颯爽と風を切りバイクを運転する青髪の悪友、リヴァル・カルデモンドを横目で流しつつ黒髪の少年はサイドカーに乗り手帳を確認する。悪友リヴァルが持ってくる賭けチェスの依頼や、自身が所属する学校…アッシュフォード学園生徒会の予定などが簡単に記載されている。とても綺麗で繊細な字の為、万人がみても見やすくなっているがこの手帳を見るのは彼以外存在しない。
「なぁルルーシュ」
運転しているリヴァルがサイドカーに乗る黒髪の少年に声をかける。手帳を捉えていた紫電の瞳をリヴァルのほうへと少し向けた。
ルルーシュ・ランペルージ
元ブリタニア皇族第11皇子・第17皇位継承者であった少年の今の名前である。
そんな二人がバイクで移動していると同時間……
「ミレイさん」
背後から呼ばれた金髪を煌めかせる少女は振り返る。
クリーム色で統一された上着は金色のラインがあしらわれていて、腰元にはベルトがウエストを引き締める。黒のミニスカートが特徴で首元は胸元までの短いネクタイがこの学校の女子生徒の制服である。あまりにミニスカートの為男子の人気もさることながら、女子の人気も高い。もちろん、このデザインは学園長の孫娘で現生徒会会長を務める、ミレイ・アッシュフォードが採用を決定した。
「あら、ナナリー。どうしたの?」
振り返ったミレイの視線の先には、車椅子に乗った栗色のウェーブが掛かった長い髪の少女。その少女の双眸に輝く青い瞳にミレイを映す。元ブリタニア皇位継承第87位の少女は、戦前に外交手段という名目の人質として日本に送られた。さらに日本に送られる直前には自身の母親の死を目の当たりにし、目と足が不自由になっていた。しかし……
「今日…声が聞こえました」
にっこりと微笑んだ少女は車椅子から飛ぶように降りると、自身の両足で地面を踏みしめた。
「あら?ナナリーも聞いたんだぁ。ならそろそろ行こっか♪」
「はい、久しぶりですから楽しみです♪」
ナナリーは笑いながら、先ほどまで自分が乗っていた車椅子を押して歩き出した。それと同時にミレイもナナリーと並ぶように歩き出す。二人の笑みの裏で、ふつふつと燃え上がる何かを共有しどちらからともなく手を重ねた。
「あれを使いますか?」
ナナリーは首を少しだけ傾けてミレイを伺う。ミレイはいつもの調子で楽しそうに首を振った。
「あれはまだ時期じゃない……っていうかラクシャータのお姉さんからまだ許可出てないから」
「まぁ、怒らせたら大変ですね…うふふふ」
「ふふふ、そうなのよ~。さっすがナナリーわかってくれるって思ってたわ」
優しくそっとナナリーの頭を撫でると、ナナリーは感触を楽しむように目を瞑った。
「今日は彼女をお迎えに行くだけだから……、着替えは車に積んであるから移動中に着替えましょ」
「はい♪……ただ…、お兄様に会わなければ良いのですが」
「だーいじょぶだいじょぶ♪」
少しだけ不安の色を浮かべる表情のナナリーの背中をそっと撫でたミレイ、それに安心するようにナナリーの顔からその色は薄れていく。学園の裏口に止められた車に乗り込んだ二人は、そこに用意されていた服装へといそいそと着替え始めた。
二人はいつかの約束を守るため、そしてお互いの決意を貫くため動き出す。
あの日……
「ほんとに後悔しないか?私は…」
「もう決めた。彼を守るためには力が必要…だから」
「私もミレイさんと同じです。いつまでも守られてばかりは嫌です。せっかくあなたのおかげで、偽りの記憶もそして不自由な体も解放されたんですから」
「……そうか。ならもう止めはしない……いいか?二人とも」
「ええ」
「はい」
あの日から少しだけ変わった日々。ナナリーは兄ルルーシュの愛情を一身に受けながら、こっそりとミレイの元でリハビリを続ける。少しずつ筋力を取り戻しつつあったナナリーの足に気づいたルルーシュだったが、今の所何か質問をしてくる事はなかった。
その頃トウキョウ租界では、少しずつ運命の歯車を回す波が立ち始めていた。
「こちらα3。対象はデルタ20よりデルタ40へ入った。時速80kmで逃走中」
機体底面には超大国ブリタニアの国旗がデザインされており、水平垂直へ滑らかな移動を可能にした空中戦航空機が、目下の道路を走るトレーラーを追いかける。
世界の3分の1を占める超大国ブリタニアに占領され、その支配の象徴であり中枢の総督府が置かれているトウキョウ租界。占領された日本人がイレブンと呼ばれ住んでいる場所は、ゲットーと呼ばれており租界と比べ明らかに生活水準や復旧状態に差が生じていた。
ブリタニアの航空機に追われるトレーラーの前部座席には、清掃員のような白い服に白いキャップをかぶっている一組の男女が乗っていた。運転席には長髪の男、助手席には赤い髪の女が運転席に取り付けたモニターを見つめている。車の振動で両脇に一束ずつ降ろしている赤い髪が揺れ、少女の頬をさらさらと撫でる。
モニタに映っているのは現在エリア11を治めている総督、第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアの姿である。
「親愛なる帝国臣民のみなさん、そしてご協力いただいている大多数のイレブンのみなさん…」
「イレブンじゃない!…日本人だ!!」
クロヴィスの言葉をかき消すように、少女はモニターに向かって吐き捨てる。戦後から言われ続けているイレブンと言う言葉。反吐が出るほどの怒りが心を支配し、モニター越しのクロヴィスを睨み付けた。
運転席の男も同じ気持ちだったのか、モニターに集中していたため他線からの合流ポイントから出てきたサイドカー付きのバイクに反応が遅れ、気づいたら目の前のすれすれの位置にまで近づいていた。バイクの方も法定速度を越えてはいるが、80km前後で走っているこのトレーラーからしたらノロく感じる。
「ノンキに走りやがってっ!!」
男は慌ててハンドルを切り分岐を左に曲がる。
「バカ!そっちは」
女が慌てて男に叫ぶもすでに遅く、進入禁止のカラーコーンを吹き飛ばし黄色と黒の縞模様のバーを突き破る。建設途中なのか舗装もされていない砂地のせいでブレーキをかけるも、タイヤが砂にとられてそのまま建物の支柱へと車体をぶつけてやっとその動きを止めた。
『本庁へ。ターゲットは開発途中で放棄されたブイオービルの……』
ハイウェイを走る車の中で、二人の少女は耳につけたイヤホンから情報を取得する。先ほどまで学校指定の制服を着ていた二人だが、今は黒い軍の制服を着用している。胸部をも覆う胴体のアーマーのおかけで、胸の膨らみも隠せているため、体だけ見たら性別は判別できなくなっている。
「ミレイさん、ブイオービルと言うと……」
「そうねぇ、たぶんあそこの近くで考えると……、麻布ルートを使うかもしれないわね」
「そうですね。咲世子さん」
ミレイの言葉を受け、ナナリーは運転席にいる女性へ声をかける。メイド服を着たふわりとしたショートヘアの女性は、ルームミラーでナナリーの方へ視線を移す。
「麻布ルート方面へ移動をお願いします」
「かしこまりました」
再び視線を前方へ向け、車のギアをさらに1段階上げ車は加速を始めた。
「シンジュクゲットーの日本人の皆さんは…、大丈夫でしょうか?」
ナナリーが心配そうな表情でミレイを伺う。今はそれを考えても仕方が無いと言うように、静かに首を横に振った。肩を落としたナナリーを見て、ミレイはナナリーの手に自分の手をそっと重ねた。
「ナナリー、今はルルーシュと彼女を守る事を考えましょ」
「……はい」
それから20分ほど車を走らせた所で、大きく黒い煙が立ちのぼらせているトレーラーの場所に到着した。
「ナナリー、咲世子さん。この付近をまず捜索しましょう。恐らく軍の無線の状況からすると、軍につかまってはいないと思うわ」
「わかりました」
「ミレイ様、軍人もしくはテロリストの日本人に見つかった場合はいかがいたしますか?」
「そうねぇ…それは各自の判断ってことで♪」
そして三人は別々の方向へ走り出した。トレーラーの爆発時の衝撃の影響で崩れた通路や、詮索している軍人と思われる足音にも細心の注意を払い目的のモノを捜索する。
一部の軍人にしか伝えられていない情報、トレーラーが積んでいるのはとある研究所にあった毒ガス…しかし実態はガスではなく一人の女性。過去数百年前から姿を変えず今もなお生き続ける不老の魔女。
軍上層部の本当の目的、そしてミレイ達の目的でもあった。
ピピとミレイの耳に付けた無線機が通信の合図を受信する。
「ナナリーです。発見しました。場所は…」
ナナリーの連絡を受けたミレイと咲世子が駆けつけたときには、目的の人物がナナリーの横に立っていた。腰まで届く長い緑色の髪に金色の瞳。透き通るような白い肌は、白い拘束服で今は隠れている。
「すまないな。迎えに来てもらって」
表情を変えず淡々とその女性、いや少女ともとれる容姿で言葉は発する。
「いいのよ。それにしても相変わらず元気そうね」
「それはお互い様だな」
「うふふ。でもお元気そうでよかった。またお会いできて嬉しいですC.C.(シーツー)さん」
「ああ、私もだナナリー」
そう言ったシーツーは少しだけ微笑みを浮かべた。
「1つ、謝らなければならない……。実は…契約を交わしてしまった」
「交わしたって…ルルーシュと?」
声には出さずシーツーはただ頷く。一瞬苦笑いを浮かべるも「ま、いっか」と言っていつもの様にミレイは笑顔を浮かべた。
「とりあえず積もる話は後。みんなあたしに掴まって」
ミレイの言葉に全員がミレイの体に触れる。
「いくわよぉ♪」
ミレイの左目に赤い鳥のような模様が浮かび上がる。ミレイと触れている三人の体から赤い粒子が噴出し、はじけると同時に四人の姿がこの場所から消えていた。赤い粒子の余韻を少しだけ残して……
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アニメ第1話を元にしたIF小説です。
目と足の不自由から克服したナナリーと、ルルーシュを想うミレイの話です。
連載は自身無いので短編形式にしています。