「いったいあなたは何をしたいの?」
どこにでもある酒屋、たえまない雑踏。
マイムはカウンターに肘をつき、呆れたように隣の男を見やる。片手で銚子を上げて店の主人に追加を催促した。
「気になりますか」
カグラは挑発的に微笑む。いちいちが芝居がかっており、またそれが様になっていて厭味ったらしい……なーんておくびにも出さずに乗るふりをする。ついでに扇情的に身も乗り出してやった。
「気になるわねぇ」
「嫌悪していたんですよ」
王宮の連中を。貴族と呼ばれてそこに集う連中を。醜い害虫がさもしく着飾ることを。浮ついた戯言を。そこに属する自分を。そのすべてを。
だから、ひっかきまわした。簡単なことだ、きっかけを与えてやればいい。石を投げ込むだけで、さざ波はうねり、あっという間に大波に成長し、いろいろなものを飲み込み始めた。
感情のこもらない顔で、ぽつぽつと語るカグラの杯を満たしてやる。
常に薄っぺらい笑顔を貼り付けてのらりくらりとしている男が心情を語るなんて、珍しいこともあるものだ。ただ、全てを信じるほどマイムは幼くも純真でもなかったし、静かに酒を含んでいる男もまた、見抜いたうえで語っているのだろう。
「そんな時にあなたに会ったんです」
「そう」
「あなたに付いていく方が面白そうですし」
「そう」
カグラが見つめてくる。マイムも挑むように見つめ返す。一見、情熱的な恋人同士のようであったが、実際2人の間では壮絶な腹の探り合いが展開されていた。
この男は信用できない、そしてこちらの思惑は悟られてはいけない。
まあ、でも……、いいか、今のところは。あの子の周りにはある程度の手駒が揃っていた方がいい。
小さく息を吐いて身じろぎをした後、マイムは輝かんばかりの笑顔(営業用)を作った。
「分かったわ、一緒に行きましょう」
いざとなったら消せばいい。この男は元将軍だが暗部の腕には自信がある。
「よかった」
嬉しさを含んでいるようなカグラの口調に、マイムは僅かに動揺した。それを打ち消すようにはじけた声を上げる。
「北ではリウヒ様が動き出したそうよ。そこに行こうと思うのだけど」
王位継承権最低位の王女様が王都奪還するのよ。ううん、させるの。わたしたちが。
「魅力的だと思わない?」
「魅力的ですね」
カグラは前を凝視しつつ、ゆっくり杯を重ねた。唇には微笑み。
「魅力的すぎてクラクラする」
その瞬間。
横の男の考えが読めた。それはマイムの中に渦巻いているものと同じだった。
カグラが目線で問いかけてくる。
あなたも同じでしょう?
そうよ。
同じく目で返す。
だからなんだっていうの。
そして2人は無言で杯を合わせた。
共犯者に、とカグラが小さくつぶやいた。
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「Princess of Thiengran」下書きの落書きをサルベージ。
設定やキャラクターがまだ定まっていない頃のやつ。
※本編では2人はお互い明後日を見ているのと、主導権はカグラにありました。