No.173692

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第四十三話

狭乃 狼さん

刀香譚、四十三話です。

視点を再び一刀たちに戻します。

それでは、どうぞ。

2010-09-20 16:08:17 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11846   閲覧ユーザー数:10074

 「善為すに武を以って為す、其は悪為すと同義」

 

 「……義兄上、それは?」

 

 軍議の最中、ポツリと呟く一刀に関羽が問いかける。

 

 「俺のお師匠がよく言ってた言葉でさ。もうほとんど口癖になっていたな。どんなに良い事だって、力づくで事を為せば、その瞬間に悪い行いになる。……今の俺たちがまさにそうだなって、思ったんだ」

 

 腕を組み、一刀は天井を見上げる。

 

 「深い言葉だな。しかし、的を射ている」

 

 「だね。……後悔してるの、お兄ちゃん?益州取りを決めた事」

 

 「それこそまさかさ。後悔はもうしないって決めたからな。俺が言いたかったのは、桔梗さん、焔耶、蒔、早矢、美音。あなたたちの覚悟。それをもう一度聞きたかったんだ」

 

 厳顔、魏延、張翼、雷同、李厳。

 

 それぞれの顔を、見渡していく一刀。

 

 「……お館さま、それこそ今更というものですぞ」

 

 「そうです!私はお館、いえ、一刀さまにこの身全てを捧げます!」

 

 厳顔が一刀に答え、魏延もそれに続く。

 

 「私もです。一刀様達のお覚悟、この魂に響きました」

 

 「私もなう。あのときの一刀さま、とっても格好良かったなう」

 

 「せやせや。とはいえ、うちはどっちかつーと、蒼華姉さんに惚れたんやけど」

 

 「な、何だと?!」

 

 李厳の告白に、華雄が驚き戸惑う。

 

 「その装束で焔耶と戦う姿、めっちゃ綺麗やったもん。も、うち一発でやられてもうたわ」

 

 華雄が身に纏う、白と赤の装束を見ながら、うっとりとする李厳。

 

 「ていうか蒼華、あんた、いつまでそれ着ているわけ?」

 

 どっか逝っている李厳を無視し、賈駆が華雄に問う。

 

 「……いやな。戦っていて思ったんだが、この装束、やはり少しだけ違和感があってな。しばらくは普段から着て、慣れておこうと思ってな」

 

 「いっそのこと普段着にしたら?うん。なんかこう、えもいえぬ色気があって、蒼華に良く合っているしさ。てか、ぜひそうしてくれ」

 

 「か、一刀がそう望むのなら、そうしてみても良いが……」

 

 一刀にそう褒められ、顔を赤くしながらもじもじと照れる華雄。

 

 (か、可愛い……)

 

 その華雄を見て、そんな感想を持つ一刀だったが、

 

 「……お兄ちゃん?鼻の下が果てしなく伸びてるよ?」

 

 「……義兄上……。貴方という人は……」

 

 「一刀様……」

 

 「……ど助平」

 

 劉備、関羽、魏延、そして公孫瓚から、氷のような目で殺気を向けられる一刀。

 

 「……あの。オシオキは、また後ほどでも、ヨロシイデショウカ?」

 

 『(にっこり)……イイワケアルガーーーーッ!!』

 

 「アッーーーーー!!」

 

 

 「……いい加減、懲りないよね、カズ君も」

 

 「いつもああなのか?」

 

 「大体あんな感じなのだ」

 

 「……ちょっとだけ、かっこ悪いなう」

 

 劉備と関羽、魏延の三人に追いかけられる一刀を見て、半ば呆れている一同であった。

 

 

 

 丁度その頃、益州の州都、成都では。

 

 『…………』

 

 町の広場に造られた特設舞台。その上で、時に激しく、時に優雅に舞う一人の少女がいた。

 

 左へ右へ。右から左へ。時に跳躍し、くるりと回る。その表情は憂いを帯び、人々を虜にして離さない。

 

 曲が終わるとともに、舞台中央に少女が立ち、その両腕を大きく開く。すると、

 

 『わああああああっっっっ!!』

 

 数万には達するであろう観客から、盛大な歓声が巻き起こる。

 

 「朔耶さまーーー!素敵ーーー!」

 

 「朔耶さまーーー!愛してるーーー!」

 

 すさまじいまでの熱気が、会場を支配する。

 

 「みなさん。今日もこれほど多くの方にお集まりいただき、本当にありがとうございます。では、本日の締めとして、私の新曲をご披露させていただきます。……”酔夢愛歌”。聞いてください」

 

 少女の言葉の終わりとともに、ゆったりとした音楽が流れ始める。

 

 そして、先ほどまであれだけ熱狂していた観客が、いっせいに静まり返る。

 

 少女が、歌いだす。

 

 

 

 

 瞳を閉じれば映る 貴方の笑顔

 

 

 耳を澄ませば聞こえる 貴方の声

 

 

 覚えていますか あの日々を

 

 

 届いていますか この想い

 

 

 いつか歌った愛の歌

 

  

 いつも夢見る愛し人

 

 

 願わくばこの身を鳥と変え

 

 

 貴方の下へと羽ばたきたい

 

 

 そして私に囁いて欲しい

 

 

 夢にまどろむ 愛の言葉を

 

 

 

 

 少女が歌を歌い終わる。

 

 そして、一拍置いて、

 

 「……素敵な歌」

 

 「朔耶さまーーー!素晴らしいですーーー!」

 

 「われらが歌姫、法孝直ーーーー!!」

 

 

 割れんばかりの歓声。そして、それに対して、両手を大きく振って応える法正。字を孝直であった。

 

 

 その夜。成都城内。

 

 「今日の舞台も大盛況だったようじゃな、朔耶よ」

 

 「……はい。紅花さまのご支援のおかげです」

 

 昼間の舞台の時とはうって変わり、玉座に座る少女に対して、法正は無感情な返事を返す。

 

 玉座に座る、きらびやかな衣装を身に纏った少女の名は、劉璋。字は季玉という。

 

 ここ益州の主である。当然、その臣下である法正は、彼女を敬わなければいけない立場にある。だが、とてもではないが、劉璋に対してそんな態度をとる気にはなれなかった。なぜなら、

 

 「……紅花さま。そろそろ他の街への巡業を、認めていただけませんか?成都に留まっていては、一部の者たちにしか、私の歌を聞いてもらえませぬゆえ」

 

 そう。法正はここ数ヶ月の間、成都を離れることを許してもらえなかった。その理由は、 

 

 「駄目じゃ。そなたがここを離れたら、妾が毎日そなたの歌と舞を見れんではないか」

 

 という、劉璋の個人的願望。つまり、わがままによるものだった。

 

 「それに、別にそなたが成都を離れんでも、向こうからここに来させればよいではないか。そんなにそなたの歌を聞きたいのであれば」

 

 (……やっぱり、全然解っていない)

 

 と、法正は口に出さずに思った。

 

 

 

 益州が平穏だった時期は確かにあった。だが、それも劉璋の母である劉焉の代の話である。

 

 旅をしようと思えば、わずかな路銀で着の身着のまま出ることが、確かに当時はできた。

 

 だが、彼女の代になって事情は変わった。

 

 重税と過酷な労役に耐え切れず、賊徒化した者たちがあちこちで暴れており、力を持たない民達は町を出るどころではなかった。

 

 (そのことをまったく知らず、しかも、その責が自分にあるとはかけらも思っていない)

 

 法正は意を決した。臣下として、主君に諫言することを。

 

 「姫様。貴女は知らされていないだけかも知れませんが、民達は今、重い税と必要以上の労役で苦しんでいるのです。その事をどうか、ご理解いただき」

 

 「うそはいかんな、朔耶。主君を甘言で弄してどうする気か?」

 

 その法正の厳をさえぎり、女の声が部屋の中に響く。

 

 「梅花!いつからここに?!」

 

 「つい今しがただよ。姫。ご安心をなされませ。朔耶の言は全て絵空事にございますよ。疲れのせいであらぬ妄想をして、それが現実と区別できなくなっているのでしょう」

 

 劉璋のそばに歩み寄り、そう進言する張任。

 

 「主君を甘言で弄しているのは貴女でしょう!私は」

 

 「朔耶よ。もうよい。妾はもう眠いのじゃ。おぬしも疲れて居るなら早く休めよ」

 

 「紅花さま!」

 

 法正の話を途中で切り上げ、劉璋は席を立って、欠伸をしながら奥へと引っ込んでいく。

 

 「朔耶よ、そういうことだ。おぬしは友の心配だけして居ればよい」

 

 「……どういう意味ですか」

 

 法正は、劉璋を追っていた視線を張任に向け、キッとにらみつける。

 

 「おや?まだ言っていなかったか?巴郡の桔梗、いや、厳顔が謀反をしたのでな。蒔と早矢、美音に討伐を命じたのですよ」

 

 「なっ!?桔梗様が謀反などするわけが」

 

 「主君の命に逆らったのです。これを謀反といわず、なんと言いますか?」

 

 「主君の命?紅花さまは何をお命じになったと」

 

 「それを貴女が知る必要はないですよ。なに。近いうちに解りますよ。いい報せとともにね」

 

 話をはぐらかし、張任はそのまま玉座の間を出て行く。

 

 (……蒔、早矢、美音。桔梗様、焔耶、由。みな、どうか無事で……)

 

 何もできない自身を呪いながらも、法正は玉座の間で一人そう願う。それしか、今の彼女に出来る事は無いのだから。

 

 

 

 場面は再び巴郡。

 

 「私達に、先に成都へ戻れと?」

 

 「うん。ただし、連れて戻る兵隊さんは、半分だけね」

 

 徐庶がそう呈した策に、張翼らは首をかしげる。

 

 「それからその際、桔梗さんと由さんを”捕縛”して連れて行ってくださいね」

 

 満面の笑みを浮かべて、張翼にそう指示する徐庶。

 

 「桔梗さまをと由を捕縛だと?!輝里!一体どういうつもりだ!」

 

 その徐庶に対して、憤怒の表情で詰め寄る魏延。

 

 「落ち着け、焔耶!……わしは証と囮。そして由は潜入役。……そんなところじゃろ、輝里よ?」

 

 魏延を制し、厳顔が笑顔で徐庶に問う。

 

 「うん。桔梗さんの言うとおりだよ。で、もひとつ仕込んでおきたいんだけど。……ムフ」

 

 小悪魔のような笑みを、ちらりと一刀に向ける。

 

 「……おい。まさかとは思うけど、また、か?」

 

 「駄目~?綺麗だけどな~。カズ君のじょ・そ・う」

 

 「か!一刀さまが、じょ、女装!?」

 

 徐庶の台詞を聞き、魏延が顔を真っ赤にする。

 

 「え~んやちゃん。何を想像したのかな~?」

 

 にやにやと。魏延の顔を覗き込む劉備。

 

 「にゃっ!?べ、別に何も想像しては……」

 

 「ほ~う。べつになにも、な。頭の中で一刀に何を着せたのやら」

 

 「せ、先生まで!何も想像などしておりません!!」

 

 魏延のいう先生、とは華雄のこと。巴郡に入って以降、毎日のように、(いろんな)教育を受けているため、このような呼び方をするようになっていた。

 

 

 「二人とも、それぐらいにしておいてやれ。で、出立はいつにする?」

 

 魏延をからかう劉備と華雄をたしなめつつ、公孫瓚が徐庶に問う。

 

 「まずは二日後に、蒔さん達に出てもらいます。それだけあれば、兵士さん達の”偽装”をするのに間に合うからね。カズ君もそれまでに準備のほう、よろしくね?」

 

 「……わかったよ」

 

 大きくため息をつきながら、一刀が不承不承頷く。

 

 「われわれはその更に三日後に発つのです。恋殿と鈴々に、それぞれ先鋒を務めてもらうのです」

 

 「ボク達は軍を二手に分けます。一方は正面から成都へ。もう一方は培城から綿竹関を通って、成都を目指してもらいます。正面から成都を目指すのは、恋さんを先鋒に、桃香さまと愛紗さん、ねね。蘭さん、蒼華さん」

 

 「培城方面は鈴々ちゃんを先鋒に、拓海ちゃん、白蓮姉と水蓮さん。それからあたし」

 

 全員にそれぞれの陣容を説明する、徐庶、馬謖、陳宮の参謀三人組。

 

 「あ、そうなう。鈴々どの、綿竹関では気をつけるなう。名前までは判らないけど、相当強いやつが新たに配置されたそうなう」

 

 張飛に対し、噂で仕入れた情報を雷同が伝える。

 

 「だいじょーぶなのだ、早矢!鈴々に勝てるような奴なんか、そうは居ないのだ」

 

 「……過信は禁物だよ、鈴々。俺や恋に匹敵、もしくはそれ以上の奴が居ないとは限らないからね。例の連中のような、さ」

 

 自信満々に胸を張って言う張飛を、一刀が優しくたしなめる。

 

 「うにゃ。確かにそうなのだ。わかったのだ。お義兄ちゃんの言うとおり、油断は絶対にしないのだ!」

 

 「途上にある培城は特に問題ないやろ。何せ本来なら、うちがおらなあかん城やし」

 

 「そうだな。今留守を守って居るのは、沙霧だったか」

 

 「せや。鄧芝、字は伯苗。あれは頭の回る奴やさかい、うちが一筆書けば、敵対はせえへんやろ」

 

 李厳と張翼がそんな会話を交わす。

 

 「よし。それじゃあ、みんな。それぞれ行動に移ってくれ。……無事に、成都で会おう。みんなで、だ。いいね?」

 

 『御意!』

 

 

 そして二日後。

 

 

 まずは張翼たちが、一万五千の負傷兵(偽装)を連れ、厳顔と孟達を”捕虜”として出立。

 

 

 その三日後。

 

 今度は張飛と呂布、それぞれを先鋒として、荊州軍が巴の街を出立した。

 

 

 それぞれに、戦いの地を目指して。

 

 

 時に漢の献甲元年。

 

 

 暑い夏が終わりを告げ、秋の訪れが近づいていた。

 

 

 


 
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