

愛紗は弓音の戦う覚悟に対して心配はしていない。それどころかまだ戦に慣れるほど経験もしていないのに、共に前線で戦おうとする姿勢には感心している。しかし前線に立つからこそ、少しの迷いが命取りになる。愛紗は弓音の優しさが仇となる可能性を心配しているのだった

 

愛紗の言葉に弓音はふと思う

 

(価値、か。人の命は平等。優劣などつけられるはずもない。でも・・・それはわたしが居た平和な世界での話、ここでは通用しない・・・か)

 

村での一件で覚悟を決めた時の心情を思い出し、弓音は己を再度奮い立たせた

 

                      †††

 

「全軍停止!これより我が軍は鶴翼の陣を敷く!全員粛々と移動せよ!」

 

本陣からの伝令から指示が伝わってきた

 

「いよいよですね」

 

「えぇ。鶴翼の陣ですか。この地は起伏があり突破力を生かしにくいですし、兵力差もあるようなので妥当な指示ですね」

 

愛紗は目を丸くしながら弓音に問う

 

「兵法にもお詳しいので?」

 

「いいえ。少々知っているだけです。実際見るのは初めてです」

 

愛紗の問いに答えた弓音だったが、聞いていた鈴々が

 

「それだけ知っているなら鈴々よりもすごいのだー!」と言い

 

「鈴々、我らもこれだけの隊を率いるのは初めてだが今後の事を考えて学んだほうがいいぞ」と愛紗に窘められた

 

「うっ、薮蛇だったのだ・・・」と俯きながら言う鈴々に対し

 

「それだったらわたしが教えてあげるよ!ちょっとは勉強したもん!」とのほほんと言う桃香

 

そんなやりとりをみながら弓音は、戦の前に軽口をたたきあえる彼女らの心の強さに感心していた

 

 

 

賊の隊がこちらに向かって突出してきたのを合図に開戦。しかし兵力差に加え統率の取れていない賊の隊に対し、愛紗、鈴々などの勇将が率いる隊、結果は火を見るより明らかで戦線を崩壊させる盗賊団

 

弓音も所持していた矢をすべて撃ち尽くし、刀をもって参戦していた。戦線を崩壊させた盗賊団に追い討ちをかけるように中央と右翼の公孫賛軍も突撃を開始。これが決定打となりこの後は戦というより残党狩りのような見ている者が戦慄を覚えるような内容だった

 

こうして完全なる勝利を手に入れた公孫賛軍。皆、意気揚々と引き上げていった

公孫賛軍の下で初陣を大勝利で飾った弓音たちはそれ以降も白蓮の下で賊討伐に協力した。その結果、愛紗、鈴々の武勇、そして桃香の人徳、弓音の天の御遣いとしての名はみるみる民達の間に広がっていった

 

弓音がこの大陸に来てから二月の時が流れた頃、大陸中に不穏な空気が漂った。匪賊の横行、大飢饉、疫病の蔓延

 

その空気は大陸の人々の心を確実に蝕んでいき、ついには地方太守の暴政に耐えかねた民が民間宗教の指導者に率いられ官庁を襲うという事件がおきた

 

漢王朝はこれを鎮圧させる為に、官軍を派遣。しかし返り討ちにあい全滅。その後もその集団の勢いはとまらず次々と周囲の町に侵攻していった

 

地方の反乱だとたかをくくっていた漢王朝は、討伐軍全滅の報に驚愕し、ついには恐慌に陥った

 

官軍は頼みにならず、と判断した漢王朝が地方軍閥にこれの討伐を命じたのは最初の事件が起きてから更に一月以上も後であった

 

                     †††

 

 

 

この朝廷からの命が白蓮の居城に届けられた翌日、弓音たちは白蓮に呼ばれ城を訪れた

 

「すまないな。休んでいるところ来てもらって」

 

白蓮は弓音たちにそう言った後、話を続ける

 

「北郷たちも知っていると思うけど、この城に朝廷からの使者がきてな。反乱軍を討伐せよ、とも事だ。これに私は参加しようと思っている・・・」

 

白蓮にはいつもの人のよさそうな表情はみられず、なにかと言い辛そうにしているのを弓音は感じ取った。そして弓音は白蓮に言う

 

「成る程。これはわたしたちが独立する好機でもありますね」

 

「・・・!あ、あぁ。そうなんだ」

 

弓音がまさに自分が言おうとしていた事を先に言ったので白蓮は驚いた

 

弓音は気がついていた。ここ最近の愛紗たちの活躍により自分達が有名になってきていること。それが白蓮にとってやり辛くもなってきている事。人の良すぎる白蓮である、やり辛くなってきたからと言って桃香たちを放り出す事も出来ず、かといって影響は無視できず頭を悩ませていたのであろう

 

「黄巾党鎮圧で手柄を立てれば、恩賞によりそれなりの地位がもらえるはず。そうすれば今まで以上に多くの民を救える、ということですよね、白蓮さん」

 

「あぁ。私としても今回の件で更なる飛躍を狙っていて自分のことで精一杯なんだ。そんな中で桃香たちをつき合わす事が厳しくてな・・・すまない」

 

「何を謝っているのですか白蓮さん。私達は白蓮さんに感謝しています。謝られるようなことはされていませんよ」

 

白蓮はそれでも申し訳なさそうにしているので、弓音は苦笑しながらも、感謝の念を伝える。すると鈴々が疑問を口にした

 

「でも、鈴々たちだけで大丈夫かなぁ?」

 

愛紗が言う

 

「たしかに・・・我々には手勢はありませんからね・・・」

 

鈴々や愛紗のいう事は最もであって弓音もどうしたものかと思案する。この町で義勇兵を募りたいところだが白蓮の手前言い出しにくい。おもむろにそれまで成り行きを見守っていた星が提案した

 

「兵なら、この町で募ればよいではないか。な。伯珪殿」

 

その提案に白蓮はぎょっとするが、すぐさま表情を戻し

 

「・・・そうだな。わたしの友たちが決起するのだからな。ここは華々しくするよう助力するほうがいいよな。よし、義勇兵は町で募ってくれ!星は兵站部に連絡を取り武具と兵糧を手配してやってくれ。それと、旗が必要だな!私が用意しよう。何か希望はあるか?」

 

白蓮の大盤振る舞いに皆驚いた

 

「わたしたちのチームカラーは・・・蜀といえば緑ですかね?」

 

「ちむからー?しょく?」

 

桃香が首をかしげながら復唱する

 

「あぁ。私達の印象にあった色を決めて旗の色を統一したくありませんか?」

 

「それはいい案ですね!」

 

「賛成なのだー!」

 

「弓音ちゃんが言っていた緑がいいと思うな♪でも緑なのはなぜ?」

 

「ちょっと理由言うのはずかしいんですけど・・・君主である桃香さんの優しさを表した緑。緑の印象って森とか木々ですよね。大地にしっかりと根をはり人々の生活を見守る森という印象で緑といったのですが・・・」

 

弓音は顔を真っ赤にしながら言った。それが伝染したのか、褒められて恥ずかしいのか桃香も顔を真っ赤にしていた。愛紗や鈴々も釣られて顔を赤くする

 

白蓮はその様子を生暖かく見守り、星だけは「穢れをしらぬ乙女たちが顔を紅潮させ見詰め合う・・・これは眼福眼福」となぜか満足そうだった

 

 

白蓮、愛紗、桃香、鈴々各手配をしにいって、その場に残ったのは星と弓音のみ。星が弓音に真剣な面持ちで問いかけてきた

 

「して、弓音殿。討伐に際してなにかお考えがおありか?」

 

「義勇兵がどれくらい集まってくれるかにもよりますけど、まずは敵の情報を手に入れつつ、軍勢の運営に力を入れると思います」

 

「ほぅ。ですがあまり悠長なことをしていては功を逃すのでは?」

 

「桃香さん、愛紗さん、鈴々だけでなく、志を同じくして集まってきてくれた人は同様に仲間です。そしてそれらを率いる私達は皆の命を預るということです。なので慎重すぎるくらいが丁度いいのではないかと。功を焦って同志の命を無駄に散らすつもりはありません」

 

「ふむ・・・なかなかよくお考えだ」

 

今度は弓音が星にむかって真剣な顔で言う

 

「星さん、私達と供に来てくれませんか?」

 

直球の弓音の言い方に星は少し驚いた

 

「しかし、今は客将とはいえ伯珪殿に恩を返すまではここを離れるわけにはいきませぬ。誘っていただけた事は嬉しいですがわたしは自分の道は自分で見つけたいのですよ」

 

「そうですか・・・それは残念ではありますが、星さんなら見つけられると思います」

 

弓音は断られた事に表情をやや曇らせたが、星の行く道が良き道であると祈って笑いながら言った

 

「弓音殿。わたしをお誘いになった理由をお聞きしてもよろしいですかな?」

 

「武勇、お人柄、挙げればきりがありませんが、一番の理由はわたし自身、あなたが必要だと思ったからです」

 

弓音は星の目を見つめながら言った。どれくらい自分が星を必要としているのか伝える為に。そして最後に一言

 

「わたしはあなたを必要としています。常勝将軍殿」

 

そう言ってから弓音はその場をあとにした

 

残された星はかつて自分がこれほどまで必要とされただろうか、と戸惑いを隠せなかったが弓音の最後に言った一言が耳に残る

 

「常勝・・・将軍・・・か。ははははは!これはまた面白い事を言う御方だ」

 

そう言った星の胸は高鳴っていた

荊州にあるとある私塾(水鏡塾)の前では三人の少女が一人の女性から見送りを受けていた。三人のうち二人は見送りに来た女性に恐縮した様子で、もう一人の少女はその恐縮している少女達を優しい眼差しでみている

 

見送りにきた女性が三人の少女に話しかける

 

「皆さん、道中気をつけるのですよ。あなた達はどこにだしても恥ずかしくない子だと私は自負しています。仕える方を見つけ勤めを立派に果たすのですよ」

 

「はいっ・・・!が、頑張りましゅ!はわわ、噛んじゃった」

 

「は、はひっ!わたしも頑張りましゅ!あわわ、噛んじゃった」

 

「うふふ。朱里も雛里も噛みしゅぎよ。全くいつまでたってもあわてん坊さんなんだから」

 

三人の師だとおもわしき女性からの言葉にそれぞれで答えるが誰一人として噛まずに言えなかった。女性は軽くため息をつき、三人の中で比較的背の高い少女を見据えて話しかける

 

「特に藍里。あなたが一番心配よ・・・あなたも優秀だからその点では心配していないのだけれど・・・ちょっと抜けている所があるからね・・・」

 

藍里と呼ばれた少女は微笑みながら女性に言う

 

「大丈夫ですよ。水鏡先生。わたしはこうみえてもこの三人の中では年長者なんでしゅから」

 

「いや、さっきからあなたも微妙に噛んでるから。ちょっと緊張してるのばればれだからね?」

 

藍里は微笑んでいたがカッと目を見開いて

 

「流石は水鏡先生・・・!わたしもまだまだですね」

 

と言って、元の微笑み顔に戻った

 

「・・・まぁよしとしましょうか。あなたがここまで意志を主張したのは初めてだものね。そんなに管輅さんが言っていた事が気になるのね」

 

「はい。流星が三つに分かれたのを私は見ました。これはきっと天啓だと思うのです」

 

「わかりました。ならば私はあなた達の旅の無事を祈るだけです。ところであなた達は何処にむかうのかしら?」

 

水鏡先生が三人の弟子に問う

 

「はひっ!わたし達、昨晩話し合ってきめたんですけど、これから幽州の方へ向かいたいとおもってます!」

 

「なんでも、幽州には天の御遣いとよばれる方がいるとか。流星が落ちた方向の一つも幽州でした!」

 

「私は益州の方に向かいます」

 

「「えっ!?」」

 

藍里の唐突の発言に、朱里、雛里は水鏡先生の方を向いていた顔を藍里の方に向きかえる。そして朱里が藍里に詰め寄った

 

「ど、ど、ど、どうしたの!?お姉ちゃん!!昨日三人で決めたときは賛成したじゃない!それを急にかえるだなんて!」

 

「あわわ。落ち着いて朱里ちゃん。昨日の晩を今思い返すと藍里さんはただ笑ってただけで肯定も否定もしなかった・・・むしろ一言も喋ってなかった気がするよ。頷いていたように見えたのは船を漕いでいたからかも」

 

雛里の証言で朱里はまさかと思い姉である藍里に問う

 

「も、もしかして・・・!お姉ちゃん!!寝てたの!?」

 

「うふふ。朱里も雛里もまだまだね。水鏡先生なら見破っていたはずだわ」

 

「そんな事、今聞いてないよ!」

 

「朱里ったら怒りん坊さんね。だって夜だったんだもの。姉さん寝ちゃうわ」

 

藍里の対応に朱里は目に涙を溜めて怒鳴る

 

「酷いよ!お姉ちゃん!!私たちは水鏡先生の元でたくさん勉強して・・・!民が苦しまない世の中をつくるお手伝いをする為に努力して・・・!三人で頑張ろうって言ったじゃない!!」

 

いいながら朱里の目からはとうとう涙が溢れ出した。藍里はそんな愛しい妹の姿に心がちくりと痛んだが、表情を引き締め言った

 

「朱里・・・。あなた達と共に仕えるべき主君を見つけその道に尽力をつくせたらさぞかし素晴らしい国ができるでしょう。でも姉さんは自分の智がどれほどなのか、どこまで出来るのか試してみたいの」

 

藍里は目を見開いて朱里に語りかける。朱里は愛する姉の本気を察する。普段からにこにこしている姉は滅多に目を見開かない。朱里の記憶では真剣な時と怒ったときしか見たことが無い

 

(あわわ・・・藍里さんの目が開眼しちゃってますぅ。でも、お互い違う君主に仕える可能性があるって事は・・・朱里ちゃんが最も恐れていた事だよ。どうするの?朱里ちゃん・・・)

 

藍里や朱里と付き合いの長い雛里も、藍里の真剣さは十二分に理解していた。そして切磋琢磨してきた相手に対して自分がどれほどのものか試してみたいという気持ちも。しかし藍里の願いを叶えるということは自分の親友が最も恐れていた事態になりかねない。雛里はいい案が出ずに帽子のつばを両手でぎゅっと握り締めて俯いてしまう

 

「で、でもお姉ちゃん!違う陣営に身をおいたとしたら・・・先生が言っていたような群雄割拠の時代になったとしたら・・・・・・!!」

 

藍里を説得しようと朱里は必死に食い下がる。しかし藍里は突き放すように言う

 

「朱里。あなたの望む皆が笑って暮らせるような国をつくりたいという気持ちはその程度で揺らぐようなものなの?」

 

「・・・・・・!!!」

 

朱里は唇をかみ締める。そして俯きながら声を絞り出す

 

「そんな・・・こと・・・ない!!わたしの大望はそんな事では揺らがない!!」

 

両目からは涙がぽろぽろと落ち声は上ずってしまっているが、しっかりと姉の愛里を見据えて言い放った

 

そんな最愛の妹の言葉を聴いた藍里は朱里をやさしく抱きしめる

 

「朱里。あなたは優しい子。姉さんの自慢の妹。優しすぎる故、乱世に身を投じた時あなたの心が心配だったの。でもその覚悟があればもう大丈夫よね。かといって姉さんも負けるつもりはないけどね」

 

いつもの微笑み顔に戻った藍里は朱里に優しく語りかけた。しばらくその場では朱里の泣き声が響いていた

 

                     †††

 

 

「なかなかの姉っぷりでした、藍里。朱里も今は辛くとも藍里があなたに伝えたかった事、しかとその心で受け止めなさい」

 

「朱里は優秀な子ですから。姉として教える事はあまりありませんでした。旅立つ前に大切な事を伝えられてよかったです」

 

「そ、そんなこと!お姉ちゃんには他にもお菓子作りとかたくさん教えてもらいました」

 

目を真っ赤にはらした朱里は藍里に言う。藍里は微笑みながら健気な妹をみて雛里に語りかける

 

「雛里ちゃん、朱里のことよろしくね?」

 

「はい!藍里さんもお元気で!」

 

話の流れ的に三人がそろそろ出発するのを悟った水鏡先生は慌てて皆をよびとめる

 

「これは皆さんへの餞別です。旅のお供にどうぞ。先生、この日の為に頑張っちゃった」

 

そう言いながらそれぞれに本を渡す。受け取り中を確認する三人。そして目を輝かした。藍里なんか今まで以上に開眼していた

 

「はわわっ!!これは先生の新作・・・!」

 

「あわわっ!!いつもの艶本ではなく新展開の八百一本・・・!」

 

「カッ!!!」

 

三者三様の喜びようであった

 

「「「家宝にします!!水鏡大先生!!」」」

 

そして一人と二人、別々の道を歩んでいった。残った司馬徽こと水鏡先生は三人が見えなくなるまでその姿を目で追っていた

 

「臥龍、鳳雛これからどういった活躍をみせてくれるのかしらね。藍里にも通り名つけたことあるけど、気に入らなかったようでそれで呼ぶと何故か怒るのよね。“天馬”なんてこれから天の御遣いを探しにいくのにぴったりなのに。馬が気に入らないのかしら・・・?」

弓音たちが白蓮の下を離れ自立すると決めてから、一週間。ついに出立する日がきた

 

「いよいよ、出立ですね!」

 

愛紗は期待に目を輝かせながら弓音たちに言う

 

「そうだねー♪なんだか義勇兵さんもいっぱい集まってくれたし、これならなんとか戦えそうだよね!」

 

義勇兵を募ってみたところ、その話はたちどころに近隣の村々まで響き渡り、六千人もの人数が集まった

 

「白蓮さんにはやりすぎだ、といわれましたけどね」

 

弓音はその時の白蓮の顔を思い出し苦笑した

 

そんなやり取りをしていると町の門から飛び出す影が一つ。白蓮であった

 

「おーーーい!ちょっと待ってくれよ~」

 

見てみると白蓮が何かを持って馬でかけてくる。弓音たちのところにつくと白蓮は持っていたものを手渡した

 

渡されたものをみて四人の目が輝く。深緑の旗にそれぞれ刺繍された、劉、関、張、そして十という文字

 

「なぁ、北郷。お前の旗、北郷じゃなくて十文字でよかったのか?」

 

「はい。この十文字は北郷家の家紋ですから。素敵なものをありがとうございます」

 

「あぁ!気に入ってもらえてうれしいよ。わたしもおまえたちに負けないよう頑張るよ。だから皆頑張ってな!」

 

白蓮にお礼を言い、弓音たちは出立した

 

 

                     †††

 

 

弓音たちは幽州遼西郡から幽州と冀州の境である幽州啄郡に移動し、これからの方針を決める事とした

 

無闇に移動し兵糧を浪費してしまうのを抑えるためであったが、あまりもたもたはしていられない。収入源を確保しなくてはじり貧となるのは明らかであったからだ

 

「手に入れた黄巾党の情報から黄巾党は常に移動しているようです。その為、各地に散らばって存在しているようですね」

 

「むぅ。それはやっかいですね・・・。どこから攻めるべきか・・・」

 

弓音の言葉に渋面しながら悩む愛紗。そんな愛紗をみて鈴々があっけらかんと言う

 

「愛紗は何を悩んでるのだー?そんなの目に付いた奴らからやっつけていけばいいのだ!」

 

「そうだよ!二人共!すぐ近くで困っている人たちを助ければいいよ!」

 

鈴々の言葉に桃香が続いた。二人の発言を聞いた愛紗、弓音が二人に言う

 

「鈴々・・・そんなに闇雲に戦っていてはいくら雑兵の黄巾党相手でも、勝てん。我々とは規模が違うのだぞ」

 

「愛紗さんの言うとおりですよ。黄巾党本隊は二十万とも三十万とも聞いています。私達も戦力が整ったといっても、それにくらべたらたったの六千。私達の黄巾党討伐の最終目標は敵の拠点を落とし間接的に本隊討伐に貢献するのが関の山でしょうね」

 

「なんで拠点を落とすのが本隊討伐の役に立つのだ?」

 

鈴々は頭に浮かんだ疑問を弓音にそのままぶつけた

 

「拠点を落としていけば、敵の兵糧などを抑える事ができますよね。本隊と戦えない以上、そういう嫌がらせをして敵をやせ衰えさせるんです」

 

「そんなにうまくいくのかなぁ?」

 

「鈴々の疑問はもっともですね。拠点を落とすといっても今の私達の戦力ではそれほど大きな拠点を落とす事もできないでしょう。だけど名をあげる為に小さな部隊を相手に勝利を重ね、ゆくゆくは重要拠点を落とせるようにやっていかなくてはなりません。白蓮さんのように諸侯も動いていますし本隊などはそちらにお任せしましょう」

 

「敵を選んでいるようで正直、気は進みませんが・・・今のわたしたちではそれが精一杯でしょう」

 

「じゃあわたしたちはどこから攻めるべきなのかな?」

 

桃香の疑問に皆の会話が途切れる

 

弓音は地図を手にしながら口を開いた

 

「そこ・・・なんですよね。地図を見ながらどこが私達にとって有利か判断しながら戦おうとおもっていたのですが・・・まさかこの時代の地図がこんならくがきみたいな物だとは。迂闊でした・・・」

 

「それ、主だった街道しか書いてないね・・・」

 

「更に、私達の問題は兵糧にもあります。どこかで補充していかないとすぐ動けなくなります」

 

この問題に対して地方の名士に寄付を募るか、それとも黄巾党から奪うか位の案しかでなかった

 

どちらの問題にしろ情報が少なく四人は頭を悩ませていた

 

四人が頭を悩ませていると、天幕に伝令が入ってきた

 

「申し上げます!我らの陣に訪問者が来ております!女の子供二名!御遣い様への謁見を希望しております!」

 

「ふむ。では私が出よう。一足先に確認してまいりますので、よろしいですか?」

 

愛紗は弓音と桃香を見ながら言った。二人が頷いたのを確認した後、愛紗は件の少女二名が待っているという陣の入り口に向かった

 

 

愛紗は困っていた。御遣い様に謁見したいなどという輩は御威光にあやかろうとする卑劣な輩か、自らに自信がある人材たりえる人物が売り込みに来たくらいしか思いつかなかった。確かめにいけばそれらの予想のどちらでもない可愛らしい少女が二名、おどおどしながら待っていたのである

 

愛紗を見た少女が慌てて声をかけてくる

 

「わ、わざわざ来ていただいてしゅみません・・・は、はわわ!噛んじゃった・・・あ、あの天の御遣いさまであられますかっ?わ、わたひは諸葛亮と申します、本日はお日柄もよく・・・」

 

親友が緊張のあまり話を別の方向にもって行きそうなのを感じ取ったもう一人の少女が慌てて発言をする

 

「あ、あわわ!朱里ちゃん、落ち着いて。挨拶が長いよ!要点をきちんと伝えなきゃ。あわわ、わたしは鳳統と申しましゅ。本日はお日柄もよく・・・」

 

「そこは必ず言うのだな・・・」と、愛紗ははわわあわわと恐慌状態に陥っている二人を冷静に見ていた

 

                     †††

 

 

「落ち着いたか?二人共」

 

愛紗が少女二人に問いかける。愛紗は慌てまくる二人をなんとか落ち着かせ対話できる状態にもっていった

 

二人は恥ずかしそうにコクコクと頷いていた

 

「それで、あなたたちは何しにきたのだ?まさかとは思うが共に戦線に加わりたいというわけではあるまい?家はどこだ?危ないから誰か護衛を出してもらえるよう進言してみよう」

 

「い、いえっ!あの御遣いさまには謁見させてはいただけないのでしょうか?」

 

愛紗はこの二人が弓音や桃香に害をなせるとは到底思えなかったので会わせる事くらいは出来ると判断した

 

「まぁ一目見てみるのもあなたたちの今後のためになることもあるだろう。失礼のないよう頼むぞ」

 

愛紗は二人を弓音、桃香たちがいる天幕へと連れて行った

 

 

愛紗がつれてきた人物があまりにも小さな少女だったので皆、目を丸くして驚いた。そして少女たちが御遣いの謁見を求めた理由を聞いて更に驚く

 

「あなたたちの世を憂い世を良くしたいという志は立派だが・・・。二人共、戦場にたつには可憐すぎる。だから・・・な」

 

愛紗が眉間に皺をよせながら諭すように二人に語りかける

 

「子供だからって馬鹿にするのはよくないのだ!!・・・と言いたいところだけど、実際この子たちは弱そうなのだ。連れて行くのは危ないと鈴々も思うのだ」

 

「う~ん。気持ちはありがたいけど・・・わたしたちもそこまで余裕があるわけではないし・・・」

 

鈴々、桃香も愛紗に続くように言う。弓音だけは黙っていた

 

(白蓮のところで出会った、趙雲。今回は諸葛亮に鳳統。史実でも演義でも時系列はめちゃくちゃだけれど三国志のようね。黄巾の乱もおきてしまったし)

 

「今度は孔明さんに士元さんですか・・・」

 

弓音の呟きに全員が反応した

 

「はわわっ!わたしたちの字を言い当てました!!」

 

「あわわ・・・わたしたちは無名だから御遣い様が知るはずないよ、朱里ちゃん、これが千里眼かもよ」

 

「なんと・・・弓音さま」

 

「お姉ちゃんはすごいのだー!」

 

各々が感嘆の声をあげる中、桃香だけが、ふっふっふと笑っていた

 

「みんな、何を今更驚いているのだね!弓音ちゃんは天の御遣い様だから当然だよ!えっへん!!」

 

「別に桃香がすごいわけじゃないのだ」

 

鈴々にばっさり斬られしょぼくれる桃香。愛紗も同感だったが話を進める為、弓音に問う

 

「弓音さま、彼女らも天の知識に出てくる英傑なのですか?」

 

「はい。彼女らがわたしの知識の中の人物だとすれば必ず力になってくれると思いますよ。実際、私も驚いていますけどね。かの有名な臥竜鳳雛がこのような可愛らしい人たちだったなんて。ふふふ」

 

「臥竜、鳳雛・・・失礼ながらかの者らがそこまでの人物とは思えないのですが・・・」

 

愛紗の疑問は最もであり自分達にはなんの力をもたない人物を保護する余裕もない。しかし弓音は彼女らが本物であれば自分達に足りないものを一気に補充できると思った

 

「そこで提案なのですが、私達の現状を説明し意見を求めてみるのはどうです?どれくらいの智謀があるのか実際見せていただいた方が判断するのに良いと思いますけど」

 

弓音の提案に納得し意見を聞いてみることになった

 

皆、諸葛亮と鳳統の知識に驚いていた。二人の知識は様々な兵法をはじめ、政治に必要な知識、果ては大陸の正確な地理までに及ぶものだった

 

弓音たちが頭を悩ませていた、今の自分達に足りないものがこの二人によって補われ、敵から鹵獲しつつ勝利を重ね名をあげていくという方針が決まった

 

こうして二人を認めるようになった桃香たちはお互いの真名を預け、諸葛亮、鳳統、両名は仲間に加わる事となった

 

桃香の人徳、愛紗、鈴々の武勇、諸葛亮、鳳統の智謀、弓音の天の知識、そして六千の義勇兵たち

 

四人が出会ったときとは比べ物にならない程、戦力が充実してきた彼女らは本格的に始動することとなる

 

弓音が天の御遣いとして降り立って四月ほどたった頃のことであった

【天幕での出来事】

 

朱里、雛里が陣営に加入し、自分達の兵力にあった黄巾党の部隊を倒していく日々を送っていた弓音たち。これはそんな日常の中での天幕で起こった出来事である

 

 

 

弓音は一心不乱に描いていた

 

兄である北郷 一刀の似顔絵を。すでにノートの10ページまでに及ぶほどであった

 

一刀の素の顔、笑顔、怒り顔など、哀しい顔以外の表情は全て描いているのではないだろうかという状況であった

 

なぜか、困っている顔や焦っている顔、怯えている顔の比率が高かったが

 

弓音の天幕を訪ねてきた桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里がその様子を伺っていた

 

「弓音さま?何を描かれているのです?」

 

おもむろに愛紗がそのノートを覗き込むように言ってきた

 

「兄の絵を描いています」

 

「これは・・・!素晴らしい出来ですね!弓音さまの兄上のお顔は存じ上げませんが、ものすごい画力ですね!」

 

「ほぇ~・・・!弓音ちゃんって絵が上手なんだねぇ~」

 

「はわ~・・・」

 

「あわ~・・・」

 

「お姉ちゃん!鈴々の絵も描いてー?」

 

鈴々がねだる様に言うので、弓音は手を止め、言うとおりに三人の似顔絵を描いた

 

 

「わ、わたしはこのような可愛げのある人間ではありません!」

 

照れた表情を浮かべながら弓音の描いた自分の似顔絵をみながらいう愛紗

 

普段の愛紗からは想像つかないほど、はじけた笑顔の愛紗を描いたものであった

 

 

「鈴々は大人になったらこんな美人になるのだー!あっ!今が子供ってわけじゃないよ?」

 

と嬉しそうに言う鈴々

 

大人びた表情で体も今のリンリンよりは大きく、まるでそのまま成長したかのような絵であった

 

なぜか、ポーズはM字開脚であったが

 

 

「はわわ!雛里しゃん!これは創作意欲が沸く絵だね!」

 

「あわわ!朱里しゃん!まるで秘密の花園だね!」

 

二人の絵は薔薇を散りばめた背景に艶かしい表情を浮かべ着崩れた状態で抱き合っている二人というものであった

 

二人の脳内ではきっと性別を転換させているのであろう

 

 

「わ~色もつけてもらってすごいな~!ありがとう弓音ちゃん!」

 

鞄の中に入っていたカラーペンも駆使して桃香の似顔絵を完成させた弓音。桃香は非常にご満悦であった

 

其々が弓音に描いてもらった絵に満足していた中、愛紗がまた弓音に話しかけた

 

「しかし、弓音さまの兄上はすごくお優しそうですね。人柄が絵から滲み出てくるようです。きっと弓音さまの様なお人なのですね」

 

「愛紗ちゃん、紹介してもらっちゃいなよ~?あ!弓音ちゃんわたしでもいいからねっ?」

 

「わ、わたしのような可愛げのない女が弓音さまの兄上と釣り合うはずもありません!弓音さまにも兄上さまにも失礼ですよっ!」

 

桃香の提案に愛紗は顔を真っ赤にしながら言う

 

「ふふふ。愛紗さん、そんなことはありませんよ。愛紗さんは素敵な女性です」

 

弓音の言葉に愛紗は顔を真っ赤にして俯いてしまったが満更でもなさそうだった

 

「じゃあじゃあ、弓音ちゃん!わたし!この劉備元徳が立候補します!」

 

桃香は一刀の似顔絵を見ただけであるが、弓音の一刀への想いはすさまじくその人柄が滲み出るほどであったので、優しい人だと確信し気に入っていた

 

「・・・・・・兄さんは巨乳が苦手なんですよ(嘘)」

 

「うぐ・・・」

 

「・・・・・・」

 

弓音の一言により桃香は呻いた。愛紗はなにも言わなかったがそこはかとなく残念そうであった

 

話を聞いていた朱里、雛里は食いつきはしなかったが、“キョニュウガ ニガテナンデスヨ”の言葉に感銘を受けていた

 

微妙な空気が流れ始めた頃、鈴々がまたねだるように言ってきた

 

「ねぇねぇお姉ちゃん、天の国での鈴々たちは男だったんでしょ?どういう顔だったのだ?それも描いてほしいのだ!」

 

その提案に皆興味をしめしたので、弓音が描く事にした

 

 

「ほぅ・・・。これが天の国の関羽ですか。なかなか強そうですね。髭が伸びすぎな気もしますが」

 

<弓音の描いた関羽の絵はレッ○クリフ参照>

 

 

「鈴々も結構強そうなのだ!でも鈴々こんなにもじゃもじゃしてないのだ!」

 

<弓音の描いた張飛の絵はレッ○クリフ参照>

 

 

「はわわっ!天の国の諸葛亮はこんな顔なんですかー」

 

「えぇ。カネシロさんです」

 

「・・・・・・ぁわ・・・」

 

雛里の反応が思わしくなかった。それもそのはず、鳳統はその映画には出てきておらず弓音自身どうしたものか悩んだのだが、浮かばなかったので仕方なく、一生懸命思い出しながら周瑜役を描いたのであった

 

(ごめんなさい・・・雛里ちゃん・・・私の画力ではどうみてもゴリよね・・・)

 

俯むいているので表情が見えなかったが若干、黒いものがゆらゆらと立ち込めているようで弓音は焦っていた

 

 

「あ、あの・・・わたしというか劉備ってこれ?」

 

「えぇ。そうです(キッパリ)」

 

「なんで、こんなに耳たぶがのびてるのかなー・・・って。びろーんって伸びてるよ・・・」

 

「なにか不満でも?」

 

「そ、そんなこともあったりなかったりするよ!?そしてなんだか不機嫌になってない!?」

 

「桃香さん、天の国の劉備は福耳だったそうですよ。だからそんな風に垂れているのです。でも桃香さんは福耳ではありませんね。きっとその福乳が垂れますよ。そのうち。びろ~んって」

 

「うぐぐ・・・ゆ、弓音ちゃんは垂れるほどなくて心配いらないからいいねっ!」

 

「よろしい。ならば戦争です」

 

桃香と弓音がきゃいきゃいとじゃれ始めた矢先、鈴々が無造作に置かれている弓音の鞄に注目した。近づき一冊のノートを手にして弓音に問う

 

「お姉ちゃん!これはなんなのだー?見てもいい?」

 

「なりませぬ!!!」

 

神速かと思われる速さで鈴々に近づきそれを奪った

 

「ごめんなさい。鈴々これは・・・そう!願をかけているものであって今はまだ開いてはいけない物なんですよ。別にたいした内容でもないんですけどね」

 

弓音がややうろたえながら説明すると愛紗が鈴々を諫めるように言う

 

「こら、鈴々。それは弓音さまが願をかけて封をしているものだそうだぞ。無闇にさわるんじゃない」

 

「ごめんなさいなのだ・・・」

 

「いえいえ。鈴々、こちらこそ慌ててごめんなさいね。愛紗さんも、ごめんなさい」

 

「いえ!わたしは当然の事を言ったまでです」

 

そんな三人のやりとりを怪しんでみている人物が一人。桃香であった。そしてにんまり笑って小声で近くにいる朱里、雛里に話しかける

 

「ねぇねぇ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。あれは絶対何か隠してあるよ。完璧超人の弓音ちゃんの弱みを握る好機だよ」

 

「はわわっ!そんなことしては駄目ですよ。桃香さん」

 

「わたし前に弓音ちゃんがあれに何か書き込んでるの見たことあるんだよ。その時もわたしが来たら隠したんだよ?絶対なにかあるよ。天の知識に関してかもよ、ね?雛里ちゃん」

 

「あわわ・・・!それは気にはなりますけど、でも弓音さまが見てはいけないって・・・」

 

「だーいじょうぶだって♪弓音ちゃんはそんなことじゃ怒らないから。きっと面白いことが書いてあるんだよ」

 

こうして軍師の知識欲をうまく刺激しつつ丸め込もうとする桃香であった

 

しかし横目でそれを見ていた人物は弓音であった

【臥龍、鳳雛の目覚め】

 

黄巾党の部隊との戦を繰り返す弓音たち。連戦連勝を重ねその名も徐々に有名になりつつあった

 

その地の名士などから寄付もしだいに増え、部隊の運営も軌道に乗りかかった頃、弓音は軍師である朱里、雛里にある提案をしようとしていた

 

「朱里さん、雛里さん、ちょっと相談したい事があるのですが」

 

「は、はひっ!なんでしょう?」

 

「軍師であるお二人の意見を聞きたいと思いましてちょっと聞いてもらえますか?」

 

弓音は二人に考えていた事を話した。以前、身を寄せていた公孫賛のところでは馬上から矢を射る事ができる兵が何人かいた事。白蓮に聞いた所、異民族ではそういった戦法を取るところもあるらしいが、この技術は生まれながらにして馬と触れ合うような環境で育ったようないわゆる英才教育をうけた人間でしか難しいとのこと

 

しかし、弓音はこの世界で馬に乗る事になってから思うところがあった。鐙がなかったのである。史実によるとこの時代は鐙がなく、将同士の一騎打ちもすれ違い様の一合で決まる事も多々あったという。それもそのはず、足場がなく踏ん張りが聞かない状態で打ち合うことなど不可能だからだ

 

そこで弓音は鐙について二人に説明した。鐙の有用性、そしてこれらをそろえた後に出来る戦術の新たな展開の可能性などを踏まえながら

 

「あわわっ!これは画期的な道具でしゅ・・・ぁぅ・・・」

 

「はわ~・・・つまりこの鐙があれば、馬上から矢を射る事も今よりはやりやすくなったり、打ち合うことも可能になるのですね?」

 

「はい。その通りです。鐙を私達の部隊に普及させれば騎兵の戦闘力も伸びますし、弓騎兵もまたしかりです」

 

さらに弓音は弓騎兵による一撃離脱戦法について話した

 

古代において中東地域を支配したパルティア王国。パルティアの主な戦い方として、接近した白兵戦につながる会戦をできるだけ避け、戦闘になっても会戦で決着をつけようとはせずにすぐに退却した。退却するパルティア軍は追撃する敵に逃げながら矢を放ち、その損害に敵が浮き足立ったり高速移動に敵の戦列が対応できずに戦闘隊形が乱れると、取って返して再び攻撃した

 

「ぱるてあんしょと、ですか?」

 

「パルティアンショットです。この戦い方であれば今の私達の戦力以上の黄巾党とも戦えませんか?最も地の利を活かす必要もありますが。獣のように自分達より弱い勢力とみれば攻撃してくる黄巾党には有効かと思います」

 

「朱里ちゃん、この戦法は黄巾党には有効だとわたしも思うよ。地の利なら私達の知識を使えば補えるよ!」

 

「そうですね・・・」

 

朱里は腕をくみながら思案する

 

「でも、鐙を作る資金が・・・今は新しく加入してくれた兵のみなさんに装備を揃えることで余裕がなかなか・・・」

 

「鐙は出来れば金属製のがいいですが、木製のものでもかまいません。日本・・・天の国では木製のものが発見されていたという話もありますし」

 

弓音の言葉に朱里はかかる費用などを即座に頭の中で計算する

 

「・・・やってみましょう!全ての兵に、とまではいきませんが千騎くらいならいけそうです」

 

「今後、装備をそろえれば戦術の幅が広がる可能性はまだまだわたしたちにはあります。資金について朱里さんたちには苦労をかけると思いますがよろしくお願いします」

 

弓音は騎兵による突撃戦術などを頭に思い浮かべながら言っていた。弓音としては欲をいえば、火薬の有用性などを話したかったが自分達の財力ではあまりにも無謀であったので、出来うる範囲での提案だった

 

「そういえば朱里さん、弩って連射できるような改良ってできませんか?」

 

最後に弓音は諸葛亮による連弩のエピソードを思い出し、朱里に聞いてみた

 

「はわわっ!?なんだか出来そうなきがしてきましゅた!!」

 

「落ち着いて朱里ちゃん・・・!」

 

「そうですか、さすが諸葛亮ですね。余裕があるときで良いのでそれについても考えてみていてください」

 

そう言い残し弓音はその場をあとにした

 

「朱里ちゃん、弓音さまはどこまで見通しているんだろうね?まるでさっきの連弩は朱里ちゃんが後に発明するかのような口ぶりだったよ?」

 

「そうだね雛里ちゃん。弓音さまの知識はこの大陸には無い物ばかり。それをいかに効率的に部隊に浸透させるか、わたしたちの腕のみせどころだね!」

 

資金に関しては内政を得意とする諸葛亮、軍事においては得意とする鳳統が、今後この陣営にとって大きな役割を担う事となるのは必然であった

【腐り姫達の宴】

 

桃香は弓音の天幕に侵入していた

 

「こちら福乳、無事、目的地に潜入しました、おーばー?」

 

「こ、こちゅら、臥龍も潜入できました、おーばー?」

 

「あわわっ!しゅ、臥龍ちゃんたち声が大きいよ!それにその言葉に意味があるのかわからないよ」

 

こーどねーむ鳳雛こと雛里が言った事に対し、福乳こと桃香は頬を膨らませて言う

 

「もぅ!雛里ちゃんってば!こう言った方が雰囲気がでるって前に弓音ちゃんいってたよ」

 

「あわわ・・・すぱいだいさくせんのお話ですね・・・あれはドキドキしました」

 

「そんなこと話してる場合ではないです・・・!すばやく目的のものを入手しないと!」

 

朱里の言葉を皮切りにいそいそと目的の物を探す三人

 

ついに桃香がそれを発見した

 

弓音の物だと確信できる見たこともない鞄を奥から引きずりだした桃香

 

チリン・・・

 

その時、鞄に結ばれていた紐の先で鈴が鳴った気がした。突然、朱里が慌てる

 

「こ、これは・・・!!罠です!!退却しましょう!!はわわわわわわ・・・」

 

朱里が慌てたことによって釣られて、あわあわ言い出す雛里、桃香はその状況にただ「え?え?」とうろたえるばかりであった

 

天幕の入り口に一人の影

 

静かに、しかしながらどす黒い雰囲気を纏ってゆらりゆらりと近づいてくる人物がいた。弓音である

 

「ふふふふふ。以前なにを画策しているのかと思えば・・・こんな簡単な仕掛けに引っかかるとは意外でしたよ、桃香さん、朱里さん、雛里さん?」

 

「あ、あのね?弓音ちゃん、わたしがやろうっていったの!だから、責めるなら私だけにして!」

 

「そんなことはわかっています」

 

「えっ!?」

 

「何をそんなに驚いているのですか?桃香さん」

 

「い、いやちょっと予想と違う反応に戸惑っちゃって・・・」

 

「ふふふ。弓音ちゃんは優しいからそういえば二人はもちろんのことわたしも許してくれる、ですか?計画通りにいかなくて残念でしたね。三人共成敗確定ですよ」

 

「う、うぐ・・・」

 

進退窮まった桃香はただ呻くばかりであった

 

しばらく両者のにらみ合いが続いたが、ふと弓音の雰囲気が変わった

 

「あの時、わたしの反応をみてこの本に興味を示さないというのも無理な話ですよね。いいでしょう、そんなに知りたいのならばお見せしましょう」

 

弓音からの提案に三人は安堵し喜んだ

 

「ただ・・・もう戻ってこれなくなるかもしれませんよ?」

 

弓音の言葉に三人は息を飲む

 

そして弓音はノートを開き三人に見せた。最初に反応したのは朱里、雛里だった

 

「これは・・・!こ、これは・・・・・・!!ややややや八百一本でしゅ・・・!!」

 

「あわわ!あわわわ!これは引き込まれるお話です・・・!!」

 

二人の目が書かれてる文を次々と読み漁っていくのがわかる。朱里と雛里は空いている時間を使って弓音のつかう文字、天の国の文字を教えてもらっていたので読むことが出来た

 

桃香は文字が読めずにがっかりしている。そんな桃香に弓音が説明する

 

この物語の題名は“ずっとおまえが好きだったんだぜ”

 

極度のブラコンのユミヒコさんが兄であるカズトさんを様々な鬼畜攻めで陥落していくという楽あり(主にユミヒコさんが)苦あり(主にカズトさんが)涙あり(主にカズトさんが)の長編小説であった

 

弓音が文字を翻訳しながら桃香に伝えるにつれ桃香の顔が真っ赤になっていく。途中の挿絵が登場した時点で桃香の目はぐるぐるまわり、ペタリと地面に座ってしまった

 

それでも桃香の耳にそっと内容を囁き続ける弓音、朱里と雛里は黙々とノートを読み続けていた

 

最後まで桃香は真っ赤な顔をして俯いていたが聞き逃すまいと耳を大きくしていたのを弓音はみていた

 

そして三人に感想を聞くことにした

 

「序盤ではユミヒコさんの狂気がよく表現できていると思います」

 

「そして次第に衰弱していくカズトさん。その中で真実の愛に気がつくカズトさん・・・涙なしには語れませんでしゅ・・・ぁぅ」

 

朱里、雛里が感想を述べた

 

「わ、わたしはこういうお話も面白かったけど」

 

桃香が俯きながら言う

 

「「「けど・・・?」」」

 

三人が桃香を覗き込むように問う

 

桃香は意を決したようにはっきりと言った

 

「カズトさんが子供という設定でいくのも面白いかと思います!!!」

 

「「「!!!!!!!!!」」」

 

三人は鈍器で頭を殴られたような強い衝撃を受けた

 

「ショタ属性・・・ですか。これは新しいですね!」

 

「そ、その場合は八百一設定でも、お姉さんが責めるという艶本でもいけると思いましゅ!」

 

「さすがは劉備元徳殿!鳳統はいたく感服いたしましゅた!!」

 

それぞれがおかしなテンションで思った事を口にする

 

「桃香さん!なにを呆けているのですか!スーパーアドバイザーとして創作活動を手伝ってください!」

 

「すーぱーあどばいざー?よくわかんないけど、出来たら読ませてね♪」

 

「「「勿論ですとも!!」」」

 

腐り姫たちの宴はまだまだ続く・・・

諸葛亮こと朱里たちが桃香の陣営に加わり、次々と黄巾党を潰していく弓音たち

 

初戦を勝利で飾った後、続けざまに連勝していき名があがるにつれ志願してくる義勇兵も増えてきた。いまや義勇兵の数は八千を超えるまでに増えていた

 

さらに、倒した部隊から兵糧を次々と確保した。そして劉備率いる義勇軍は朱里らの進言で青州にむかう事にした

 

「朱里~なんで青州にいくのだ?」

 

不思議に思った鈴々が朱里に疑問をなげかける

 

「はい。この辺りの黄巾党はほとんど一掃できました。これから向かう青州は黄巾党が決起した冀州の隣です。場所柄、冀州との交通の便もよく最重要拠点のひとつだと思われます。調べたところ黄巾党本隊は諸侯や官軍と交戦している為、各拠点に増援要請し兵を集めているようです。今こそ重要拠点を落とすことこそが私達にできる最良の戦果をあげる戦いかと」

 

続いて雛里が補完する

 

「えと、当初に比べわたしたちの戦力は八千まで膨れ上がりました。そして朱里ちゃんが言っているように本隊には官軍や諸侯が当たっていてこれから向かう青州の拠点は手薄となっています。ここでこの拠点を落とす事ができれば本隊にも大打撃を与える事ができます」

 

「あ!それはお姉ちゃんが言っていた、やせ衰えさせるって作戦なの?戦ってお腹ぺこぺこで戻ってきたらご飯がないだなんて鈴々もやられたら参っちゃうのだ」

 

「そうですよ。鈴々ちゃん。でも義勇軍立ち上げ当初からそのような方針を考えていた御遣いさまはほんとすごいです!」

 

「さすが千里眼の弓音さまだね、朱里ちゃん」

 

「雛里さん・・・その呼び名は本当に勘弁してください・・・あとそろそろ二人とも様付けとか御遣い様ではなく、北郷か弓音と呼んで下さい・・・」

 

「えっ?なんで?格好いいよ!千里眼の弓音ちゃん!」

 

「くっ」

 

弓音は顔をしかめた。そのような表情をあまり見せない弓音なので桃香は面白がって続ける

 

「わたしの名は千里眼の弓音!我に見通せぬものなし!(キリッ)」

 

馬上で身振り手振りを付け加え弓音の物真似をする桃香

 

「わたしは桃香。庇護欲まるだしの可憐な女の子(キラッ)」

 

弓音も馬上で声色をかえながら言い、桃香がその言葉に下唇をかみ締めるのを確認し微笑みながら続ける

 

「でも、これは全て計画通りなんですよね?」

 

「うぐぅ・・・これは酷い・・・わたしそんな子じゃないもん!弓音ちゃんのは格好いいのになんでわたしはそんな腹黒なのっ?」

 

「いえ桃香さん。天の御遣いだけでなく、さらに千里眼なんてもう中二病まるだしじゃないですか。恥ずかしいです!」

 

「弓音ちゃんが何をいってるかさっぱりだよっ!?」

 

二人がきゃいきゃい言い出したのを見かねて愛紗は朱里、雛里に話を戻すように促す為質問した

 

「して、朱里よ。敵の情報はどうなっている?」

 

「黄巾の拠点は青州の済南国と北海国あたりにあります」

 

「どちらを落とすのだ?」

 

愛紗は朱里が言った二ヶ所のどちらを狙うのか尋ねた

 

「現状では決めれません。まもなく青州入りします。その頃には先に放った斥候部隊が戻ってくると思いますので、その情報しだいです」

 

 

                     †††

 

 

青州に入った劉備義勇軍は一度進軍を停止。先ほど朱里が愛紗に説明したとおり、放っていた斥候部隊と合流した

 

手に入れた情報を元に弓音たちは戦いの方針を決める事にした

 

「北海国のほうの拠点にしましょう」

 

朱里が攻めるべき拠点を提案する

 

「そうですね。済南国の方が規模が大きいですが、その分、兵力も多く私達の戦力では少し厳しいですね」

 

弓音が朱里の提案に同意した

 

「しかし、それでもわたしたちの兵力八千に対し、一万五千ですか・・・かなり厳しい戦いになりますね」

 

「だ、だいじょうぶです。きっと勝てますから・・・」

 

愛紗の不安に対し雛里はおずおずと言った

 

雛里の言葉を引継ぎ朱里が説明する

 

「黄巾党は獣の群れです。目の前に弱そうな敵がいれば必ず蹂躙しようと出てきます。誘い出した後は一当てして後方部隊が出てくるまで耐えてください」

 

朱里に続いて雛里が言う

 

「後方部隊が出てきたら、わたしたちは反転します。そして地図でいえばこの辺りの谷で迎え撃ちます」

 

「そっか!なるほど~!狭いところで迎え撃てば兵力の差を無視できるんだね!」

 

桃香が朱里、雛里の意図に気付き声をあげた

 

「その通りです。最初に一当てする部隊の負担は大きいですが・・・。もっと良い献策ができればいいのですが、いまの私達にはこれが精一杯なんです・・・」

 

朱里が前線部隊の被害を考えて伏し目がちにうな垂れる

 

「ふむ。ならばその役、わたしが引き受けよう。朱里よ、そんな顔をするな。我々が勝つ為の唯一の良策。この関雲長がみごと成功させてみせよう」

 

「わたしも前線にでます」

 

「ゆ、弓音さまっ!?」

 

ともに前線を務めようと申し出た弓音に愛紗が驚き反対する。しかし弓音は愛紗の反対をおしきり朱里に確認する

 

「以前から準備してきた弓騎兵を率いてもいいですか?」

 

「はわわっ!あの、兵の練度はいかがでしょう?」

 

「鐙はまだ全員に行渡るほど作れていませんが、装備している弓騎兵千騎はパルティアン・ショットを使える位になっています」

 

弓音は微笑みながら言った

 

「それでは確認します。愛紗さんは前衛を率い、状況に応じて反転、峡間を目指します。状況に応じてわたしも出ます。愛紗さんは私が出たらすぐに部隊を少し後退させてください。鈴々は後衛です」

 

「えーっ!鈴々も先陣を切りたいのだ!」

 

「鈴々は愛紗さんが反転した後、移動する部隊の殿を守ってもらいます。我が陣営の秘密兵器ですよ」

 

「ひみつへいきー?なんだかかっこいいのだ!!」

 

「朱里さんは鈴々の補佐お願いしますね」

 

朱里が頷き、次いで桃香が弓音に問う

 

「弓音ちゃん、わたしはどうすればいいかな?」

 

「桃香さんは本陣で雛里と居てもらいます。状況に応じて即応できるようお願いします」

 

 

                    †††

 

 

こうして青州の北海国にある拠点を攻める方針を決めた劉備義勇軍。ゆるやかに、そして確実に士気を高めながら進軍していた

 

「申し上げますっ!敵の拠点より動きがありました!こちらに向かってます!!」

 

放った斥候により報告が次々と入ってくる

 

「いよいよ、大一番ですね。これを制すれば私達の名はさらに上がり、平和な世にするという目的に近づくでしょう」

 

「そうだよ!みんな!これが初陣になる人も居るだろうけど、みんなで頑張ろう!そして平和な世の中を作ろうね!」

 

弓音、桃香の言葉に声高らかに呼応する義勇兵たち

 

「愛紗さん」

 

弓音が愛紗に視線をおくりながら呼ぶ

 

「御意!全軍戦闘態勢を取れ!作戦は先ほど通達したとおりだ!各員、わたしの指示を聞き逃すなよ!」

 

「「「応っ!!!」」」

 

「勇敢なる戦士たちよ!我に続けぇぇぇーー!」

 

愛紗の雄叫びと共に義勇兵たちは咆哮をあげながら敵にむかって突進していった

弓音たちの交戦地、北海国から西にある済南国。その済南国より少し離れたところで陣を構えていた諸侯があった

 

「申し上げます!ここより東の北海国で黄巾党と交戦している部隊が発見されました!」

 

目的は現在地より北の済南国の拠点であるが、周りの状況をよく把握する為に各地に放っていた斥候が戻ってきて報告した

 

「この辺りの敵に目を付けたとなると、官軍ではなさそうね」

 

「恐らくは。・・・・・・主戦場から離れた地であるのに、戦略上、重要な拠点になりうるこの場所に目をつけるなど愚昧な官軍に出来るはずもありません」

 

「諸侯の中にもなかなか見所のある人物がいるようね。旗はどうなっている?」

 

「はっ!深緑の旗にそれぞれ劉、関、張、諸葛、鳳、十です!」

 

「深緑の十文字・・・ね・・・。ご苦労、下がってよいぞ!」

 

「はっ!」と短く答えその斥候は本陣を後にした

 

「十文字ですと!?か、華琳さま、これは一体・・・」

 

「落ち着きなさい、春蘭。桂花、劉という名に心当たりがあるかしら?」

 

「はっ。おそらくは義勇軍を立ち上げたという劉備という者でしょう。連戦連勝で名をあげてきています」

 

「ふむ。それともう一点。幽州に降り立ったという天の御遣いに関しての情報は?」

 

「以前、華琳さまに命じられた後、すぐ細作を放ち情報を集めたのですが“北郷”という名の御遣いがいるとか。しかし北郷はこちらにも居ます。大方、御遣いの名を騙った紛い物だとは思っていましたが・・・」

 

「そう。以前の報告から変わったことはなかったのね。でも、十文字の旗・・・これは今回の出陣の際、薙沙に“ぷれぜんと”した旗と同じだわ。そして同じ姓・・・」

 

「はい。北郷の名は御遣いの名として陳留より有名になっていますから騙ることも出来るでしょう。しかし此度の遠征で初めてあつらえた旗を真似ることなど出来ないはず」

 

「えぇ。劉備はもちろん、その御遣いとやらも一度顔を見てみる必要がありそうね」

 

「向かいますか?」

 

「そうね。此度の遠征、済南国では薙沙と秋蘭を先行させて終わらす予定だったけれど、気が変わったわ。・・・・・・春蘭、季衣」

 

「はっ!」

「はい!」

 

「先行した薙沙たちを追って連携をとりなさい。一気に終わらせる!桂花、伝令を放ち薙沙たちに計画の変更を伝えなさい」

 

「御意に」

 

「躾のなっていないケダモノに恐怖というものを教えてあげなさい。全軍!前進!!」

 

曹操率いる精鋭たちが青州・済南国に巣くう獣たちに牙を剥いた

戦場には激しい剣戟の音と共に両軍の怒声が響き渡る

 

血飛沫が舞い、次々と地面を湿らせていく

 

目を背けたくなる凄惨な光景を睨みつけるように弓音は見ていた

 

前線のぶつかり合いは激しさを増し徐々に押され始めていった

 

(まだ後方部隊が出てきていない・・・!)

 

前線の押され具合に弓音は焦りを覚える

 

「雛里ちゃん!まだ後退しちゃだめなの!?」

 

「まだです!まだ後方部隊を引きずり出せていません!」

 

「このままじゃ前線が崩壊しちゃうよぉ」

 

弓音は二人の言葉を聴きながら尚も戦場を見つめタイミングを計っていた

 

弓音の瞳に奮闘している愛紗の姿が映る

 

愛紗の奮闘により前線が持ち直したのが見えた

 

「北郷隊!出ます!我々の目的は同志を後退させる為の隙を作る事!近づいたら一度敵の前線より僅か後方をねらい正射!その後、左右に別れ反転してくる同志を包み込むように動き、矢を放て!決して止らず動きながら放ち敵を混乱させましょう!」

 

「「「応っ!!!!」」」

 

「天兵たちよ!友を救うため、私に続け!!!」

 

弓音の怒声と共に千騎が砂煙を上げながら突進していった

 

弓音の隊が出陣していったのを眺めながら雛里は呟く

 

「あわわ、弓音さまはやはり千里眼をお持ちに・・・!」

 

「ん?どういうことなの?雛里ちゃん」

 

「愛紗さんが前線を持ち直し、さらに後方より増援がくるとわかれば焦った敵は後方部隊を展開させるはずです。黄巾党の質をよく考えた突撃です」

 

「あっ!本当だ!敵の後方で動きがあるよ!」

 

 

                     †††

 

 

「関羽さま!後方よりお味方が!」

 

「弓音さまか!総員!!後退!!天の援護がくるぞ!!!」

 

愛紗は事前の打ち合わせどおり総員に後退命令をだした。後退させまいと追撃しようとする黄巾党だったが、それが前線崩壊の足がかりとなった

 

黄巾党の前線よりやや後方に北郷隊の矢が降り注いだのである

 

「あれは騎兵じゃなかったのかよ!!」

 

「馬上から矢を放ってくるぞ!!」

 

黄巾党から次々と悲鳴が上がる

 

「よし!敵は怯んだぞ!一当てし一気に押し返す!その後反転するぞ!」

 

愛紗たちが取り残され気味の黄巾党を倒し反転を始めた

 

関羽隊が反転するのを援護するように動く北郷隊。黄巾党の目にはその姿が仲間を逃がす為だと映る

 

馬上から矢を射る兵に驚き前線は崩れかけたが、格下の相手にいいようにやられた事で逆上していた

 

愚直なまでに次々と後方部隊を前線に送る

 

「妙な戦い方に驚いたが、たかが千程度の部隊だ!こっちの方が人数は多い!数でおせ!逃がすな!あいつらを蹂躙しろぉぉ!!」

 

黄巾党の指揮官らしき人物が吼えるように指揮を飛ばす。自分達がおびき寄せられているという事実に気がつかずに

 

 

                     †††

 

 

北郷隊は張飛隊と合流。殿を交代し本陣に帰還した。一足先に戻っていた愛紗が弓音に声を掛けてくる

 

「弓音さま!ご無事で何よりです。援護助かりました!」

 

「愛紗さんもご無事でなにより。戦いを拝見しましたが流石は関雲長といったところですね」

 

「れ、連携もうまくいったようでなによりですぅ・・・」

 

「改めて見るとすごいね~!馬にのってびゅーんって!」

 

「まだまだ私達は装備も心もとないですが、それはまだまだ伸びしろがあるという事。ね、雛里さん」

 

「はい!今はまだかなりの人が着の身着のままですが、資金がはいってくればもっともっと弓音さまが発案している強化ができます」

 

「そうだね~!ここで勝利を飾ってもっと名をあげちゃおう!そしたらもっと寄付してくれる人がふえるよ♪」

 

「そうやって男からお金を毟り取るのですね。参考になります」

 

「うぐ・・・弓音ちゃん、さっきの根にもってる・・・?」

 

「冗談ですよ。さぁ桃香さんの言うとおりここでの勝利は大きな意味をします。戦いはまだ中盤。気を引き締めていきましょう」

 

桃香と弓音のやり取りに辺りには笑顔が飛び交ったが、この戦いの勝利の意味の大きさを再確認した一同は気を引き締めなおした

 

 

殿の鈴々の部隊が敵を引き連れながら後退、それを愛紗の部隊が補佐する。桃香は本陣を指揮し目的地の峡間を目指した

 

峡間の出口で左右に待機していた兵と殿を務めていた鈴々、補佐の愛紗の部隊とを交代する

 

「みんな!これから反撃に移るよ!」

 

「ここでなら兵力差など関係ありません!わたしたちの力なら各個撃破も容易なはず!恐れず戦いましょう!」

 

「鈴々も防戦ばっかで我慢の限界がきてたのだ!!」

 

「これで我らの力を思う存分振るえるな、鈴々」

 

「私も受けか攻めかどちらが好きかと問われれば攻めがいいですね。それも鬼畜攻め」

 

「はわわ」

「あわわ」

 

「敵は力なき人々を蹂躙してきた獣たち。一切の慈悲など持たず鬼畜なくらいが丁度よいでしょう、ね、弓音さま」

 

「そうですね、ふふふ」

 

「はわわ」

「あわわ」

 

「お姉ちゃんたち何を言ってるのかわからないのだ!じゃあみんないくよー!突撃、粉砕、勝利なのだー!」

 

天を衝く雄たけびを上げた兵士たちが先頭を走る愛紗、鈴々、弓音に続いて怒涛の勢いで黄巾党に襲いかかる

 

狭いところでの戦闘を余儀なくされた黄巾党は唯一の利である兵力差を奪われたちまち崩壊していった

黄巾党との戦いに勝利した弓音たちは放置された拠点に侵入、物資などを手に入れ持ち運べない分は焼き払う事とした

 

弓音たちは兵に指示を出し拠点の後片付けをしていると伝令がやってきた

 

「申し上げます!陣地のすぐそばに官軍らしき軍団が現れ、我らの指揮官にお会いしたいと言っていますがどうしましょう?」

 

「官軍らしき、とはどういうことだ?」

 

愛紗が眉を顰めながら問う

 

「それが通常、官軍が用いる旗ではなく、曹と書かれた旗を掲げているのです」

 

「官軍を名乗りながら、官軍の旗は用いず。・・・恐らく黄巾党征伐に乗り出した諸侯でしょうね」

 

「あわわ、曹ってことは陳留の州牧の曹操さんだよ、朱里ちゃん」

 

朱里が状況を分析、雛里が補足した。雛里の言葉に弓音が反応する

 

「曹操・・・ですか」

 

「あ!弓音ちゃんの千里眼が!!」

 

「桃香さん?」

 

「な、なんでもないです・・・」

 

「弓音さま?その曹操という名にも心当たりがあるのですか?」

 

「えぇ・・・。桃香さん、どうしますか?会いますか?」

 

「曹操さんって味方でしょ?挨拶はしておいた方が良いと思う」

 

桃香の決定により曹操と会見することとした弓音たち。曹操を待つ間、桃香は曹操の事を知っている朱里、雛里にその人となりを聞いた

 

「ほわー・・・・・・なにその完璧超人さん」

 

「器量、能力、兵力、財力、全てを兼ね備えている誇り高き覇者ですか・・・そのような人物が我々のような弱小勢力になんのようがあるというのだ?」

 

「それは分かりませんけど・・・・・・」

 

「では朱里さん、雛里さん、知っている事があればもっと聞かせてくれますか?」

 

「そうですね・・・。治政の能臣であり、詩人でもあり、乱世を生き抜く奸雄でにある人物らしいです」

 

「治世の能臣、乱世の奸雄・・・・・・。善悪定かならずというやつだな」

 

「ふむ・・・・・・」

 

曹操の人となりを聞いた弓音が唸る。それを見た愛紗がこえをかけた

 

「弓音さま?いかがなさいました?」

 

「いえ・・・。そのような人物は己の信念の為ならば清濁併せ呑むでしょう。こういった人物が一番やっかいなんですよね。敵となった場合に」

 

「でも弓音ちゃん。清濁併せ呑むって、善も悪も分け隔てなく受け入れるってことでしょ?それがやっかいだとかはともかく、悪は悪だよ。受け入れるなら善だけのほうが私は良いと思うな」

 

「桃香さんの言うとおり、善と悪があるなら善だけを選びたくなりますよね。善と悪を一緒くたにするほうがよっぽどまずいです。ですが善と悪の判断の基準はどこにあるのでしょう?それは当然判断する人によって異なりますよね」

 

弓音の話に皆が耳を傾ける

 

「そして“善も悪も分け隔てなく”ということですが実はもうこの時点で善と悪を分別しています。それを踏まえた上で、受け入れる。それはすなわち悪を受け入れた方が利があるから。そしてその悪も人の見方によっては善ともなりうる。もしくは結果的には善となりうる。これらのように多角的に物事を見極める利を知っている」

 

「り、鈴々には難しくなってきたのだ・・・」

「むむむ・・・」

「はわ~・・・」

「あわ~・・・」

 

皆それぞれの反応を示す中で桃香だけはより真剣な眼差しで話を聞いていた

 

「話を戻します。曹操さんはこれまで清濁併せ呑んできたから海のように勢力が大きくなってきているのでしょう。この大陸の民から見れば立派な善、治世者であり、この腐敗した大陸を作り上げた宦官からみれば悪、やっかいな存在であるという事。こういう見方をしたら相当な器量の持ち主ですよね、そういう意味で敵となった場合、ものすごくやっかいなんです」

 

「なるほど・・・」

 

「桃香さんがさっき善だけ受け入れた方がいいよ、と言いましたよね。それは桃香さんの魅力でもあります。考え方を変えろと言っているのではなくて、このような考え方もあると頭の片隅に入れてほしくて言ったのです。これから桃香さんには私達の君主として成長してもらわねばなりませんからね」

 

「た、たしかに今後、戦果をあげていって地を任されるようになったら治政者として色々板ばさみで悩むかもしれません。綺麗ごとだけではすまない状況も出てくると思います」

 

「うぐぐ・・・自信ないけど頑張るよ・・・」

 

「大丈夫ですよ。天の知識での劉備はどんな苦境にも負けずへこたれず何度も立ち上がって成長していったのですから。私が見たところ桃香さんが天の知識での劉備に負けるはずがありません」

 

その言葉に桃香は顔を綻ばせる

 

「あ、ありがとう!弓音ちゃん!わたしいっぱい頑張るね!」

 

「ずいぶんと面白い物の見方するのね。興味深いわ」

 

「ほわっ!?びっくりしたっ!?」

 

突然の見知らぬ人物の声に桃香は驚き背筋を伸ばす

 

「誰だ貴様っ!?」

 

「控えろ下郎!この御方こそ、我らの盟主、曹孟徳様だ!」

 

「曹操さん!?ついさっき呼びにいってもらったばかりなのに・・・」

 

「他者の決定を待ってから動くだけの人間が、この乱世で生き残れると思っているのかしら?」

 

「まぁ、さほど近くではないにせよ、この距離にこれだけの部隊がいれば放置するはずないですよね。曹操さんは済南国あたりの黄巾党拠点を狙ってきたのですか?」

 

「ふふっ。さっきといいあなたには驚く事ばかりだわ。その通りよ。改めて名乗りましょう、我が名は曹操。官軍に請われ、黄巾党を征伐するために軍を率いて転戦している人間よ」

 

「こ、こんにちは。私は劉備っていいます」

 

「劉備。・・・・・・良い名ね。あなたがこの軍を率いていたの?」

 

曹操は桃香の自己紹介に笑顔をみせ桃香に質問した

 

「は、はい一応私がこの部隊を率いていますが、そちらの弓音ちゃんも・・・わたしが請う形で指導してもらっています」

 

「指導者ってほど大層なものじゃないですけどね。ご意見番みたいなものとお考えください。曹操さん」

 

「あなた、名前は?」

 

「北郷 弓音です」

 

「あなたが北郷・・・ね」

 

それまで黙っていた曹操の隣に控えている黒髪の女性が声をあげた

 

「貴様ぁぁぁ!!よりにもよって北郷の名を騙るなどと!!!その服も良くできているようだが私の目はごまかせんぞ!!陽光を浴びて光っておらぬではないか!」

 

そう言いながらその女性は抜刀し弓音に刃を向ける

 

「貴様!!弓音さまに何をする!!」

 

愛紗が立ちはだかるようにその女性に向き合う

 

「春蘭。やめなさい。その北郷とやらはなかなかの人物のようだけれど、北郷の名を騙っているなら気に入らないわね。説明してもらえるかしら?」

 

「え!?えっ!?説明もなにも弓音ちゃんは天の御遣いさまですよ?」

 

「聞いた話によると天の御遣いはぽりえすてるとかいう素材でできているはずよ。それはどう見ても絹よね」

 

「曹操さん、いくつかお聞きしたい事がありますが、少しお待ちください。これは戦用にあつらえた服なので着替えてきます」

 

(ポリエステルなんて言葉なぜ曹操が知っているのかしら・・・聞いたもなにもどこからその言葉を聞いたのか・・・)

 

そう疑問に思いながら弓音は着替えに荷物をおいてある場所に移動した

 

しばらくの後、弓音は聖フランチェスカの制服を着て戻ってきた

 

「あ、あなた・・・その服は・・・!!」

「な、なんと・・・!!!」

 

曹操とその隣の女性も弓音の姿に驚いている

 

天の御遣いのうち二人がこの大陸で対面する僅か前の出来事であった

                     あとがき

またまた更新遅れましてすみませんでした

 

今回の弓音編、なかなかの難産でした。話の大筋は本編の焼き増し程度なんですが、弓音の指導者としての立ち位置がなかなか上手く表現できず滞っていました。何度かいても説教くさくなり、イメージどおりにいきませんでした

 

今回、ついに弓音さんと薙沙さんが接近します。次回は一刀さんのお話ですが、一刀さんは益州とかなり離れたところにいるのでなかなか接近できませんが、黄巾党編の中で接近させる予定ではあります

 

作中に出てきた青州の済南国と北海国ですが地図でみると結構距離あるんですよね。正確な距離は知りませんが、今回、華琳さん達は済南国の拠点を攻略したあと、事後処理は薙沙、秋蘭たちにまかせ先立って移動して来た、ということになります

 

更に、拠点っぽいネタで、古すぎるネタつかってすみませんw

 

『ずっとあなたが好きだった』なんて古いドラマ知ってる人いるんでしょうか。私も幼いころのことでしたので、フユヒコさんって言葉がはやったくらいしか覚えていません

 

あとレッドクリフの周瑜役のファンの方、これを見て不快になったらすみません。

 

もちろん役者さんはかっこいいですが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけゴリさんににてませんか?

 

なんにせよネタがわかりにくくてすみません

 

 

今回の続きは次の一刀さんのお話の後となります

 

少しでも皆さんの暇つぶしになれれば幸いです

 

また、ご意見ご感想など聞かせていただけると今後の参考になりますので是非お言葉をいただければと思います

 

それでは、また次回お会いしましょう

 

 

 

 

全く関係ない話ですが、三日前、18年間つれそった愛犬が逝ってしまいました。

今は大分落ちついてきましたが、まだちょっと自信がないです。

パソコンをいじる気力がなかなかでずに更新遅れました事をお詫びします。

一週一話という目標はもっていますが、また遅れるかもしれません。そのときは生暖かい目で見守ってくださると助かります。

 

 
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