No.172466

真・恋姫無双~君を忘れない~ 七話

マスターさん

第七話の投稿です。
今回から旅が始まります。温かい目で見守ってください。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2010-09-14 19:00:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17823   閲覧ユーザー数:14388

一刀視点

 

 桔梗さんたちの旅が始まった。この旅は、まず漢中まで出るらしい、そこからさらに北上して、涼州を目指すそうだ。漢中を抜けるまでの山中の道なき道を苦戦すること、一週間、ようやく山を抜け、平野に出ることが出来た。

 

 桔梗さんはよく旅に出るため、近くの村に馬を数頭保管してもらっているらしく、馬を引きながら現れた。

 

「北郷。この旅は、ここからが本番だ。お主が何を見て、そして何を思うのか、楽しみにしておるぞ」

 

 ニヤニヤしながら馬を一頭渡してくれた。

 

「え……、あ、あの桔梗さん?お、俺、馬なんて乗ったことないんですけど……」

 

 もちろん、東京生まれ、東京育ちの根っからの都会っ子に、馬に乗った経験などなく、ものすごく嫌な顔をされながら、焔耶の後ろに乗せてもらっている。

 

「はぁ……。全く、馬にも乗ったことがないとはの。」

 

 焔耶と俺の乗る馬と並走している桔梗さんが、呆れながら溜息交じりにそう言った。

 

 いや返す言葉もないんですけど、普通の一般人は乗れませんよ、俺の世界では。桔梗さんと焔耶からのいじめに黙って耐えていると、やや距離の離れた場所から轟音が聞こえた。

 

 まるで、爆弾が何かが爆発したような音だった。しかし、この世界にそのようなものが存在しているわけなく、桔梗さんと焔耶が、顔つきを変えながら、周囲を警戒し始めた。

 

「それ程、距離は離れていません。様子を見に行きますか?」

 

「うむ」

 

 二人は馬を方向転換させると、いきなりスピードを上げて、音が聞こえた方へ駆け始めた。

 

「ちょっ!?急にスピードを上げたら!!」

 

「しっかり掴まってろ。それと話すと舌を噛むぞ!」

 

「そんなこと言っ……っ!」

 

 焔耶の言うとおり、ばっちり舌を噛んだ俺は、黙って焔耶の身体にしがみ付くことに専念した。

 

 轟音はどんどん近くなっていった。もう目の前に迫っているようだ。ちょうど切り立った崖の上に出たところで、轟音の正体は判明した。

 

 目の前には人の群れがいた。地面を覆い尽くさんがばかりの人の群れが。距離はある程度離れていたが、そいつらは全員が黄色の布を頭に被っていた。

 

「奴らだな」

 

 桔梗さんが腕を組みながら、そいつらについて語り始めた。そいつらこそ、俺に見せたかったものの一つらしい。

 

 黄巾党。三国志好きの俺が知らないワードではない。三国志における、諸侯の群雄割拠の引き金になった事件だ。数万の黄巾賊が目の前で大地の上で蠢いていた。

 

 しかし、俺を驚かしたのは、本物の黄巾賊ではなかった。黄巾賊は何かから逃げていた。隊列も乱れに乱れ、必死な形相で何かから逃亡していた。

 

 相手はどこかの州の軍勢ではなかった。たった一人の女の子だった。轟音の正体はその子が繰り出す攻撃が、まるでアニメの世界のように、大地を抉り、賊たちを吹き飛ばしていた。

 

「ほう……。焔耶、あやつ、誰だか見えるか?」

 

「はっ。深紅の旗に呂。呂布です!」

 

「!?」

 

 焔耶の言葉に俺は驚きを隠すことが出来なかった。目の前で、黄巾賊を単騎で一方的に吹き飛ばしているのは、三国志において最強の名をほしいままにした、呂布であった。

 

 

「ふむ、そうか。では、挨拶に行くとしよう」

 

 そう言って、馬を駆けさせる桔梗さんと、それを追う焔耶。待った!挨拶に行くって、相手はあの呂布なんだ!いくら桔梗さんと焔耶が強いからって、勝てるとは限らない。

 

 そんなことを思っている内に、あっという間に呂布のところに辿りついてしまった。俺の想像とは異なり、呂布は物静かそうな女の子だった。しかし、その可愛らしい顔とは裏腹に、その身体には至る所に返り血が付着していた。それが不気味さを一層際立たせた。

 

「……………」

 

 呂布は無言のまま、こちらを見つめていた。その表情から、彼女が何を考えているかは予想できなかった。桔梗さんと焔耶は無言のまま馬から降りた。不穏な雰囲気のまま、二人は呂布に近づいていった。

 

 やばい!やばすぎるだろ!この状況は!!

 

「恋!久しぶりだの!!」

 

「へ……?」

 

 俺の心配を無視するかのように、桔梗さんは呂布の肩をがっしりと掴んだ。その顔には笑顔が溢れていた。

 

「ん?どうした北郷?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして?」

 

「桔梗様、こいつのアホ面は今に始まったことではありません」

 

「ちょっ!ひどすぎ!」

 

 そんな軽口を叩き合っていると、呂布が不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んできた。

 

「北郷、こやつは呂奉先。儂らの友人だ。心配せんでも良い」

 

 なるほど、心配して損した。それで、彼女が黄巾賊と戦っているのを見て、あいさつに行くと言ったのか。俺はホッと胸を撫で下ろした。

 

「呂布様、お初にお目にかかります。益州が永安の太守、黄忠の従者をしております、北郷一刀と申します。今後ともよろしくお願い致します」

 

 呂布にしっかり挨拶をした。俺は紫苑さんの従者である以上、他国の武将に失礼がないように振舞うのは当然の事である。

 

「……………??」

 

 しかし、相手の呂布はと言うと、思いっきり首を傾げて、こちらの言っていることを理解していないという表情をしている。

 

「はっはっはっは……。北郷よ、恋にそのような言葉遣いをしても無用じゃよ。難しすぎて理解できんだろう。恋、こいつは北郷一刀といってな、儂らの友達だ」

 

「……………一刀」

 

 初めて呂布が話した。その声はあまり感情が籠っておらず、相変わらず何を考えているかわからなかった。

 

 しかし、呂布はさらに俺に近づいて、俺の胸のあたりに顔を埋めるような格好で、俺の匂いを嗅いだ。

 

「スンスン……………良い匂い」

 

 そう呟くと、そのまま俺の肩に頭を預けた。

 

「……………疲れた」

 

 そのまま瞳を閉じて、黙ってしまった。え?何?どうしちゃったの?てか、そんな所で寝ようとしてないよね?寝息が聞こえるのは気のせいですよね?

 

「ほう。恋が懐きおったか。珍しいこともあるもんじゃな」

 

 いや、桔梗さん、何とかしてくださいよ。この状況をどう打開したら良いんですか!?

 

「……………ちんきゅー」

 

 ん?何だ、どこからか声が聞こえる。そして、何だ、この地響きは?さっきの賊が戻ってきたのか?

 

「キーーーーーーーーーック!!!!!」

 

「ぐほぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 世界が回った。正体不明な物体が俺の後頭部に直撃して、俺は空中で見事な五回転半をきめて、現在は空を見つめているというわけだ。そのまま、瞳を閉じて、意識を闇に預けるとしよう。さらばだ。

 

桔梗視点

 

 北郷は音々音……恋専属の軍師である陳宮の蹴りを受けて、意識を失ってしまった。相変わらず、一つ一つの行動がおもしろい男よ。あの、なかなか心を開こうとしない恋を、一目会っただけで、手懐けてしまうとはの。

 

 儂は北郷のどこか不思議な魅力がおもしろくて堪らんかった。儂の興味をここまで強く惹く男なんて、何年振りだろう。

 

「ねね……………一刀は良い人。だから暴力は、め」

 

「あいた」

 

 恋はねねの頭をポカリと軽く叩いて叱っていた。この二人の組み合わせもおもしろいのぅ。

 

 そこで改めて、音々音に北郷の事を紹介してやった。そして、恋が北郷のことを気に入ってしまったことも。

 

「なんと!恋殿、いけませんぞ!こんな素姓の知れないものと仲良くするなんて!」

 

「一刀、良い匂いする。……………だから良い人」

 

「恋殿ぉぉぉぉぉぉ!」

 

 二人の掛け合いに笑いを堪えるのに必死にしている焔耶に、北郷の事を頼むと、儂は恋を呼んだ。

 

「恋、ちょうど良い。儂らは月殿のところへ参ろうとしておったのだ。お主たちも同行せよ。そちらの方が都合が良い」

 

「……………(コクン)」

 

 そのまま儂らは恋たちと共に月殿の居城まで目指すことにした。北郷は相変わらず気絶しておるから、馬にでも括りつけてしまえば、何の問題もないだろう。

 

「恋、やはり賊徒の数は増えているのか?」

 

「……………(コクン)」

 

「最近では、涼州の方にも頻繁に出現して、我々も休む暇もないのです」

 

 道中、儂は恋と音々音に最近の事情を尋ねてみた。以前にも増して、賊徒の数は増えているようだ。月殿は優秀な君主だから、彼女が治める領内では賊が出現することすら、珍しいというものを。これは、ますます事態は悪化しているようじゃの。

 

 先ほど、恋が壊滅させた賊の一団も三万はくだらなかった。恋が一人で奴らを駆逐したのも驚きだが、奴らは今や、統率された立派な軍勢。前までの烏合の集ではない。

 

 しっかり調練された州の軍隊ならまだしも、ろくに調練されていない、官軍の弱兵が敗れたのも頷けるわ。

 

 いよいよ、漢王朝はその命脈を途絶えさせようとしている。こんなこと口に出したら、紫苑の奴から叱られそうだが、あやつも心の中ではそう思っているに違いない。

 

 乱世。儂の待ち望んだ時代が幕を開くというわけだ。このまま悠然と何もせずに、黙って見ていられるはずがない。北郷よ、お主には期待しておるぞ。何かの証拠があるわけではないが、お主ならきっと儂が思うとおりの男であるはずだ。

 

一刀視点

 

 気が付くと、すでに夜になっていた。桔梗さんから俺の意識を奪ったのが、呂布さんの専属の軍師である、陳宮だということも聞いた。

 

「ねねの名は陳宮。恋殿の命令なので、仕方なくよろしくしてやるです」

 

 見た目は可愛い少女であったが、態度は傲慢無礼で、握手しようと差し出した俺の手を、パシッと弾いた。

 

「北郷一刀!これだけは忠告しておくです!今度、また恋殿に近づいたら、ただでは済まさないです!」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、猛然と呂布さんの所へと走り去ってしまった。いや、さっきも俺が呂布さんに近づいたわけではないのだけど……。

 

 すでに日も落ち、今日はその場で野宿することに決めたそうだ。また、近くに天然の温泉が湧いていると桔梗さんから聞き、皆の目を盗んで、一人で温泉に浸かりに向かった。

 

「ふぅーーーーーーー」

 

 温泉は少し熱めだったが、疲れた身体を癒すのには十分だった。この世界に来てから、風呂には毎日入れるわけではなく、旅に出てからは川で身体を洗う程度しか出来なかったから、今はまさに極楽だった。

 

 かなりの広さの温泉だった。この時代に温泉なんか存在しているのか、と突っ込みたいところだけど、今は純粋にこの極楽を楽しもうと、肩までしっかりお湯に浸かる。

 

「む?北郷か、どこに行っているのかと思ったら、儂らより先に温泉に行っておるとは、食えぬ男よ」

 

 後ろの茂みから物音とともに声をかけたのは桔梗さんだった。いつものニヤニヤ笑いを浮かべているが、少し視線を下げると、一糸纏わぬ肢体が目に映った。

 

「なっ………!?」

 

 あまりの驚きに声を失ってしまった。普段は古めかしい言葉遣いをしているものの、その身体に老いは一切見られず、逆に完熟した果実のような、甘い色気を濃厚に漂わせていた。細い肢体でとりわけ目立ったのが、紫苑さんに負けず劣らずの立派すぎる胸。そして、片手には大きな酒瓶を持っていて、すでに結構な量を飲んでいるのだろう、顔をほんのり朱に染まっていて、それがまた色気を引き出していた。

 

「何を、冷静に解説しておるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぶふぅぅ!!」

 

 後頭部を殴打され、顔面を水面に叩きつけてしまう。視線をそっちに向けると、焔耶の姿が映った。

 

 焔耶はタオルを身体に巻いていた。しかし、すでにお湯に浸かったのであろう、タオルは身体のラインにぴったりくっついていて、それが逆にセクシーであった。普段はボーイッシュに振舞っているものの、その体つきは紛れもなく女性のもの。胸もかなりのボリュームだし、桔梗さんを完熟した果実と例えるなら、焔耶は採れたての新鮮な果実だった。

 

「ヒィッ!」

 

 何て心の中で、解説をしていると、無言のまま鈍砕骨を片手に構えていた。桔梗さんの事といい、こいつは俺の心が読めるのか!?

 

「まぁまぁ、焔耶よ。そこら辺にしてやれ。北郷に儂らの裸を見て、興奮するなと言うのが無理というものじゃ。それよりもお主………」

 

 桔梗さんもお湯の中に入ってきて、焔耶の肩に自分の腕を重ねた。そのまま、焔耶の身体を値踏みするかのように見た。

 

「ふむ……また成長したのぅ」

 

 何を思ったのか、桔梗さんは焔耶の胸を鷲掴みにして揉み始めた。

 

「ちょっ!桔梗様………ひゃぁ!……何……を……なさるんです……っか!?………そこは!………ダメェ!」

 

 

 俺はそこから早々に立ち去ることを決めた。これ以上あの光景を見続けようものなら、俺の理性という名の最後の砦は、音を立てて崩れたであろう。

 

 二人から少し離れたところに、改めて座りなおし、お湯の心地よさを楽しもうとした。

 

「……………一刀」

 

 はい無理でした。いつ、どこから来たのでしょう?いつの間にか、俺の背後に呂布さんが立っていた。

 

「えと……呂布さん?何かご用で……」

 

「……………恋」

 

「え?でもそれは真名じゃ……よろしいのですか?」

 

「……………(コクン)」

 

「それでは、遠慮なく恋さんと呼ばせていただきます」

 

「……………(コクン)」

 

 そのまま俺の側にちょこんと座り込んでしまった。彼女は胸の大きさだけでいえば、桔梗さんや焔耶に劣っているものの、あの轟音を巻き起こすだけの攻撃を放てる腕を持ちながら、身体は意外にも細かった。しかも、俺に寄り添っているため、腕に彼女の胸の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。桔梗さんと焔耶が視覚を攻めるなら、恋さんは触覚を攻めるようだ。

 

 恋さんは顔に付着していた、先ほどの戦闘での返り血を湯に浸したタオルで拭い去った。そこで、俺は彼女に、会ったときから聞きたかった質問をした。

 

「恋さんはどうして戦うんですか?」

 

「……………??」

 

 俺の質問の意味がわからないかのような表情をしながら首を傾げる。先ほどの戦いを遠目で見て、改めて戦いが嫌いであることを認識した。嫌いというか、怖いだけなんだろうけど。焔耶との試合でも、守るときは平気だったが、攻める瞬間に、心の中で嫌悪感や恐怖心が湧きあがってきた。

 

「俺は戦うのが怖いんです。相手を傷つけるのが怖い。恋さんは、さっき何万という大軍とたった一人で向き合って怖くなかったのですか?」

 

 桔梗さんや焔耶にこんなことを聞いたら、おそらく笑われるんだろうな。彼女たちは本物の武士だ。戦う事に恐怖心なんて抱くはずがない。恋さんはどうなんだろう?何の感情も映さないこの瞳は、戦闘中、何を映しているんだろう?

 

「恋は月のために戦う………戦うのは怖いかもしれないけど、月が傷つくのはもっと怖い……………傷つけられる前に殺すだけ」

 

 無表情のまま、何の感情も籠らない声で、そう言った恋さん。自分の大切なもののために戦うか。それも一つの真理であることはわかっていた。俺の命の恩人たる、紫苑さんや璃々ちゃんのためなら、どんなことも厭わないと思っている。しかし、理解と納得は別の問題だった。

 

「でも……………一刀は戦わなくて良い」

 

「え?どうしてですか?」

 

「……………恋が守るから」

 

 そう言って顔を俺の肩に埋める恋さん。やべぇ、めっちゃ可愛いと思ってしまった。このまま、肩でも抱いてしまえば、ものすごく良い雰囲気になるのではないか。

 

「ちんきゅうキーーーーーーーーック!!!!!」

 

「ごばぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 あぁ、そう言えばさっき、今度恋さんに近づいたらただじゃ済まないと言われたばっかりだな。まぁ、今回も俺から近づいたわけではないが、やましい気持ちはあったから、この痛みも受け入れることにしよう。そのまま、俺は頭から血がお湯に流れる感覚を覚えながら、皆より早く睡眠をとることにした。

 

あとがき

 

第七話の投稿でした。

 

なんかいろいろすいません。今回は勢いだけで書いてしまいました。

 

それでも、桔梗さんの思惑、恋の戦いへの思いなど、書きたかったものは入れました。

 

温泉とかは全部勢いです(汗)

 

本当はシリアスな話にしようとも思ったのですが、

 

シリアス一辺倒だと面白みに欠けるかなと思いました。

 

前回の紫苑さんとの話はシリアスな部類に入ると思ったので、今回は勢いを大事にしました。

 

はい、すいませんでした><

 

次回はちゃんとやります。

 

そして、今回のお話ですが、またまたオリジナル設定で、桔梗や焔耶は月たちと知り合いという設定です。

 

桔梗たちはよく旅に出ているので、そこで月たちとも知り合ったという設定でお願いします。

 

実際、桔梗と霞はものすごい気が合いそうだし。

 

はい、言い訳すんません。

 

次回は、月たちの元に参ります。

 

彼女と出会い、一刀は何を思うのか?

 

一人でもおもしろいと思ってくれたら、嬉しいです。


 
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