No.174458

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十六の章 その四

Chillyさん

 双天第二十六話その四でございます。

 なんでしょう……本当に話が遅々として前に進まない。一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩下がるといった三六五日のマーチのような進み具合のような。orz
 まぁ一歩でも進んでいると自分に言い聞かせて、ごまかすしかないですなぁ。HAHAHA……ハァ。

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2010-09-24 21:00:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1904   閲覧ユーザー数:1771

 張遼率いる董卓軍が軍を三つに分け、汜水関に攻め込んできたこの戦いにおいて伯珪率いる一万八千に襲い掛かってくるのは、方円陣を敷き守りを固めた一万人の部隊だった。

 

 将兵の分配、それぞれの布陣を見てみれば張遼の意図はみえみえではあるが、今汜水関にいる兵数を見れば董卓軍のほうが多数であり、奇をてらう必要がないためほぼ正面からの力押しで十分だったということでもあった。

 

 伯珪は始め正面の方円陣一万の董卓軍を出来限り素早く打倒し、曹操、孫策へ襲い掛かる董卓軍へ急襲をかけ連合軍を援護しなければならないため、自軍を鋒矢陣に組み替えることを命じたのだが、それは即座に従妹の公孫越に将軍の子龍、厳綱と天の御使いである晴信に止められた。

 

 それは戦場全体ではなく伯珪の戦域だけを見れば一万八千対一万と八千人ほど兵数は上回っている。しかし固く守りを固めた方円陣に向かって余力を残して強攻策で打ち勝てるほど上回っているわけではなかったからだ。

 

 故に伯珪の軍は強攻策を取らなかった、いや、取れなかったといったほうが正しいかもしれない。

 

 多少時間はかかるとしても盾と槍を持った兵士で方円陣を若干薄くとも反包囲して壁を作り、その後ろから矢の雨を降らせる方針を取ったのであった。

 

 

 盾を持った兵が一列目に並び、頭上に降り注ぐ董卓軍の矢を受け止める。槍を持つ兵は二列目三列目よりその穂先を一列目の隙間から突き出し、ハリネズミの針のように董卓軍兵士を近寄らせない。その薄くとも強固な壁の後ろから白馬義従の兵達が雨のように董卓軍へと矢を射っていく。

 

 その中で公孫越は、一人の兵士の不審な動きをその視界の端に捉えたのだった。そしてその一人の兵士に越は見覚えがあった。晴信の護衛の兵の一人で、彼と年齢が近いこともありよく一緒にいるところを見かけたことを覚えていたのだ。

 

 兵士は全身黒尽くめの男となにやら無表情で話し合っていた。

 

 これが街中であったら、いや行軍中であったとしても作戦遂行中でなければ気にも留めなかったかもしれない。だけれども今は作戦遂行中であり、隠れるように隅のほうで話す兵士以外は懸命に弓を引き、矢を次々と射続けている。これを不審に感じないというのは、どう考えてもありえなかった。

 

「そこのもの、何をしている! 戦列に戻らないか!」

 

 越の怒声がその場に響き、件の兵士と黒衣の男はビクンと体を震わせる。

 

 ゆっくりと兵士は越のほうへその生気のかけた無表情な顔を向け、黒衣の男はその顔を隠すようにその場に跪いた。

 

「申し訳ありません、越将軍。国に残してきた母が倒れたと、このものが早馬で知らせに来てくれたのです」

 

 兵士は平板な棒読みのような声の調子で越に戦列を離れていた言い訳をする。それはまったく誠意にかけたものではあるが、話の内容が内容であるため、母が倒れたことに衝撃を受けて感情をなくしてしまったとも取れた。

 

「貴様は天の御使いの護衛だろう。国許の母上は心配だろうが、今は目の前の戦に集中しろ。そこのものもここは戦場ゆえ、早々に離れられよ」

 

 不信感が拭えなかったものの越は、兵士が御使い護衛隊に入るほどの信用があり、さらに少しでも素早く董卓軍を倒すために一人でも多くの攻め手が欲しかったがために、戦列にすぐ復帰するように命じた。黒衣の男にも人手不足から、拘束することなくこの場からの退去を命じるだけに留めた。

 

「申し訳ありませんでした、越将軍。すぐに戦列に復帰いたします」

 

 相変わらず表情というものが抜け落ちた調子で、兵士は越に一礼すると馬首をめぐらせ戦列に復帰していった。

 

「そんりでは、おいも失礼させていただきます。将軍様もご武運を」

 

 黒衣の男も越に相変わらず顔を見せることなく、卑屈にペコペコと頭を下げて、この場を後にする。ヒョコヒョコと歩き、時折何かに躓くなどしながら、真直ぐに汜水関の門のほうへと去っていく背中を越は見送り、この件を気には留めつつも目の前の戦いに集中するべく気を引き締めなおした。

 

曹操は苛立っていた。

 

 正面から力押しで来る率いる董卓軍本隊と、孫策を抜けてきた高順率いる別働隊に囲まれる形になり、望まざる消耗戦の様相を呈してきたからである。いや、倍近い兵数の軍に囲まれ、徐々にではあるが、軍の崩壊が見え始めていた。

 

「告げる! 夏侯淵将軍より援軍要請。至急派遣お願いいたします」

 

「告げる! 楽進隊、李典隊壊走。于禁隊一隊にて奮闘中。至急援軍を!」

 

「告げる! 夏侯惇将軍より進言。敵左翼への突撃許可を戴きたく」

 

 曹操のいる本陣に次々とやってくる伝令の口からは、自軍の不利を知らせるものしかでてこない。

 

 いかに勇猛な将軍に精強な兵士、優秀な軍師、そして天の知識があったとしても純粋な数の力の前に生半な策は意味をなさず、将は傷つき兵はその数を減らしていく。

 

「随分と董卓軍も、私に対して好き勝手に暴れてくれるものね」

 

「さすがに倍近い数が開いてだし、この流れはある意味しかたないんじゃないのかな」

 

「それでもよ。戦は数がものをいうとはいえ、もう少し戦いようがあったと思うのだけれど?」

 

 馬上で伝令の言葉を聞いていた曹操の思わず出てしまった言葉に、傍らにいた一刀が苦笑とともに答えるが、曹操はその一刀の言葉を一刀の下に切って捨てる。

 

「華琳様、申し訳ございません。どうしても投石機を確実に破壊するには、孫策の軍を使役するほかなく、なれば私達が董卓軍を惹きつける役目をせねばなりません。この責、戦が終わり次第いかような罰も受ける所存です」

 

「桂花、その言葉しっかりと覚えておきなさい。たっぷりと罰をあげるわ。ふふふ」

 

「あぁ。華琳さまぁ」

 

 伝令に指示を出し終えた荀彧が会話に加わり、曹操に謝罪の言葉を口にするものの自身の策が間違っていたとは思っていないようで、その瞳には失策した後悔はなく、策が順調に進んでいるものの自信の光があった。そして曹操もそのことを疑っておらず、ゆえに言葉の端端にからかいの雰囲気が篭っている。

 

「だけど何の連絡もしていないのに、孫策は投石機を倒しに行ってくれるのかな?」

 

 危ない雰囲気になりかけている曹操と荀彧の二人に、一刀は遠慮がちに問いかけた。

 

「これだから男は低脳で野蛮で考え知らずで何より役にも立たなくて、一緒の場にいるのも汚らわしいのよ。だいたい孫策を取り巻く状況と連合においての戦果を考えれば、ただ三倍の相手に玉砕すればよいといえるわけ無いでしょ。最低でも汜水関を防衛することに益となる戦果を挙げなければいけないのよ。となれば目の前の董卓軍を相手にするより、投石機を破壊するほうがより戦果として大きいのよ。わかった? 全身性液孕ませ男」

 

 曹操との甘いやり取りを邪魔された荀彧の機嫌は急降下をたどり、その原因である一刀をジロリと睨みつける。それでも噛み付くような口調に乱暴な言葉使いではあるが、一刀の問いに答えるところに荀彧の人の良さが出ている。

 

「な、なるほど。で、でも孫家があっさり蹴散らされることは……」

 

「ないわ」

 

 荀彧の勢いに押されつつも出された一刀の問いは、言い終える前に曹操にばっさりと切り捨てられる。

 

「あそこは少数とはいえ、うちと比べても遜色の無い将兵が揃っているわ。それに周瑜は荀彧に勝るとも劣らない知恵者よ。策の一つや二つ、簡単に出すでしょう」

 

 それから孫家軍に対する自身の評価を付け加える。

 

「優秀なのはわかっているけど、いかんせん数の問題がね」

 

 そう一刀が曹操の言葉に反論しようとしたときに、一人の伝令が転がるように曹操の目の前に囲んできて跪く。

 

「告げる! 董卓軍本隊後方にて火の手! 投石機隊に孫家軍襲撃の模様。董卓軍に指揮の乱れあり!」

 

 叫ぶように告げられた言葉にニヤリと笑う曹操。

 

「さぁ忍耐のときは去った! 董卓の弱兵に我らの鍛えし武を見せつけてやれ! 我が誇るべき精兵の底力、とくと味わせてやれ!」

 

 曹操の号令に周りの兵達が沸き立っていく。それは次々と前線で戦う兵にまで伝染し、その熱気は麻薬のように疲れて切った体を奮い立たせる。

 

 数に押された連合軍の反撃が今、開始された。


 
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