わたしがこの町に引っ越してきたのはクリスマスの一週間前です。わたしたちの家族はここ、サラタウンの六番通りに引っ越してきました。
わたしは長い間、病気がちなことが多く、友達もほとんどいません。ですからとても優しい人が多いと噂されるサラタウンでも浮いた存在でした。
いいえわたしにも友達はいました。学校で知り合った、少女のレモンです。噂では、彼女は、少女探偵レモンと、子どもたちのあいだでは言われています。町の子どもたちの悩み事や事件を、推理で解決しようとするのです。
クリスマス・イブの午後、わたしは電飾でかざられた、サラタウンをひさしぶりに散歩していました。どこを歩いたのでしょうか? わたしは雪だるまを作っている、少年たちを見かけました。わたしの学校では見かけない方たちです。もっともわたしには知っている人はほとんどいませんけれど……。でもその子たちはとても素直で、わたしがうらやましそうに見ていると、「手伝いたいの?」と彼らは微笑んで誘ってくれました。
ここサラタウンは雪が多いので、町は似たような景色になります。わたしたちは体が芯まで冷えていくのも構わず、夕暮れが近づくまで、雪玉を転がして、夢中で、大きな雪だるまを作りました。それに少年たちの宝物の、ブリキのバケツをかぶせてできあがりです。
わたしたちは大喜びでした。わたしもうれしかったのです。
そしてそんなとき、わたしのパパが車で通りかかりました。パパは車をとめると、運転席から、わたしにむかっていいました。
「やあとても立派な雪だるまだね。これがモニカのクリスマスプレゼントかな」
「パパ!」
パパもまたスマートで立派に見えました。パパは銀行員です。おろしたてのスーツとダッフルの分厚いコートがとても似合っていました。
「雪だるまは明日のクリスマスにはきっとモニカに会いに来るよ」
とパパがいいました。
「どうして」
「一生懸命に作ったからね」
わたしは微笑みました。少年たちも笑ったような気がします。
わたしはパパの車に乗せてもらって、”五番通り”をあとにしました。
さて翌朝のクリスマスの日のことです。雪がまだ降り続いていました。
わたしは昨日、別れ際に約束したとおり、少年たちと遊ぶために、雪だるまがあった五番通りに向かいました。わたしのお家の前で落ち合った、少年たちに案内されて、その雪だるまがあった場所に来ると、そこには雪だるまはありませんでした。
ブリキのバケツが一つ転がっていました。雪だるまの帽子です。バケツの周囲には足跡はありませんでした。
そうです。雪だるまは持ち去られてしまったのです。
「あれー。雪だるまが消えちゃった」
と少年たちは言いました。
嘘だ。とわたしは思いました。少年たちは雪だるまを隠したに違いありません。でも。
雪だるまは足跡や痕跡を残すことなく壊されるか、持ち去られたのです。
レモンは彼女の訴えを聴いていた。依頼人のモニカはその出来事のあと、すぐに取って返すと、レモンの家を訪ねたのだった。
「つまりどうやって雪だるまを持ち去ったのか、ね?」
彼女たちはその消えてしまった雪だるまが置かれていた、サラタウンの五番通りに向かった。
そこにはたしかに少女のいうように雪だるまがなかった。別の少年たちが雪だるまをこしらえている最中だったが。
「あの子達に質問してもいい?」
と黒いロングの髪に可愛いミトンのシルクハットでお洒落している、レモンがいう。
「いいえ。なんだか怖いから……」
と彼女がいった。
「わたしの推理が正しければ、あなたの雪だるまはちゃんとあるわ」
「どこに……ですか?」
「サラタウンのどこかによ」
そういって少女探偵レモンは笑った。
「え?」
「さあ、あなたは引っ越して間がないから分からないかもしれないけれど、ちょっと歩いてみましょうか」
わたしたちはそのあとレモンの案内のままに、サラタウンを歩き回りました。
そしてサラタウンの四番通りにその雪だるまがぽつんと置かれているのを見つけました。
そこには見張りをしている少年が一人。二人を見かけて、ばつの悪そうにそっぽを向いている。
「ね」とレモンは少女に笑いかけました。
「サラタウンを似たような感じの通りが多いと思っていたけれど……まさかここまでなんて……」
「サラタウンの常識よ。あなたはその常識に騙されたわけ」
と少女探偵レモンはいった。
「つまりね。あなたがサラタウンの五番通りだ、と思っていたのはじつは四番通りだったのよ。あなたはそこで、
雪だるまを作り、少年たちはあなたが勘違いをしているのを知って、ちょっとからかって見たくなったのじゃないかしら?」
レモンの報告書:五番通りで、転がっていたバケツはおそらく少年たちが放り投げたものであろう。
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少女たちが作った雪だるまが消えた謎を追え!という話。子ども向けを意識しています。