No.171793

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第三十九話

狭乃 狼さん

刀香譚、三十九話です。

益州への侵攻をついに開始した一刀達。

その前に立ちふさがるあの二人。

続きを表示

2010-09-11 16:26:26 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12716   閲覧ユーザー数:10688

 益州は巴郡を目指し、進軍する荊州軍。

 

 その先頭を進む孟達は、三日前に一刀から言われたことを思い出していた。

 

 『孟達さん。援軍の件は確かに承知しました』

 

 『本当ですか?あ、ありがとうございます!』

 

 『ですが、俺たちはそれだけで済ませる気はありません。……益州を、取らせて頂きます』

 

 『な!?』

 

 『益州の人たちが重税と労役で、疲弊しきっていることは、俺たちも独自に調べてわかっています。その原因が州牧である劉季玉殿にあるのなら、それを廃して新たな法と制度を、整備しなければいけません。……それを為すためには』

 

 『……益州そのものを、攻め取る必要がある、と』

 

 『……気づいていますか?貴女がここに来た時点で、既に”自分の国を売っている”ことに。他国の軍を自国に招きいれようとしている。それを決めた時点で、ね』

 

 孟達は二の句が告げなかった。

 

 おそらく厳顔はそこまで承知の上で、自分に荊州に行けと言ったのだろう。だが、自分はそこまで考えなかった。ただただ、厳顔と魏延を助けたい。それしか考えていなかった。

 

 (けど、それだけだったら、私はあの時点で、すぐにでも益州に戻る選択をしていただろう。それをしなかったのは、その後の一刀様の一言があったから)

 

 『けど、それに乗じて他国に攻め入ろうとする俺たちも、また大きな罪を背負うことになる。なら、その罪をどう償うか。答えは一つ。……民が笑って暮らせるようにする。たとえ、偽善だといわれても』

 

 その台詞を聞いて、孟達は恥も外聞もなく、その場で泣き崩れた。

 

 自分は今まで、どれほど甘い考えでいたのか。それを悟ったから。

 

 だから、一刀にはっきりと言った。

 

 『……私は、今日この時より、劉翔様の下に降ります!たとえ売国奴と罵られようとも、益州の民を救うため、私は、私の覚悟をみなに示します!私の真名は由にございます。何卒、お受け取りください!』

 

 涙を流しながら平伏する孟達を慰めつつ、一刀は孟達の真名を受け取り、また、自分たちの真名を孟達に許した。

 

 そして現在。孟達は張飛と共に、荊州軍の先鋒を務めていた。

 

 

 

 「由おねーちゃん。どーかしたのか?」

 

 物思いにふけり無言になっていた孟達に、張飛が声をかける。

 

 「……なんでもないわ、鈴々ちゃん。さ、そろそろ巴郡に入るわ。このあたりで一度、陣を敷いたほうがいいわ。一刀様にもそう伝えましょう」

 

 「わかったのだ!みんな!宿営の準備なのだ!」

 

 兵士達に指示を出す張飛。

 

 (……桔梗様、焔耶。もうすぐそちらに到着します。どうか、無事で)

 

 馬上から西のほうを見やる孟達。まもなく日が暮れようとしていた。

 

 

 「そうか。荊州軍が巴郡に入ったか」

 

 巴郡の街の太守の屋敷。主座の間に集まり、軍議を行う張翼、雷同、李厳。

 

 「数は約四万。先鋒は張飛。それと、……由や」

 

 「裏切り者が戻ってきたなう。しかも先鋒なう。……いい根性しているなう」

 

 怒気を隠そうともしない雷同。

 

 「早矢。由を裏切り者呼ばわりするんじゃない。……あたしらだって、似たようなものだ」

 

 雷同をそう言ってたしなめる、張翼。

 

 「……まあ、な。紅花さまを抑えられんと、梅花のええように動かされとんのやさかい」

 

 「けど、形式上は紅花さまのご命令になっているなう。従うのは当然なう」

 

 忌々しそうな李厳と、まったく無表情のままの雷同。

 

 「……ともかく、どう対応するか、だが。……戦力的にはまったくの互角。だが」

 

 「問題は武将やな。向こうはとんでもない化けもんばっかり揃うとる。劉北辰をはじめに、関雲長、張翼徳に、呂奉先、そして華雄」

 

 「特に劉北辰は軍略にも優れ、さらに補佐をする妹の劉備玄徳も、なかなかの用兵家と聞く。参謀にもかの徐庶元直と陳宮公台がおり、その脇を固める、か」

 

 「……勝てるなう?」

 

 「……自信はない。はっきり言ってな」

 

 『………』

 

 沈黙する三者。そこに。

 

 

 

 「なんじゃ。蜀の三羽烏といわれたおぬしらが、情けないことを言うとるの」

 

 「桔梗様」

 

 その場に姿を現したのは、後ろに魏延を伴った厳顔だった。

 

 「ここに来られたということは、ご協力してくださるなう?」

 

 「勘違いするでないぞ、早矢。わしは荊州攻めには決して協力せん。あくまでも、ここ巴郡の守りに手を貸すだけじゃ」

 

 ぎろ、と。雷同をにらみつける厳顔。

 

 「けど矛盾してませんか?由に荊州に行くように指示したのは、桔梗様やないですか。なのにここの守備に手を貸すなんて」

 

 李厳がそう問うと、

 

 「確かにそうじゃ。じゃが気が変わった。うわさの劉北辰とやら、わしのこの目で、見定めてみとうなった」

 

 「……では、もし桔梗様のお眼鏡にかなう人物であったら?」

 

 「そのときは、この巴郡を差し出し、その軍門に降る気じゃ」

 

 にやりと笑う厳顔。

 

 「公然と、裏切るといわれるので?」

 

 「蒔よ。ぬしもさっき言うたであろうが。裏切っているというなら、わしらも同じじゃと。……民を裏切っているという意味でな」

 

 『………』

 

 厳顔の言葉に、何も言い返せない張翼たち。

 

 「安心せい。別におぬしらにまで、降伏を強要したりせん。逃げるなり立ち向かうなり、好きにするといい。行くぞ、焔耶よ」

 

 「はい!」

 

 魏延を伴い、出て行こうとする厳顔。

 

 「ああ、そうじゃ。一つだけ言い忘れておった。……感謝するぞおぬしたち。わざわざ時間を稼いでくれたことを」

 

 「……何のことでしょうか」

 

 「うちの手違い。そんだけやで、桔梗様」

 

 「そういうことなう」

 

 厳顔の言葉にとぼける三人。

 

 「ふふ。まあ、そういうことにしておこう。……ではな。縁があればまた会おうぞ」

 

 

 

 そして、巴郡の街の東に位置する盆地にて。

 

 一刀達、荊州軍四万と、厳顔率いる巴郡の所属軍一万が、そこに対峙していた。

 

 「桔梗様、何のおつもりですか?」

 

 「由か。役目ご苦労だったな。じゃが、わしの気変わりにちっとばかり付き合ってもらうぞ。……劉北辰とやらはどこじゃ?」

 

 「……俺です。はじめまして、厳顔将軍」

 

 「ほほう。お主がか。……思っていたよりも童じゃな」

 

 一刀の顔を見て、そう感想を述べる厳顔。

 

 (あれが、劉翔殿……)

 

 「それで、その隣に居るのがおぬしの妹御か」

 

 「は、はい。劉備、字は玄徳です」

 

 (劉備様……。なんとお美しい……)

 

 厳顔が一刀達とやり取りをする中、一刀と劉備を見て顔を赤らめる魏延。

 

 「それにしても、話に聞く以上に、そっくりじゃな。……まさか、入れ替わってなんぞ居らんじゃろうな?」

 

 「……していないです。それで、わざわざ出迎えに来てくれたって言うわけでもないでしょう?……俺たちを防ぐつもりですか?」

 

 「そうなるかどうかは、これから次第じゃ。わしと、ここにいる焔耶、魏延とそれぞれ勝負してもらおう。一対一で、な。……ああ、後ろの兵たちはあくまでも見届け人。邪魔はけしてせぬ」

 

 ざ、と。一歩前に踏み出す、厳顔と魏延。

 

 「わしらが勝てば、ここから撤退してもらおう。そちらが勝てば」

 

 「……降ってくれますか?」

 

 「そのつもりじゃ。ただし、わしの相手は劉翔。おぬしがせい。それが唯一の条件じゃ」

 

 じゃき、と。自身の武器である豪天砲を一刀に向ける厳顔。

 

 「(……俺を量ろうとしてる、か)良いでしょう。お相手、させていただきます」

 

 すらり、と。靖王伝家を抜き放つ一刀。

 

 「ふふ。感謝するぞ、劉翔よ。で、焔耶の相手は誰がする?」

 

 「なら、鈴り「わたしがやろう」にゃ?」

 

 名乗りを上げようとした張飛を押しのけ、前に進み出てくる一人の女性。

 

 「……えっ……そ、蒼華?」

 

 「蒼華さん、その格好、何?」

 

 名乗りを上げたその女性、華雄の方を振り向いた一刀達は、その姿を見て、唖然とした。

 

 「ん?おかしいか?……亡き母上の形見の戦装束なんだが」

 

 華雄が着ていたもの。それは、純白の上着に、真紅の袴。そう、以前洛陽で謎の人物から受け取った、例の”巫女服”だった。

 

 「おかしいどころか、すごく似合ってる。うん。とっても綺麗だ」

 

 「そ、そうか?」

 

 「(む~~~)……それで戦えるの?蒼華さん」

 

 一刀にほめられ、照れる華雄をジト目で見ながらも、率直な疑問を口にする劉備。

 

 「それは心配ない。この服、見た目とは違って物凄く動きやすいんだ」

 

 そう言いながら、赤い紐をたすきがけに身につけていく華雄。

 

 「というわけで、お前の相手は私がしよう、魏延とやら。この華雄がな」

 

 金剛爆斧を構え、魏延に向ける華雄。

 

 「……上等だ。そんなふざけた格好をしたやつになんか、負けられるものか!」

 

 鈍砕骨を構える魏延。

 

 「みんな、決して手出しはしないでくれ」

 

 靖王伝家を正眼に構え、厳顔と向き合う一刀。

 

 「良い眼じゃ。楽しませてくれよ、劉北辰!では、いくぞ!」

 

 「劉北辰、推して参る!!」

 

 「来い!魏文長!我が戦斧を味わってみよ!」

 

 「おお!覚悟しろ、華雄!」

 

 一刀対厳顔。華雄対魏延。

 

 その凄絶な一騎打ちがの幕が上がった。

 

 

 

 <華雄対魏延>

 

 「ぬるいわ!!」

 

 ぐおん!!

 

 と、音を立てて迫る魏延の鈍砕骨を、紙一重でよける華雄。

 

 「くそ!ちょこまかと!」

 

 「振りが大きすぎる。その分隙が生まれやすい。こんな風にだ!」

 

 どがっ!

 

 「あぐっ!」

 

 再度振るった鈍砕骨を、またもやあっさりとかわされ、懐が大きく開いたその一瞬に、うちへと飛び込まれ、腹に一撃を受ける魏延。

 

 「足運びも無駄が多すぎる。もっと少ない歩数で動け。そして、その動きの基本は円!こうだ!」

 

 どががっっ!!

 

 「がっ!」

 

 ずざざざざっっっ!

 

 斧の柄で魏延を弾き飛ばす華雄。

 

 「……その素質だけを見れば、私なんかよりはるかに上だろうに。未熟にも程がある。よくもこれで武人を名乗れる」

 

 「く……そ……」

 

 戦いが始まって以降、巫女装束を着た華雄に、翻弄され続ける魏延。

 

 その攻撃は全くかすりもせず、白と赤に彩られた華雄の華麗な動きを、ただただ引き立てていただけだった。

 

 「……記憶を取り戻した記念にと、母の形見と判ったこれを着て”舞い”たかったんだが。……相手が不足すぎたか」

 

 「くそっ!言わせておけば!」

 

 再び武器を構える魏延。

 

 「その意気やよし。ならば、最高の技を持って、その意気に応えよう」

 

 スチャ、と。金剛爆斧を真っ直ぐに構える華雄。

 

 「一刀から授かった、我が究極の奥義。名を、『星砕きの神鎚』!」

 

 ドオーーーーーーン!!

 

 「ぐあああああっっっ!!」

 

 地に大穴が開き、大量の土砂と共に吹き飛ばされる魏延。

 

 「……威力は十分の一ほどに抑えてある。この程度で死ぬようならそれまでだが、さて」

 

 吹き飛ばされ、地に臥す魏延の傍に寄る華雄。すると、

 

 「う、うう、う……」

 

 「……生きていたか。ふふ。この先、鍛え甲斐がありそうなやつだ」

 

 笑顔で魏延を見つめる華雄であった。

 

 

 

 <一刀対厳顔>

 

 「単我流、二の太刀。疾風怒濤!チェストおおおおお!!!」

 

 どおおおおんんん!!!

 

 

 厳顔の正面から、正眼の構えで突撃し、その強力を振るう一刀。

 

 「くぅぅぅぅ!なんの、まだまだ!!」

 

 吹き飛ばされながらも、体勢を建て直して、再び豪天砲を構える厳顔。

 

 ドウッ!ドウッ!ドウッ!

 

 豪天砲から次々と放たれる、矢の嵐。

 

 「単我流、三の太刀。『電光石火』!!」

 

 飛来する矢と同数になった(実際にはそう見えるだけの)一刀が、次々と矢を叩き落していく。

 

 「おおおおおっっ!!」

 

 矢を撃ち終えた厳顔は、それと同時に一刀へ突っ込む。

 

 「くっ!」

 

 それを寸手でかわす一刀。

 

 「……さすがにやる。あの呂布と並ぶ、闘神の名は伊達ではないようじゃな」

 

 「お褒めに預かり恐縮です。……まだ続けますか?」

 

 「無論」

 

 再び豪天砲を構えなおす厳顔。そして、靖王を肩口に構える一刀。

 

 「はああああ………」

 

 「おおおおお………」

 

 激しく高ぶる両者の気。そして、

 

 『せいりゃあーーーーーーーーっっっ!!』

 

 激突。

 

 閃光。

 

 爆煙。

 

 地に臥したのは。

 

 「………わしの負け、か。ふ、ふふ。ふはははは」

 

 はっはっはっはっは!

 

 と、大の字になって地に寝そべったまま、大笑いをする厳顔。

 

 その隣には、真っ二つに折られた豪天砲が、日の光を浴びて、輝いていた。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
86
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択