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真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 14:【黄巾の乱】 既知との遭遇 其の弐

makimuraさん

槇村です。御機嫌如何。


これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。

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2010-09-21 19:25:14 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5360   閲覧ユーザー数:4418

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

14:【黄巾の乱】既知との遭遇 其の弐

 

 

 

 

 

「どうした愛紗。なにか考え込んでいるな」

 

馬に乗ったまま考え込んでいる関雨。やや足並みが遅れだした彼女の元に、華祐が馬を寄せてくる。

 

「いや、華琳のことをちょっと、な」

「……あぁ、曹操のことか」

 

しばし考え、真名から名前を結びつける華祐。

以前にいた世界では、華祐が関雨たちの仲間となったのは三国同盟結成の後だ。そのため、彼女は曹操との接点があまりない。

故に、当人がいないとはいえ真名を口にするのは避ける。

 

「引き抜きを受けた。以前にいた世界と同様、目をかけられたようだ」

「なるほど。武人として考えれば、光栄なことではあるな」

「確かに、その通りなのだがな」

 

関雨が、以前の世界においてまだ"関羽"だった頃。なにくれとなく自分の下へ引き込もうとする曹操に対して、彼女は反発し続けていた。

自分は桃香を守る楯、そして道を作る矛。桃香の理想に惹かれた自分が、他の者に仕えるわけがない、と、頑なだった。

その気持ちが間違っているとは、今の彼女も思わない。だが、周囲に目を向けなさ過ぎる感がある。自分のことながら、関雨は思う。

今の彼女は多少変わって来ている。成長した、といい換えた方がいいかもしれない。

曹操に誘われた、つまり自分の武才が他に評価されたということに、少なからず喜びを感じる。そのくらいは心に余裕を持てるようになっている。

かつての自分は、曹操の誘いに対して違う捉え方をしていたのだと思う。自分が見くびられている、と感じたのだろう。今の彼女はそう考える。

 

「自分を評価してもらえるというのはありがたいことだ。だが客将だからといっても、そう簡単に主を変えるわけにもいかない」

「己の矜持に関わるからか?」

「そうだ」

 

自分たちを受け入れてくれた恩もある、と。それをないがしろにすることは出来ない。関雨は胸を張っていう。

そんな彼女に水をかけるように、華祐は疑問を投げかけた。

お前が今此処にいるのは、単に恩を感じているからなのか? ならば恩を返し終えたなら公孫瓉殿の下から離れるのか、と。

 

「曹操に引抜を受けて、自分の武を認められたようで嬉しかった。そういったな?」

「その気持ちは確かにある」

「公孫瓉殿の恩はひとまず置いておけ。その上で考えてみろ。

曹操の下に仕え、曹操のためにその武を振るう。そんな自分の姿を想像できるか?」

 

関雨は想像する。華琳、いやさ曹操の下で、彼女の覇道に関わる一将として戦場に立つ自分の姿を。

その姿は、彼女にとって、どうにも違和感を拭い切れないものだった。

 

「今の華琳、いや、曹操殿が、私の知る華琳と同じ道を歩いていくかは分からん。

もし同じ道を歩くというのならば、魏の将の中に自分が立つ姿は想像が付かんな。なにより、彼女の考え方は私には少々そぐわない」

 

なるほど。うなずきながら、華祐は続けて質問を投げかける。

 

「今のお前は、その武を振るうにもいくらか陰が差す。そのことは自分でも分かっているのだろう?」

「……うむ」

「ならば、無理に武人として生きようとしなくもいいではないか。一刀のところで給仕をするのも、生き方のひとつだぞ?」

「いや、確かにあれはあれで、新鮮だったといおうか楽しかったといおうか」

 

俄かに顔を赤くしてみせる関雨。それを見て少しばかり、人の悪い笑みを浮かべる華祐。

赤くしたままの顔で、拗ねるような恨みがましいような、そんな視線を華祐に向けて。すぐに顔ごと表面へと向き直った。

 

「確かに、あぁいったことも嫌いではない。そんな一面があったことも、我ながら意外なことだった。

……思えば、誰かの役に立ち、求められるということを、私は望んでいるのかもしれん。」

 

民のため桃香さまのためご主人さまのため、自分が役に立つ一番の方法は武を振るうことだった。

関雨はかつての自分を思い返す。

 

「かつて私たちが桃香さまと共に起ち上がったのは、この乱れた世の中を平和にしたいという想いからだ。

その甲斐もあってか、ひとまずの平穏を得ることが出来た。……そして、この世界に跳ばされた。

私は、この世界が平和になることが怖いのかもしれない。同じような平穏を得たとき、私はまたどこかへ跳ばされるのではないか」

 

口から突いて出た言葉に、驚いた表情を浮かべる関雨。

いずれ自分が皆の前から姿を消してしまう、だから進んで世の中に関わろうと思えないのか? そんな、彼女が思い至った連想。

彼女は、同じ境遇の仲間に目を向ける。

 

「私は、怖がっているのだろうか?」

「いや、……そう考えると、怖くなっても無理はないだろう」

 

華祐は言葉を詰まらせる。彼女の考えはそこまで至っていなかった。答えなど分かるはずがない。

確かに、いわれてみれば十分にあり得ることだ。だが、望みがないわけでもない。

 

「以前にいた世界で、主は、"北郷一刀"は消えたか?」

 

そう。彼女たちがかつて主と仰いだ"北郷一刀"は、乱世が治まり、平和になっても消えることはなかった。

ならば自分たちはどうなのか。平穏を手に入れた後も、何事もなく暮らしていくことが出来るのではないか。

とはいっても、確証も持てなければ、そのときにならなければ確認も出来はしない。

考えてもどうしようもないことは、いくら考えても時間の無駄だ。

 

「そもそも今のお前は、そんな先のことよりも前に命を落としかねん」

「……いい返すことができないな」

「曹操に仕えるまでもない。武を振るう理由が必要ならば、もっと身近にいいものがある」

「なに?」

「一刀が暮らす、陽楽の町を守る」

「な!!」

「それぐらいに簡単な理由の方が、考えすぎなお前には丁度いいんじゃないのか?」

 

人が戦う理由など、欲が絡むか、大事なものを守るかくらいだ。その両方が手に入るのなら御の字だろう。

華祐は笑いながらそんなことをいい、関雨の傍を離れていった。

 

「まったくあいつは」

 

顔を赤くしながら、関雨はひとりこぼしてみせる。

 

かつて"関羽"だった頃。彼女が武を振るう理由は外側にあった。

理想を抱く義姉・桃香と、それを支えるご主人様の一刀。その二人のために、彼女の武才はある。あの頃はそれでよかった。

支えになっていたものがなくなり、彼女は初めて知る。自分がどれだけ不安定な人間なのかを。

なにかをする基準となっていた桃香と主はいない。私自身は今、なにをしたいのだろう。

自分からなにかをしたいと望んだことが、どれだけあったろうか。

 

華祐が茶化しながら口にした言葉を、関雨は考えてみる。

一刀を守る、ということ。その先には、結果として陽楽の町を、遼西という地を守るということが繋がってくる。

なにかのために戦ってきた彼女にとって、これは魅力的な響きを持っていた。

一刀の傍にいる。ただそれだけで、武を振るう理由にもなるのだから。

こちらの世界の北郷一刀。彼はかつての主とは別人である。これは彼女もよく分かっている。

それでも、やはり"北郷一刀"という人となりに惹かれていた。別人ではあるが、その芯は"同じ"なのだと思う。

それ以上に、関雨の中にある距離感がよりいっそう想いを募らせていた。

主にそのつもりはなかったかもしれない。だがかつての彼女の中には、彼と自分は主従関係なのだという壁があった。それを失くすことが出来なかった。

こちらの世界ではどうか。同じ"北郷一刀"であっても、彼と自分の立つ高さは同じになっている。かつて感じていた壁は、彼との間に感じられない。

自分の主人ではない、ただひとりの男性として、見つめることが許される。自分で、それを許してもいいような気がする。関雨はそう思った。

ふと、彼の名前を呼んでみたくなる。

 

「かずと、さん」

 

途端に真っ赤になった。関雨の顔どころか、身体中が熱を帯びる。彼女らしからぬうろたえ振りを見せ、わずかに身をもだえさせる。乗っていた馬が慌てたほどだ。

彼女は自覚してしまう。自分の想いと、それを遂げようとする自分を抑えていた枷が外れていることに。

女としての自分が、想いを正直に表していいということに喜びを感じていた。

 

「まずは、名前を呼ぶことからか」

 

名前を呼ぼうとするたびに真っ赤になっていたのでは、なんの進展も期待できまい。頑張れ愛紗。

いろいろと自分のその後を想像しつつ、自分を鼓舞させる関雨。

だが彼女は気づく。その想像のいたるところに、すでに呂扶が入り込んでいることに。

 

……ひょっとして、今は恋のひとり勝ちではないのか?

 

負けられぬな。

そんなことを思い立ち、思わず関雨は笑みを浮かべる。その笑顔は、これまでの陰を感じさせないものだった。

 

 

 

赤くなったりスッキリしたりと忙しい関雨。彼女に反して、焚きつけた華祐の表情は浮かないものだった。

想像もしていなかったこと。自分がこの世界にやってきた理由はなんなのか。そして、それを成し遂げたなら、自分はどうなってしまうのか。

 

「平和になれば、この世界から自分が消える。か」

 

小さくつぶやく。考えもしなかったことに、彼女もまた思い悩むことになる。

 

「天とやらは、いったいなにをさせたいのだ」

 

見上げる天は、ただただ青く広がっていた。

 

 

 

 

ふたりが思い悩んでいる間にも、公孫軍は進軍を進めている。細作を方々へ放ち、黄巾党の集団を探し出しては、制圧。それを繰り返す。

転戦を続けていくうちに、また別の官軍と鉢合わせた。

曹操軍とは違っていた。既に黄巾党とぶつかっており、目の前の官軍はやや押され気味。劣勢になっている。

 

「これは悩んでいるヒマなんてないな」

「うむ。助太刀ですな」

「よし、これから官軍の助勢に入る。声を出せ! 旗を掲げろ! 公孫軍の力強さを、これでもかと見せ付けてやれ!!」

「皆、私に続けぇっ!」

 

公孫瓉の檄に押されるように、趙雲が一番に飛び出していく。追いかけるようにして、関雨と華祐が。その後を、遅れてなるものかと兵たちが駆けて行く。

 

おおおおおおおお、と、勇ましい鬨の声を挙げながら、公孫軍は黄巾党の背後を突く。

突然現れた勢力に、押していた黄巾の徒は途端に動揺する。突如背後から敵が現れたのだから、うろたえもするだろう。

黄巾党の数はおよそ8000ほど。官軍側が5000といったところか。大きな差はあるが、それでも公孫軍が加われば相手の数を逆転できる。

趙雲が中央を駆け抜け、関雨が右、華祐が左へと広がっていき、黄巾党勢力を挟み撃ちにするように包囲していく。

相手は策もなにもない徒党。単純な数の力をもってして圧倒し、ただ目の前の相手を倒す。その繰り返しで、じわじわと包囲網を小さくしていく。

三方を公孫軍が塞ぎ、もう一方は官軍が位置している。包囲したといっても、やはり急造したもの。公孫軍と官軍とで密な連携が取れるはずもない。ところどころに出来る隙間から抜け出し、戦場から逃げ出す黄巾の徒も現れる。ことに、官軍が位置するところから漏れ出す人数が多かった。

6000が引き受けた三方と、5000が受け持つ一方。普通に考えれば、後者の方が逃げられる見込みは薄い。なのに、なぜか。

それもそのはず。官軍に属する兵そのものが自陣から外れ、勝手に撤退を始めていたのだ。

 

 

 

 

 

戦場特有の喧騒も過ぎ、周囲には殺伐とした静けさが漂う。

その只中に佇む、公孫軍を率いる将の面々。彼女らは総じて渋面を浮かべていた。

無理もない。味方である官軍が劣勢と見て助けに入ったにも関わらず、その味方が我先にと逃げ出してしまったのだから。自分たちはなんのために助太刀したのか、と思ってしまう。

そんな彼女らの前で、ひたすら謝罪を繰り返す将がひとり。逃げ出さず戦場に残った官軍の一部を率いていた人物。

名を、張文遠。かの張遼である。

 

 

 

「いや本当に、すまんかった!!」

「分かった、もういいよ。そっちの事情もよく分かったから」

 

平謝りの張遼だったが、合間合間になされる事情の説明を聞くに及び、よく持たせることが出来たなと公孫瓉たちは感心してしまう。

張遼曰く、事情は以下の通り。

 

本来、彼女たちは涼州に属する軍勢だという。涼州の黄巾党討伐が落ち着きを見せたところに、朝廷から軍勢派遣の要請が来る。

無視することも出来ないため、3000の兵を引き連れ官軍と合流。合計7000の軍勢をもって、長安や洛陽を中心とした司州近辺の警護および黄巾党の討伐を行っていた。

ちなみに、洛陽などに常駐する兵力はこの数に入っていない。合計で万単位の兵が蓄えられているはずである。

それはさておき。

名目上は、軍勢を率いるのは官軍の大将。なのだが、この大将がなにも仕事をしようとしない。仕方がないので、張遼や、彼女と共に派遣された呂布が軍勢を仕切ることになった。

涼州郡の兵を2000と1000に分け、官軍を3000と1000に分けた。前者を張遼が引き受け北へ向かい、後者を呂布が引き受け南へと向かう。

兵の数に偏りがあるのは、「呂布がいるなら官軍数千なんか誤差の範囲や」ということらしい。

むちゃくちゃな話ではあるが、公孫軍の面々はなんとなく理解できた。

司州の北側を担当することになった張遼だったが、自分が引いた貧乏くじに思わず天を仰いでしまう。

引き受けた官軍の兵たちの質が悪い。これでもかとばかりに役に立たなかったのだ。

相手は黄巾党、もしくは匪賊の類が大半だ。お世辞にも手強いといえる相手ではない。怖いのは数だけなのだ。

それなのに、兵たちはことあるごとに隊列を乱す。作戦を聞こうとしない。あげく劣勢と見ると勝手に逃げ出す。などなどなど。

ここまでくると、通常の行軍でも気を使い、軍勢を整えるだけでも一苦労である。黄巾党討伐どころではない。

そのくせ自意識だけは高く、兵たちは自分たちが手柄を立てることを信じて疑っていない。

ならせめていうことを聞けと張遼がいってみても、暖簾に腕押しであった。

不安しかない混合軍であったが、これまでで一番の大勢力に当たった。それが先ほどの黄巾党である。

初めて目にする、数に勝る敵。これまでがこれまでである。官軍たちは動揺し、やがて恐慌にまで陥った。

なんとか隊列を整えようと躍起になっているときに、公孫軍が助太刀に入ってくれた。おかげで兵力をさほど損なうことなく、討伐することが出来た。

だが、恐慌を起こした官軍勢はすでに戦場を遠く離れている。3000のうちおよそ3000が、この場からいなくなっていた。

 

「それってほとんど全部じゃないか」

「……そうなんや」

「官軍というのは、そこまで酷いものなのか……」

「あの酷さは言葉じゃ表しきれん。体験して率いてみんと分からん酷さやで」

 

呆れを通り越して感嘆してしまう公孫瓉。身の不幸を嘆く張遼。それを察して労わる関雨に、思わず彼女は抱きついてくる。

まさか辛さのあまり泣き出したか、と思いきや。張遼の顔は実に喜色満面。物凄く嬉しそうである。

 

「もうあんな奴らのことはどうでもえぇねん。

アンタ、関雨いうとったよな。見てたで、青龍刀を振り回して立ち回るんを。凄いなアンタ、惚れ惚れしたで」

 

目をキラキラさせた表情で、抱きついたまま顔を見上げてくる張遼。

関雨は激しく嫌な予感がした。

もし張遼という人物が自分の知る彼女と同じ性格ならば、この後どうなる?

まとわり付かれるに決まっている。

 

「いや、あの、張遼殿?」

「霞でえぇで。あんな危ないところを助けてくれたんや、真名くらい安いもんや。仲良くしようや、なぁ?」

 

手を取りブンブンと振り回し、まとわりつく張遼。それをなんとかいなそうとする関雨。

彼女は内心、溜め息をつく。

なぜ異性を意識した途端に、同性からまとわり付かれなければならんのだ。

吐く息はとても重く、深い。

 

 

 

ちなみに。

張遼が必要以上に下手に出ていたことや、気苦労ばかりの彼女の立ち位置を不憫に思ったりなどしたせいもあって、初対面にも関わらず公孫瓉も言葉遣いが素になってしまっている。最後に関雨を口説きだした奔放さもを見て、今更言葉遣い云々を気にするのも馬鹿らしくなっていた。

華祐を見て、涼州に残っている仲間と同じ顔と名前に、不思議なこともあるもんやな、と感心してみせたり。

顔は同じか分からんが呂扶という強者(つわもの)が遼西にいる、という言葉にさらに驚いてみたり。

張遼と趙雲が妙に仲良くなっていて、関雨がいいようののない不安を覚えたり。

その場の流れでなんとなく、公孫軍の将たちは互いに真名を交換したりと。

張遼はいつの間にか相当に打ち解けていた。

単に、これから使えない官軍たちのところに戻らなければいけない事実から逃げようとしていただけかもしれないが。

 

名残は尽きないものの、この恩はいずれなにかの形で返す、と、張遼は改めて礼を述べ、公孫軍から離れていった。

あれこれ馬鹿なやりとりをしていたにもかかわらず、すでに部下を使って官軍たちをまとめ終え待機させているあたり、実にやり手な張遼であった。

 

 

 

 

関雨や華祐にとって思わぬ知己との出会いからしばらく。公孫軍は再び黄巾党征伐のために行軍を開始する。

ほどなくして、趙雲が奇妙な動きを見せた。

 

「ぬ?」

「どうした趙雲?」

 

唐突に声を上げる彼女。らしくもない、切羽詰ったような声音。耳にした公孫瓉がいぶかしむ。

 

「……なにやら、嫌な予感がしますな」

「いきなりどうした、縁起でもない」

「手持ちのメンマが、なくなりました」

「……趙雲」

 

口調に反して、その内容は実にどうでもいいこと。公孫瓉は途端に脱力した。

 

「いやいや。長丁場を覚悟して、私なりに切り詰めながら食していたのです。自制心を総動員して、減り方が少なくなるようにしていたのですが」

 

彼女の表情は真剣だ。こんな顔はそうそうお目にかかれない。

ただ内容がメンマのことでなければ、耳を傾けようとも思えるのだが。

 

「にも関わらず、気がつけばメンマは底を突いていた。私自身も気づかぬうちに食していたのでしょう。まるで逸るように。

ならば、なにが私をそこまで逸らせたのだろうか。

私の生命線ともいえるメンマを、知らず食べつくしてしまうほどに急かすなにかがあるのか」

 

すでに彼女の言葉に誰も耳を貸していない。

それでも趙雲は、誰に聞かせるでもなくぶつぶつとつぶやいている。

 

「北郷殿、いや、陽楽になにかあったか?」

 

飛躍といえば、あまりに飛躍した連想。

 

「伯珪殿。私一人だけでも、陽楽に戻れませんかな?」

「駄目に決まってるだろ馬鹿」

 

公孫瓉は当然のごとく受け入れない。真剣な顔をすればするほど、滑稽さがますます浮き上がってくる。

確かに傍から見れば、メンマを補給したいから帰る、といっているようなものだ。聞き入れられるはずもない。

メンマを理由に、嫌な予感がする、といわれても一笑に付されるのは当然だ。根拠もなにもないのだから。

 

ただ、虫の知らせというものはある。武人としての勘がなにかを告げるということもあるだろう。普段ならば、細作をひとり陽楽にやるくらいのことはしたかもしれない。

普段の行いのためだろうか。それとも理由がメンマだったためか。彼女の言葉がそれ以上話題に上ることはなかった。

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻。遼西郡・陽楽。

政庁に詰める面々に、趙雲の予感を形にしたかのような報告がなされていた。

 

「どこからこれだけの数が……」

「おそらく、討伐から逃れた輩がまとまった、ということでしょうね」

 

烏丸族の領土と遼西郡の境に、大量の黄巾党が押し寄せた。烏丸と遼西ともに、小さな村々がことごとく襲われ被害にあっていると。

陽楽で太守の留守を預かる面々は、その報告の内容に頭を抱えた。

 

「正確な数は分かりますか?」

「報告にはまだ分からない、と。

ただ、離れた場所にある村がほぼ同時に襲われています。結託はしていないでしょうが、総数で見れば相当の数になるかと」

「……残っている兵全員に出撃の準備をさせてください。いつでも出征出来るように。それと義勇兵の要請を」

 

鳳灯が、浮き足立つ武官文官を落ち着かせながら指示を出す。落ち着いて報告を受けつつ、現状を把握し、まとめ、仕切ってみせる。

可愛らしい外見からは予想できないが、幾つもの戦場を経験しているからこそのものだろう。その差異が、周囲に妙な頼もしさを与えていた。

 

「それと、一刀さんのところに伝達をお願いします」

「呂扶殿、ですか?」

「……はい」

 

公孫軍を鍛える天下無双。その助力があるのならば、この事態も乗り越えられるに違いない。

そんなことを考えつつ、使いの男は飛び出していった。

反面、鳳灯の浮かべる表情は思わしくない。呂扶すなわち恋を、戦場に送り出す。そして一刀まで巻き込んでしまう。

遼西郡を守るためなら、彼はきっと力を貸してくれるに違いない。彼は役に立つ。でも。

 

彼女の中で、理と情がせめぎ合い、渦となっていた。

 

 

・あとがき

関雨、覚醒。(恋姫的な方に)

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

愛紗さんが、『真』よりも無印のキャラっぽくなったような気がする。

武人としてと同じかそれ以上に、女の部分を意識し出すというか。うまく表現できているか不安だ。

 

また愛紗さんがそこそこ吹っ切ったと思ったら、今度は華祐さんが悩み始めた。ままならぬ。

 

華琳さんに続いて、霞さん登場。

槇村の中では、彼女もまた苦労人。でも楽観的というか、最後の最後で「んなこたどうでもいいんだよ」とかいいそうじゃない?

同じ苦労人でも、白蓮さんは陰に篭りそうな気がします。

 

 

 

さて。

太守のいない遼西郡に、なにやら動きあり。

やっぱり一刀と恋を動かしておいた方がいいかなぁ、と。気になっている方もいらしたようなので書くことにした。

待て次号。

 

いろいろと書き込みありがとうございます。励みになっております。感謝感謝です。

 

 

 

100922:本文を少々修正しました。

 


 
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