No.171989

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 12:理想と実利 狭間の思惑

makimuraさん

槇村です。御機嫌如何。


これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。

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2010-09-12 12:27:17 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5730   閲覧ユーザー数:4695

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

12:理想と実利 狭間の思惑

 

 

 

 

 

劉備たち義勇軍が、公孫軍の下に参入した。彼女たちはしばらく、遼西郡陽楽を拠点として活動することになる。

公孫瓉としても、力のある者が増えることは渡りに船。現状では人手が多くて困ることはない。

 

実際に公孫瓉が治めている地域は、なにかの際には公孫軍が出張ってみせる。または各地域に自警団を結成させ、防衛策を指南する。

そこがいい具合に収まってくると、そこよりももう一回り外側で騒動が起こる。またそこにも出向いて行き、鎮圧した後に防衛策を取る。

問題に対して着実に対処して行く、そんな公孫瓉の治世は一帯で噂になっていた。

 

当面の脅威を凌いだ村の噂を、もう少し遠い村が聞く。そこにまた匪賊の類が出没する。

公孫軍がやって来て匪賊を鎮圧し、あの噂は本当だったんだと村人が感謝する。

それがまた噂になり、もう少し遠い村がそれを聞きつける……。

 

それを繰り返されていくうちに、公孫軍の評判と、遼西郡の治まり具合が、外へ外へと伝わって行く。

風評は根付いて行き、公孫瓉様に守ってもらいたい、といった村や集落が増えて行った。

 

公孫瓉としても、そういって慕ってくれるのは嬉しいことなのだが。実際には、そうそう遠くの村々にまで手を回すことが出来ない。

よって目の届かないところには、周辺の他郡や県とやり取りを繰り返し、人々の平穏を少しでも守れるようにあれこれと心を砕いて行く。

そんな太守の民を思う心に、民草は感謝の念を送る。各地方に出向く公孫軍は、多く歓迎をもって受け入れられていた。

 

だが。

方々に出征する公孫軍の中で、受け入れられ方が少しばかり異なる部隊があった。

劉備率いる一行である。

 

匪賊は鎮圧できた、

当面は安心だろう、

でもあなたたち以外にも苦しんでいる人たちがたくさんいる、

そんな人たちのために私たちは頑張らなきゃいけない、

みんなが力を合わせれば平和な世界が出来るはずだ、

でもまだ力が足りない、

だから力を貸して欲しい。

 

彼女は争いのない世界を夢見て、民と同じ目線に立ち語りかける。

関羽や張飛といった突出した武勇の持ち主を擁しながら、理想の世界を説く劉備。

不思議と惹きつけられる存在感と親しみ易さもあって、彼女の言葉に、今以上の豊かな暮らしを夢想する人たちが多く現れる。

民草の目に、太守の苦労など映るわけもない。それはそれで仕方のないことでもあるし、当然のことでもある。

それゆえに。

今以上の暮らしが得られるのならば従ってもいい、そう思い劉備になびいていく者が後を絶たなかった。

どうやってそれを成すのか。具体的な方法に想像を働かせないままに。

民たちの暮らしの現状を考えれば、それも仕方のないことではあるし、理解出来ることでもあった。

 

 

「進言したいことがありましゅ」

 

鳳灯が努めて静かに、それでも少し噛んでしまいながら、公孫瓉に上申する。

 

「どうした、改まって」

「劉備しゃんたちのことです」

 

自分が噛んでしまっても流されていることに気づき、顔を赤くしながら数回深呼吸。

目を瞑り大きく息を吐いて。

改めて鳳灯は口を開いた。

 

「劉備さんたちの処遇について、進言したいことがあります」

「ん、聞こう」

 

曰く。陽楽を始め遼西郡における彼女たちの影響力を考えて、遠くないうちに公孫軍から離れてもらうべきだ、とのこと。

 

「劉備さんが掲げる理想は、聞く者にとって心地いい響きを持っています。彼女たちの甘い言葉が、これ以上、民の間に浸透するのは危険です。その言葉にほだされた民の心が、公孫瓉様から離れる恐れがあります。

この遼西郡で執られている内政は、しっかり根付いて初めて結果が現れるものです。せっかく形になりかけているところを、具体的な形が見えない理想論に掻き乱されては堪りません。これまで頑張ってきた、文官内政官たち皆さんの努力を無にすることに等しいといえます」

 

鳳灯も、劉備の理想が分からないわけではない。

むしろ、かつてはその理想を共に追いかけ、実現させるべく尽力していたのだ。そしてその実現は不可能ではないことも分かっている。

それでも、今、この遼西郡の安定を考えるならば。彼女たちの理想論は要らぬ不和を生みかねない。

同じ"平穏"を求めていながら、片方の理想のために、もう片方の程よく治まっている現実を乱されるのはどこか違うと考える。

 

「今しっかりと受け止めている民の生活を、保証も定かでない理想を手に入れるための担保にさせるわけにはいきません」

 

不満があるならまだしも、公孫瓉の治める遼西郡に住む民からは大きな不平不満は起きていない。

もちろん、太守という地位よりも上、州を治める刺史であるとか、更にその上に対してであるとか、それらに対しての不満はあろう。

とはいえ、いわゆる朝廷からの様々な要求を、なんとか誤魔化しながら遣り繰りしているのが現状なのだ。むしろ公孫瓉たちが不満を持っているくらいだ。その分、民に直接かかる負担は極力減らせているという自負がある。

 

「桃香たちの、救国の志はよく分かるんだけどな」

 

私だって、それがないわけじゃないしな。

公孫瓉は溜息をつく。

それは、遠く理想を見て止まない劉備に対してか。それとも、目の前の現実にあくせく対処しているに過ぎない自らに対してか。

 

「公孫瓉さまは、民のことをよく考えて、治世を行われています。

なにをもって立つのか、その違いです。どちらの方が優れている、ということではありません」

 

鳳灯のそんな庇うような言葉を聞き、公孫瓉が苦笑する。ありがとう、と、礼を述べながら。

 

「地位なんていらない、と、理想をいうのは構わないんだが。その地位を持つ友人を目の前にしていうことじゃないよなぁ」

 

私が地位に感けて民をないがしろにしているみたいじゃないか。

公孫瓉は、友人の言葉を思い出して笑い飛ばす。やや顔を引き攣らせながら。

ちなみに。友人と再会した場のすぐ後に、彼女が少しばかり落ち込んでいたのは誰にも内緒だ。

悪気がなければなにをいってもいい、というわけではない。そのいい例だろう。

趙雲と鳳灯はそれを察していたが、わざわざ触れることでもないので黙ったままである。

 

「確かに、鳳灯のいう通りだな。自分たちの中に、勢力を分裂させかねないモノを置いておくのはよくない」

 

いい機会だから、独立を促してみよう。

その言葉で、ひとまず劉備たちのことは置いておき。

文官武官問わず集められた会議の内容はより重要な用件、漢王朝からの"地方反乱鎮圧の命"について移って行く。

 

 

 

遼西郡から遠く離れた地方で起きた、民の武装蜂起。民間宗教の祖が世を憂い、悪政を働く太守に対して暴動を起こす。

いい方は悪いが、この時代においてはよく聞く話のひとつだった。しかし、今回はやや結果が異なった。

鎮圧のために派遣された官軍が、暴徒の手によって全滅させられたのだ。

これに朝廷の面々は当惑し、やがて恐慌する。暴徒のその勢いは次々と周囲に飛び火し、多くの町や村を巻き込みながら広がって行った。

後に黄巾党と呼ばれる一大勢力。その勢いはとどまることなく、大陸の三分の一までを呑み込まんとしていた。

手に負えないと慌てふためく朝廷は、それら暴徒の鎮圧を地方軍閥に命じた。つまりは押し付けたのである。

もはや漢王朝に、世を統べる力なし。

その事実を、周知のものとするに足る行い。刺史、太守、尉といった役人はおろか、ただの民草にさえも、朝廷の衰弱振りを知らしめるに充分だった。

 

そして、世に己の勇名を轟かさんと考えるものにとって、これほど都合のいいこともなかった。

 

 

遼西郡を治める面々の間でそんな会議が行われていたことは、もちろん劉備一行はまったく知らない。

そして採られた、穏やかに独立を促して遼西郡から離れてもらおう、という決定は、公孫瓉の口から何気ない会話の中で劉備に伝えられる。

 

「桃香、これは好機だと思わないか?」

 

より多く広く民を救って行くためにも、ここで手柄を立てて、地位と拠点を手に入れろ、と。

劉備の心根を理解した上での、好意からの思いが大半を占めている。しかし同時に、太守としての思惑も混じる。

それを自覚しながら、公孫瓉は言葉をつむぐ。出来る限りの笑顔を浮かべながら。

 

 

 

それから数日の後。劉備たち義勇軍は公孫瓉の下を後にした。

劉備たちが遼西郡に腰を据えていたのは、僅か数ヶ月。

志は同じにしながらも、彼女たちはその思惑の違いによって異なる道を歩むことになる。

 

遼西郡を離れるにあたり、劉備たちは手勢を集める許可をもらっている。

繰り返された賊の征伐ごとに成された勇名、合わせて説き続けた理想。それらに惹かれ集まった義勇兵は、およそ二千。

二千も連れて行かれたというべきか、二千で済んだというべきか。

判断は難しいところだが、友人の門出だ、と割り切ることで、公孫瓉は複雑な心中を切り替えた。

 

ちなみに。劉備たちはこの地を離れるにあたって、趙雲に対して引抜を行っている。

生憎まだ公孫瓉の下を離れるつもりはない、と、趙雲はやんわりと断っていた。

それを耳にした公孫瓉は、心の底から安堵したという。

 

 

・あとがき

原作にない部分を書くのは楽しいなぁ。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

ゲームにもありました、蜀ルートで、白蓮が桃香の独立を促す場面。

一刀がモノローグでいっていた通り、彼女なりに思惑もあっただろうな、と。

で、その裏側に触れてみたいと思ったのさ。

 

ゲームと同じ台詞や場面なら、わざわざ書かなくてもいいだろう。

そんなことを考えていた。

おかげでやっぱり進展が遅い。これはもう槇村のクセだと思って諦めてもらうしかないかもしれない。

 

 

 

・追記

11話のタイトルに王冠が付いてますよ?

 

……ゑ? という漢字でした。

えぇ、思わず誤字をそのままにしてしまうくらいびっくりしました。

ランキング30位以内に入ると、王冠が付くらしいですね。へー。

 

 

 

 

なんといいますか。皆様ありがとうございます。

 

そんな記念すべきお話の後なのに、これまた地味でしかも短いよ。

ダメだな、ダメだよお前分かってないよ、ここぞとばかりにもっと皆さんの心をキャッチユーするような話にしないとダメだろ。

 

でもやり直したりしないけどな!

エンタメ性に欠ける書き手ですが、よろしければお付き合いいただけると幸いです。はい。

 


 
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