「ぐぇ…」
相手の頭部に鈍い音を響かせ今日何人目かの意識を絶った金髪の少女ミレイは、同じように流れるような動作でブリタニア軍の歩兵用ボディースーツを纏った人間を地面にめりこませた少女の方へ視線を動かす。ミレイ自身も少女も、たったいま叩き伏せたブリタニア軍人と同じ装いでシンジュクゲットーと呼ばれる敗戦国日本人…今はイレヴン達が住む廃墟の街を、調査がてら動いていた。
先ほどの戦闘で敵から奪ったKMFのサザーランドは、脅威の運動性能を誇る白いKMFによって行動不能とされていた。実際にはランスロットという名前なのだが、今の彼女等には知る由もない。行動不能と言っても技能で負けた訳ではなく、ただたんに彼女らの操縦に機体がついてこれなくなったというのが、正しい理由である。
「ナナリー」
「はい?」
「見つかるのは日本人ばかり…、もしかしたらルルはもう帰ったかも」
「ん~そうですね。お兄様の事ですから大丈夫だとは思いますけど…」
「いざとなったらあれがあるでしょ♪ギ・ア・ス」
「そう…ですね」
少し不安は残るもののルルーシュの妹であるナナリーはミレイの言葉に納得し、建物の影へと移動する。人の気配やKMF等の音などに気を付けつつ、慌てずに素早く影へ影へと移動する。もう少しで所で自分たちと同じ建物の間の道を反対側から走ってくる人影が現れた。相手は相当焦っているのか、呼吸が激しく乱れている。それと同時に地面を駆けるランドスピナーが地面を転がる音が響く。
「追われてるのね…戻るわよ」
自分の後ろを走るナナリーに声をかけ、急いで二人は今入ってきた道を逆戻りする。勢い良く飛び出した二人は、慌てていたのか建物の影から姿を現してしまった。右方向からは1機のKMFがミレイ達の方へ向かってきていた。
「あちゃ~、やっちゃったわねぇ」
「どうしましょう?」
「後ろから来てる人もいるし」
ミレイが横目で先ほど反対側から走ってきた人影へ視線を映す。その直後、建物の向こう側に人影を追ってきたであろうKMFのアサルトライフルが火を噴いた。
「嘘!?」
「私が!!」
直撃はしないものの人影のすぐ後ろに着弾した衝撃で、人影は吹き飛ばされ路地裏から飛び出させられた。「ぐっ」という呻きをもらし、地面へと突っ伏したその人物は赤い髪のまだ若い少女。
「ミレイさん」
「わかってる」
その赤髪の少女を抱き上げたミレイは、KMFの死角となるように建物の影へ再び入った。破片が刺さったのか肩口から出血していた。その少女をとりあえず被害がないように建物の影に隠し、壁に寄りかからせた。
「ナナリー」
「大丈夫です」
KMFのアサルトライフルから射出される銃弾は、見えない壁にでも当たっているかのように、ナナリーの少し前方ですべて弾かれていた。
「もう一方はあたしが!」
ヘルメット内で左目を赤く輝かせたミレイは、同時に体から赤い粒子を撒き散らし瞬間的にナナリーが対応していないKMFのコックピットの上に移動した。即座にコックピット上部についているキューポラと呼ばれる顔を出せる口を開け、中にいるパイロットへ向けて携帯していた銃を発射した。
パイロットの意識が途絶えたサザーランドはコントロールを失い。そのままあらぬ方向へと移動し、建物へぶつかりその動きを止めた。
銃撃を防いでいたナナリーは、銃弾を放つサザーランドのコックピット上部にミレイの姿を確認すると、建物の影へと身を潜めた。視認はしていないが銃撃音が途絶えた事と、サザーランドの駆ける音が遠ざかるのを確認し一息ついた。ザリザリと荒れた元道路だった道を踏む音を耳で感じ、念のため警戒するがそこに現れたヘルメットをはずしていつもの様に笑顔を浮かべたミレイに、ナナリーも同じようにヘルメットをはずして微笑んだ。
「それより、早く彼女…病院へ連れて行きましょ」
「そうですね。でも彼女、日本人じゃない…ブリタニア人?」
「今は何人でもいいわ。死なれたら後味悪いわ」
そう言ってポケットから携帯を取り出したミレイは、咲世子へと電話を掛けた。そのまま慣れたように病院へ電話を掛ける。
「…ええ、ありがとうございます♪」
そう言って電話を切ったミレイは、にやりと笑みを浮かべて壁に寄りかかっている少女を眺めた。
(ふふ…、カレン・シュタットフェルトさん♪なーに面白い事してるのかしらぁ♪)
「はっ」
目を開けてまず目に入ったのは、身知らぬ天井とまぶしいほど晴れ渡った青空が広がる大きな窓。薬品の匂いが漂うこの場所は瞬間的に病院だと認識させる。一人しかいないこの部屋は、どこかのホテルのスウィートルーム並の広さに一瞬驚くと同時に嫌悪が心を支配した。自分が憎み最も嫌う国ブリタニア、そしてそこに住まう日本人を見下すブリタニア人。彼らの病院だと思うだけで表情が険しくなった。
しかしすぐ様この状況に陥った事を思案する。記憶にしているのはシンジュクゲットーの闘いで、赤く塗装したKMFのグラスゴーに乗り謎の声に従いながら、ブリタニア軍を圧倒していた。
「あの声……何者?それに…」
ブリタニア軍を逆に追い詰めていたが、突如としてそれが逆転した。味方の情報とそして実際に目視した状況から、たった1機の白いKMFによって。旧型のグラスゴーとはいえフルスロットルの加速からの右アームの突きを防ぎ、さらに至近距離からのワイヤー式アンカーのスラッシュハーケンを受け止められた。完全なパワーに押し負け緊急脱出させられた。
白いKMFからは旨く逃げられたが、着地した場所が悪くすぐにブリタニア軍のKMFに見つかってしまった。KMFについている情報収集用のファクトスフィアは、熱源感知ができるもので一度見つかってしまったら、人間対KMFではKMFの入り込めない路地や、地下へ逃げない限り逃げるのは難しい。路地や建物の影を使い逃げてはいたが何度目かに入った路地裏で背後に銃撃音を耳にして、気がついたらこの部屋にいた。気を失う直前に誰かいたような気がしたが、ごっそりそこだけ記憶がぼやけてしまっている。
コンコンコン
この部屋のドアへのノック音に、今までの思考を一時停止させて穏やかな状態へと自らの心と表情を戻す。返事をする前にシューっとドアがスライドする音と共に、室内に入ってくる足音が一人。入り口から寝ている患者の姿を見せないようにするための仕切りのため、今ベットに寝ている彼女から…そして今入ってきた人物からもお互いの姿は見えない。ベットのすぐ右に水差しとコップの置かれた台が備えられており、その上には彼女愛用の携帯用ピンクのポーチが置かれており、それを素早く手に取りベットの中に忍ばせた。なぜそのポーチが台の上に置かれていたのか、彼女は考える事をせず今入ってきた人物へ警戒を強めた。
「はぁ~い♪」
死角から出てきたのは、ふわりとウェーブのかかった金髪の女性。来ているのはベットで寝ている彼女が良く知る制服、アッシュフォード学園の…。
「はじめまして、カレン・シュタットフェルトさん。私はアッシュフォード学園生徒会会長の、ミレイ・アッシュフォードよ。よろしくね♪」
ミレイは彼女の名前を告げた時に、一瞬だけ表情を硬直させた事に気づいたが自分は笑顔を変えない。視界の端で備え付けの台の上から、彼女の愛用のポーチがなくなっている事を確認しつつ、窓際に置かれている簡易のパイプ椅子へと腰をおろした。
「あ、あの…」
アッシュフォード学園と口にした瞬間、カレンは学校では病弱という設定にしているため大人し目の表情と声色で、少し驚いた感じを表すように口を開いた。
「ふふ、どうしてここにいるか気になる?」
含みを持たせた笑みにカレンは、心にいらつきを覚えるもなんとか自分を落ち着かせようと右手に持つポーチを握る力を強めた。
「えっと…どうして私は…」
「どうしてって…、それは自分が一番わかってるでしょ?それにピンクの愛用のポーチって、そんな風に扱うのね」
その言葉をミレイが発したのと同時に、カレンは素早く布団は剥ぎ状態を起こし右手のポーチから伸びた刃をミレイに突き出す。
「!?」
「ざーんねん♪」
喉元へ脅しのつもりで突き出した刃は、喉へ届く前にミレイの右手人差し指と中指の間で挟み止められた。カレンが押しても引いても少ししか動かないミレイの手とポーチに、あきらめたのかカレンは手を離し無抵抗という事をアピールするようにベットへ横になった。
「それで?あたしをどうしようっていうの?」
先ほどまでの弱弱しい口調から一変し、敵意むき出しの口調と視線にミレイは少しだけ口の端をあげて刃をしまったポーチを、カレンの胸の辺りに投げ返した。悔しさなのか一瞬だけ舌打ちしつつもポーチには手を伸ばしはしなかった。
「どうもこうもしないわよ。ただ、あの時あなたを助けたって事でなんとなく察して欲しいだけ」
「あの時…って」
「そうよ。だからあなたの敵じゃないって認めてもらえない?」
「ふ、ふん。どうだか…そう言って仲間の場所を調べようとしたってあたしは」
「あ~はいはい。とりあえずあなたの家には、あたしの家に泊まってるって言っておいたから」
「え?」
「とりあえずこの制服に着替えて、学校に行きましょ♪」
「え?ええ!!」
どこから持ってきたのか、はたまた出したのかカレンの上にはアッシュフォード学園の制服が投げられた。少し悩んだがカレンはその制服を着ることにした。驚くことに自分の持っている物と同じでぴったりであった。
「この制服…」
「ああ、それはあたしの目算で手配したの」
「な…」
「その患者衣に着替えさせたのあたしだから♪」
顔を赤くさせ口をパクパクさせたカレンの手を握り、そのまま病室の入り口へとひっぱっていく。病室の外には中年のメガネを掛けた男性がミレイに頭を下げてたっていた。
「いつも無茶言ってごめんなさい」
ミレイは申し分けなさそうに頭を下げた。それに慌てた男性は頭を上げるようミレイに言った。
「ミレイ様、ルーベン様を始めアッシュフォード様にはいつもお世話になっております。私の今があるのはアッシュフォード様のおかけでございます。ですから少しばかり恩を返せるのであれば、このくらいお安い御用です
」
「ありがとう♪おじいちゃんにも言っておくわ。それと入院費として少し多めにあなたに振り込んで置いたから、そちらから入院費を差っぴいてちょうだい」
「かしこまりました。重ね重ねありがとうございます」
「それじゃ」
そのやりとりに少し唖然としてしまったが、金にモノを言わせたやり方に嫌悪を抱いたカレンだが、助けられた手前乱雑にする事もできずただミレイの後についていく。
病院の1階の入り口には、待ってましたと言わんばかりの高級車と後部座席のドアの前にメイド服を着た女性が立っていた。
「おまたせ~♪」
ミレイが軽く手を上げると、女性は頭をさげ後部座席のドアを開けた。最初にミレイ、その後に続くようにカレンが乗った。まもなく女性が後部座席のドアをしめ運転席へと乗り込むと、すぐ様車を発進させた。
車にのって10分。たいした事ない時間だが車内は未だ沈黙のままであった。病室での事があるためカレンはうかつに口を割らない。ミレイの様子を伺うカレンだが、ミレイは相変わらず窓の外を眺めたりたまに視線を絡めると笑みを返してくる、まさに行動が読めない女。
「あの」
それに耐えられなくなったカレンが、先に口を開いた。
「あなたの目的はなに?」
病室と同じように鋭い視線で、隣に座るミレイを見た。運転席の方からチリチリと視線を感じるも、そのままミレイを見続けた。
「知りたいの?」
先ほどまでと同じ軽く含みを持たせた口調。だがカレンを見る表情はにやりとした表情と言うより、映画の悪役が浮かべるような身震いするような表情。その表情に一瞬カレンは呑まれた。だがそれも一瞬で今は先ほどの病室と同じ表情を浮かべたミレイの顔がそこにあった。
「あなた達のようにブリタニアに、憎しみがあるとかじゃない。ただ…大切な人と一緒にいたいだけ…。ただそれだけの事。だけど大切な人を奪うのならば、その前に私が奪いに来るやつらを消すだけ」
そういったミレイの視線は、車の外へと向けられた。カレンは気づかない…ミレイの視線の先にはエリア11の政庁があるという事を…。
「と、いうわけであなた今日から生徒会メンバーです♪」
「は?」
「おじいちゃんからも、頼まれてるしね~」
「えええええええ」
後部座席のやり取りを聞き、運転席にいる咲世子は「ふふ」と笑みを浮かべアッシュフォード学園へと車を急がせた。
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アニメを元にしたIF話です。
時期的には2話と3話の間な感じです。
目と足の不自由から克服したナナリーと、ルルーシュを想うミレイの話です。