…破門?
どういうこと?
起きてみたら、隣で寝ていた奏ちゃんが見えなくて、外に出てみたら一成ちゃんと奏ちゃんが一緒に話をしていました。
そして、奏ちゃんの口から出てきた言葉は、一成ちゃんと、そして後ろで盗み聞きしていた私を驚かせるに十二分足りるものでした。
破門、というのは、師匠が弟子との縁を切り、その時までいた全てのことをなかったことにする、最初から二人は会ってないようにする。
破門とはそういう意味なんです。
水鏡先生がそんなことをするはずが、
「破門って、どういうこと?」
一成ちゃんが聞きました。
「一年…ぐらい前にね?孔明ちゃんと一緒に町に出たことがあったの。そこで…奏、孔明ちゃんと逸れちゃって……不安だったから、とても……」
「だから…?」
「…早く孔明ちゃんが私のこと探してほしくて」
「…うん」
「…町の裏に火をあげちゃった」
!!
「その火がどんどん大きくなって、朱里ちゃんが私が探した頃には…町の家の十軒ほどが焼いてあったのー」
奏ちゃん、何てことを…!
「奏ね?孔明ちゃんがなかったから…頭の中に孔明ちゃんのことしかなかったの。だって、一成ちゃんも雛里ちゃんも、もういなかったから」
「……だから、破門された?」
「ううん、あの場で、孔明ちゃんが『奏のことなんて大嫌い!』って言われちゃって…その後、塾に返らなかった」
あ、
じゃあ、破門されたんじゃなくて……
「大変だったんだね」
……一成ちゃん?
何も言わずに奏お姉ちゃんの頭をなでてあげました。
「……ねぇ、一成ちゃん」
奏お姉ちゃんは震えていました。
奏お姉ちゃんは…そういう子でした。
頼れる人なんて、この世で朱里お姉ちゃんと雛里お姉ちゃんと私だけでした。
なのに、私が雛里お姉ちゃんを連れて遠くへ行っちゃって、
朱里お姉ちゃんにもそんなこと言われちゃったら……
奏お姉ちゃんはとても弱い人です。
傷つけられることに苦手で、朱里お姉ちゃんにまで捨てられちゃったと思い込んだとたん、荊州はもう、奏お姉ちゃんの居場所じゃなくなったんです。
「奏…奏ね…あの時、どうすればいいかわからなくて……」
「うん」
頭をなでる手を止めずに、奏お姉ちゃんの話を聞きました。
私には、
私には責任があります。
私が雛里お姉ちゃんを連れて行かなかったら、奏お姉ちゃんはここでこうして一年も一人でいなくてもよかったでしょう。
この、お母さんが死んだことを見たこんな家で、
一人寂しく、
いる必要はなかったでしょう。
…私のせいです。
「孔明ちゃんが……孔明ちゃんが…「大嫌い」って……」
「うん」
火事なんて…
大変なことです。
でも、奏お姉ちゃんのことです。
責めることには何一つ意味がありません。
奏お姉ちゃんが何事も起こさないことを望むのであれば、ただあの時奏お姉ちゃんを学院に連れてこなくて、そのままこの家で死なせておけば良かったのです。
「だから、ここで一人でいたの?」
「うん……うん…」
「寂しく、………なかったわけがないね」
「……」
私の方に俯いた顔からぼろぼろ涙が落ちて私のズボンを濡らしました。
こんなこと、誰にも言えず、ここで一年もまた一人で生きていた、
奏お姉ちゃんには、一日が地獄だったに違いないです。
「一成ちゃん…私…私どうすればいいかな。どうすれば…また孔明ちゃんと一緒に居られるかな」
一年も経っているのに、奏お姉ちゃんの中にはそれしかないみたいです。
「朱里お姉ちゃんのところに行きたい?」
「……行けない」
「大丈夫。私が一緒に行ってあげる」
「…ほんと?」
「謝りに行こう…朱里お姉ちゃんも、きっと心に残ってるはずだよ。奏お姉ちゃんのこと」
「…怖い……」
お母さんに一度見捨てられた怖さ。
奏お姉ちゃんのお母さんは、奏を残して自殺してしまいました。
ちゃんとした理由もわからず、奏お姉ちゃんは捨てられました。
そして、今度は信用できた唯一は友たちに……
帰らなかった。
それは奏お姉ちゃんの逃避でした。
嫌いと言った相手に許しを求めて、もし断れたら?
その時、自分はどうすればいい。
そんな恐ろしさが、奏お姉ちゃんをここに連れてきました。
「大丈夫。一緒にいる。奏お姉ちゃんが行けるまでに、ずっと……」
「……」
「私たちと一緒に居よう。それで、奏お姉ちゃんが心を決めたら、私たちも一緒に行ってあげる」
朱里お姉ちゃんと奏お姉ちゃんのことは、その人たち間の問題だ。
いくら私が奏お姉ちゃんのこと知っていたとしても、それは朱里お姉ちゃんとの年月に比べたらほんの些細なことだし……私にはこのことを積極的に助けることはできない。
朱里お姉ちゃんに私が話すこともできないし、奏お姉ちゃんに行きなさいって言うこともできない。
できることはただ、待ってあげるだけ。
「……キャハー」
いつの間にか、奏お姉ちゃんはまた笑っていました。
「もう奏は寝るね。一成ちゃんも寝なさい。子供は夜更かししたらダメなの」
「子供ってまで呼ばれる年じゃないけど…せめて青少年って言って?」
「キャハ、せいしょうねん?何それ、知らなーい」
奏お姉ちゃんは、まるで何もなかったのように立って、部屋へとてくてくと歩いていきました。
あんな人です。奏お姉ちゃんは、
さては、
私も草地から起きて、自分の部屋(という名の蔵、家には部屋が一つしかなかった)に戻ろうと思ったら、その柱の後ろから……
「雛里お姉ちゃん居る?」
雛里side
……あわわ、ばれちゃいました。
「一成ちゃん」
「聞いた?」
「…うん」
「どこから?」
「…多分、全部」
「そっか、じゃあ説明しなくてもいいよね?」
別に奏ちゃんも隠す気で一成ちゃんだけに言ったわけじゃないんです。
ただ、桃香さんや鈴々ちゃんみたいなはじめて見る人たちもいるから言えなかっただけだと思います。
そして、機会ができたから先に一成ちゃんにだけ言った。
それとも、実は私も裏で聞いていたって、奏ちゃんも知っていたかもしれません。
そういう子です、奏ちゃんは。
「朱里お姉ちゃんと水鏡先生のこと、直ぐにでも会いたいのは私も同じだけど、奏お姉ちゃんをあのままにするわけにはいかないよ」
「…うん」
いえ、最初から今すぐ荊州まで行こうなんて思っても居ませんでした。
でも、朱里ちゃんと水鏡先生に会いにいけないって思ったら……少し寂しいです。
だけど、奏ちゃんの大切な友たちです。
「私は大丈夫。一成ちゃんは?」
「私は…私も大丈夫」
「…じゃあ、皆大丈夫だね」
私は敢えて笑いました。
でないと、ちょっと悲しくなっちゃいそうでした。
「うん」
一成ちゃんも笑いながら言いました。
桃香side
「…ふわぁー」
朝起きたら、
「…え?」
側に誰もいない。
「あ、あれ?皆どこに……」
鈴々ちゃん?雛里ちゃん、元直ちゃん?
「……あれ?」
部屋から出てみたよ。
「せいっ!たはぁっ!」
あ、鈴々ちゃんが外で鍛錬してる。
「鈴々ちゃん、おはよう」
「にゃ?お姉ちゃん、おはようなのだ」
「鍛錬中なの?」
「なのだ。愛紗が居ないからって怠ったらダメなのだ」
愛紗ちゃんがいないからって鍛錬を怠ける鈴々ちゃんじゃないよね。
「うーん、ところで鈴々ちゃん、元直ちゃんと雛里ちゃんは?」
「解らないのだ。鈴々が起きた時には、もういなかったのだ」
「あれ?おかしいな……」
元直ちゃんならともかく、雛里ちゃんならもうこの時間だったら起きてるはずなのに。
「そういえば、御使いのお兄ちゃんも見てないのだ。蔵で寝てるのだ?」
「あ、うん、……そうだね」
あれ?
何か、変な予感がするね。
家の蔵のところにきたよ。
ギギイィー
「……あ、やっぱり…」
雛里ちゃん、一成ちゃん、奏ちゃん、三人が川の字になって一緒に寝ているよ。
「にゃー、何でここで雛里と元直が一緒に寝ているのだ?」
「うーん、良くわからないけど、取り合えず起こした方がいいかな」
私は寝ている雛里ちゃんの頬をつんつんとしてみました。
「ねぇ、雛里ちゃん、雛里ちゃん」
「……うん……ぅ…」
しばらくしたら、雛里ちゃんの目がパチッと開きました。
「…桃香さん…」
「起きた?」
「はい…おはようございます」
胴を起こして目をこすりながら雛里ちゃんは周りを振り向きました。
「うぅん……?あれ?」
そしたら、雛里ちゃんはキョトンとした顔で、この状況のおかしさに気づいたのか口をあげて…
「…私、桃香さんより遅くおきました」
「そっちじゃないよ!?!」
一成side
「うあぁ…うるさい…」
昨日遅く寝ちゃったから、もうちょっと寝坊しようと思ったらやっぱりこの世界はそういうのには容赦ないですよ。日が上がってるのに寝ていたら、すっごい怠け者扱いされるし。
夏には大変なんですよ。
「……むにゃ…」
ぶよっ
「?」
起きようと手で地面を触れようとしたら……あれ、何か柔らかい。
「ってうわあっ!!!」
「うぅぅ………うん?」
か、かかか奏お姉ちゃん!?何でここで寝てるの?
「一成ちゃん?!」
「って何で雛里お姉ちゃんもいるの?」
「え?えっとそれが…そ、それより手!手!」
あ、そうだ。とにかく奏お姉ちゃんが起きる前に胸から手を放さないと…
「(くしくし)…うん?何か重いよー」
あ
「…?」
目が合った。
「あわわ……」
「……」
奏お姉ちゃんは目で自分の体のところを見てから、私を見直して、
「……k」
「k?」
「KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
べしっ
雛里side
「すみません……」
「キャハー、こちらこそ大変失礼しちゃいましたー」
「ごめんなさい」
三者謝罪の場です。
いえ、私は別に悪いとは思いませんけどなんとなく……災難でしたって思っています。
一成ちゃんの小さい顔には、時期にあまり似合わない赤い紅葉が残っていました。
「えっと…それで、どうして二人とも一成ちゃんと一緒に?」
桃香さんがちょっと呆れたような顔で言いました。
「それが…」
何か一成ちゃん一人で寝てるのが心配だったから、って言ったら、一成ちゃん怒るかな。
うん、怒るよね。
「奏は、久々に一成ちゃんと寝ようかなぁってお思って」
「最初から奏お姉ちゃんと一緒に寝た記憶はないんだけど……いや、本当に申し訳ないとは思いつつ、昔より成長なさった奏お姉ちゃんに驚きつつ」
「キャハ?」
チリッ
「いえ、すみません、何でもありません……でもそもそも私がここで一人で寝ることになったのって、男女別室だからといいながらここで寝なさいって言ったの奏お姉ちゃんだったし」
「………キャハー」
……あれ?奏ちゃんもしかして、これ最初から仕組んででない?
「さー?」
「さーって……」
「あ、後、一成ちゃんにはちゃんと責任とってもらうよ?」
「げっ、許してくれないんだ…」
「当たり前じゃなーい。年頃の女の子の胸を触ってただで済むと思ったら大間違いだよ。いくら一成ちゃんと言っても」
「寧ろこうしようと最初から仕組んでない?」
いえ、一成ちゃんそれはないよ。
だって奏ちゃん、あんなに顔真っ赤になるのはじめてみたから。
「でも、そうするんのだったら、どうしてお兄ちゃんも一緒の部屋で寝なかったのだ?」
「キャハー?だって、嫌じゃないですか?男の子と一緒に寝るのって」
「鈴々は別に関係ないのだ」
「私も昔は時々一緒に寝たし」
私は今でも一緒に寝ます。
ちなみに愛紗さんも案外一成ちゃんと可愛がってますので、別に拒むとは思いませんが。
「……なんだー、じゃあ最初からそう言ったら良かったのにねー」
「奏お姉ちゃん、わざと仕組んでない?」
「キャハハー」
奏ちゃんのことなので………
真実は皆さんの考えのゆくまま……です。
というハプニングもあって、奏ちゃんと一成ちゃんは陳留に向かうことになりました。
「奏がない間家のことよろしくお願いします」
「任せるのだ」
でも、やっぱ二人だけ行かせるのはちょっと心配です。
「やっぱり、私も行くよ」
「ううん、泡ちゃんは居ると取引きがちょっとややこしいの。曹操に弱いところ突かれたらダメだから、ここは人数少ないほうがいい」
「…そう……」
「キャハー、じゃあ行くからね」
「ねぇ、奏お姉ちゃん」
奏ちゃんが行こうと一成ちゃんが行く前に聞きました。
「曹操さんって、どんな人なの?」
「なんというかね………
クルクルした髪みたいに心中のクルクルな人」
「……クルクル金髪…?」
最後に、一成ちゃんが何か口で呟きましたけど、聞こえませんでした。
一成side
……
いや、まさかね……
華琳side
「へっくし!」
「?華琳さま、風邪でしょうか」
「何!?華琳さまが風邪だとぉ!?」
「早く医者を、いえ、その前に私が看病いたします!」
「大丈夫よ。ちょっとくしゃみが出ただけだわ」
誰かに噂でもされてるのかしら。
「それより、今はそれどころじゃないわね」
先ずは目の前にいる者をどうするか、それを考えないといけないから…
「春蘭と互角に戦って…いざとなってみれば突然包囲されたまま降伏。何を考えているかはともかく、その武芸だけは欲しいわ。何より……」
「……」
「…ふふっ、可愛らしい顔ね」
縄に縛られて、膝を折ったままこっちを睨みあげている黒髪の女の子。
欲しいわね。
「あなた、関羽と言ったかしら、
私の『もの』にならない?」
「……」
一成side
奏お姉ちゃんと私は、昼ごろに陳留城に着くことができました。
「でも、これからどうするの?愛紗さんを探すには、城に入らないとダメなんだよね」
私、ちょっと怖いんだけど。
「キャハー、それなら心配なーし」
「え?ああ、奏お姉ちゃん?」
奏お姉ちゃんが一人で町を自分の家のようにとてとてと早く歩いていって、私は急いでその後をついていきました。
「はいっ、着いたよ」
内城の前です。
警備の兵士たちが守っています。
「どうするの、奏お姉ちゃん」
うん?
「あの、そこの警備さん、元直通りますね」
!?
「はっ!」
「あ、こっちのお兄ちゃんも一緒に行きますね」
「はっ!」
お兄ちゃん!?
「さあ、行こう♡」
♡じゃないよ、奏お姉ちゃん…
「何でなんともなく入られるの?」
「奏、ここで有名だから、名前言ったら通れるよ」
「マジで!?」
「そんなことはいいから早く行こう」
奏お姉ちゃんは、私の腕に抱きつきながらいいました。
「キャハー」
「キャハって……」
奏お姉ちゃん、本当にここで曹操さんと何があったの?
・・・
・・
・
Tweet |
|
|
18
|
0
|
追加するフォルダを選択
話数がずれてました。とこどろ一成のことを一刀と書いたり…
はぁ…
元はこれ、二十話ぐらいで終わらせようとしてたんですね。
続きを表示