これほどのどかな時間を過ごしてもいいのでしょうか。
そう感じたくなるほどゆっくりと時間が過ぎていきます。
袁術さんの元へ頼ってから数日。
私達は袁術軍の一員として、張勲さんより与えられた仕事をこなしていました。
特に戦状態ではないので、思った以上に緩やかな時を過ごしていました。
ただ、風の噂だとお兄さんは結構大変そうです。
「ふふっ、程昱の主は日々大変だそうだな」
「それを言えば、周瑜さんの主は自由奔放ですね~」
私は、今孫策軍の軍師周瑜さんと机を共にして戦略やら内政やらの話をしていました。
これが私に与えられた仕事なのです。
詠さんは、非常に参加したがっていましたが、残念ながら詠さんは侍女という事になっているので直接的には参加できません。
ですが、北郷軍に戻った時に詠さんが知らないでは困るので、話の内容を折を見て話すようにしています。
先ほどの会話。
周瑜さんが言っているのはお兄さんの事で、私が言っているのは孫策さんの事です。
お兄さんは案の定、袁術さんに連れ回されているようで一人で居るところをあんまり見ません。
逆に孫策さんは自由気ままにしているようで、城内でぶらついているのを見かけるときもあれば城下町で食べ歩いているのを見かける事もあります。
思った通り、袁術さんでは虎の子を飼い慣らすのは無理なようです。
「あれはもう少し王としての自覚を持ってくれないと困るんだがな」
周瑜さんがやれやれというような表情で言いました。
確かに、孫策さんのそれは王という感じには取れません。
「それを言うならお兄さんもそうですね~」
お兄さんは、王というわけではないですが、白蓮さんから太守を引き継いでいくつかの州を治めていたので、時代が時代なら王と言っても差し支えないでしょう。
「そう言う意味では、お互い苦労するな」
周瑜さんの言葉には、至極同意するところですが、今はそれを簡単に同意することは出来ません。
「誰が苦労しているって?」
「雪蓮!!」
そう、周瑜さんの後ろには孫策さんが立っていたからです。
「孫策さん、相変わらずですね~」
「程昱ちゃんも元気そうね。でも、律儀に袁術の言いつけを守るなんて私には無理だわ」
「いえ~。周瑜さんとの話は為になりますから~」
「そうかしら? なんか私の話ばかりしていたように思えたんだけど……」
そう言って孫策さんは周瑜さんの顔を覗き込みます。
驚きなのか、油断して孫策さんの接近に気付かなかった自分を恥じているのか、周瑜さんは孫策さんと顔を合わせようとしません。
そんな周瑜さんの態度に、孫策さんは面白がってわざと周瑜さんが向いた方向に顔を向けるようにしています。
そんな二人のやり取りを見て少し羨ましくなりました。
二人の子供じみたやり取りがしばらく続いた後、孫策さんが突然私に話してきました。
「そういえば、程昱ちゃんの所の主。あれは面白いね」
「お兄さんの事ですか?」
「そう、一刀よ、一刀!! 普段は袁術が引き連れているからなかなか機会無いけど、たまに話すと結構面白い事言うのよ!!」
そういう孫策さんの表情は、子供が初めて物を与えられて喜んでいるような、そんな輝きに満ち溢れていました。
「雪蓮、いつの間に話をするようになったのだ?」
「ちょっと前からよ。せっかく一緒の軍になったんだもの。噂の天の御遣いさんと仲良くなっておかなきゃ損でしょ!!」
「やれやれ……」
孫策さんの言い分に周瑜さんは呆れています。
しかし、お兄さんはこうもあっさりと孫策さんの心を掴みますか。
袁術さんといい、孫策さんといい、才能というか、相手が女性だからでしょうか?
あんまり考えたくありませんが……。
「天の言葉? なのかしら。時々私の知らない言葉使うんだけど、それを気付いた時に取り繕う姿が可愛いのよね」
「可愛い……か?」
お兄さんを可愛いと表現した人を初めて見ました。
「あれは、今まで私の周りにはいなかった姿……一刀の言葉でたいぷって言うらしいけどその新しいたいぷなのよ!!」
「それで、雪蓮はどうするつもりなのだ?」
ただ雑談をしに来ただけではない。
私も気付いていましたが、周瑜さんもそう感じたのでしょう。
孫策さんに結論を迫りました。
「孫呉に一刀の血を入れるのよ!!」
「北郷のか?」
孫策さんはとんでもない事をいとも簡単に言いました。
血を入れるという事は、お兄さんとの間に子を残すという事です。
「雪蓮!! 自分が言った意味分かっているのか?」
「分かっているわよ!! 孫呉の未来には一刀のような存在が必要なのよ!!」
「だがなぁ」
「何、冥琳は反対なの?」
「賛成反対以前に、北郷は私達孫呉の人間ではないだろう?」
「でも、今は一緒の軍じゃない」
「一緒と言っても袁術軍の上での事だ。それにまずは孫呉復興が先だ」
お二人の会話は平行線です。
それ以前にこんな話を私の前でしていいのでしょうか?
あまりにも安直すぎて、逆に聞かせたいという意図を感じてしまいます。
「孫呉復興はするわ。そんなのは大したことじゃない。大事なのはその先の話よ!!」
「そうは言っても今は袁術の庇護の元にいる。それに孫呉復興した時に北郷が一緒にいるとは限らないではないか」
「一刀は連れて行けばいいのよ!!」
この言葉には周瑜さんはもちろん、私も驚きました。
今は同じ袁術軍に身を寄せる間柄ですが、私達と孫策さんは別の軍です。
その後も一緒に行動するとは限りません。
「雪蓮、さすがにそれはまずいだろう。北郷は元々河北を治めていた人間だ。それに……」
そう言って周瑜さんは私を見ました。
私は北郷軍の軍師です。
その前で言うには不適切という事でしょう。
「大丈夫よ。一刀の軍は全部孫呉で面倒を見るから!!」
「やれやれ……」
周瑜さんは呆れてものが言えないようです。
そこまで言う根拠は何でしょうか。
「風達が孫策さん達と一緒に行動するか分かりませんよ~」
「そんな、程昱ちゃん。意地悪言わないでよ~」
一応牽制の言葉を送ってみましたが、孫策さんは冗談半分のような表情でしだれかかってきました。
こんな時は寝るに限ります。
「ぐぅ~」
「あ~!! 寝たふりしている!!」
孫策さんに指摘されましたが無視です。
「雪蓮、もうその辺にしておけ」
「はーい」
周瑜さんに言われて孫策さんは私から離れました。
「まあ、いいわ。程昱ちゃんとは将来妾仲間になるかもしれないものね」
「め……妾って……」
さらにとんでもない言葉が出てきて周瑜さんは驚きました。
私も言葉が出ません。
「私は一刀の本妻がいいけどどうなるかわからないでしょ? だから、妾」
「雪蓮は勝手に言っていればいいが、程昱がというのはどういう事だ?」
「勝手にってどういう意味よ!! まあいいわ。だって北郷軍のみんなは既に一刀と肌を合わせているんでしょ?」
「そうなのか?」
孫策さんの言葉に周瑜さんが聞いてきました。
他の人はどうか知りませんが、少なくとも風はまだです。
ちょっと残念ではありますが……。
「いえ~。そういう事はないはずですよ~」
「そうなの? おかしいわね。前趙雲ちゃんに聞いたら頬を赤くしながらそうだと言っていたのに」
また星ちゃんですか。
いいかげんに人を巻き込むのはやめて欲しいです。
「星ちゃんは色々言葉が飛躍しますからね~」
「そうなんだ。ならまだ私にも機会があるって事じゃない!!」
「雪蓮、いい加減にしておけ」
周瑜さんがちょっと怒り気味に言いました。
「なによ!! 冥琳はずっと机にへばりついていればいいんだわ!!」
子供のような捨て台詞を吐いて、孫策さんはどこかに行ってしまいました。
そんな孫策さんを見送った後、周瑜さんは大きな溜息をつきました。
そして、私に話しかけました。
「程昱、すまないな」
「いえ~。なかなか面白いと思いますよ~」
「いや、面白がるのはいいのだが、あれは全て本気だと思うぞ」
周瑜さんの言葉に、私は孫策さんの底知れぬものを感じました。
第18話をお送りしました。
今回は風と冥琳のやり取りを送るかと思いきや雪蓮の若干暴走っぷりを送るはめになりました(笑
雪蓮の雰囲気が少しでも出ていればいいのですが、なにぶん久々の登場なので色々適当になっちゃっているかも。
あと、冥琳が風を呼び捨てで呼んで、風はさん付けというのもなんかおかしい感じでしたけど、冥琳はさん付けや殿付けで呼んでいるシーンを見た事無いのでまあいいかなと。
一刀の種馬っぷりを若干出してみました。
ただ、まだ行動に移しているわけじゃなくて女性に好かれるという感じですが。
あと、この時代に妾という言葉はあったのかなぁ。
ちょっと合う言葉が思い浮かばなかったので妾という言葉を使っちゃいましたけど、知っている人いれば教えて欲しいかな。
まあ、外史だという事で括ってしまえばそれもありなのかもしれませんが。
次は久々に風と一刀の絡みでも書こうかと思っています。
風視点なので、一刀が若干空気気味だったりするので。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真・恋姫無双の二次作品です。
風視点で物語が進行していきます。
今回は、孫呉の人とのやり取りになりますが、風の台詞は少ないです。
もうちょっと存在感出した方がいいかなぁ。
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