コレをコンペに出さなくて良かったと思う今日この頃です。
「あ~………………あつい」
溶ける。比喩じゃなく溶ける。何なんだこの日差しの強さ。
政務と言う名の監禁から漸く抜け出し、飯食って木陰で涼もうかと思って庭に来てみればまさかの無風状態。勘弁してくれ。
「もー無理。限界。一刀脱ぎます」
あまりの暑さに頭がパーンとなったのか、気付けばそんな独り言を洩らしながら制服を脱いで上半身を出していた。
脱いだ服を必死に振って僅かでも涼を取ろうと風を送ってはみたものの、服を振る動きで汗が滝の如く流れ出てきた。
「これ死ぬんじゃね……」
天の御使い、天の日差しに死す。はっはっはっ、笑えねぇ。
扇風機やクーラーが無いのはもう仕方のない事だと割り切れるけど、せめて団扇か扇子ぐらいは―――そうか。
「あ、隊長。こんなところにっ?!」
「無かったら作ればいいじゃない」
「た、隊長!!服!!服を着てください!!」
「あ、凪良い所に。ちょっと付き合ってくんない?」
気が付けば凪がいる。辛い物大好きな凪でも、ソレとコレとは別問題なのか顔が真っ赤だ。熱中症とかじゃないだろうな。
「ってか顔真っ赤だぞ?」
「た、隊長の所為ですっ!」
「俺?」
言われて自分を見てみるけど、別段何も変わった所は無い筈だぞ?
「何か変?」
「で、ですから服を着てください!!」
「えー」
「えーってなんですかえーって!!い、いくら種馬だからってこんな真昼間のしかも屋外でなんて!!」
「だってあっちぃんだもん」
「いくら暑かろうと時間や人目は気にして下さいっ!!」
三国志の時代から根付いているとは、恐るべしTPO。
とはいえ、このまま上半身を露出し続けると凪の頭が沸騰するかもしんない。
でも汗でベタベタになってる服もう一度着るのも精神的にキツイしなぁ……
「そうだ、水浴びしよう」
「前後の脈略が無さ過ぎます……」
「凪、水着の準備ー」
「は?!」
「だから、水浴びしに行くから水着」
「な、何故私が?!って、これは隊長のお供をさせて頂くのが嫌だとかそういう事ではなくてですね、なんと言いますか……
そう!隊長はこの大陸になくてはならぬ大切なお人な訳ですから、お供もつけずに賊が出てくるやも知れぬ山中に出向くなど決して認める訳には行きません!ええいきませんとも!!」」
「だーかーらー、凪がお供しれくれれば良いじゃん」
「わ、私はこの後……」
「半休だから午後からは休みだろ?」
「そ、それはそうですが……」
猶もモゴモゴと言い篭っている凪にソッと近寄って、対凪への最終兵器を繰り出す。
「あっ……た、隊長……」
ホッペに手を添えて、心持ち顔を上に上げさせる。
目線は決して逸らさない。どれだけ此方の誠意を見せるかが勝負の分かれ目なのだ。
「頼むよ凪、俺には、凪しかいないんだ」
「―――地獄まででもお供します」
(YES!!!)「ありがとう、愛してるよ」
流石は凪、愛紗と違って話せる良い子だ。
「一刀様!」
「あ、明命。脱いでみない?」
「はうあ?!」
水浴びをしに向かう途中で明命に出会ったから一緒に水浴びしないかと誘ってみた。
凪に殴られた。眼が怖かった。
「おーいって……今から凪と一緒に水浴びに行くんだけど、明命も一緒しない?」
「私としては、隠密行動に長けた明命さんが来ていただけると助かるのですが」
「はい!是非お供します!」
にぱーと満面の笑みで「しばしお待ちを!!」と瞬時に消えた明命。
恐らくは水着を取りにいったんだろうから、凪とその場でしばし待つ。
「あー……暑い」
「だ、大丈夫ですか?凄い汗ですよ?」
えっと。と呟きながら懐から手拭いを取り出す凪。やっぱこういう所は女の子だなぁ。
「おかしい。この暑さ絶対おかしい」
「今日は風がありませんから……」
自分も暑いだろうに、けなげに手拭いをブンブン振って俺に風を送ってくれる凪。抱き締めたいなぁ、暑いからやらないけど。
とはいえ、額から汗を流してまで懸命に風を送ってくれる凪に何かしてあげたくなったのも事実なわけで。
「―――きた、来てしまった」
「明命さんはまだ来ていませんが……」
どうした事だ、この暑さでも冴えてるな、俺。
俺の発言を勘違いした凪はキョロキョロと周りを伺っている。
その凪を正面から抱き締める―――あちぃ。
「た、隊長?! い、いけませんこんな昼間から!!」
「あれー? 上手くいかないなぁ」
「な、何がですか!」
「人間クーラーってのがあったの思い出してさ」
「人間、くーらー?」
かくかくしかじかと人間クーラーの原理を説明した。おもっくそ不信な顔された。寂しい。
「ほ、本当なのですか、その話・・・」
「ホントだって! といっても、俺も知識として知ってるだけで実際に試すような事は無かったけどさ」
「ま、まぁ隊長の仰る事ですし・・・俄かには信じがたいですが、信じます」
外気温が人間の体温よりも明らかに高い場合、人間に密着することで涼をとれる。
大まかに噛み砕いた何となくな説明だったけど、原理としては伝わったみたいだ。
「すんごい気温高い地域でしか出来ないらしいけど、今日のこの暑さなら絶対出来る!!」
「た、隊長、あまり興奮されると、それでまた暑くなりますから」
あわあわと手拭いでまた扇いでくれる凪だったが、もはや止められぬこの思い。
説明の際に離れてしまった事だし、もう一回!!
「凪ぃぃぃ!!!」
「ひゃあ?!」
がばっと抱きついたけど蔑ろにされる事は無く、顔を真っ赤にさせながらも俺のしたい様にさせてくれる凪。
「あーホント凪は忠犬だよなー癒されるーでも暑いー」
「喜べばいいのか怒ればいいのか・・・そ、それで、涼しくなれそうですか?」
「うん、それ無理」
そもそもどれぐらい暑くなれば人間クーラーが出来るのか何て覚えちゃいない。
ならば何故抱きついた?そこに凪がいるからだっ!!
「あー凪は気持ちいいなー。こんな事して怒らないの凪か明命ぐらいだし」
「わ、私は!隊長を、お慕いしています、から……」
「凪と明命はホント忠犬って言葉がしっくりくるよなー」
「ほぉ、そうですか。 ちなみに、ご主人様が統べる国は現在三国あるわけですが、残りの一国からは一体誰を選出されるおつもりですか?」
「んー?魏は凪で呉は明命だろー。 蜀は……なぁ?」
「わ、私に振られましても……というか、後ろを見られた方が……」
「愛紗かなー、でも愛紗怒りっぽいから忠犬っていうより肝っ玉姉さんって言った方がしっくりくるんだよなー俺的にー」
「た、隊長!」
「そうですか。私の肝はそんなに図太いですか、毛が生えてますか」
「……なぁ凪」「諦めてください」
後ろから【ゴゴゴゴゴ】な擬音の気配を感じるのは、気のせいであって欲しい。
「ご主人様。一体何時までお気に入りの忠犬を抱き締めているおつもりですか?」
「なぁ凪、明命遅いな?」
「隊長、現実と向き合うべきです。 微力ながら、私もお供します」
なぁ凪。三国が統一されてから、色んな事があったなぁ。
本当に楽しい時間だったよ。
意を決して、振り返る。
「―――あ、愛紗?」
「何でしょうか」
ブチ切れてくれていたなら即座に土下座出来たのに、今の愛紗は無感情な眼でじーっと俺の眼を見ているだけ。
頑張れ頑張れ諦めんなよどうしてそこで辞めるんだ!!
「あ、あのな、愛紗? 別に凪に抱きついていたのは決して疚しい気持ちだけじゃなくてだね?」
「――――――」
「すいませんでした」
「愛紗さま、隊長の言っている事は本当です。 何でも天の国には人間くーらーなる涼を取る方法があるらしいのです」
「えぇ、えぇ。先ほど伺いましたよ。不躾とは思いましたが、耳に届いてきましたのでつい其処の物陰で」
「な、なぁ愛紗? ほら、俺の部屋の窓、壊れて開かなくなってるだろ?それに今日のこの暑さでちょっと参っちゃってさ」
「伺いました。これから“お気に入り”の忠犬二人“だけ”を連れて水浴びに行かれるとか。
明命も凪も午後からは見事に休みですからね。私も休みですが、誘われないのであれば付いて行ける道理もありません。大人しく部屋で読書でもしていましょう。
涼を取りに行かれるというのに、心臓に毛の生えた女がいては存分に羽目を外す事も出来ないでしょうから、存分にお楽しみくださいっ!!」
とは言われはしたものの。
(隊長……愛紗さん、泣いてませんか……)
(だよなぁ……)
俺たちの会話が聞こえたのか、鼻をぐすっと鳴らすと、眼の端に溜めた涙を拭わずに俺をキッ!!と睨みつける。
「あー……愛紗もこれから休みなんだな。だったら、一緒に行かないか?」
「ぐすっ……何を聞かれていたのですか。 私が居ては、楽しめる物も楽しめないでしょう。どうぞ存分に忠犬を愛でてくればいいじゃないですか」
(何でだろう、愛紗さんに揺れ動く犬の尻尾が見える……)「そう仰らずに。隊長は大事な身体です。護衛の数は多いに越した事はありません」
「ごめん、愛紗を誘わなかったのは悪かったよ。護衛も付けずに出歩くとまた怒られると思ってさ」
「えぇ、私は口煩い肝っ玉姉さんですからね!!」
(今度は犬の耳まで見え出した)「隊長はお気楽な御方ですから、愛紗さまの様な方がいらっしゃらないと」
「なぁ愛紗。俺だって男だからさ。愛紗の水着姿が見れるなら、何回でも見たいよ」
「…………」
(尻尾が動いた。隊長、もう一押しです)
「俺と一緒に来てくれないかな?」
「……主君に其処まで求められ、それを断っては武人の名折れ。 お供させて戴きます」
(流石種馬)
「やってきました涼しげな水場!!」
「きましたなのです!!」
「「はぁ……」」
「明命!泳ぐぞ!」
「はいなのです!!」
「ご、ご主人様!いきなり入られては危険です!」
「そうです隊長、何度も来ている場所とはいえ、何があるかわかりません」
「「えー」」
「「えーじゃないんですえーじゃ!!」」
怒られてしょんぼりな明命を護衛に残し、愛紗と凪が水中探索を始めるのを汗を流しながら待つ。
ここまでで終了です。
言い訳としては、何をどう足掻いて頑張ってみても当方の作品である「恋姫のなにか」の世界観に引き摺られまくるという事態になってしまったからです。
コンペでオリジは不味いだろ。と流石に私でも気付けましたのでお蔵入りにしました。
人間クーラーは良いアイデアだと思ったんだけどなぁ・・・
あと、ちゃんと投稿出来てればタイトルは「一刀の夏、忠犬達の夏」にしようと決めてました。
そこまで決めておいて投稿出来ないとか俺涙目。
この場を借りるのはお門違いだと承知してますが、当方の過去作品にコメントを残してくださる皆様、お返事してなくて申し訳ありません。
どうにもあのコメント欄というのに書き込む勇気がもてないヘタレですいません。
ブツギリですが、読んで下さった皆さん、ありがとうございます。
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夏祭りコンペに出そうと思って書いていたSSです。
特に面白みの無い内容になっちまったんでお蔵入りにしてたんですが、投稿ペース落ちてて背に腹代えられなくなりました。