No.171428

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 11:世界は終わってなかった

makimuraさん

槇村です。御機嫌如何。


これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。

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2010-09-09 21:03:40 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5880   閲覧ユーザー数:4772

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

11:世界は終わってなかった

 

 

 

 

 

「つまり、当面の路銀が底を尽きそうだから主の知り合いを頼ろうぜ、ってことなわけだ」

「平たくいってしまえば、そういうことですね」

 

どの地域に属することもなく、放浪する義勇軍として転戦を続けていた劉備一行。

行動の自由さを売りにしているはずの彼女たちが、遼西郡に入り公孫瓉を頼って来たのはなぜか。

 

もともと遼西郡には争いごとそのものは少ない。だがまったくないかといえば、そういうわけでもない。

治める太守・公孫瓉が商人を優遇する傾向から、遼西郡はよく栄えている。

その繁栄にあやかろうと、商人だけではなく、盗賊の類までが寄ってくる。公孫瓉にとっても、これは悩みの種だった。

もちろんこれまでも、そういった賊の類に対する対処はしていた。ことに最近は、鳳灯が提案した警備案によって周辺防備が充実している。

それでもやはり、労せず利を掠め取ろうとする輩は絶えることがない。つい先だっても、華祐を筆頭として盗賊の征伐に出向いたばかりである。

また同時に北方の烏丸の動向にも気を配り、防衛に努めなければならない。周囲の脅威というのは、数限りないというのが現状だ。

諍いが起こっていないといっても、起こりうる火種は無数にある。それらに対する備えを怠らないからこそ、平穏を得ることが出来ているといっていい。

 

そんな遼西郡の事情と、盗賊の征伐に出ていた公孫軍の噂を聞きつけた劉備。

豊かな地域であるがゆえに、賊に狙われる頻度は高い。噂に聞いた出征も、一度や二度ではないらしい。

友人が困っている、ならば自分たちの力が助けにならないだろうか。彼女はそう考えた。

 

彼女自身は、純粋な好意から手を貸そうとしていた。

だが劉備を支えるふたりの軍師は、そんな好意ばかりでは動かない。名と実、その両方を欲する。乱世に生きる者としては当然の考えだ。

劉備の率いる義勇軍は、拠点を持たない流浪の軍隊である。

兵の数は数百と、決して多いとはいい切れない。だがそれほどの勢力であっても、維持していくには元手がかかる。

戦えば腹が減る。喉も渇く。例え戦わずとも、移動するだけで食料も水も減って行く。消費したそれらを手に入れるには金が必要だ。

これまでの彼女たちは、転戦してきた各地方の有力者が寄せる好意に頼って、金や食料、飲み水などを補ってきた。

そろそろ蓄えが危なくなってくると、賊の集団が暴れている噂を聞きつける。それを鎮圧することで、新たな糧食を得る。その繰り返し。

幸か不幸か、彼女たちはそれでなんとかやっていけた。

幸運なのは、そんな彼女たちの行動が感謝され笑顔を生んだこと。

不幸なのは、民の不幸を求めることで自分たちの糊口をしのいでいる事実である。

その事実を、彼女たちがどれくらい理解しているのかは分からない。

だが今回もまた、義勇軍を維持するための戦場を見つけ出すことが出来た。

様々な蓄えが危うくなってきたところで、義勇軍は遼西郡付近を通りがかった。

この地を治めるのは、かつて共に学んだ友人だ。賊の討伐に出征しているという噂も聞いた。困っているなら助けたい。

そんな劉備の提案に、軍師たちは現実的な思惑を載せて、公孫瓉の下を訪れたのだった。

 

 

劉備一行との対面を果たしたその日の夜。

関雨、鳳灯、呂扶、華祐の四人は、一刀に晩御飯をご馳走になっていた。

献立の主役は、麻婆豆腐の試作品。一刀渾身の作である。

三国志のこの時代、麻婆の元となるものはあっても、豆腐がない。

大豆はあるんだから、豆腐を作ることが出来れば料理のバリエーションが増えるじゃないか、と思い続けて幾星霜。

関連資料の流し読み程度の知識を振り絞りつつ、あれこれと作り方を試行錯誤し続けた末にそれらしいものを形にすることに成功。

さらに調整と試作を繰り返した末に、他人に出してもいいんじゃないかというモノを作ることが出来た。

そんな経緯を経て、麻婆豆腐の初試食と相成ったわけである。

味に対する、彼女たちの反応は上々。少しばかり辛味が強かったようだが、柔らかい豆腐の感触に不思議がるやら驚くやら。

特に関雨と華祐は、炊いた米と合わせて食べる味の広がりが大層気に入ったようだ。

呂扶はいわずもがな。落ち着けと思わずいいたくなるほどの勢いで掻き込んでいく。

鳳灯がひとりだけ、思わぬ辛さに舌を刺され「ひゃわわー」と悶えていた。その刺激が引いた後は、辛い暑い辛い暑いと繰り返しながらレンゲを動かし続けている。

彼女らの食べっぷりを見て、これはイケる、と。一刀は新メニューの誕生にひとりガッツポーズを取るのだった。

ちなみに次なる野望は味噌。絶賛試行錯誤中である。

 

 

さて。

食事を終えて、少しばかりの酒を振舞う。一息ついた後には、あれこれと会話が交わされた。

その内容は、とうとう出会ったこの世界の自分たちについて。

関雨と関羽、鳳灯と鳳統、それぞれの話。そして劉備たちが公孫瓉の下にやってきた理由にも話は及んだ。

そんな中で交わされたのが、冒頭の内容である。

 

「確かに、兵たちの食事を確保することは重要だ。流浪の身となると、その苦労もさぞ大きいだろうな」

「華祐さんは、ずっと月さんのところにいたんですよね」

「あぁ。部下を率いていたのは、月様の下で武を振るっていたときだけだ。

汜水関で関雨に敗れた後も、一時は部下を連れていたが、結局は身ひとつになっていたがな」

 

私のしていたことは、部下を養うというよりもひたすら鍛えていただけだ。華祐はそんなことを応える。

らしいといえばらしい、そんな彼女の言葉についつい笑ってしまう。

 

「部下を養うという意味では、あぁ見えて恋の方が、私などよりよっぽど優れていたぞ。

あの面倒見のよさが、言葉は少なくとも意が通じる一団を作ったのだろうな」

「確かに。恋直属の兵たちの以心伝心は、真似しようと思っても出来るものではなかったな」

「恋が中央で相手を蹴散らし、その周囲を兵たちが補うことで討ち漏らしをなくす。

芸がないといわれるかもしれないが、恋ほどの武になると、あれこれ工夫を凝らすのは却って無意味に感じるな」

「本当にそうです」

 

関雨と鳳灯は、心の底から同意する。

華祐のいった通り、策を弄しても力技で強引に突き破ってくる。かつて呂扶を相手にしたことがあるふたりには、その怖さが充分に理解出来た。

思わず呂扶の方に顔を向けてしまう。麻婆豆腐を平らげ、今度は肉まんを頬張っている彼女。今のその姿からは、かつて反董卓連合を相手に暴れまわった天下無双の面影はまったく見られない。三人の視線を受けても、なんのことか分からずに、呂扶はただ首を傾げるばかりである。

 

「それはいいとしてさ。これまではなんとか劉備たちも遣り繰りしてこれたんだろ? どうして公孫瓉様を頼ってきたんだ?」

「一番の理由は単純に、蓄えがなくなって頼るところがなくなったから、ですね」

 

これまで劉備らの義勇軍は、遼西郡周辺で活動をしたことがなかった。

理由は簡単。彼女らが出向くような諍いは、それよりも前に公孫軍が対処していたからだ。

ゆえに、この地域周辺で彼女らが頼るような有力者が存在しない。補給を担う拠点を作れないため、更に足が遠くなっていった。

ところがここ最近は、盗賊が跋扈する数がかなり増えている。これまでは自前の軍勢ですべて対処し切れていたものが、手に余るようになってきた。

そんな噂を聞きつけて、劉備一行はやってきた。だが拠点とする場所がない。今からこれまでに頼ったことのある地方に身を寄せようとすれば、到着するまで蓄えが足りるかどうか。不安を覚えたのだろう。

 

「糧食という"実"もそうですが、義勇軍の"名"を上げるためにも有効だと考えたんでしょう」

 

鳳灯は流れるように言葉を連ねる。

 

「確かに、劉備さんの義勇軍もそれなりに知られている存在です。

ですがその以上に、遼西郡における諍いの少なさは、他地域によく知られています」

「それだけ公孫瓉様の治世の良さが知られている、ってことだよね」

「はい」

「そんな平穏な地域に出入りする、現在売り出し中の義勇軍。

……地域の平穏は、義勇軍によってなされていると思われちゃう?」

「その可能性は、大いにありますね」

「嫌な感じだな」

 

一刀の素直な感想に、鳳灯は、くすり、と、笑みをこぼす。

 

「もっとも、劉備さんはそんなことまで考えてはいないと思いますけれど」

「純粋に、友人の手助けに来たつもりなんだな」

「おそらくは」

 

一刀の言葉に、かつての軍師はうなずく。

 

「ただ軍師のふたりは、そういった風評による自分たちの損得まで、ある程度は考えていると思うんです」

「自分だったらそうするから?」

「はい」

 

少なくとも、公孫軍の盗賊討伐に実際に参加することによって、遼西郡の平穏にひと役買っているという印象を与えることは出来る。

彼女たちにとって、損になることはなにもない。

 

「なんだかそう考えると、公孫瓉様がいいように利用されているみたいで腹が立つな。苦労して治めているのに」

「すみません」

「……どうして鳳灯が謝るのさ」

「一度、自分が取った行動ですから」

「……あぁそうか。なるほど」

 

確かに、この行動を練り上げた片割れは、鳳統。目の前にいる彼女の、過去の姿なのだ。

 

「言い訳にしかなりませんが、あのときは自分たちのことだけで必死でした。

桃香様には申し訳ないと思いつつも、充分に利用させてもらおうと思っていましたから」

 

白蓮さんも、ある程度は承知の上だったと思いますけれど。

そういいながら鳳灯は、かつて自分の取った行動をなぞる鳳統と諸葛亮のことを考える。

改めて外側から自分の行動を見ると、いろいろ考えさせられる。鳳灯はつくづくそう思った。

 

 

過去の自分の姿を見て、いろいろ思うところがあるのは鳳灯ばかりではない。

 

「なんといいますか、かつての自分の姿を見るというのは、かなり辛いものがありますね」

「そうなの?」

「はい……」

「なに、若気の至りってやつ?」

「……はい」

 

公孫瓉を始め、これから世話になる面々を前にして、胸を張っての自己紹介。関雨はその場面を思い出す。

 

「桃香様の第一の矛にして幽州の青龍刀、と」

「自己紹介でそういったの?」

「はい……」

「外側から自分の言動を見てみたら、随分大きなこといってんなオイ、みたいな感じ?」

「その、通りです」

 

的確な、あまりに的確な一刀の突っ込みに、関雨は口元を噛み締める。顔を赤くしながらソッポを向いて。

 

「若さ、なのかね。経験の量という意味で」

「正直にいえば、ものすごく恥ずかしいです」

 

顔には出さなかった、あのときの自分を褒めてあげたい。彼女はそこまでいい放つ。

 

「でもそういえるくらいの実力はあるんでしょ? ねぇ鳳灯。関羽以上に、幽州関連で名高い人っていたっけ?」

「いない、と思いますよ?」

「おまけに青龍刀に限定していますから。一概に間違いだとはいえないのですが、それでもやはり」

 

愛紗さんが一番ですよ、という慰めなのか止めなのか分からない鳳灯の言葉を受けつつも、関雨は気持ちを落ち着かせる。

だがやはりそんな二つ名を口にしてしまうこと自体が、今の彼女の目には恥ずかしく映ったのだ。

かつての自分の姿を脳裏に映し出し、関雨は頭を抱えひたすら悶えている。

 

「でも趙雲さんも、自分のことを昇り龍とかいってるよ?」

「アレはそういったことも楽しんでいるんです」

「あー、楽しんでそうだなぁあの人」

「その言葉に相当する力を持っているのが、また性質が悪いのです」

「敢えて口にして、ハクをつけているようなもんなのかな」

「そういうところもあるでしょう」

「でも関羽は、それを真面目にいっていた、と」

「うぅ……」

 

赤い顔はそのままに、関雨が沈み込む。

 

「まぁ、正論でも実際に口にすると恥ずかしい言葉、ってのはあるよなぁ」

「あの、自分から持ち出しておいてなんなのですが、この話題はもうやめませんか?」

 

お願いだから。

酔いも回って来ているのかもしれない。関雨が半分涙目で頭を下げるという、想像しづらい姿を最後にこの話題は終了となった。

 

 

「それにしても。想像はしていたが、相当に変な気持ちだぞ?」

「なにが?」

「自分と同じ人間がもうひとりいる、ということだ」

 

劉備たちと公孫瓉が顔を合わせた際には、華祐もまた立ち会っていた。自分の名も名乗っている。

自分ではないが、仲間と同じ人物が目の前に立つ。経験の分だけ若さは感じたが、姿かたち名前まですべて一緒なのだ。奇妙なことこの上ない。

 

「関羽と鳳統がいたのだ。だとしたらやはり、私と恋もいるのだろうな」

「多分、いると思うよ?」

「私も、過去の自分を見ると恥ずかしくなるのだろうか」

「……華祐、頼むからその話題は」

 

つぶやく華祐。その言葉を拾う一刀。なんとか話を終わらせようとする関雨。

何気ないその一言一言が、酔いも手伝ってだんだん妙な方向に膨らんで行く。

 

「だが、華祐がふたりか。といっても、共に猪武将では怖くもなんともないな」

「……愛紗。あれだけ沈み込んでいた奴が随分と吠えるものだな」

「ふん、事実なのだから仕方あるまい?」

「猪なのは貴様の方ではないのか? おまけに過去の関羽は、貴様を化生かなにかと腰が引けていたようだが。猪の方がマシかもしれんな」

「くっ、いわせておけば」

「華祐さんと、恋さんがふたり……」

 

剣呑な雰囲気で睨み合うふたりを放置したまま、鳳灯がなにかを思いついたかのようにつぶやく。

 

「あわ……。敵側に恋さんがふたりなんて、軍師からしてみれば絶対に相手にしたくないです」

「……さすがに私もそれは太刀打ちできん」

「……悔しいが、勝てる気がしないな」

 

天下無双×2。想像を巡らした三人は身を震わせる。

もし戦場で出会ったなら、なにも考えずに撤退をすべきだろう。どれだけ将兵が削られるか、分かったものじゃない。

戦々恐々、くわばらくわばら。などと漏らしたところで。

 

「……恋、いらない?」

 

微かに聞こえたその声に、関雨、鳳灯、華祐の動きが止まる。

見れば、そこには哀しそうな表情を浮かべる呂扶。

ズザァッッ!! という幻聴。そして幻痛。どんな戟や槍よりも鋭いものが、三人の胸に突き刺さった。

 

「あわっ! 恋しゃん決してそんにゃ意味では!」

「いや違うぞ恋! お前が悪いわけじゃない、戦場に立つものとしてその実力の差というものをだな!!」

「それは思い違いだ恋! 確かにお前の武は脅威かもしれないがお前の気質そのものがどうこうとは!!」

 

「俺は、恋のことが大好きだぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

慌てふためく三人。哀しそうな顔をする呂扶に胸ときめき、思わず抱きつく一刀。力いっぱい頭を撫でまくる彼にされるがままの呂扶。

いつの間にか大騒ぎ。気づけば相当量の酒が目減りしている。

どいつもこいつも酔っ払っていた。

 

それでも。

彼と彼女たちは皆、笑顔を浮かべている。

 

 

自分のことを曝け出せない。本当のことを口に出せない。他人には到底信じてもらえないものを抱えている、彼女たち。

心から、真名と真名に等しい名を呼び合える。気兼ねなく、気になることを口に出来る。

そんな仲間が傍にいるからこそ、救われているのかもしれない。

そしてなにより、北郷一刀という存在。

理由も分からないまま外史という異世界に跳ばされ、かつていた世界に存在から否定された自分たちを、理解し認め肯定してくれた。

それがどれだけ、彼女たちの救いになっていることか。

 

それは、彼にとっても同じことがいえた。

一刀がこの世界に落ちてきて、三年。

誰に対しても日々真摯ではいたが、心を通わせ誰かと同じ時を過ごす、ということに無縁のままだった。

独りでいることが当然だった。

だが今の彼は、彼女たちのおかげで、誰かが傍にいるという感覚を思い出していた。

 

この世界において、彼が誰かと心から笑いあったのは、この夜が初めてだったかもしれない。

 

 

・あとがき

地味で動きがないのは承知の上だぜ!

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

開き直りはよくないよね。うん、よくない。

 

 

 

異世界から跳んできた、という荒唐無稽な事情。

そんなものを抱えているがゆえに、他の人たちとどこか一線を引かざるを得ない彼と彼女たち。

相通じる境遇であるがゆえに互いを察することが出来る、知らず知らず素の自分で接することが出来る仲間。そのやり取り。

今回は、そんなものを書いておきたかった。思惑通りいったかは別にして。

 

四人を動かすために、どうしても彼女たちの素地を固めておきたかったのです。

でもこれからです、これからですよ奥さん。(誰だ)

 

ちなみに、槇村の中でこの話の主役は一刀じゃありません。

一刀にはぜひとも名脇役になっていただきたい。目指すは、得点王よりアシスト王。(?)

 

でも、此処まで間延びするとは思わなかった。

おかしいな。黄巾の乱さえまだなんだぜ?

 


 
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